DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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130.買い物

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1週間の滞在、それは静羽にとっても他の皆にとっても大事(おおごと)だ。
時差も7時間あるとなれば、身体を慣らすための時間も必要だし、慣れない場所に行くというのはそれだけでも気を使うものだ。
最初は少し得をした気分になれるだろうが、ドイツから日本に帰った時はその分の時間を失っているようにも感じられるだろう。

「旅行用のトランク、大きいサイズは持ってるのか?」

白羽にそう尋ねられ、日本で2泊くらいできるような大きさの物はあれど、海外旅行に行くような大きな物は持っていないと答えた。

「それなら新しくしっかりしたものを買いに行かないとだな」

皆とのドイツへ行くという打ち合わせがあった3日後、買い物に出かける予定を立てた。
相変わらず美津子の邸宅は賑やかで、冬月達が日替わりでローテーションしながら家事をこなしている。
最初は現代の技術に驚きつつも、使い方が分からずあたふたしている様子も見られたが、美津子や朴木に使い方を教わり学んでいけば、ぎこちなくともやっているうちにスムーズになっていくものだ。
今では楽しそうに我が物顔で掃除や料理をしている姿を見ると、なんだか静羽も微笑ましい感じがした。
皆のおかげで静羽のメイドとしての役割も軽減され、白羽と2人で過ごす時間も以前より多くなった。
結婚こそしてはいないが、婚約したうえで過ごす毎日は実質的には夫婦のようなものだ。
そんな皆に邸宅を任せ、朴木に運転を頼みショッピングセンターへと向かう。
ショピングセンターの中へ入ると、朴木は別行動となり、帰る時にまた連絡をすると言って別れた。
実はこのタイミングで、朴木はつかの間の1人の時間であり、個人的な買い物や喫茶店での自由時間として使っている。
時間はそこまで多くはないが、朴木にとってこの時間は幸せな時なのである。
一方二人はキャリーケースを取り扱っている店を何件か周り、自分の好きなデザインや色のものを選定していた。
自分の気に入った色でしっかりしたものを選ぶか、それとも前から欲しかったデザインの大きめの物を買うか…、静羽は迷っている。

「あらやだ、どこかで見た顔」

選んでいる最中に聞き覚えのある声がして振り返ると、そこには車いすを押している清忠の姿があった。
車いすに座っているのは少女で、ラベンダーアッシュのロングの髪をハーフアップにして、白いリボンをつけている。
アメジストのような瞳の色で、亮たちと同じくらいの年齢のようだ。

「こんにちは、お買い物ですか?…と…そちらの方は?」
「この子私の妹なの、心愛、私と同じの学園の生徒さんよ。ちなみに、私と同じSクラスの人」
「こんにちは、初めまして。六渡寺心愛(ろくどうじ ここあ)といいます。兄がいつもお世話になっております。よろしくお願いします」

それに応えるように静羽も白羽もそれぞれ自己紹介を返した。
清忠に、この二人実はこの間婚約したのよと少しからかわれ気味に言われるが、心愛は目をキラキラさせながら素敵ですと返してきた。

「車いすってことは、どこか怪我でもしてるのか?」
「ううん、この子ね実は心臓が弱くて入院してたんだけど、つい先日退院してきたところなの。だから病み上がりだし無理はさせたくないんだけど、どうしてもショッピングセンターに行きたいって言うもんだから、車いすで移動するっていう条件付きでつれてきたのよ」
「ふふ、いいお兄ちゃんですね」
「まぁ長い入院生活だったもの、行きたくなる気持ちはわかるからね。それはそうと、あなたたちは何か買いに来たの?」
「この間ドイツに行くって話をしただろう?静羽キャリーケースを買いにきたんだ」
「それが、いくつかお店を回ったんですが、いくつか候補があって迷っているんです。だから一度お昼ご飯でも食べてから、その間に決めようかなと思っていて。よかったら後一緒にいかがですか?」
「わぁ!いいんですか??お兄ちゃん一緒に食べたいな!」
「はいはい、わかったわよ」

