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139.ナールという男
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ゲティエンから持ち込まれた技術は、人間を改変することができた。
それが本人の望む形になるようにシュプルは応え、力を与えた。
地上で使うにはあまりにも行き過ぎた技術、それは平和をもたらす事はない。
その技術を見た瞬間、頭が良かったテヴェルニア人は危険性を悟り地上で暮らす事をやめた。
ただ人間である以上、どうしても考え方や価値観の違う人は出てきてしまう。
その違いを一つの場所に収めるというのはとても困難なことであり、主張が強ければ強いほど対立が起こり暴走する人も出てくる。
ある程度人間としてお互いの考え方を尊重できる人間なら問題はないが、それが表面化せずに自分の内側に秘めた野望を実現するため、実験を繰り返していたのがナールという人物だった。
彼は本来テヴェルニア人が代々継承してきた名前が二文字続くという種族としてのしきたりも嫌い、子どもの頃自分からナールと名乗っていたという。
その時点で同じテヴェルニア人からも変な人だと思われていたようだったが、ナールが歳を重ねるごとに彼のおかしさについて有名になっていく。
ナール自身はそれを爽快に思っていた。
それでもナールの家族や親せき達は、なんとかナールを一人の人間として接しようと努力をしていた。
だが子どもの頃から、野生動物や昆虫を捕まえては他人には理解できないような実験を繰り替えし、自分で作った秘密基地や研究小屋の周りには、いつしか骨が転がるようになっていた。
それを見た家族たちももう自分達の手には負えないと、国に相談するようになる。
家族や親せき達も何も策をしなかったわけではない。
命の大切さや、生きている事について語ったり見せたりした。
それでもナールに届くことはなく、日を追うごとに小屋から出てくる回数は減っていく。
これ以上好き放題させていれば今度はいつしか人間が対象になってしまうのではないか…ということを恐れた。
野生動物や虫を殺しているという事実だけでも十分おかしい事なのだが、研究という名目があったとしても許容できる範囲をとうに超えていた。
ナールが13歳の誕生日を迎えてから一ヶ月後、ナールは研究者スカウトという口実で国の兵に連れていかれ、そこから家族とは疎遠となった。
規則があった中での実験や開発は、ナールにとって苦痛になった。
今まで自分が好きなように生物を使い実験をしてきた日々を取り戻したいと思うようになり、その為にはどうしたらいいのかを本気で考えた。
それも正当ではない方法で…。
ナールは人が変わったように国から与えられた仕事をこなすようになった。
コミュニケーションこそ上手とは言えないが、こういったことのデータがほしい、○○をうまく使えないだろうか等の依頼を淡々とこなし、一定の成果を得た。
今までの奇行はなんだったのかと言うように人々の役に立つようになっていったのだ。
時間が経つにつれ、ナールは国の信頼を得ていきある程度の自由も得るようになった。
研究資材も提供してもらい、こつこつと資金も貯めた。
こっそりと土地を買いただのマイホームを作った。
しかしその家の地下には広大な研究施設を作り、提供してもらった研究資材運び込み、休みの日になると自分の家に引きこもった。
表ではいい顔をして人々の役に立つ研究を進め、裏では本当に自分のやりたかった事に時間を割く。
いい顔をする事も、自分のやりたい研究の為ならば苦ではなかった。
その研究が進めば、ここにいる人々をどうとでもする事ができると考えていたからだ。
あからさまに事件にならないよう研究対象にする生物も選び、ついに人間にも手を出していく。
罪を犯し処刑される予定だった人を殺した事にして、裏金で研究材料として国から買う。
次第にナールのまわりには、ナールと同じように研究したい人やお金に興味がある人が集まっていた。
協力者によるデータ収集、解析、実験成果。
ナールは人生の喜びを感じていた。
そしてついにナールは国から出ていくことを決意する。
もはや十分な実験を行ったナールに怖いものはなかった。
自分の命を狙う兵士をことごとく返り討ちにし、誰一人帰すことはない。
国を相手に取り取引が出来るほど、彼の力は強大になっていた。
国民を守る義務がある政府は、これ以上国民を好きなようにさせるわけにはいかないとナールを国外追放とする判決を下す。
ナールは自分自身による実験によって強靭な肉体を手に入れており、政府が捕らえたところで封印も死刑も執行できないでいるからだ。
それはナールにとって待ち望んでいた事だった。
地上にはテヴェルニア人ではない人間がごろごろといて、ナールの目には実験体としてしか映っていない。
ナールが国外追放された日、ようやくテヴェルニア人にとって少しの安寧が訪れたことになる。
