DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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136.園庭の祠

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見つめ合う瞳と瞳が近付いていく。
いつも夜寝る時には一緒だが、特にこれといってキス以上の事はした事がない。
でもなんだか今の白羽は雰囲気が違う。

「白羽…くん?」
「静羽…」

顔を触られる手の感触がとてもくすぐったい。
甘くて溶けてしまいそうな雰囲気に耐えられず、静羽は目をつぶった。

――ドゴーーーン!――

静寂をかき消すように庭を一筋の光が轟音と共に降り注ぐ。

「きゃっ!!」

凄まじい音と光に身体がビクッと反応してしまった。
だが、気にすべきはそこでは無い。
外は晴れだったはずで、確かに今見ても雨雲もなく晴れているのだ。
何か嫌な予感がした。

「静羽…少し辺りを皆で確認しに行こう」
「うん」

甘い雰囲気だった部屋が一気に冷める。
白羽の部屋から出て皆と合流し外に出た。
雨が降っている様子もない。
どの方向に落ちたのか、その雷によって魔物が出現ひていないか確認しなければならない。

「皆、変身して辺りを探ろう」

それぞれ呪文を唱えて変身すると、高いところから辺りを見回し異変が無いかを調べた。
煙が上がっていたり、光っているなどの変化は見られない。
だが確かにその場にいる全員は聞いており、だいたい今までの経験上そんな音がする時には、良くないことが起こっている。
腕時計で通信をしつつ辺りを探っていると、空が庭園の片隅に祠があるのを発見し近付く。

「うーん…この祠、白羽先輩のお母さんが日本人だから…ここに立ててあったりするのかな…」

一周ぐるーっと辺りを回ってみてみるが、特におかしなところがあるわけではない。
ただなんとなく気になる…あるいは違和感があるとでもいう感じで、なぜか目が離せない。

「スカリーナさん、この祠っていつから…」

いつからあるのかを言い終える前に、空は突然現れた人物につかまり口を塞がれ身動きが取れない姿勢で捕まれた。

「空!」
「動くな…」

『くっ…こいつ姿も気配も消して一体どこから…』

通信が繋がっていた白羽や楓真達も危険を察知し徹のところへと向かう。
空を捕えていたのは、顔に模様がある長身の女性。
肌は褐色でこげ茶色の髪に黄金の目はとても鋭く、こちらを睨みつけている。

「空を離せ!」

徹の声だけが相手に届く。
ジリジリと距離を詰めるがそれと同時に相手も祠の方向へと下がっていく。

「お前…何が望みだ…」

そう問いかけた時、その女性は祠を触り笑みを浮かべた。
何かを言い返してくるわけでもなく、女性はその場からフッと空を連れて消える。
その瞬間を丁度そこにたどり着いた静羽や楓達も目撃していた。

「消えた!?」
「早く追いかけないと」
「でもどうやって…?」

徹は能力で瞬間移動ができるがそれとはまた違う雰囲気だったようで、もし後を追いかけていけるとしたら目の前にある祠が鍵となる。
こういう時に役に立つのが静羽の能力。
前回アリエスとの闘いの時に、アリエスの想いの強さを手掛かりに空間と空間を繋ぎ合わせた。
扉の向こうからエリスが出てきたときのアリエスの顔は今でも忘れられない。
どうしたら追えるのだろうと、静羽も祠を一周した。
祠と祠の前にある鳥居、両方とも使わないといけない…と、直感で思った。
迷っている時間はない、もし可能性があるのならやってみなくては。

