DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

文字の大きさ
上 下
121 / 143

120.捕食

しおりを挟む
「何の音だ?」

明らかに爆発音だが、何が爆発したのだろうか。
白羽達のいる海岸からは煙が上がっていることしかわからなかったが、境内より市街地側で爆発が起きたように見える。

「白羽はここに残れ。愛莉ちゃんも手当してるし、静羽ちゃんも何かあった時に困るから、守るのは任せる」
「あぁ、わかった。ただ、ピンチになった時は必ず呼べよ」
「おう、後で状況わかったら連絡するわ」

そう言って徹は爆発のあった方向へ飛んで行った。
それから数分もしないうちに、空から着信が入る。

「いつも一緒にいるメンバーだけでも連絡が取れるようにしとく!それぞれのマイストーンをリンクさせておくから、状況報告して!」

空がピリーと一緒にそれぞれを繋げた。
上空から確認する情報と、地上で確認できる情報を空がデータとして入力し、それを共有しながら作戦を立てるようだ。
楓真達が一番距離が離れており、続けて白羽や静羽、そして向かっている徹の順に近くなっていく。
空のいる上空からでは煙がひどくしたの様子までは分かららないらしい。
煙が上がっている近くへと近づく徹から、煙は市街地近くの森の中だと判明する。
そしてそこから見えたのは、ガーゴイルの群れと目が赤く光っているひと際大きな魔物だった。

「メタルヒューマンじゃないほうも入ってきてるってことか?」
「そうらしい…、まだ接敵してるわけじゃないけど10匹くらいは見える…。…は?まじかよ…」

状況を確認していた徹から驚愕した声が入る。
徹の目に映っていたのは、森の中でガーゴイルではない大きな魔物がメタルヒューマンを口に咥え、今まさに捕食しているところだったのだ。
煙が徐々に晴れていき、そこに見えたのはバルログという悪魔。
メタルヒューマンを捕食するなんて初めて見る光景だ。
だとしたら、近くで戦っていた学園のOBと軍の兵士がいたはずだが、今メタルヒューマンが捕食されているのを見る限り、どうなったのかは予想がつく。
それを、聞いた白羽達は予測できない自体に備える為、学園の緊急用連絡先に電話をかけた。

――――――

『まいりました…。大きな爆発音がしたというのに、道に迷ってしまったようですね』

愛莉と一緒に村重神社に足を運んでいた亮。
急いで飛んでいく愛莉を追いかけていたのだが、変身していない亮は自分がいると愛莉の足を引っ張ってしまうため、先に行くように言ったのだった。
その後あとで合流しようと約束はしたものの、迷ってしまい現在に至る。
視界が森の中はよくない。
戦い慣れしていない亮にとっては怖い場所だ。
開けていそうな場所を目指し走り続けた。
少し走ったところで空から着信が入り、この場にいるいつものメンバーと連絡が取れることになったのだが…。
挨拶をする余裕もないくらい現場は荒れているらしい。
森の中に魔物が潜んでいるという情報を得た亮は、皆の話を聞きながら愛莉が飛んでいった方向にひたすら進む。
そして現在の位置を空がデータにして送ってきてくれた。

「亮くん!?」

亮の存在に気付いた空がびっくりした声をあげる。

「すみません、愛莉さんを追いかけていたら森で少し迷ってしまいまして…」
「そこ危ないよ!ええと…今進んでる方向から少し右方向にずれて!そしたら愛莉や白羽先輩達がいる、合流して!」
「わかりました、ありがとうございます!」

言われた通りに走ると視界が開け砂浜が見え、階段を下りた先に白羽達の姿を確認し合流することができた。

「ついたか、よかった無事に合流できて」

亮の姿を見た白羽が安心したように声をかける。
心配と迷惑をかけたことを亮が謝った後、倒れている二人とその傍にいる子ども、そして静羽についての共有があった。
徐々に浸食していた部分がはがれていく様子を初めて間近で見た亮は、まじまじと静羽の手を見ている。

「さっきは手首まで浸食があったんだが、今は手のひらが半分見えているくらいには剥がれた」
「シュプルってすごいんですね…、やっぱり痛みあるんですか?」
「そう…だね、少し痛いけど耐えられない程じゃないし、適切な距離を保てば大丈夫だよ。敵と戦った時に負傷した傷のほうが痛いし」

それを聞いた後愛莉の方に目をやると、一生懸命治療している姿があった。

「何か手伝うことはありますか?」

亮の言葉に嬉しそうにありがとうと言いながら返す愛莉。
今はただひたすらに浸食を剥がしているところで、救急隊がかけつけるまでこの場所で治療するのが自分の役目だと述べた。
それならと、亮は今の自分にできる事は少しでも気持ちが穏やかに過ごせることを願って、歌を歌おうと言う。


Hearing your voice, the kindness that enveloped me
Leave yourself to the purifying wind

Feel the voice of nature with your ears
To wash away worries and negative emotions

Even though the world is so big and wide
Nature is so beautiful and beautiful
how do you guys fight

Let's throw away our ugly heart
Let's accept the voice of nature

Surely there will be a calm world ahead
May people's wishes for peace come true

『声を聞いて 包んでくれる優しさに
身を任せて 浄化してくれる風に

自然の声を耳で感じよう
悩み事や負の感情を 洗い流すように

こんなにも世界は広くて大きいのに
こんなにも自然は美しくて綺麗なのに
君たちはどうして争うの?

さあ捨てよう 醜い心を
受け入れよう 自然の声を

きっとその先に 穏やかな世界が
人々の平和な願いが叶いますように』


まるで浜辺にいても草木が周りを覆うかのように、清らかな風がその場を通り抜ける。
その場にいた全員が亮の歌声に魅了され、心が清らかに洗われるような気持ちになった。
そして不思議な事に、亮が歌を歌っている間、浸食されたものを取り除く速度が上がっていることに気付く白羽。
亮のもともと持っている能力なのだろう。
変身しなくてもその声そのものに魔力が宿っていて、歌うと人は引き付けられシュプルもその効果を増幅させている。
静羽の浸食されていた手も指が見えるほどになった。

「亮、よかったらそのまま歌い続けてほしい。浸食を剥がす効果が、歌声で高まってる」
「本当ですか!?お安い御用です、いくらでも!」

亮はそのまま歌い続ける。
だがそれはシュプルの効果を高めると同時に、森の中にいる魔物達にも聞こえ苛立ちを与えた。
徹が監視していた距離から捕食を終えた魔物達が移動し始め、行く先は白羽達のいる方向であると徹が推測し白羽達に伝える。

「白羽!魔物が移動してそっちに向かい始めた!応戦準備できるならしたほうがいい!」

亮は歌いながら、魔物がこちらに向かってきていることを理解する。
自分は変身していない、愛莉や静羽も治療中で動けるのは白羽だけだ。
白羽が強い事も知っていたし動けるだろう。
そして徹や楓真達もこちらに向かっているのならいずれなんとかなるかもしれない。
だが、今や一緒に入学した空も静羽も変身して戦える状態になったことで、自分一人ここで何もしないなんて考えられなかった。

『僕も…みんなの役に、愛莉さんを守れるように…一人の戦士として…戦いたい!』

その思いにマイストーンが応えた。

【地球を守護せし宝珠よ、我と共に轟け、treble clef!】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

処理中です...