DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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142.魔物が協力者であること

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「ふぅ…疲れた…」
「普段あまり使わないところの筋肉も使った気がする…」
「明日筋肉痛になりそー」

最初の試練をクリアしていた皆が終わった事に対して安堵していると、後ろから見学していたナナルルがお疲れさまと声をかけてくれた。
このままクルスタロが目を覚ますのをここで待ち続けるのは得策ではないため、一度街に戻ってそれぞれで過ごす事にした。
宿についてすぐごはんにするかお風呂にするかで迷い、先にお風呂に入る事になる。
そもそもこのシュピールにお風呂という文化があることが驚きだったのだが、身体を清潔に保つためにお風呂がいいと言う事を教えてくれた人がいたらしい。
お風呂に入らず一瞬にして体を綺麗にする装置もあるらしいが、地上からきた皆にとっては直接入るほうが気に入るだろうと、わざわざナナルルが手配してくれたようだ。
魅力を伝えてくれた人にお礼をいいながら皆はお風呂に入った。
お風呂から出ると徹がもう待てないと言うように大広間へと移動していた。
言葉でもお腹が空いたと言うのはもちろんのこと、お腹も同時に鳴らしている。
空が当たり前のように隣に座り、自然とそのまま皆がテーブルを取り囲んでいく。
並べられていた料理の説明を聞くと、基本的にシュピールにあるものは地上から持ってきた植物や動物を素にして改良されたものだと言う。
病気になりにくく長生きで、収穫出来る回数を増やしていたり、肉や魚に関してもシュピールの技術で1頭から取れる量が増えている。
気候が安定している為一定の量を取り続ける事が出来ることと、地上とは異なる技術の進化により、肉や魚も素となる動物は必要最低限の量しかいらないのだ。
これは一定の土地しかないシュピールにとっては必要なことで、ここで暮らすテヴェルニア人もまた長命である事と同時に、子孫を増やす事に関してもある程度抑制されながら暮らしているのだとナナルルが教えてくれた。
ご飯を食べながら次のイフリートのことを聞く。
エリアと気候が違うものの、基本的にはダンジョン形式であることは変わらず、最深部にイフリートがいるとの事。
現在いる場所は寒い地域になるががらっと変わって暑くなるため大丈夫かとナナルルが聞いてくる。
静羽達が来ている変身時の衣装は気候に左右されることはほぼない。
どこにいようと自分の体温を保つためにシュプルを介して適切な温度になるように調節されている。
攻撃された時や当たった時にその効果が薄れる事があるが、基本的に戦闘をする上で支障がでないような設計になっているのだ。
それを聞いたナナルルは地上にもそんな技術があるのだなと感心していた。
温度のことは気にしなくてもいいが、戦闘面に関してはどうなっているかわからないという。
気を失っているクルスタロが回復したら何か情報が得られるかもしれないと、とりあえず今日は休む事にした。
それぞれのが休む寝室で、地上からやってきたカップル達は今後の不安や期待がある事を語る。
ただもうここまできたらやるしかないとお互いを励まし合い、一緒に乗り越えようと約束した。
次の日、身体を十分に休めた一行はクルスタロのところへと向かう。
ダンジョンの入り口から最深部までは解放されており、敵が再度出てくることはなかった。
入り口から人が入って来たのがわかっていたのか、クルスタロは静羽達を像の前で待ってくれていたようだ。

「昨日はごめんなさい、久しぶりに楽しい戦闘ができて私も疲れていたみたい」
「大丈夫です。私達もとてもいい経験をさせていただきました。その後お身体は大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ないわ。少し怪我をしていたみたいだけれど、寝れば治るようにできているの。それで、私のところに来たという事は聞きたい事があるのでしょう?」
「はい。次のイフリートの情報と私達が戦っていた時に起こっていた事についてです」
「いいわ、私が知っている限りの事を話すわね」