【次元の扉よ、我らを連れ去られた空のもとへ送り届けよ、Spatial fusion‼】

ドアから綺麗な音が流れ少し光った。
扉を開けて向こうに行く前に、静羽達は一緒にいたシエルとスカリーナに事態の報告を屋敷の主にするように告げる。
ホテルで調べ物をしている貴紀や小雪にも伝えなければならなかった。
そしていつ戻ってきてもいいように、祠の前で何もないかを警戒しながら待機しているようにお願いする。
ディスフィアだけは戻ってきた時に状況を報告するため、一緒に同行することとなった。
扉を開けると真っ黒な空間がそこにはあり、先がどうなっているのかはわからない。
ただ、早く空を助けなければという気持ちが不安という感情を上書きしていく。

「皆…行こう」

――――――

真っ暗な空間を通り抜けた先で、目を開け辺りを警戒しつつ確認する。
明るい場所へ出た時は真っ白な視界から徐々に目が慣れ辺りが見えるのと同じだ。
そして自分達が置かれた状況を把握するのにそれほど時間はかからなかった。
向けられた刃、敵意むき出しの視線、囲まれている人数にここは敵地の真っただ中だと理解する。

「貴様達何者だ!どうやってこの場所へ来た!」

空を連れ去った女性と同じ、顔に模様のある者達がこちらを向いて質問している。

「私は静羽、私の能力で空間を繋げました。先程そちらの仲間であろう方が、私の友人である空をさらいました。私たちの大切な友人です、どうか返してください」

その言葉を奥で聞いていた地位の高そうな老人が、何やら部下とひそひそと話をしている。

「皆の者、武器を下げよ」
「し…しかし!」
「よい、確かめねばならぬ事がある」
「仰せのままに」

命令を聞いた部下たちが武器を下げる、と同時に静羽や白羽達も武器を構えることをやめた。

「ふむ…返すかどうかは話を聞いてからじゃが、幾つか質問をしよう。答えてもらえるな?」
「私達にわかることでしたら」

Q.どこから来た?国名でいい答えよ。
A.今はドイツからこの場所へ来ました。

Q.能力を使ったようじゃが、その力はどうやって使っておる?
A.魔力をサポートしてくれる腕時計があります。そこに宝石が埋め込まれていて、その力を借りています。

Q.その宝石の名前は?
A.私たちはマイストーンと呼んでいますが、もともとの原石の名前はシュプルです。持つものによって能力も違います。

Q.お前さん名は?
A.桜川…静羽といいます。

Q.ここがどこだかわかるか?
A.いえ、追いかけてきただけですので何もわかりません。

Q.テヴェルニア人…その言葉に聞き覚えは?
A.少し前に、私たちの国やドイツの博物館にある石像で見聞きしております。その方達に会うために情報収集をしている最中でした。

「ふぅむ…」

老人はしばらく考えた後、何か理由があるのだろうと静羽達を別室に案内するためついてくるように言った。
若干の不安があったが、今は空を助ける事が優先のため言う通りにするしかない。
案内されて向かった部屋は大きなガラス張りの部屋になっており、外が見える。

「ようこそ、我らテヴェルニア人の済む世界へ。ワシの名前はノノール。少々手荒になってしまったが、君たちを歓迎しよう」
「テヴェルニア人…!?」

広い大地の真ん中に建物があり、その高い場所に静羽達はいるようだった。
まさか探し求めていたテヴェルニア人に会えたばかりか、その国にきてしまっていたとは驚きだった。
だがなぜ空はあの時捕らわれたのだろう。

「教えてくださいノノールさん。なぜ空は捕えられたのでしょうか」
「話すと長くはなるが、簡単に言えばテヴェルニア人は外に出るための掟を作っておる。地上に住む人間達との交流は極力避けてきた。だが、国や人種を捨ててでも外に出たいと望むものもいて、その者が地上に出るための手段として、一人地上の者を我らの国に招き入れる事が掟じゃ。先程捕えられた空とやらも、捕えた女性であるナナルルが地上に出ることを目的として捕らえられている」
「空を解放してくださる条件はありますか?」
「あるにはあるが…、それにはまだもう少しお互いの事を知らねばならぬ。静羽といったか…どうやってテヴェルニア人の情報を得た?」
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