DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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112.祖父と朴木

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「母方のお祖父さんってどんな方だったの?」

俺と一緒で頑固だった…から始まる白羽視点の祖父に対する印象。
名前は栄一(えいいち)といい、性格や気質は似ていたと話す。
血液型で全てが決まることはなくとも、同じ血液型でABだったのだと言う。
自分が決めたことは曲げず、好きな事に時間を割き、歳だからなどと言う理由では挑戦する事を辞めなかった。
庭をよく手入れしており、植物だけでなく庭に関する事は自分で出来る物は一通りやろうとした。
自分が納得するまで作業をした後は、自慢げに美津子に見せていたようで、朴木も横でそれを見ている。

「そもそも朴木さんはいつから白銀家の執事さんなの?」
「今の家に引っ越してからだな…。ばあちゃんから聞いた話によれば、その頃は色々な事が重なったらしくて、俺が産まれ、今の場所にばあちゃん達が引っ越し、朴木の奥さんが亡くなった時期でもある」
「朴木さん…ご結婚されてたんだ…」
「もともと奥さんは身体が弱かったとは聞いてる。それにじいちゃんと朴木は学生時代の親友なんだ。だから奥さんが亡くなってから、じいちゃんから家の手伝いをしないかって声をかけたらしい」
「なるほど…それで…」

静羽の中ではずっと疑問に思っていたのだ。
美津子と朴木が一緒に暮らしているのは何故なのだろうと…。
今その疑問がやっと解けた。
しかしまた新たな疑問が浮かぶ。

「その顔は…じいちゃんが亡くなったあとも何故朴木が執事をやり続けてるのかって顔だな?」
「な…なんでわかったの?!」
「ふふっ…顔に書いてある」

栄一が亡くなる直前、一時的に容態が回復し話せる状態になった時に、朴木は栄一と2人でとある約束をした。
俺が死んだらあいつの事を最後まで頼むと。
きっとそれが栄一の中で、伝えたい事があるのなら伝える最後のチャンスだと分かっていたのだろう。
その時の約束を朴木は守っており、変わらず執事を続けている。
胸ポケットには今でも奥さんの写真を持っており、白羽も見せてもらった事があるという。
そして美津子もよく栄一の写真に話しかけており、2人はそれぞれ自分の愛した人と共に生活しているのだ。

「素敵だね」
「あぁ、俺もそう思う」
「今の2人は寂しくないといいな。白羽くんもいるし朋羽さんもたまにだけど帰ってくるし、私もお世話になっているだけじゃなくて、新しい仲間も加わって、わいわいしてるから…。でも、逆に賑やかすぎないかな?」
「プライベートが確保されてれば大丈夫じゃないか?それぞれ過ごす時間が必要なのはお互いにわかっているだろうし」

朴木と栄一の情報を聞いたところで、なんのお土産を買って帰るかだ。
今でも大切に思っている人にまつわるモノを送ったら喜ぶのではないか、静羽はそう考えていた。
何でも喜んでくれそうではあるが、せっかくなら少しオシャレなものや使えるモノを送りたい。

「そういえば朴木さんの奥さんのお名前とか、何が好きだったって分かったりする?」
「確か…百合さんだ。生け花が好きで体調がよかった時は教室にも通っていたと聞いてる」

それなら百合の花に関する物が良さそうだ。
安直かもしれないが、ストレートが一番わかりやすい。
それに百合の花なら、アイテムも比較的入手もしやすそうだ。
対して美津子には何を買って帰ろう…と静羽が悩む。
春先ならば綺麗な花の苗でも買って帰れるかもしれないが、今は冬でこれからは花の時期ではない。

「そういえばじぃちゃん、庭の手入れ以外にも趣味が2つあって、写真を撮るのと、ガラス細工が好きだった。引っ越す前は工房があったらしいし、引っ越してからも街中にある工房借りに行ってた記憶がある」
「それだぁっ!」