クルスタロが言うには、性別的には男性の声であり大きな怪獣や恐竜のような見た目をしているという。
ドラテルよりも大きいが、巨体のわりに動きは素早く何よりも攻撃力が強い。
ドラテルの試験を受かってイフリートのところへ行っても、そこで受かる人は30%程度。
だが話のできない相手ではないという。

「少し前から気になっていたのですが、地上ではドラテルさんやイフリートさんも敵である魔物の部類に入ります。それがなぜシュピールで協力者として存在しているのでしょう?」
「あら、今私達は地上へ行ったら敵なのね。そう…、でも予想できなかったわけではないわ」

もともと人間の心の闇が具現化した存在である魔物は、太古から地上に存在していたものだとクルスタロは話す。
ただそれが大きくなってしまったのは、静羽達も知っての通りヒメカが地上にやってきてからだと言う。
始めはそこまで酷くなかった魔物達も、ヒメカによる黒い汚染の影響でどんどん残虐で知性を失っていく魔物になっていった。
シュピールで生きているアイスベアやイフリートそしてバンシーは、その汚染から隔離された存在なのだと言う。
本来であれば人間をより強くするための協力者として地上でも存在し続ける予定だったのだ。
現在人間に攻撃を仕掛けているのが魔物達、守る事や協力することを目的としているのが神という存在になるらしい。

「では…、昨日の戦闘の途中で私達の身体に起こった変化はなんなのでしょう?」
「んー、そうねぇ。シュプル自身があなた達の潜在能力を引き出そうとしていると言えばいいかしら。ただここは地上ではなくシュピールだから、この国の技術も少なからずあなた達の身体に影響を与えているはずよ。戦いながら何か感じなかったかしら?」

言われてみればクルスタロの言うように戦闘中身体が光っただけでなく、身体が軽くなり精神的にも冴えわたって攻撃の位置や内容がより鮮明になった。
空がデータを収集してデータベースを作った後、皆に共有することで戦闘パターンや弱点を割り出すのを自分の頭でやっているような感じだ。
クルスタロはそれはこのアイスベアのダンジョンをクリアした時に起こるものであり、今後イフリートやバンシーに挑めばまた違う変化が得られるようになるだろうと言う。
そしてそれが試練によって得られる効果であるのは事実だが、最後のバンシーのダンジョンをクリアした事で全体的に何が起こるのかは全て知っているわけではないらしい。
この場所が作られた時、当時の建設者はこう言った。

-全てが終わった時、このシュピールも解放され、本当の意味で地球は一つになれる-

何があるかは分からなくても、この試練が終わった時に何かが起こるという事はわかる。
それが何であったとしても、試練をクリアした時に地上のためにできる事があるのなら、早く次へ進まなければ。

「きっと私達も、あなた達が全ての試練を終わった後にまた会う事になりそうね」

ドラテルとクルスタロにお礼を言いながら、静羽達はダンジョンを後にする。
ダンジョンから出た後、皆が付けていた腕時計が反応した。
Congratulations!!の言葉の後に、ドラテル達の映像と氷のマークが映り最後にupdate complete!!と表示された。
どうやら氷系の技が皆で使えるようになったようだ。
その文字を見て空が目を光らせて喜んでいる。

「私護りのバリアは張れるんだけど、耐久力に不安があったからとっても嬉しい!」

それぞれ効果が違うようだが、次のイフリートに挑むのにとても役に立ちそうだ。
一行は次の目的地、リュトムスへと向かった。
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みんなの感想(1件)

ミッチー🌼

やっとこのアプリの使い方を覚えました😅
静羽のように考え、生きていけたら、素敵だなあ✨と思い憧れます。でもその事を静羽ちゃんに言ったら、私には私の人生があるし、それを否定しなくていいんだと言ってくれそうな気がします。

最新話を読みながら、1話からも読み始めているので、とっちらかった感想ですみません。
楽しみにしています✨

解除

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