DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

文字の大きさ
上 下
139 / 143

138.シュピール

しおりを挟む
異空間といえどどこの星にでも出れるわけではなく、必ず所属がある。
シュピールの場合それは地球であり、故郷を捨てるという目的以外でテヴェルニア人が地上に出る時は、生物捕獲のためである。
例えば地上で絶滅してしまっている生物がいるとしてもシュピールには存続しており、はく製でしか見れない動物も実際に生きて動いている。
ナナルルと一緒に移動を開始し、シュピールという国を案内してもらえる事になった。
先程までいた場所が大きな塔だったことを、外に出てまじまじと見せつけられる。
都会にあるような大きなツリーですらかすむほどの巨大な黒光りしている建物は、真ん中が一番高いものの山をなすように高い建物に取り囲まれ、外周へ包むにつれて建物が小さくなっていく。
シュピールの気候や土地の管理、地上と同じように動くためのシステムを詰め込み、多くの優秀なテヴェルニア人が働く場所“シュティムン”だ。
地上で言う地殻変動が存在しないからこそ維持できる建物であり、テヴェルニア人がそれほどの技術を有していることを表している。

「塔の一番上で光っているあれはなんですか?」

シュティムンの頭上には大きく光る球体があった。
ナナルルによると、あれがシュピールで言う太陽にあたるもの“ゾネ”で、ゲティエンの人達からシュプルを分けてもらったものを応用独自開発してあの場所に設置しているらしい。
昼間の太陽のように見れないわけではなく、特に見ていても目を傷めることはない。
効果としての優しい光がシュピールに降り注ぎ、人々が生活するうえで必要な光量であり大地にとっての栄養素なのだ。
もちろんずっと明るく光っているわけではなく、地上と同じように一日のサイクルの中で寝る時間は光量が月と同じくらいまで下がるという。
地球のように自転しているわけではないので位置が変わることがないが、プラネタリウムのように星空は映像として映し出されているため回転するようになっている。
ナナルルが最初に静羽達を連れて来たのは、シュピールの博物館だった。
シュピールの生い立ちや生物分布、エリアの地図や各エリアの特徴、そしてそれを管理しているシステム等様々だ。
見ているだけで1日は軽く過ごせそうだが、観光にきたわけではないので最優先で地図の説明をしてもらう。
大型のテーブルをスクリーンにし、自分達がいるところを映し出すとズームアウトして各エリアの目的地を表示した。
平面だった地図が地形を3Dで作り出し立体的になっていく。
そして遺跡のある地点をそれぞれ表示すると、どの遺跡を最初の目的地にするかをナナルルが聞いてきた。

「難易度的には?」
「そうだな…」

シュラッグツォイク:アイスベア
リート:バンシー
リュトムス:イフリート

遺跡のある地点に名前と容姿がわかるようにBOSSのデータを表示させた。
このBOSS達はシュピール軍の試験としても採用されており、その試験を受けた人によればアイスベア<イフリート<バンシーの順で強いようだ。
ただこれはテヴェルニア人に対しての試験データであり、静羽達が受ける試練と同じであるかどうかは定かではない。

「まぁそれでも、何もデータがないよりは役に立つだろうさ。静羽達もシュプルベースの媒体持ってるんだろ?それならデータ共有できるはずだ、送るよ」

ナナルルはそう言いながら近くにあった操作パネルを弄り静羽達にデータを送ると、つけている腕時計がデータを受信した。
BOSS情報だけでなく一緒に、地図のデータとシュピールにいる時の仮のパスポート、そして休憩ができる宿屋の位置等も送られてきている。
ナナルルが一緒に行動するとは言え、万が一はぐれた場合でもこれで合流ができそうだ。

「シュプルの事についてお詳しいんですね」
「そりゃあ、シュプルはほぼ万能の石と言われているからな。それに、アタシは昔シュティムンで働いてたんだ。だからある程度の情報も得られたし、開発や研究もしてた。今は権限が減ったけど、ここで生活したり案内する分には申し分ないくらいの情報と権限は持ってるよ」
「でもそれならどうして地上に出ようとしてたんですか?」

その質問を空がした瞬間、少し真顔になったナナルル。
それほど長い時間でもないが、少しの間沈黙して壁に寄りかかるとまた口を開く。

「少し前、私を可愛がってくれた恩師が亡くなったんだ。一緒に開発研究をしてたグループの一人だったんだが、その中でも特別よくしてくれてね…とても世話になったんだ。その恩師が死ぬ間際、アタシにシュプルの変化について教えてくれた事がある。シュプルは少しずつ衰えていっている、だからその原因究明をしなければいずれこのシュピールも滅んでしまうだろうってね…。もうその恩師には時間がなかった…でも、それを私が引き継いで調べる事はできる。そのために地上に出ようって思ったのさ」
「でも掟では…地上に出たら戻れないのでは?」
「基本的にはそうだよ。アタシも一度地上に出たら成果が得られるまでシュピールと連絡を取らないつもりだった。むやみやたらに他人の文明を引っ掻き回すわけにはいかないからね」

シュピールの技術を地上に持ち出す事も、地上の技術をシュピールに持ち込むことも基本的にはやらないのが原則だ。
世界の法則が崩れてしまう可能性があった。
特に地上は技術に対する悪用が多く、今まで多くの発見をしてきては戦争に使い、人間としての寿命があるにも関わらず殺し合いを辞めない。
だからこそ提供をすることもシュピールの安定した社会が崩れることも望んでいないのだ。

「あともう一つ…シュピールにおいて恥とされる人物がいてね、アタシはそいつを始末しなくちゃならない…。それも含めて地上に出なきゃならなかったんだ」
「シュピールの恥…?」
「あぁ…もともとテヴェルニア人として育ったはずだったそいつは、掟を知っていたにも関わらず、最近その技術を悪用して地上を引っ掻き回しているっていう情報が入ったんだ。だから、その是非を確かめてやっていることが地上にそぐわない事であれば、戦わなくちゃいけないって事」

静羽達にも確かめなければならない事があった。
DIVA教が存在し、よくわからない技術を使っている事は明らかで、あれはどこから来たのかと。

「私達も実は知りたいことがあります。地上では、DIVA教という教団の一人がよくわからない技術を使っています。実際に会った事があるのは一握りですが、その出どころがもしかしたらテヴェルニア人の方と何か関わりがあるのではないかと…」
「ふむ…、その人間についての情報は?」
「ごめんなさい…名前はわからないのです。ただ、DIVA教は人間における七つの大罪から名前をとられているというのはわかっています。なので消去法で、ファールハイト、ホッファート、ツォーンのどれかに当てはまるはずです。そしてその人は人間を介して装置を作ったり、もしかしたら人間を怪物に変える薬を作っている可能性があります」
「なるほど、地上の人間では作り出せないような化け物なのであれば、テヴェルニア人の技術を使っていると思われてもおかしくはない。ただ、そいつと私が探しているやつが同一人物であるかどうかまではわからないから、今は名前だけ共有しておく。男の名前は“ナール”。若くしてテヴェルニア人の中でも特殊分野で技術開発をしていたが、その後その技術が危険と判断されシュピールから追放された男だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

処理中です...