静羽は嬉しそうに声をあげる。
せっかく創作部が2人いるのだから、なんなら作ってしまおうと提案する。
今日すぐに渡すことはできなくても、手作りなら気持ちのこもった贈り物になるはずだ。
それにここは富山、ガラスの産業としても有名であり各所に工房もある。

「もしかしたら今日は予約だけになるかもしれないな」
「そうだね、そういうのって準備とかもあるだろうし。でも、贈り物が決まって嬉しい」

静羽はスマホを取り出し連絡先を確認すると、工房に電話をかけた。
案の定すぐにとはいかないようで、年があけてからなら予定を入れられそうだ。
電話口の人に2人分の名前を告げ電話を切る。
予約をできたところで、朴木に渡すためのプレゼントを探しに行った。
普段朴木は執事服にちょっとしたオシャレをしており、その日によってネクタイやリボン、ループタイなどを使い分けている。
運がいい事にその日、たまたま立ち寄ったお店に男性用のループタイで、緑色の宝石の中に百合が描かれているものを発見し、見て即座にこれだ!と思った二人は迷うことなく購入した。
お店から出て来た二人の表情はとても満足そうだ。
駅まで戻り今まで買ったものと一緒にロッカーに預ける。
すると白羽が静羽に欲しい物はないのかと聞いてきた。

「さっき自分の分は買ったよ?」
「あー…この場合、俺から静羽に何かクリスマスプレゼントを渡したいという意味だ」

必要なものはさっき買った。
特に今これといって欲しい物はない。
なのでその気持ちを正直に伝える事にする。

「今欲しい物はないかな。…ものというか、欲しいとしたら時間…かな」
「時間?」
「うん、白羽くんと一緒に過ごす時間が…沢山ほしい」

もちろん何かお揃いの物を持ったりできれば嬉しいし、形に残るものではあるが、今は呪いが解けてやっと触れれる状態になったところだ。
これから一緒に過ごして沢山の思い出を作りたい。
いろんなところに行って、いろんなものを見て、肌で感じたり食べたりして。
それができるようになったのなら、満足のいくまで白羽と一緒に。

「そ…それならいくらでも…」

静羽の言葉を聞いて少し赤面しながら白羽が返す。
ひと時の間を置いて白羽が静羽の手を掴むと、来てと言いながら歩きだした。
何処へ行くのかわからず、言われるがまま白羽について行く。
駅から離れ歩いているうちに、近くに運河がある公園があるというので、そこに向かっているという説明を受けた。
もうそろそろ日が沈む。
辺りが暗くなるということは、クリスマスの目玉であるイルミネーションが綺麗に輝く時間帯になるという事だ。
その公園につくと、静羽は息をのんだ。

「すごい…綺麗…」

二つの展望塔を繋ぐように架けられた橋に、アーチを描くようにつけられたイルミネーション。
他にも大きな光のツリーと、それを囲むように広がる放射線状のイルミネーション。
間接照明も公園を一周ぐるっと飾っており、夜でも歩くには支障のない明るさでムードがある。
富山では有名な飾りつけを楽しもうと、多くの人が公園を歩いていた。
歩こうと言われ、白羽の腕を取り一緒に散歩する。
展望塔のあるところから景色を見た後、下に降り橋の近くにある柳の木へと移動した。
橋を渡る人はそこそこいるが、橋の下に来る人はあまりいないようで、見渡しても今は二人で話せそうな雰囲気だ。

「やっと…ここまでこれた」

白羽のその言葉にドキッとする静羽。
振り向いて静羽を見た後、ゆっくりと近づく。

「ずっと…言えなかった。今日まで取っておこうと思っていたから」
「う…ん」
「まずは…、改めて呪いを解いてくれてありがとう…。やっと苦しい発作から解放されて、とても生活しやすくなった」
「うん…、私は…私にできる事をしただけだよ」

その後少し沈黙があった。
心臓の鼓動が早い、体温も上がっている気がする。

「静羽…好きだ。初めて出会って、ドイツに戻るとわかったあの時からずっと…」
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