姫様、外に出てはダメと言ったでしょう?

Corvus corax

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1.外に出てはならない

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「いいですかシズハ、この島…いえ、城から出てはなりません、いいですね」
「はい…お母様」

タクタハ国に隣接する島に住む王女、シズハ。
幼い頃、シズハはその言葉に何故かという疑問を持つ事はあれど、直接聞くことはなかった。
親の言うことは守らなくてはならないと考えていたからだ。
歳を重ねある程度理解ができる年齢になり、母からは、この島を離れたらいずれ死んでしまうのだと忠告される。
この島にいることで身体が浄化されているので、シズハは生きることが出来るのだと、そう言われていた。

「行きたいな…外に…」

17歳の誕生日は目前だ。
シズハの為に建てられた、王女が住むには小さな、それでも十分な大きさのある城で、明後日にはパーティーが催される予定だ。
離れて暮らす父と母、姉もその時だけはタクタハ国本土を離れ、島に祝いにやってくる。
だが、そのパーティーが終われば家族は皆、本土の城に戻ってしまう。
執事やメイド、護ってくれる騎士はみんな優しく、良くしてくれる。
それでも家族と離れて暮らさなければならないのは、シズハにとって寂しかった。

「テツ…今度ソラが来るのはいつ?」

部屋の前で警備をしていた騎士に尋ねる。

「ソラですか?明日パーティーの準備に来ると言ってましたよ?」
「そう…私の所にも寄ってくれるかな…」
「ふふ、それなら伝えておきましょう」
「ありがとう、お願いね」

ソラは唯一、島の外の情報を持ってきてくれる町娘で、シズハの親友だった。
王女という立場上、中に入るには関係者や許された者しか入ることはできない。
そして、その殆どが大人で、ソラは特例なのだ。

――――――

次の日、パーティーの準備を終えたソラが部屋に遊びに来てくれた。
水色の髪にピンクの目のショートヘアで、シズハと同じくらいの身長だ。

「いらっしゃいソラ、来てくれてありがとう。ごめんね、急に呼び出したりして…」
「ううん!気にしないで、大丈夫。それに…テツさんともお話できたし…」

実はソラはテツに恋心を抱いており、お城に来るのはシズハに会うのが6割、テツに会うのが4割くらいだ。
いつかその割合が逆転しそうだが。

「今日は何か持ってきてくれた?」
「ふふ、そう言うと思って…、じゃーん!」

そう言いながらソラが1冊の本を取り出した。

「それは何?!」
「これはねー、占いの本よ!」
「占い?」
「未来の事を予想して、こうなるかもしれない!って書いてくれてる人がいるの!」
「そんな事が出来るの?!」
「んー…当たらない事もあるから、全部が正解じゃないんだけど、でも楽しそうでしょ?シズハが17歳の誕生日迎えるし、前夜祭的な感じでやろやろ!」

ソラが本をペラペラとめくる。
占いにも色々種類があり、手を見るもの、生まれた月、名前やカードなどを使う事もある。
その中でパッと目に飛び込んできた占い結果があった。

「今のあなたに必要な相手に巡り会えるでしょう…その人が運命の相手かも…」
「おぉー!?もしかしたら明日のパーティーで何か起こってしまう予感?!」
「ええっ?そんな…毎年やってるパーティーなのに?」

そこは夢見ようよー!なんて笑いながら2人で話す。
その日の夜、綺麗な夜空を眺めながらシズハは星に願った。

『いつか素敵な方に迎えに来てもらえますように』

――――――

「ふぅ…」

シズハが住んでいる城がよく見える隣接した街。
そこで修理屋をやっている1人の青年がいた。
名をシラハ・クレーエと言い、赤い瞳と肩下まである白い髪、綺麗な顔立ちをした19歳。
丁度小さな部品を交換し終えたところだった。
それは複雑な細工の施されたオルゴール。
普通のオルゴールならまだしも、特注部品や貴重な宝石がはめ込まれていると、直すのは誰にでも出来ることではない。
シラハがそういった物を直せるのは、かつて本土で国を持っていた民族、ゲシックト族の血を引いているからだった。
技術力が高く、高度な機械や部品を作り出せた為、国としては大国と言えないまでも繁栄していた。
だが、その技術が国同士の戦争に使われ始め、他の国から攻め込まれる事を恐れた隣国ララシュトが、ゲシックト族の国を侵略し、支配する事になった。
その出来事があったのが100年ほど前の事。
シラハの曾祖父の時の話だった。
当時国王だった曾祖父は死ぬ前に、戦争に使われる技術なら、開示しないように言い残して死んでいったのだと言う。
それを守りながら生きることになった一族は、各地へ散らばり細々と生活する事となる。
王族であったクレーエ家は、それから代々家族から1人新しい国王へ仕える者を送り出さなくてはならない制約が課された。
本来であればシラハには兄がいるため、長男が赴くのだが、足が悪い為に仕える事を許されなかった。
変わりに今はシラハが王に仕えている。
そしてなぜシズハの住む島にいるのかと言うと、王から命令を受けたからだった。

「知ってるかい?実は今タクタハの王、本当の王位継承者じゃないって噂」
「いえ…」
「まぁ、そっちは関係あまりなくてね、タクタハ領土すぐ近くの小さな街がある島に、本来の王位継承者であるシズハという名の姫君が住んでいるらしい。容姿もとても綺麗だと聞く。是非とも私の妻に迎えたい。連れてきてくれるね?」
「仰せのままに」
「方法は任せるよ、期間はそうだね…3ヶ月くらいでどう?まぁ…道中いろいろあるだろうから、半年くらいは待てるけど、連れてくる最中で手を出さないように」
「…」
「ふふっ、わかってるって。君が女性に興味を示さないのは普段から知っている。だから適任だと思ってね。じゃ、よろしく」

という事情があり、シラハはその王女を連れ出すべく、情報入手のため街に1ヶ月ほど前から住み着いていたのだった。
修理し終わって依頼主に届けようと、布に包み鞄に入れた。
依頼主は宿屋の娘。
初めてシラハが島を訪れた際にお世話になった宿だ。
宿屋のドアを開け中に入ると、水色の髪にピンクの目の、ショートヘアの女性…ソラだった。

「あ、シラハさん!オルゴール直ったんですか?」
「ええ。すみません、結構時間がかかってしまいました…」
「いえいえ、大丈夫です!だって、もう聞けないと思っていましたから」
「直ってよかった、大事な物だったんですね」
「えぇ…、この島の姫様にいただいた物ですから」
「なるほど…」
「姫様ね、たまにお忍びで街に遊びに来ることがあるんです。いつかシラハさんにも紹介できたらいいなー!とっても可愛い子なんですよ!」
「有難いお話ですが、すみません…実は国に帰らなくてはいけないのです。明日発ちます」
「ええっ?!そんな急に…せっかくお知り合いになれたのに…」
「また遊びに来ます、その時はまたお願いします」

そう言って宿屋を去っていく。
そう、明日は姫の誕生日パーティーの日だ。
きっと混乱が生じるだろう。
その混乱に乗じてシラハは姫を連れ出さなくてはならない。
一歩間違えば命の危険もある。
それでも失敗しない為に準備をしてきた。
もう、後戻りはできない。

「さぁ…行こうか」
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