DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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117.村重神社

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着物を着るなんていつぶりだろう。
そう思いながら静羽は、用意してもらった赤色の着物に手を通す。
自分ならあまり選ばない赤い色だが、美津子が見繕ってくれたものだ、大事にしたい。
そして前回着物を着たのは、静羽の祖母が七五三の祝いをしてくれた時以来の事だ。
それも育ててくれた師匠兼母方の祖母ではなく、確か父方だった気がする。
当時の記憶は曖昧で、祖父母の顔も思い出せない。
ただ、初めての着物で喜んでいたことはうっすらと覚えていた。
そういえば自分の事が忙しく余裕がなかったが、父方の祖父母は元気にしているだろうか。
小学生に上がると同時くらいに両親が離婚したことにより、桜川に苗字が戻ったのだが、前の苗字が何だったかは思い出せずにいた。

「大丈夫?お腹きつくない?」
「はい、大丈夫です」
「自分のをやるのは感覚がわかるのだけど、人のをやるのって結構難しいのよねぇ」

そう言いながらも、月に二回ほど着物の着付け教室をやっている美津子の手際はさすがと言えよう。
静羽は変わっていく自分の姿を鏡でじーっと見つめていた。

『私黒髪だから…結構着物、似合うかも』

静羽が自分に見惚れているうちに美津子は後ろで帯を巻いている。

「うんうん、いい感じに仕上がったわ!ちょっと待ってて、今鏡を持ってくるから」

そう言って美容室にあるようなバックミラーを持ってくると、静羽に見えるように帯を映した。

「わぁ…すごい」

まるで背中で大きな花が開いたかのように飾り付けられた帯。
そしてその真ん中にアクセントとして造花が添えられ、華やかさを醸し出していた。
着付けが終わり部屋を出ると、玄関横のリビングへ移動する。
そこには白色をベースにした袴を着た白羽が、本を読みながら待っていた。

『白羽くんの袴姿…すごく素敵…!』

声に出してこそ言っていないが、静羽の表情がキラキラしているのを見ていると、白羽も何を考えているのかはなんとなくわかった。

「着替え終わったみたいだな、着物…よく似合ってる」
「そ…そうかな!えへへ…ありがとう。おばあちゃんのセンスもいいんだよ、着付けもとっても手際よかったし」
「まぁさすがといったところだな」
「見て見て!帯がねお花みたいだし、飾りもついてるの!」

そんな二人のやりとりを玄関のほうから見守っていた朴木が、頃合いを見計らって二人に声をかける。

「お2人とも、車のご用意はできておりますので、準備ができ次第出発いたしましょう」

おしゃべりなら車の中ででもできるので、朴木に促され二人は車に乗り込む。
美津子は次の日に友達と一緒に行くようで、今日は家で二日酔いで潰れている英雄たちと一緒に留守番をするらしい。
現在の神社を見に行きたいということで、二日酔いになっていなかった冬月と小雪のプロテクトケースを鞄の中に入れ込んだ。

「今日は楓真さんの神社に行くんだよね?」
「そうだ、おそらく楓も手伝っていると思う」
「ってことは巫女姿の楓が見れたりする?」
「確か去年も手伝いをしてたはずだから、間違いないだろうな」
「普段見れない姿を見れるのって、ちょっと特別感があって楽しみだなぁ」

白羽達の家から楓真がいる神社まで、車でだいたい1時間くらいだ。
静羽が告白した海皇丸公園と同じような位置だが、海皇丸公園よりも少し富山市寄りになる。
神社の名前は村重神社といい、そこに着くまでの間冬月や小雪と一緒に会話を楽しんだ。
村重神社にもうすぐ着くかと言ったところで、徹からマイストーン経由で着信がある。

「徹…?どうした?」
「今どこだ?!」
「もう目と鼻の先あたりだが?」
「早く合流してほしい、メタルヒューマンが出た!」
「は?神社でか?」
「あぁ、俺早く着いちゃったから待ってたんだけど、境内から悲鳴聞こえて確認したら、銀色の人型がいる」
「数は?」
「確認できてるだけで5体だ、俺と楓真、楓とそこに偶然居合わせたOBと軍の人で対応はしてるが、負傷者が出てる。応援要請も頼む」
「わかった、すぐ行く」

