DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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125.貴紀と小雪

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来る日も来る日もこの遺跡に籠って、水晶が出してくれる資料を読み漁り、それを解読するのに費やした時間はもう何時間かなんて気にしなくなった。
父が部屋に籠って研究資料を読み漁り、出かけて行っては返ってこなかったのを寂しいと思った事は、今では遠い過去の話だ。
貴紀は頭を掻きながら近くに持ってきていたノートに走り書きでメモを重ね、それをまとまってからパソコンへ打ち込んでいく。
自分が父親に似てきたなと思いながら。
相手にしているのは日本語で書かれている文献ではない。
むしろ地球上にある言語ので書かれているならまだマシである。
水晶の助けがあったとしても、他の星の技術や暮らしを、今の地球上にない事を理解しなければならないのだから。
未知なものに対する探究心と情熱、そしてそれを続けられる精神力が必要になる。
学園で授業を終えてから遺跡へ来て、訳のわからない文章や写真と格闘する時間は一人だった。
ついこの間、小雪が来てくれるまでは。

――――――

「え?小雪ちゃんを連れて行きたい?」

白羽の家で全員過ごしていることを知っていた貴紀は、作業をする時に1人だけでもそばにいてくれる人が欲しかった。
地下の遺跡で作業をしていると、いつの間にか時間が過ぎていて、そのままそこで寝てしまったり夜中になってしまったりする事がある。
身体を清潔に保つ事や、健康に過ごすためには睡眠も含め規則正しい生活が大事なのだが、どうも男1人でいるとそれが疎かになってしまう。
できるなら作業に夢中になり過ぎないよう声を掛けて欲しいのと、休憩時間に少し話ができたら…と思ったようだ。

「なんで小雪ちゃんなの?」
「異性がいい!あと話しやすい!」
「下心ありありなのに送り出すの嫌なんだけど…」
「そんなことはないぞ!俺は紳士だ!」

紳士なやつは紳士とは言わないし信用できない。

「ふふっ、私は構いませんよ。そう言うのでしたら言葉でなく行動で示していただきましょうか」
「小雪ちゃん…たーくんに変なことされたら思いっきりどついちゃっていいからね?」
「大丈夫ですよ静羽さん。私とて300年前に戦った英雄の1人なのです。そうやすやすと自分の身を好きなようになんてさせませんから」

静羽は反対したものの、小雪がいいと言うのなら仕方ないと、渋々貴紀にプロテクトケースを預ける。
遺跡に向かう前に貴紀も、付き合わせて申し訳ない事と、寂しくなったら何時でも帰れるように送ると小雪に伝えた。

――――――

そして小雪が一緒にいてくれるようになったのが、学園が始まる3日前の話だ。
予想通り小雪が来てから、時計の時間をよく教えてくれるようになり、自分の体調も管理しやすくなった。
もし一緒にいてくれなかったら、始業式も貴紀は寝坊していたかもしれない。
学園が新しく軍の派遣5人を受け入れたことで、貴紀の所にも2人ほど視察に訪れる。
ある程度遺跡の説明と、貴紀自身がここで何をしているかを説明すると、案の定他に人はいないのかと言われる。
そもそも考古学分野における人が足らないのだ。
たまに研究所のほうから人が進捗状況を確認しに来るものの、その人だって別のほうで研究をしている。
ましてやここは300年前に1度英雄たちが戦った場所であり、もっと昔に宇宙船が不時着した場所でもある。
なおのこと、部外者をここに入れ込み大切なデータを渡してしまうわけにもいかない。

「ん…?なんだこのデータ…」

軍から派遣された2人が帰った後、引き続き解読を進めていた貴紀が奇妙なデータを発見する。
それはゲティエンの文字でかかれている物もあれば、見た事のない文字で書かれている箇所もあった。
そしてその続きを見ていくとゲティエンの文字が少なくなり、分からない文字で埋め尽くされているページが続く。
水晶にその事を尋ねに行くと地球上にもともといた種族の物で、今はその種族が存在しているかわからないと言う。
宇宙船が不時着した時に、船の一部が分離し違う場所に飛んで行ってしまったそうで、その分離したパーツが落ちたのがその種族の元だった。
生き残った人達がそのパーツを探し、発見した時にはその種族が解体していた。
テヴェルニア人と名乗ったその種族の文明は発展しており、少なくとも宇宙船のパーツを解読しようと試みていたくらいには高かったらしい。
ゲティエンの人々とテヴェルニア人はそれを機に交流するようになり、お互いの技術の共有や必要な物資の搬入など、不時着した人々からするととてもありがたい交流だったのだという。
ただそのテヴェルニア人との交流をし始め、いざゲティエンの人々が地球で暮らそうと準備を進めていたのもつかの間、身体を蝕む黒い闇が身体を蝕んでいき、自分達の意識の保存という技術のために後の時間を割いたため、水晶になった人々がテヴェルニア人の文明の事を残すのはそれが手一杯だったようだ。
そのため部分的にしか水晶もテヴェルニア人の文献を解読することができない。

「それでもいい。知っている事だけでも話してくれたら仮説は立てられるし、今後何かの役に立てるかもしれない」

貴紀がそう言うと、思い出すために時間が欲しいとの事で、意識の中にいるわかる奴を呼び覚まして解読させることにしたようだ。

「せめてその宇宙パーツがどこに落ちたかっていう、現在の位置くらいわかったら…少し調べようもあるかもしれないんだけど…」
「あぁそれならわかるそうですよ。今のドイツ付近だとのことです」
「えぇ!?何…え?マジで言ってるのそれ…」

それを聞いて貴紀は一つの仮説を立てる。
DIVA教は日本だけでなくミルカというドイツ出身の人間がいた。
もしそのテヴェルニア人が高度な文明を有していたとしたら、シュプルの事やゲティエンの技術の事も知っていたはずだ。
今現在その種族がどうなっているかはわからないが、もし仮に生きており技術を継承しているのであれば、DIVA教はテヴェルニア人と関わりがあるのではないかと。

「はは…こーれは…、これは面白くなりそうだぞ…」

去年の夏から発生したと言うメタルヒューマンの事も、もしかしたらその技術が関係しているかもしれない。
学園に来たというDIVA教の幹部だと思われる人がいた時も、メタルヒューマンが出現し体育倉庫の地下で不気味なもと学園の先生だった人の死体も発見された。
そう考えればDIVA教、ゲティエン、テヴェルニア人、シュプルの接点が見えてくる。
ある程度の知識がそろったら、それをまとめて皆に知らせないと…そう考えて楽しそうに解読を進める貴紀の横で、小雪が咳払いをしている。

「貴紀さん?いくら楽しくても時間はきっちり区切らせていただきます」
「えぇ!?だってこれから面白くなりそうなのにっ!」
「だめです!体調を管理し、スケジュールを組んで、しっかりその計画に沿ってやるからこそちゃんとした結果が出るのです。無理をしていくら楽しくてもそれを進めてしまえば、後で自分に跳ね返ってくるのですよ?」
「はいはいわかりました!ちゃんと帰って寝ます!寝ますから!」
「あなたもその管理のために私を呼んだのでしょう?」
「そーだけどおぉぉ!」

小雪は夢中になると寝るのも忘れてしまう貴紀が、よく熱を出していた過去があると本人から聞いてた。
それで具合が悪くなってしまい後で長引かせて苦しそうにするくらいなら、毎日規則正しい生活をして分析を進めた方が効率もいい。

「変なところが父親に似たなぁ…」

そうボソッとこぼす貴紀だったが、それを横で止めてくれる小雪がいることを、笑いながら感謝するのだった。
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