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131.納得する生き方
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目の前に座っている車いすの少女は、とてもか弱そうで戦闘なんてできる感じには見えなかった。
暁人にはなぜそこまでしてこの少女が学園に入学しようとしているのかがわからない。
お互いに自己紹介を済ませた後話を聞いていると、心臓病だったこともあり先日まで入院していたという。
「なんでそこまでして学園に来たいんだ…?自分の身体のほうが大事じゃないか?」
思った質問をそのまま心愛に投げかける暁人。
すると心愛はにこっと少し微笑んでその質問に答えた。
「私の身体の事心配してくださるんですね、ありがとうございます」
「…っ、そういうわけじゃ…」
「弱いから…こそです。私にできる事は少ないかもしれない…でも、できることで役に立ちたいんです。私を助けようと沢山の方が関わって治療してくれました。それに、私のために一生懸命世話をしてくれる両親やお兄ちゃんのことも大切なんです。だから私も、できるだけたくさんの人の役に立ちたい。自分の命が続く限り、自分が納得できる方法で生きたいんです」
入学のことも兄である清忠が学園側に相談をしてくれていたようで、運動系の授業や成績に関しては特例として非参加が認められ、もし学園を卒業することになったとしても就職先も含めて協力をしてくれるようだ。
そして学園側が入学を認めた事の一つに、心愛自身の能力の事も関係がある。
病気で動けなくとも病室で自主的に学習は怠らず、自分から何か力になれないかとパソコンで自分で集めたデータをまとめたりするのは、プログラムが得意でアプリ開発をしてしまう空と似た用な性質を持っている。
学園側はその能力や努力を認め、将来役に立ちたいと言う彼女の想いと期待を込めて許可をしてくれたのだ。
これには清忠自身のサポートも含まれており、もし学園を卒業しても学園関係者として残る事になっている。
家族や友人のような関係がない暁人にとって、自分がそうすることで役に立ちたいという気持ちはよくわからなかった。
自分を部隊に入れてくれた隊長や同僚達に対して感謝はあれど、任務や今後必要な事だろうと感じるから動くのであって、プライベートは別である。
特にこの心愛に関しては身体が弱いという体質も相まって、理由を聞いても尚理解できなかった。
ただ、自分が納得する方法で生きたいという言葉に対しては同意したため、本人がそう望んでいるのだからそれでいいのだろうという結論になった。
「あの、よかったら皆さんお友達になってもらえないでしょうか…?」
入学したときに知り合いがいたら心強い。
それにここで出会ったということは、何かしらの縁があるということだ。
愛莉も亮も快く了承してくれた。
最後にじっと心愛から暁人に対しての視線が送られ、なぜか少し照れながらもわかったよと返す。
そんな様子を静羽は微笑ましそうに見守っていた。
その後運ばれてきた食事を皆で会話をしながら楽しみ、静羽は迷っていたキャリーケースを藍色と白のデザイン重視のものに決定した。
――――――
買い物が終わってから家に帰る途中、白羽は静羽に暁人の事から魔物の気配がする事に気が付いたか尋ねると、静羽も気づいてはいたようだ。
白羽が感じたように親ではなく祖母あたりの人であることと、現在敵意を向けている様子もない事から特に問題視しない事にしたらしい。
亮達と一緒にいる事が多いなら何かあれば報告がくるだろうし、いずれは何かのきっかけでその事について聞ける機会もあると判断したからだ。
白羽はもしかしたらいずれ家にくるかもしれないと予想しており、そうすれば家で家事をしている冬月達にも説明をしておかなくてはならないだろう。
しかしその前に実は暁人よりも血が純潔の魔物が白羽の家に来客として来る予定があった。
アリエスとリリスの事なのだが、二人は人間側の協力者になってから監視下で生活している。
しかしリリスもたまには友達とお話がしたいと言うことで、初めて白羽と静羽の家でのみ交流を許されたようだ。
そのことを始め冬月達に説明した時は、非常に心配していたし困惑していた。
魔物=悪という考え方があるのは仕方ない事で、危険や脱走の可能性についても皆から質問攻めにされた。
しかし今の二人を見ていれば、二人で幸せに暮らせる方法があるなら人間界でもやっていくと決意したその覚悟は、きちんと行動に表れている。
いずれ静羽や白羽達が魔物と分かり合える世界を作ってくれるかもしれないという可能性にも掛けてくれているのだ。
そういったことを説明してようやく冬月達も納得してくれたようだ。
