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10.街角の老婆
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人々の声がざわめき、沢山の商品が並ぶ市場と商店街。
色とりどりの食料や飲み物、見ているだけで元気が貰えそうな明るい店主達。
最初は運ぶ荷物もそれなりに重たいからと、シズハは馬車で留守番をしているように言われ、シラハとシエルは出ていった。
重いとかそういうのはなしに、手伝えることがあったらやりたいとシズハは思っていたため、自分はそんなに力が無さそうに見えるのだろうか…とも思ったが、留守番している事も立派な仕事だ。
重くない荷物になったら、シズハも一緒に行こうと言ってくれた言葉にワクワクしながら、2人が帰ってくるのを待つ。
まず運ばれてきたのは飲料水、日持ちしそうな食料だった。
店と馬車を3往復した後、シエルが馬車の留守番を交代してくれ、シズハは馬車から降りる。
シラハから差し出された手を取り降りた後も、はぐれないようにと手を繋いで歩いた。
繋ぐ手の大きさの違いに男らしさを感じ、握り返してくれる手に優しさを感じる。
シズハは昨日、自分の意思で寝る前に握ったが、長時間にぎり続けるのは初めてで、少し緊張していた。
ハルクートは前回の街ヴァネッサよりも人口が多く人通りも多い。
はぐれてしまったら合流するまでに時間がかかるのは言うまでもない。
シラハはまだしもシズハは来たことがないのだからなおさらだろう。
「ここでは何を買うのでしょう?」
「これから先の地域はよく砂が飛んだり、酷い時には砂嵐になる。砂嵐の時は基本的に屋内で過ごすことが望ましいんだが、身体を覆うためのローブとマスク、ゴーグルを用意しておいて損はない。身体を守るものになるから、オシャレとはかけ離れているんだが…」
「なるほど…砂嵐…、体験したことがないのであまり想像はできませんね…。大丈夫です、衣装は自分を着飾ったりするものだけではないと理解しておりますので」
「色くらいは選べる、何色がいい?」
「白…とか青がいいです」
そんな話をしながら市場を回っていると、ちょうど長めのローブを売っているお店を発見した。
試着させてもらいながらサイズを調節していると、ちょうど白い下地のローブに少しだけ青い模様が入ったローブを見つけ、シズハは迷わずそれを選ぶ。
オシャレとはかけ離れているとシラハは言っていたが、裾についたタッセルがとても可愛いかった。
同じ店でマスクとゴーグルも揃え、次の店へと向かう。
何を買うのかとさっきのように聞くと、シラハは本屋だと答えた。
長旅になる途中は気候によって動けなくなったりすることもあり、休憩時間も含め暇になる事に配慮してくれたらしい。
実はシラハ本人も本を読むことが好きで、時間ができたら読むようにしているのだとか。
よさそうなお店を見つけて中に入り、自分が読みそうな本を探した。
本を探している最中、シズハは店の外から中を覗く老婆らしき人と目が合った。
シラハもその時は自分の本を選んでいる最中で傍にはいない。
じっとその老婆が見つめている視線の先にいるのは紛れもなくシズハだった。
その老婆に誘われるように、シズハは店の外へと出て行ってしまう。
シラハが気付いた時には、店の中にも店の外にもシズハの姿はなかった。
これはまずい…そう思って辺りを探し回ったが、見つけられず1度シエルの所へ戻る。
馬車に戻ってもシズハの姿はそこになかった。
こうなってしまっては、宛もなく彷徨うだけなのは効率が悪い。
アルキュオネを召喚し、街の上から捜索しつつ自分達もシズハを探した。
――――――
『…あ…れ、ここは』
視界にぼんやりと映るのは、薄暗い部屋に光が差し込んだ状態の照らされた机。
そして座った状態の自分の足と、ゆっくり顔を上げていった所に対面で座っていたにこやかな老婆だ。
誰だろう…、シズハはそう思ったがその老婆から嫌な感じはしなかった。
「おや、目を覚ましたかい?すまないね、突然連れてきてしまって」
「いえ…あの…ここは?」
「私の家…だった場所さ…。今はもう住んでいない」
「お引越しなされたのですか?」
「まぁそんな所さね」
シズハが辺りを見回すと、住んでいるとは思えない部屋に壊れた家具や瓦礫が散乱している。
でもどうしてだろう、この老婆と一緒でここにいても恐ろしいとも感じない。
むしろ安らぐような心地良さだった。
「私に何か…御用でもあったのですか?」
「あぁ…、あまり多くは語れないが、渡したい物があったんじゃ」
「渡したい…もの?」
「手を出してくれるかの」
老婆はそう言うと、対面で座っていた所から立ち上がり、シズハの隣へと移動した。
差し出されていた手に、老婆はゆっくりと手を添え、何かを置く。
シズハの手の中にあったのは、青い宝石が埋め込まれたブローチで、見た事のある紋章が刻まれていた。
「これ…私の家の紋章?それに…光ってる」
