DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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138.シュピール

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異空間といえどどこの星にでも出れるわけではなく、必ず所属がある。
シュピールの場合それは地球であり、故郷を捨てるという目的以外でテヴェルニア人が地上に出る時は、生物捕獲のためである。
例えば地上で絶滅してしまっている生物がいるとしてもシュピールには存続しており、はく製でしか見れない動物も実際に生きて動いている。
ナナルルと一緒に移動を開始し、シュピールという国を案内してもらえる事になった。
先程までいた場所が大きな塔だったことを、外に出てまじまじと見せつけられる。
都会にあるような大きなツリーですらかすむほどの巨大な黒光りしている建物は、真ん中が一番高いものの山をなすように高い建物に取り囲まれ、外周へ包むにつれて建物が小さくなっていく。
シュピールの気候や土地の管理、地上と同じように動くためのシステムを詰め込み、多くの優秀なテヴェルニア人が働く場所“シュティムン”だ。
地上で言う地殻変動が存在しないからこそ維持できる建物であり、テヴェルニア人がそれほどの技術を有していることを表している。

「塔の一番上で光っているあれはなんですか?」

シュティムンの頭上には大きく光る球体があった。
ナナルルによると、あれがシュピールで言う太陽にあたるもの“ゾネ”で、ゲティエンの人達からシュプルを分けてもらったものを応用独自開発してあの場所に設置しているらしい。
昼間の太陽のように見れないわけではなく、特に見ていても目を傷めることはない。
効果としての優しい光がシュピールに降り注ぎ、人々が生活するうえで必要な光量であり大地にとっての栄養素なのだ。
もちろんずっと明るく光っているわけではなく、地上と同じように一日のサイクルの中で寝る時間は光量が月と同じくらいまで下がるという。
地球のように自転しているわけではないので位置が変わることがないが、プラネタリウムのように星空は映像として映し出されているため回転するようになっている。
ナナルルが最初に静羽達を連れて来たのは、シュピールの博物館だった。
シュピールの生い立ちや生物分布、エリアの地図や各エリアの特徴、そしてそれを管理しているシステム等様々だ。
見ているだけで1日は軽く過ごせそうだが、観光にきたわけではないので最優先で地図の説明をしてもらう。
大型のテーブルをスクリーンにし、自分達がいるところを映し出すとズームアウトして各エリアの目的地を表示した。
平面だった地図が地形を3Dで作り出し立体的になっていく。
そして遺跡のある地点をそれぞれ表示すると、どの遺跡を最初の目的地にするかをナナルルが聞いてきた。

「難易度的には?」
「そうだな…」

シュラッグツォイク:アイスベア
リート:バンシー
リュトムス:イフリート

遺跡のある地点に名前と容姿がわかるようにBOSSのデータを表示させた。
このBOSS達はシュピール軍の試験としても採用されており、その試験を受けた人によればアイスベア<イフリート<バンシーの順で強いようだ。
ただこれはテヴェルニア人に対しての試験データであり、静羽達が受ける試練と同じであるかどうかは定かではない。

「まぁそれでも、何もデータがないよりは役に立つだろうさ。静羽達もシュプルベースの媒体持ってるんだろ?それならデータ共有できるはずだ、送るよ」

ナナルルはそう言いながら近くにあった操作パネルを弄り静羽達にデータを送ると、つけている腕時計がデータを受信した。
BOSS情報だけでなく一緒に、地図のデータとシュピールにいる時の仮のパスポート、そして休憩ができる宿屋の位置等も送られてきている。
ナナルルが一緒に行動するとは言え、万が一はぐれた場合でもこれで合流ができそうだ。

「シュプルの事についてお詳しいんですね」
「そりゃあ、シュプルはほぼ万能の石と言われているからな。それに、アタシは昔シュティムンで働いてたんだ。だからある程度の情報も得られたし、開発や研究もしてた。今は権限が減ったけど、ここで生活したり案内する分には申し分ないくらいの情報と権限は持ってるよ」
「でもそれならどうして地上に出ようとしてたんですか?」

その質問を空がした瞬間、少し真顔になったナナルル。
それほど長い時間でもないが、少しの間沈黙して壁に寄りかかるとまた口を開く。

「少し前、私を可愛がってくれた恩師が亡くなったんだ。一緒に開発研究をしてたグループの一人だったんだが、その中でも特別よくしてくれてね…とても世話になったんだ。その恩師が死ぬ間際、アタシにシュプルの変化について教えてくれた事がある。シュプルは少しずつ衰えていっている、だからその原因究明をしなければいずれこのシュピールも滅んでしまうだろうってね…。もうその恩師には時間がなかった…でも、それを私が引き継いで調べる事はできる。そのために地上に出ようって思ったのさ」
「でも掟では…地上に出たら戻れないのでは?」
「基本的にはそうだよ。アタシも一度地上に出たら成果が得られるまでシュピールと連絡を取らないつもりだった。むやみやたらに他人の文明を引っ掻き回すわけにはいかないからね」

シュピールの技術を地上に持ち出す事も、地上の技術をシュピールに持ち込むことも基本的にはやらないのが原則だ。
世界の法則が崩れてしまう可能性があった。
特に地上は技術に対する悪用が多く、今まで多くの発見をしてきては戦争に使い、人間としての寿命があるにも関わらず殺し合いを辞めない。
だからこそ提供をすることもシュピールの安定した社会が崩れることも望んでいないのだ。

「あともう一つ…シュピールにおいて恥とされる人物がいてね、アタシはそいつを始末しなくちゃならない…。それも含めて地上に出なきゃならなかったんだ」
「シュピールの恥…?」
「あぁ…もともとテヴェルニア人として育ったはずだったそいつは、掟を知っていたにも関わらず、最近その技術を悪用して地上を引っ掻き回しているっていう情報が入ったんだ。だから、その是非を確かめてやっていることが地上にそぐわない事であれば、戦わなくちゃいけないって事」

静羽達にも確かめなければならない事があった。
DIVA教が存在し、よくわからない技術を使っている事は明らかで、あれはどこから来たのかと。

「私達も実は知りたいことがあります。地上では、DIVA教という教団の一人がよくわからない技術を使っています。実際に会った事があるのは一握りですが、その出どころがもしかしたらテヴェルニア人の方と何か関わりがあるのではないかと…」
「ふむ…、その人間についての情報は?」
「ごめんなさい…名前はわからないのです。ただ、DIVA教は人間における七つの大罪から名前をとられているというのはわかっています。なので消去法で、ファールハイト、ホッファート、ツォーンのどれかに当てはまるはずです。そしてその人は人間を介して装置を作ったり、もしかしたら人間を怪物に変える薬を作っている可能性があります」
「なるほど、地上の人間では作り出せないような化け物なのであれば、テヴェルニア人の技術を使っていると思われてもおかしくはない。ただ、そいつと私が探しているやつが同一人物であるかどうかまではわからないから、今は名前だけ共有しておく。男の名前は“ナール”。若くしてテヴェルニア人の中でも特殊分野で技術開発をしていたが、その後その技術が危険と判断されシュピールから追放された男だ」
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