「ここまでがシュピールに存在していたナールという男の記録だ。もともとテヴェルニア人はゲティエンの人と出会ってから長命種になったから、地上の人とは少し感覚がずれるかもしれないが、これがざっと800~500年くらい前の話だ」
静羽が前世のリヒトとして戦った300年前よりもっと昔という事になる。
「ナナルルさんは何歳なんですか?」
「アタシ?この間ちょうど100歳になったところ。だから外に出る候補にもなれた。ある程度いろいろ経験してからじゃないと、許可がもらえなくてね」
何やらシュピールには外に出ると言う事以外でも色々規約があるようだ。
ナールについての情報はこれ以上ナナルルからは出てこないようなので、静羽達は目的地を決める事にする。
「一応アイスベアが倒しやすいって聞くし、そのままアイスベア目的地でいいかな?」
「どちらにしても全部まわる必要はあるが、せっかく難易度表示があるんだったらその通りに実行したほうがデータも得やすいだろう」
「まかせといて、データ収集と皆にそれを伝えるのは私の役目だから頑張っちゃうよ!」
一行はアイスベアが拠点にしているシュラッグツォイクエリアに移動し、遺跡があるという地区の宿屋に地点登録を行った。
宿屋で話をしている静羽達は、テヴェルニア人には雰囲気が違うのですぐ来訪者だとわかるようだ。
宿屋の亭主だけでなくそこに来ていたお客さんも興味津々で静羽達の事を見ている。
ナナルルが見せもんじゃねぇぞといいながら人だかりを散らすが、また時間が経つとやってきてしまう事もあって早々に宿屋を後にした。
徒歩で遺跡に向かう最中ナナルルに寒くないかと聞かれるが、変身をしている最中は暑いや寒いもある程度感じないように設定されているため大丈夫だと話す。
そして地上ではどんな風に戦うのかを聞かれ、魔法ももちろん使うがその強化のために歌を歌う事を告げるとナナルルは驚いていた。
テヴェルニア人も歌を歌う事は普通だが、今身に着けているシュプルや技術等は歌とは無縁のものらしい。
地上では独自に進化しているシュプルという石の違いを興味深そうに聞いていた。
「さぁ、ついたぞ。ここが入口だ」
大きな山も石でできた入り口も雪で白く凍っており、いかにもアイスベアが住んでいますというような風貌をしている。
石でできた扉も重厚感があり、金属で補強され宝石もちりばめられていた。
「どうやったら中に入れますか?」
「近くにある看板に触れて、本来ならテストを行う人間が国から手渡されたシュプルとかざすと扉が開くんだが…。静羽達の場合はどうだろうな…」
「試しに時計でもかざしてみるか?」
そう言いながら白羽が近寄り腕時計をかざす。
―ギイィィ―
鈍い音を立てながらドアが開いた。
それが本人の望む形になるようにシュプルは応え、力を与えた。
地上で使うにはあまりにも行き過ぎた技術、それは平和をもたらす事はない。
その技術を見た瞬間、頭が良かったテヴェルニア人は危険性を悟り地上で暮らす事をやめた。
ただ人間である以上、どうしても考え方や価値観の違う人は出てきてしまう。
その違いを一つの場所に収めるというのはとても困難なことであり、主張が強ければ強いほど対立が起こり暴走する人も出てくる。
ある程度人間としてお互いの考え方を尊重できる人間なら問題はないが、それが表面化せずに自分の内側に秘めた野望を実現するため、実験を繰り返していたのがナールという人物だった。
彼は本来テヴェルニア人が代々継承してきた名前が二文字続くという種族としてのしきたりも嫌い、子どもの頃自分からナールと名乗っていたという。
その時点で同じテヴェルニア人からも変な人だと思われていたようだったが、ナールが歳を重ねるごとに彼のおかしさについて有名になっていく。
ナール自身はそれを爽快に思っていた。
それでもナールの家族や親せき達は、なんとかナールを一人の人間として接しようと努力をしていた。
だが子どもの頃から、野生動物や昆虫を捕まえては他人には理解できないような実験を繰り替えし、自分で作った秘密基地や研究小屋の周りには、いつしか骨が転がるようになっていた。
それを見た家族たちももう自分達の手には負えないと、国に相談するようになる。
家族や親せき達も何も策をしなかったわけではない。
命の大切さや、生きている事について語ったり見せたりした。
それでもナールに届くことはなく、日を追うごとに小屋から出てくる回数は減っていく。
これ以上好き放題させていれば今度はいつしか人間が対象になってしまうのではないか…ということを恐れた。
野生動物や虫を殺しているという事実だけでも十分おかしい事なのだが、研究という名目があったとしても許容できる範囲をとうに超えていた。
ナールが13歳の誕生日を迎えてから一ヶ月後、ナールは研究者スカウトという口実で国の兵に連れていかれ、そこから家族とは疎遠となった。
規則があった中での実験や開発は、ナールにとって苦痛になった。
今まで自分が好きなように生物を使い実験をしてきた日々を取り戻したいと思うようになり、その為にはどうしたらいいのかを本気で考えた。
それも正当ではない方法で…。