話で聞いているよりも、実際に会ってみたほうが二人の顔色や行動も見えて理解しやすいだろう。
冬月達に、なぜそこまで魔物を受け入れるのかと聞かれて静羽は…
「私の中で魔物=悪じゃないからだよ。悪事を働く事が悪なんだよ」
世界で人間が中心の当たり前があったとしても、それはどこかで崩れる可能性がある。
それは魔物かもしれないし、宇宙人かもしれないし、時空を超えた何かかもしれない。
人間ですら、時代や国によって善悪の判断は異なっているのだから、現代における法律は重視するとしても可能性があるなら、人間も変わっていかなくてはならないのだ。
それに魔物だけではなく悪事を働けば人間も裁かれる。
アリエス達も最初は人間に刃を向けて敵対していたが、戦闘の中で可能性を見出した。
その可能性を静羽が見せた時、敵対することをやめ持っていた武器も差し出して変わろうとしてくれた。
施設が壊れたりけが人が出たりしている点においてアリエスは償わなくてはならないが、今の二人を見れば感情と知能のある魔物は分かり合えるかもしれないのだ。
静羽はその変化を見逃したりしない。
一度話し合いをして変われるきっかけがあるならこれからもそうするだろう。
それが人間側にとって甘い考えだと言われようとも、自分が少し傷ついたとしてもチャンスがあるのなら。
とはいえ、それは静羽が転生者であり内に秘めている魔力や戦闘の実力があってこそできる事なので、一般の人には分からない感覚かもしれない。
「私って変かなぁ…?」
「さぁ…人によるんじゃないか?どう感じるかなんて相手次第だろう。相手がどう思うかじゃなく、自分がどうしたいかだ。その点、俺も相手からみたら変人だろうな」
じゃあ二人とも変人だね!なんて笑い合いながら過ぎていく時間。
そう言われたっていい、後悔して生きたくない。
人として、今の社会から外れないような生き方をしているなら別に何と言われようと自由だ。
支え合える人がいて大切に想える家族がいる、そんな当たり前の日常が幸せなのだ。
人間は愚かだ。
当たり前だからこそ気付かずに毎日を過ごして、失ってからその大切さに気付く人が多い。
だからこそ身近な人こそ大切にするべきで、静羽は今ある環境が当たり前ではないのだと身をもって知っている。
「白羽くん…」
「ん?」
「いつもありがとう」
「なんだ、改まって」
「なんとなく言いたくなった」
「そうか、なら…こちらこそ」
暁人にはなぜそこまでしてこの少女が学園に入学しようとしているのかがわからない。
お互いに自己紹介を済ませた後話を聞いていると、心臓病だったこともあり先日まで入院していたという。
「なんでそこまでして学園に来たいんだ…?自分の身体のほうが大事じゃないか?」
思った質問をそのまま心愛に投げかける暁人。
すると心愛はにこっと少し微笑んでその質問に答えた。
「私の身体の事心配してくださるんですね、ありがとうございます」
「…っ、そういうわけじゃ…」
「弱いから…こそです。私にできる事は少ないかもしれない…でも、できることで役に立ちたいんです。私を助けようと沢山の方が関わって治療してくれました。それに、私のために一生懸命世話をしてくれる両親やお兄ちゃんのことも大切なんです。だから私も、できるだけたくさんの人の役に立ちたい。自分の命が続く限り、自分が納得できる方法で生きたいんです」
入学のことも兄である清忠が学園側に相談をしてくれていたようで、運動系の授業や成績に関しては特例として非参加が認められ、もし学園を卒業することになったとしても就職先も含めて協力をしてくれるようだ。
そして学園側が入学を認めた事の一つに、心愛自身の能力の事も関係がある。
病気で動けなくとも病室で自主的に学習は怠らず、自分から何か力になれないかとパソコンで自分で集めたデータをまとめたりするのは、プログラムが得意でアプリ開発をしてしまう空と似た用な性質を持っている。
学園側はその能力や努力を認め、将来役に立ちたいと言う彼女の想いと期待を込めて許可をしてくれたのだ。
これには清忠自身のサポートも含まれており、もし学園を卒業しても学園関係者として残る事になっている。
家族や友人のような関係がない暁人にとって、自分がそうすることで役に立ちたいという気持ちはよくわからなかった。
自分を部隊に入れてくれた隊長や同僚達に対して感謝はあれど、任務や今後必要な事だろうと感じるから動くのであって、プライベートは別である。
特にこの心愛に関しては身体が弱いという体質も相まって、理由を聞いても尚理解できなかった。
ただ、自分が納得する方法で生きたいという言葉に対しては同意したため、本人がそう望んでいるのだからそれでいいのだろうという結論になった。