せっかくの出会いだ、食事くらい一緒にできるだろう。
それに静羽も迷っている候補をどれか一つに絞るための時間が必要だ。
4人は二階にあるフードコートコーナーへ向かう。
平日の昼間だというのにそこそこの人がいる光景は、さすがショッピングセンターと言えるだろう。
とりあえずは車いすがいても通行人の邪魔にならなそうな空いている場所を探そうと見まわった。
すると…

「ん…?あれ…」

目の白羽がとある方向を指さす。
そこにいたのは一つのテーブル座っている薄ピンク色の髪とゴールドアッシュの髪、深緑色の髪の見覚えのある3人組だった。
亮たちの隣は場所も良く隣が開いており、車いすがいても邪魔にならない事からその場所へと向かう。
何も言わずに隣に座っていくと、それに気付いた亮達が声をあげる。

「うわぁっ!?白羽先輩達!?」
「び…びっくりしました」
「たまたま買い物に来たら、たまたま清忠と妹さんに会って、たまたまフードコートにきたら亮達がいた」
「奇遇ですね…、でもせっかくだし隣に来てくださって嬉しいですよ」
「3人…は、買い物か?」
「そうなんです!もうすぐバレンタインデーなので、私が何を作ろうか迷ってしまっているのと、暁人くんがあんまりそういうの食べた事無いって言ってたので、どういうお菓子があって食べたくなりそうかっていうのを見に来たんです」
「神無月…?」

少し申し訳なさそうに亮の向こう側からひょこっと見ている深緑色の髪。

「はじめまして…神無月…暁人です…」
「前に言ってた白羽先輩と桜川先輩、そして六渡寺先輩だよ!…あ、でもはじめましての方も…?」
「あ…えっと六渡寺心愛といいます。はじめまして」
「私の妹」
「そうだったんですね?初めまして、僕は高澤亮といいます」
「はじめまして心愛さん!私は宮永愛莉っていいます、よろしくお願いします!」
「次の入学式からこの子学園に入る予定だから、皆よくしてやってね」
「そうなのか、それは初耳だ」
「当たり前でしょ、さっき出会ったばっかりなんだから」

皆の自己紹介が終わると清忠は心愛に何が食べたいかを聞く。
すると心愛はもう食べるものを決めていたようで、温玉ぶっかけうどんが食べたいと言っている。
その注文を受けた清忠は白羽と一緒に店に向かうのだった。
うどんを注文してメニューを待っている間、清忠は白羽に背中を向けながら話しかけた。

「あの神無月って子、楓真君が言ってた子よね」
「そうだな、おそらくは」
「今はほとんど感じられないけど、魔物の気配が下の私だけ?」
「いや、俺も少しは感じたぞ?」
「そうよね…でもなんで少しなのかしら…もしかして…、ハーフ?」
「いや、ハーフならもっと強いだろう…、親じゃないのかもしれない」
「なるほど、それなら弱い気配を感じるのも納得だわ」

清忠は支払いを済ませ、もらったうどんに少し揚げ玉をふりかけた。

「亮くんと愛莉ちゃんは何か気付いてるのかしら…。まぁ今のところ特に何か悪さをしてるわけじゃないし、楓真君の報告の時だって入学早々図書室で本を読み漁っていたという事と、その後の追加情報で歌の時はどうも具合が悪くなるらしいって事だけ。それでもここ最近は亮くん達と一緒にいるところを良く見るようになったおかげか、音楽の授業にも出れるようになってるみたい」
「楓真は情報収集能力すごいからな…よくもまぁそこまで探ったもんだ…」
「何にせよ気配があるってことは何かしら目的があるんでしょうし、警戒は怠らないようにしないとね。じゃ、心愛のところに戻るわ。ところで何食べるの?」
「ん?静羽はチキンカツカレーのスパイシーって言ってたが…、俺は辛いの苦手だからとろとろデミグラスオムライスにでもするかな」
「やだかわいい」
「殴るぞ」
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