「それはな、本当の王位継承者でないと光らないブローチじゃ。これから先、お前さんにとって必要なものになるじゃろう。大切に持っていておくれ」
「どうしてこれを…お祖母さんが?」
「ふぉっふぉ…それをこの老婆に問うのかね。このブローチを、お前さんに渡すために持っていたんじゃ。ずっと…待っておった。お前さんがこの町に来るのを」
「私が…来ることをわかっていたんですか?」
「占いじゃよ。いずれこの町に訪れるという暗示は出ておったからの。ようやく…渡せたんじゃな…」
なんとなくどこか儚げで、それでも満足そうに微笑む老婆。
まるでブローチを渡すことが自分の使命で、ようやくそれが達成できた時の表情をしていた。
「旅はどうじゃ?初めて国から出たのだろう?不自由はしていないか?」
「はい、最初隣国の王子に強制的に連れていかれそうになった時は、不安で仕方なかったのですが、そこから連れ出してくれた…素敵な方に会いました」
シズハは続ける。
今向かっているララシュトという国の事と、そしてそこまで護衛してくれる人がいて、とても良くしてくれていることを。
分からない事もたくさんあるが、体験した事のない物を体験して、見て学ぶことが楽しいと。
本来ならば話してはいけない事のはずだが、その老婆はシズハの言葉全てを受け入れてくれるように頷きながら聞いてくれた。
それに、王位継承者でなければ光らないブローチを持っていたということは、少なからず自分の事をわかってくれている人なのだろうと思ったのだ。
「よかったよ…お前さんが悲しい顔をして旅をしていたらどうしようと思っていた。新しい出会い、特に今隣にいるその男性はお前さんの運命の人じゃから、大切にしなさい。そして、その人の傍を離れるんじゃないよ。きっと…これから辛い事や悲しい事があったとしても、きっとお前さんの支えになってくれる人じゃろうから…」
「お祖母さん…、はい…ありがとうございます」
「さぁそろそろお行き。その大切な人が、お前さんの事を必死になって探しておるじゃろう。後ろにあるドアから外に出られる」
「はい、ありがとうございました。お祖母さんもお元気で。またいつかお会いできたらお会いしましょう」
そう言いながらシズハはドアの方に向かう。
手を控えめにふりながら微笑んで老婆はシズハを送り出してくれた。
『シズハや…大きくなって、婆はその姿を見られただけでもう満足じゃ。もう…会う事はできんが、幸せになるんじゃよ。どうか…あの子の旅路に幸多からん事を。願わくば…婆が消えて会えなくなっても…あの子を…』
シズハを送りだした後、その老婆はゆっくりと光になって消えていった。
色とりどりの食料や飲み物、見ているだけで元気が貰えそうな明るい店主達。
最初は運ぶ荷物もそれなりに重たいからと、シズハは馬車で留守番をしているように言われ、シラハとシエルは出ていった。
重いとかそういうのはなしに、手伝えることがあったらやりたいとシズハは思っていたため、自分はそんなに力が無さそうに見えるのだろうか…とも思ったが、留守番している事も立派な仕事だ。
重くない荷物になったら、シズハも一緒に行こうと言ってくれた言葉にワクワクしながら、2人が帰ってくるのを待つ。
まず運ばれてきたのは飲料水、日持ちしそうな食料だった。
店と馬車を3往復した後、シエルが馬車の留守番を交代してくれ、シズハは馬車から降りる。
シラハから差し出された手を取り降りた後も、はぐれないようにと手を繋いで歩いた。
繋ぐ手の大きさの違いに男らしさを感じ、握り返してくれる手に優しさを感じる。
シズハは昨日、自分の意思で寝る前に握ったが、長時間にぎり続けるのは初めてで、少し緊張していた。
ハルクートは前回の街ヴァネッサよりも人口が多く人通りも多い。
はぐれてしまったら合流するまでに時間がかかるのは言うまでもない。
シラハはまだしもシズハは来たことがないのだからなおさらだろう。
「ここでは何を買うのでしょう?」
「これから先の地域はよく砂が飛んだり、酷い時には砂嵐になる。砂嵐の時は基本的に屋内で過ごすことが望ましいんだが、身体を覆うためのローブとマスク、ゴーグルを用意しておいて損はない。身体を守るものになるから、オシャレとはかけ離れているんだが…」
「なるほど…砂嵐…、体験したことがないのであまり想像はできませんね…。大丈夫です、衣装は自分を着飾ったりするものだけではないと理解しておりますので」
「色くらいは選べる、何色がいい?」
「白…とか青がいいです」
そんな話をしながら市場を回っていると、ちょうど長めのローブを売っているお店を発見した。
試着させてもらいながらサイズを調節していると、ちょうど白い下地のローブに少しだけ青い模様が入ったローブを見つけ、シズハは迷わずそれを選ぶ。
オシャレとはかけ離れているとシラハは言っていたが、裾についたタッセルがとても可愛いかった。
同じ店でマスクとゴーグルも揃え、次の店へと向かう。
何を買うのかとさっきのように聞くと、シラハは本屋だと答えた。