「あの、よかったら皆さんお友達になってもらえないでしょうか…?」
入学したときに知り合いがいたら心強い。
それにここで出会ったということは、何かしらの縁があるということだ。
愛莉も亮も快く了承してくれた。
最後にじっと心愛から暁人に対しての視線が送られ、なぜか少し照れながらもわかったよと返す。
そんな様子を静羽は微笑ましそうに見守っていた。
その後運ばれてきた食事を皆で会話をしながら楽しみ、静羽は迷っていたキャリーケースを藍色と白のデザイン重視のものに決定した。
――――――
買い物が終わってから家に帰る途中、白羽は静羽に暁人の事から魔物の気配がする事に気が付いたか尋ねると、静羽も気づいてはいたようだ。
白羽が感じたように親ではなく祖母あたりの人であることと、現在敵意を向けている様子もない事から特に問題視しない事にしたらしい。
亮達と一緒にいる事が多いなら何かあれば報告がくるだろうし、いずれは何かのきっかけでその事について聞ける機会もあると判断したからだ。
白羽はもしかしたらいずれ家にくるかもしれないと予想しており、そうすれば家で家事をしている冬月達にも説明をしておかなくてはならないだろう。
しかしその前に実は暁人よりも血が純潔の魔物が白羽の家に来客として来る予定があった。
アリエスとリリスの事なのだが、二人は人間側の協力者になってから監視下で生活している。
しかしリリスもたまには友達とお話がしたいと言うことで、初めて白羽と静羽の家でのみ交流を許されたようだ。
そのことを始め冬月達に説明した時は、非常に心配していたし困惑していた。
魔物=悪という考え方があるのは仕方ない事で、危険や脱走の可能性についても皆から質問攻めにされた。
しかし今の二人を見ていれば、二人で幸せに暮らせる方法があるなら人間界でもやっていくと決意したその覚悟は、きちんと行動に表れている。
いずれ静羽や白羽達が魔物と分かり合える世界を作ってくれるかもしれないという可能性にも掛けてくれているのだ。
そういったことを説明してようやく冬月達も納得してくれたようだ。
話で聞いているよりも、実際に会ってみたほうが二人の顔色や行動も見えて理解しやすいだろう。
冬月達に、なぜそこまで魔物を受け入れるのかと聞かれて静羽は…
「私の中で魔物=悪じゃないからだよ。悪事を働く事が悪なんだよ」
世界で人間が中心の当たり前があったとしても、それはどこかで崩れる可能性がある。
それは魔物かもしれないし、宇宙人かもしれないし、時空を超えた何かかもしれない。
人間ですら、時代や国によって善悪の判断は異なっているのだから、現代における法律は重視するとしても可能性があるなら、人間も変わっていかなくてはならないのだ。
それに魔物だけではなく悪事を働けば人間も裁かれる。
アリエス達も最初は人間に刃を向けて敵対していたが、戦闘の中で可能性を見出した。
その可能性を静羽が見せた時、敵対することをやめ持っていた武器も差し出して変わろうとしてくれた。
施設が壊れたりけが人が出たりしている点においてアリエスは償わなくてはならないが、今の二人を見れば感情と知能のある魔物は分かり合えるかもしれないのだ。
静羽はその変化を見逃したりしない。
一度話し合いをして変われるきっかけがあるならこれからもそうするだろう。
それが人間側にとって甘い考えだと言われようとも、自分が少し傷ついたとしてもチャンスがあるのなら。
とはいえ、それは静羽が転生者であり内に秘めている魔力や戦闘の実力があってこそできる事なので、一般の人には分からない感覚かもしれない。
「私って変かなぁ…?」
「さぁ…人によるんじゃないか?どう感じるかなんて相手次第だろう。相手がどう思うかじゃなく、自分がどうしたいかだ。その点、俺も相手からみたら変人だろうな」
じゃあ二人とも変人だね!なんて笑い合いながら過ぎていく時間。
そう言われたっていい、後悔して生きたくない。
人として、今の社会から外れないような生き方をしているなら別に何と言われようと自由だ。
支え合える人がいて大切に想える家族がいる、そんな当たり前の日常が幸せなのだ。
人間は愚かだ。
当たり前だからこそ気付かずに毎日を過ごして、失ってからその大切さに気付く人が多い。
だからこそ身近な人こそ大切にするべきで、静羽は今ある環境が当たり前ではないのだと身をもって知っている。
「白羽くん…」
「ん?」
「いつもありがとう」
「なんだ、改まって」
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「そうか、なら…こちらこそ」
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