ナールは人が変わったように国から与えられた仕事をこなすようになった。
コミュニケーションこそ上手とは言えないが、こういったことのデータがほしい、○○をうまく使えないだろうか等の依頼を淡々とこなし、一定の成果を得た。
今までの奇行はなんだったのかと言うように人々の役に立つようになっていったのだ。
時間が経つにつれ、ナールは国の信頼を得ていきある程度の自由も得るようになった。
研究資材も提供してもらい、こつこつと資金も貯めた。
こっそりと土地を買いただのマイホームを作った。
しかしその家の地下には広大な研究施設を作り、提供してもらった研究資材運び込み、休みの日になると自分の家に引きこもった。
表ではいい顔をして人々の役に立つ研究を進め、裏では本当に自分のやりたかった事に時間を割く。
いい顔をする事も、自分のやりたい研究の為ならば苦ではなかった。
その研究が進めば、ここにいる人々をどうとでもする事ができると考えていたからだ。
あからさまに事件にならないよう研究対象にする生物も選び、ついに人間にも手を出していく。
罪を犯し処刑される予定だった人を殺した事にして、裏金で研究材料として国から買う。
次第にナールのまわりには、ナールと同じように研究したい人やお金に興味がある人が集まっていた。
協力者によるデータ収集、解析、実験成果。
ナールは人生の喜びを感じていた。
そしてついにナールは国から出ていくことを決意する。
もはや十分な実験を行ったナールに怖いものはなかった。
自分の命を狙う兵士をことごとく返り討ちにし、誰一人帰すことはない。
国を相手に取り取引が出来るほど、彼の力は強大になっていた。
国民を守る義務がある政府は、これ以上国民を好きなようにさせるわけにはいかないとナールを国外追放とする判決を下す。
ナールは自分自身による実験によって強靭な肉体を手に入れており、政府が捕らえたところで封印も死刑も執行できないでいるからだ。
それはナールにとって待ち望んでいた事だった。
地上にはテヴェルニア人ではない人間がごろごろといて、ナールの目には実験体としてしか映っていない。
ナールが国外追放された日、ようやくテヴェルニア人にとって少しの安寧が訪れたことになる。
「ここまでがシュピールに存在していたナールという男の記録だ。もともとテヴェルニア人はゲティエンの人と出会ってから長命種になったから、地上の人とは少し感覚がずれるかもしれないが、これがざっと800~500年くらい前の話だ」
静羽が前世のリヒトとして戦った300年前よりもっと昔という事になる。
「ナナルルさんは何歳なんですか?」
「アタシ?この間ちょうど100歳になったところ。だから外に出る候補にもなれた。ある程度いろいろ経験してからじゃないと、許可がもらえなくてね」
何やらシュピールには外に出ると言う事以外でも色々規約があるようだ。
ナールについての情報はこれ以上ナナルルからは出てこないようなので、静羽達は目的地を決める事にする。
「一応アイスベアが倒しやすいって聞くし、そのままアイスベア目的地でいいかな?」
「どちらにしても全部まわる必要はあるが、せっかく難易度表示があるんだったらその通りに実行したほうがデータも得やすいだろう」
「まかせといて、データ収集と皆にそれを伝えるのは私の役目だから頑張っちゃうよ!」
一行はアイスベアが拠点にしているシュラッグツォイクエリアに移動し、遺跡があるという地区の宿屋に地点登録を行った。
宿屋で話をしている静羽達は、テヴェルニア人には雰囲気が違うのですぐ来訪者だとわかるようだ。
宿屋の亭主だけでなくそこに来ていたお客さんも興味津々で静羽達の事を見ている。
ナナルルが見せもんじゃねぇぞといいながら人だかりを散らすが、また時間が経つとやってきてしまう事もあって早々に宿屋を後にした。
徒歩で遺跡に向かう最中ナナルルに寒くないかと聞かれるが、変身をしている最中は暑いや寒いもある程度感じないように設定されているため大丈夫だと話す。
そして地上ではどんな風に戦うのかを聞かれ、魔法ももちろん使うがその強化のために歌を歌う事を告げるとナナルルは驚いていた。
テヴェルニア人も歌を歌う事は普通だが、今身に着けているシュプルや技術等は歌とは無縁のものらしい。
地上では独自に進化しているシュプルという石の違いを興味深そうに聞いていた。
「さぁ、ついたぞ。ここが入口だ」
大きな山も石でできた入り口も雪で白く凍っており、いかにもアイスベアが住んでいますというような風貌をしている。
石でできた扉も重厚感があり、金属で補強され宝石もちりばめられていた。
「どうやったら中に入れますか?」
「近くにある看板に触れて、本来ならテストを行う人間が国から手渡されたシュプルとかざすと扉が開くんだが…。静羽達の場合はどうだろうな…」
「試しに時計でもかざしてみるか?」
そう言いながら白羽が近寄り腕時計をかざす。
―ギイィィ―
鈍い音を立てながらドアが開いた。
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