電話の内容がただ事ではないと察した白羽は、朴木にこのまま家に帰るように告げる。
徹に言われた応援要請と仲間のLimeと済ませると、二人は車から降り神社に向かおうとした。
だが今の状態では着物で動きにくいため、変身するしかない。

【地球を守護せし宝珠よ、我と共に轟け、EMPEROR/WORLD!】

霧に包まれた二人は変身を終えると、空に飛びあがって移動する。
神社の位置を確認し向かう途中で見えたのは、境内から逃げ惑う人と神社に初詣に行こうとする人の人混みだった。
遠くのほうで警察も駆けつけ誘導をしようとしているが、パニックになっている人と状況が把握できていない人でごった返しているため、うまく誘導ができていないように見受けられた。
このままでは、メタルヒューマンの被害だけでなく将棋倒しなどの被害が出てしまうかもしれない。

『どうにかしなくちゃ…これじゃ危ない。でもどうしたら…』

そう考える静羽に、前のほうから声をかけられた。

「静羽!よかった!力を貸して!」

そう言ってきたのは、実家に帰っていたはずの空の姿だった。
すでに変身しており、ピリーと一緒に情報収集をしていたらしい。

「空!わかった、何をしたらいい?」
「皆を誘導したい、でも私だけの力じゃまだ力不足なの。今のこの状況は、とっても危ない。皆に一人一人にわかってもらわなくちゃ…」
「静羽、ここはまかせる。俺は先に徹と合流するから、落ち着いたら来てほしい」
「うん、まかせて」

白羽はそう言い境内の方へ飛んで行った。
空の提案はこうだ。
魔力が強い静羽の力を空の拡声器に分散させ、境内の周りにいる人に状況を伝える。
しかもそれは家の中で状況を把握できていない人も一緒にだ。
静羽は避難する位置を地図で確認し、それぞれ最寄りの避難所のルートを思い浮かべ、頭でシミュレーションした。
準備できたことを確認し、空が準備に入る。

「ピリー、いくよ!」
「了解であります!」

【みんなのところへ、声を届けるよ!沢山おいでませ☆拡声器、静羽バージョン!!】

空が呪文を唱えると大量の拡声器が出現し、その場所から神社の周りへとそれぞれ移動していく。

「静羽、大丈夫!数は用意して接続してある、伝えてあげて!」
「うん…!」

静羽は一度深呼吸し、意識を集中させ目を閉じる。

『皆…聞いて。私の名前は静羽、聖歌騎士育成学園の生徒です。脳内に直接語り掛けてごめんなさい。でも今村重神社で魔物が出ました。今から避難場所のイメージを送ります。慌てず、周りの人と一緒に安全なところへ避難してください。大丈夫、こちらには来ないよう仲間が中で戦っています。それに、皆が避難所へ移動できるまで、私がここで壁をつくります。どうか速やかに非難を!』

直接脳内に話しかけられたら、皆が聞かない選択はできない。
その声に反応して、空に浮かんでいる静羽と空を指指す人もいた。
周辺に住んでいる人も含め、その場にいた被害が出そうな人達全員に静羽は避難を呼びかける。
そのかいあってか、人々がごった返していた状況が少しずつ改善され、スムーズに避難所へと人が流れていく。
人気のなくなった付近を確認したあと、静羽はようやく緊張状態を解いた。

「よかった…なんとかなったみたい」

空の情報収集装置によって、避難が完了したことをモニターで確認する。
2人はホッとしたようだ。
だがこれで終わりではない。
今度は境内で戦っている白羽達と合流しなければ。
村重神社に向かう前に、一緒に来ていた冬月と小雪に空と一緒に行動してもらうことにし、一緒に周辺警戒と情報収集をお願いした。
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