長旅になる途中は気候によって動けなくなったりすることもあり、休憩時間も含め暇になる事に配慮してくれたらしい。
実はシラハ本人も本を読むことが好きで、時間ができたら読むようにしているのだとか。
よさそうなお店を見つけて中に入り、自分が読みそうな本を探した。
本を探している最中、シズハは店の外から中を覗く老婆らしき人と目が合った。
シラハもその時は自分の本を選んでいる最中で傍にはいない。
じっとその老婆が見つめている視線の先にいるのは紛れもなくシズハだった。
その老婆に誘われるように、シズハは店の外へと出て行ってしまう。
シラハが気付いた時には、店の中にも店の外にもシズハの姿はなかった。
これはまずい…そう思って辺りを探し回ったが、見つけられず1度シエルの所へ戻る。
馬車に戻ってもシズハの姿はそこになかった。
こうなってしまっては、宛もなく彷徨うだけなのは効率が悪い。
アルキュオネを召喚し、街の上から捜索しつつ自分達もシズハを探した。
――――――
『…あ…れ、ここは』
視界にぼんやりと映るのは、薄暗い部屋に光が差し込んだ状態の照らされた机。
そして座った状態の自分の足と、ゆっくり顔を上げていった所に対面で座っていたにこやかな老婆だ。
誰だろう…、シズハはそう思ったがその老婆から嫌な感じはしなかった。
「おや、目を覚ましたかい?すまないね、突然連れてきてしまって」
「いえ…あの…ここは?」
「私の家…だった場所さ…。今はもう住んでいない」
「お引越しなされたのですか?」
「まぁそんな所さね」
シズハが辺りを見回すと、住んでいるとは思えない部屋に壊れた家具や瓦礫が散乱している。
でもどうしてだろう、この老婆と一緒でここにいても恐ろしいとも感じない。
むしろ安らぐような心地良さだった。
「私に何か…御用でもあったのですか?」
「あぁ…、あまり多くは語れないが、渡したい物があったんじゃ」
「渡したい…もの?」
「手を出してくれるかの」
老婆はそう言うと、対面で座っていた所から立ち上がり、シズハの隣へと移動した。
差し出されていた手に、老婆はゆっくりと手を添え、何かを置く。
シズハの手の中にあったのは、青い宝石が埋め込まれたブローチで、見た事のある紋章が刻まれていた。
「これ…私の家の紋章?それに…光ってる」
「それはな、本当の王位継承者でないと光らないブローチじゃ。これから先、お前さんにとって必要なものになるじゃろう。大切に持っていておくれ」
「どうしてこれを…お祖母さんが?」
「ふぉっふぉ…それをこの老婆に問うのかね。このブローチを、お前さんに渡すために持っていたんじゃ。ずっと…待っておった。お前さんがこの町に来るのを」
「私が…来ることをわかっていたんですか?」
「占いじゃよ。いずれこの町に訪れるという暗示は出ておったからの。ようやく…渡せたんじゃな…」
なんとなくどこか儚げで、それでも満足そうに微笑む老婆。
まるでブローチを渡すことが自分の使命で、ようやくそれが達成できた時の表情をしていた。
「旅はどうじゃ?初めて国から出たのだろう?不自由はしていないか?」
「はい、最初隣国の王子に強制的に連れていかれそうになった時は、不安で仕方なかったのですが、そこから連れ出してくれた…素敵な方に会いました」
シズハは続ける。
今向かっているララシュトという国の事と、そしてそこまで護衛してくれる人がいて、とても良くしてくれていることを。
分からない事もたくさんあるが、体験した事のない物を体験して、見て学ぶことが楽しいと。
本来ならば話してはいけない事のはずだが、その老婆はシズハの言葉全てを受け入れてくれるように頷きながら聞いてくれた。
それに、王位継承者でなければ光らないブローチを持っていたということは、少なからず自分の事をわかってくれている人なのだろうと思ったのだ。
「よかったよ…お前さんが悲しい顔をして旅をしていたらどうしようと思っていた。新しい出会い、特に今隣にいるその男性はお前さんの運命の人じゃから、大切にしなさい。そして、その人の傍を離れるんじゃないよ。きっと…これから辛い事や悲しい事があったとしても、きっとお前さんの支えになってくれる人じゃろうから…」
「お祖母さん…、はい…ありがとうございます」
「さぁそろそろお行き。その大切な人が、お前さんの事を必死になって探しておるじゃろう。後ろにあるドアから外に出られる」
「はい、ありがとうございました。お祖母さんもお元気で。またいつかお会いできたらお会いしましょう」
そう言いながらシズハはドアの方に向かう。
手を控えめにふりながら微笑んで老婆はシズハを送り出してくれた。
『シズハや…大きくなって、婆はその姿を見られただけでもう満足じゃ。もう…会う事はできんが、幸せになるんじゃよ。どうか…あの子の旅路に幸多からん事を。願わくば…婆が消えて会えなくなっても…あの子を…』
シズハを送りだした後、その老婆はゆっくりと光になって消えていった。
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