DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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116.年明けと共に

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年越しのカウントダウンが行われ、世界中でHappyNewYearとお祝いの声が上がる。
とある場所では除夜の鐘が鳴り、とある場所では盛大な花火が打ち上げられ、人々は酒を片手に新たな年を迎えていた。
その様子をビルの屋上から眺めているDIVA教の教祖マリア。
そして傍らには、車いすに座り点滴を投与されているミルカの姿があった。

「毎年盛大ねー」
「まぁこれも、日付が変わるまでの楽しみだがな」

マリアとミルカの車いすの後ろにいたホッファートが話をしているが、ミルカはぼーっとしたまま虚ろな目をしており話そうとしない。
身体の傷は時間と共に癒えていくが、心に負った傷は深く自分が生きている意味を見失っていた。
いつも傍らには白羽がいた。
薬を作るために自分の身体も犠牲にした。
ずっと振り向いてほしくてあんなに頑張ったのに、何が足りなかったのだろう。

『なんか…もう、どうでもいいや…』

あの試合の後、白羽の呪いは解けたのだとホッファートから聞いた。
だとすればたぶん、もう白羽にもう一度呪いをかける事は困難だろう。
街を飾る装飾も、煌びやかなイルミネーションも、楽しそうな音楽も、全てがどうでもいい。
もういっそ、自分で動けるようになったらこの世から去ろう、ミルカはそう思っていた。

「それで?あの3人は上手くやってるのかしらね?」
「正装のままで行けば目立つだろうが、今は姿を消しながら行動しているだろう。それなら計画を実行するのにも問題はないはずだ。軍の連中が巡回を強化したところで、私達には関係のない話だ」

今街中では、ガイツ・ナイト・ファールハイトの3人がとある任務のため人混みに紛れ混んでいた。
普段ならフードを被った状態の修道服で行動するのだが、今回は自分達に魔法をかけ、姿を隠しながら移動していた。
それぞれ同じ任務だが別々に行動している。
ホッファートが作成した、メタルヒューマンの薬を配るために。
姿が他人には見えないため、通行人に気付かれることは無い。
路上で飲み物を飲む人や、酒や食べ物に隙あらば混ぜ込んでいく。
そしてその薬がかなり厄介な代物で、体の中に入ったからと言えど、直ぐに発動するわけではないのだ。
食事が消化されるのと同じように体に吸収され、全身に薬の効果が行き渡り、寝ることでメタルヒューマンとして姿が変わり始める。
ホッファートが作成した薬は今回100程だ。
完璧に薬が効果を発揮するかどうかはまだ数として統計は取れておらず、今回は自分が作成した薬の数としてのデータを取るための実験となる。
年が明けたと同時に3人は動きだし、1時間かけて危機感の薄そうな人間を選び、薬を入れ込んで行った。
任務が終わった3人から同じような時間に完了の報告を受けると、マリア達は満足そうに微笑みながらビルの屋上を去ろうとする。
これから起こる、自分たちの祭りを心待ちにしながら…。

「ねーえ?ヴォルストちゃんもとに戻るかしら?」
「少なくとも身体の方は順調に回復しているがね。ただ、本人の心は今生きる意味を失っていることだろう。それならば私にいい考えがある。もう少し回復したら、私から彼女に希望を与えてあげよう」
「そうなのね、頼りになるわホッファート」
「彼女だけでなく、これはDIVA教にとっても喜ばしい事になる。期待していてほしい教祖マリア」

――――――

「あけましておめでとうー!」

白銀家でもカウントダウンが行われ、集まった皆でお祝いをしていた。
大晦日に帰省してきた朋羽やヴァーグナー夫妻、そして今年は7人の英雄たちも一緒に大勢で年始を迎える事ができた。
日付も変わって少し経てば、盛り上がった祝いの場も少しずつ落ち着いてくる。
静羽と白羽が辺りを見渡せば、酒に酔いつぶれている英雄たちの姿もあった。
宝石になっている英雄たちは、人間と同じように風邪をひいたり具合が悪くなることはあるのだろうか?
もしないとしても、このまま放置してここに寝かせておくのはなんとなく違う気がして、静羽は白羽やノアと一緒に皆を部屋に入るよう促した。
もちろん酔いつぶれていたのは全員ではなく、小雪や冬月は加減をして飲んでいたため特に介抱する必要はなさそうだ。
クラウディアはノアに連れられ、自分たちの自室へと帰っていく。
朴木も手伝って散らかっているテーブルをある程度片付けると、今日はもう遅いので起きてから片づけをすることになった。
静羽も白羽も少し夜更かしをしたせいで、若干眠い。
いつも通り自分の家に静羽が帰ろうとするも、白羽に引き止められる。

「なぁに?」
「着替え持ってきて、俺の部屋来て」
「へっ…?」
「いつも静羽の部屋だったから今度は俺の部屋で寝てもいいと思う。特に理由があるわけじゃないが…」
「わ…わ…わかった…持ってくるね」

初めて一緒に寝たクリスマスイヴの日から、実は連続で二人とも一緒に寝ていた。
婚約者なのだから別にいいだろうと、半ば強引に白羽が居座っている。
とはいえ、静羽もそれが嫌というわけではないのだが、男女が同じ屋根の下で一緒の部屋のベッドに寝るというのは、何も起こらない方が不思議なくらいだ。
だが実際一緒に寝ているだけで白羽は満足そうにしており、ベッドで一緒に寝る以上の事はしたことがない。
なんとなく白羽も感情を抑えるためにうまくやっているらしい。
とはいえ今日は白羽の部屋だ、静羽にとっては気持ちが舞い上がってしまいそうだった。
見た事はあっても寝るのは初めてなのだから。
言われた通りに着替えを準備して白羽の部屋へ。
迎えられ白羽の部屋に入る。
メイドとして掃除の時に入る以外ゆっくり過ごしたことがないため、なんとなく新鮮だ。

「明日みんなと初詣行く予定だよね?」
「あぁ、10時に待ち合わせしてるから、遅れないようにしないとな」
「私早めに起きなくちゃ…おばあちゃんに着付けしてもらうんだっ!」
「それもそうだが、いつも着物を着て歩く習慣がないから、歩くのも当然遅くなる。家を出るのも早めにしよう」
「そ…それはそうかも…。じゃあ頑張って起きるから、頑張って起きてね!!」
「起こして」
「いつも起こしてるよおぉ?!」
「そうなのか…」
「起こしてるけど白羽くん寝ちゃうんだよ…」
「記憶が…ない…」
「えぇ!?じゃあ私を引っ張って布団に戻すのも覚えてないの!?」
「…そんなことしてるのか…、すまん記憶にない。気付いたら静羽が隣で寝てたりするし、そういうものだと思っていた」
「違うよおおぉ!?」

朝白羽を起こすのは結構大変である。
起きたてはぼーっとしていて起きているように見えて寝ているし、身体を起こしてそのまま起き上がってくれそうだと思い目を離すと布団に戻っている。
起きて顔を洗いに行き、着替える時にようやく自分が何をしているか理解し始めるらしい。
普段はキリっとしていて凄そうに見える白羽の弱点の一つである。
それはともかく、寝ない事には明日起きる時間もどんどん過ぎていく。
いつもと違うベッドにちょっとだけ緊張しながら静羽はベッドに入った。

「おやすみ」
「うん、おやすみ」

暗くなった部屋で手を繋ぎながらおやすみを言い合い、幸せに浸りながら眠りについた。
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