DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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109.大所帯

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クリスマスの少し前、遺跡に静羽1人で行くことになった。
ちょうどその日は、白羽が研究所の依頼で少し遅くなると連絡があった為だ。
それに、冬月達が待ちわびた外へ出るためのアイテムや、欲しいと要望があったみんなのための衣装を持っていく用事があった。
遺跡に入ると相変わらず1人で黙々と研究していた貴紀を見かける。
傍らに小雪が寄り添っているのを見る限り、通っているうちに仲良くなっているようだ。
待っていた冬月を見つけ声をかけると、持ってきた衣装を持ち出し、皆に試着してもらうことにした。
その間に静羽は石像から宝石を取り出すと、持ってきたプロテクトケースにそれぞれはめ込んでいく。
1度入れてしまえば認証しなければ取り出す事は不可能で、その役割を静羽が担っている。
緊急時用に白羽も登録されてはいるが、恐らくその日が来ることはないだろう。
シュプルをベースに地球上の鉱石を融合させ、強度や耐熱温度などを強化、溶岩に入ったとしても溶けはしない。
しかも便利な機能付きで、実体化するかしないかを自分の意思で決められるようになった。
今まで目が覚め実体化してしまうと、姿を消せなくなっていたのだが、シュプルの力を応用したことで、小さな空間を作り出し、それを部屋として使用できる。
どこにいても冬月達それぞれのプライベート空間が確保出来たという事になる。
冬月達の希望で、どこかへ出かけたり個人的に特別な理由がない限りは、皆で一緒に白銀邸に居候させて貰う事になった。
ただ居候するだけでは申し訳ないという事で、交代制で屋敷の警備と手伝いをしてくれるらしい。
人手が増えたことで、屋敷の中の掃除や庭の手入れ、設備点検も楽になりそうだ。
静羽のメイドとしての仕事がなくなってしまう勢いだが、メイド業も学園に申請している都合上それを無くすことはできない。
ただ白羽の呪いを解いたことでお礼にと、白羽の両親や美津子からもメイド業はゆっくりやればいいと了解を得ているため、生活に困ったり支援が無くなる事はなさそうだ。

「よし、皆ケースの中に入れ終わったから、準備出来たら出発するよー」

試着していた様子を見ながら皆に声をかける。
自分達で着方を模索していたようで、裏表逆だったり、後ろ前だったりするのを見ていると、小さな子どもの世話をしているような気持ちになった。
改めてどう着るのかを教えたり、組み合わせや色合いを合わせているうちに、いつの間にか依頼を終わらせていた白羽が合流していた。
ぞろぞろと引き連れて帰るのも目立つので、早速自分の部屋に入ってもらい、白羽と2人で帰路につく。
家に着くと朴木と美津子が出迎えてくれ、プロテクトケースを置く棚をまで案内された。

「今はただのケースに見えるけれど、中の宝石が人…なのよね?」
「はい、私が前世で一緒に戦った仲間です。今はケースの中の部屋で待機してくれています」
「出てきていただくにはどうしたらよろしいのですか?」
「声をかければいいだけだ。今話してる俺たちの声も聞こえてるはずだしな」

ケースのある棚から少し離れ、静羽が皆を呼び出した。
次々と現れる英雄達に、目を丸くして美津子は驚いている。

「まぁ!大所帯になったわね♪」

これから現代の生活に慣れていってもらうために、屋敷で皆で生活する。
当主である美津子は一人一人に挨拶し、賑やかになった事がとても嬉しそうだ。
朴木も教育係として指導する立場にもなり、忙しくなりますねと言っている。
挨拶をし終えてから屋敷を案内し、美津子も冬月も次々に不思議に思っていることを質問していた。

「そう言えば、冬月達を外に連れ出して来たら修練したい奴らは困るんじゃないか?」

と白羽が疑問を口にすると、冬月はそれについては問題ないと返してきた。
水晶と話し合い、システムを少し強化してきたようで、遺跡に冬月達がいなくても、冬月達の能力を模倣したAIと戦えるようになっているらしい。
もちろん、十分に修練した後本人達と戦いたい場合は、直接言いにくれば相手をしてくれるようだ。
シュプルという石や、遺跡に置いてある水晶はとても便利である。

「そういえばご飯は食べれるの?」

美津子の問いに皆で答える。
ご飯を食べる事は出来るが、人間のように排出はされない。
魔力に変換され蓄積することも出来れば、食べなくても生きていく事は可能なのだ。
ただせっかく地下から地上へ出たのであれば、現代の食事や料理を作る事も楽しんでほしい。
それも踏まえてグループと役割を分ける。
掃除のグループ、家事のグループ、現代を学ぶグループだ。
1週間ごとにローテーションし、掃除は朴木、家事は美津子、現代は白羽と静羽が担当する。
とはいえ静羽も白羽も昼間は学校なので、実質的には休みのような扱いになるため、自宅警備員も兼ねている。
これで、屋敷には常に人がいる状態になった。
そうなると気兼ねなく静羽と白羽2人で過ごす場所は、自ずと静羽の家になる。
だからといって静羽の家で過ごしても、特にイチャイチャするわけでもなく、少し手を繋ぐくらいだ。
でも今の2人には、それだけでも十分幸せだった。

「静羽、クリスマスイヴの日、駅近くの運河がある公園に行こうと思うんだ。あの場所はイルミネーションが綺麗で名所だから」
「本当?私まだ行ったことないんだ、楽しみだなぁっ!」
「公園内に景観が綺麗って事で有名なカフェもあるし、オシャレで雰囲気もいいからそこも行こう。ただ、昼間はどこか行きたい場所があったら教えてほしい」
「うーん…行きたい場所…」

少し考えながら静羽はハッと何かを思い出した。

「そういえば空がね、徹さんと商店街のクリスマスイベントのお手伝いするんだって!だから少し様子見に行きたいかも。なんかね、正式に付き合ってるってご両親を紹介されたらしくて、そこから商店街の人にも広まって、最近はよく空も商店街のイベントに呼ばれたりするみたい」
「ほぉ…、まぁあの2人似てるから、商店街の中でも皆で和気あいあいと楽しく過ごせそうではあるな」
「白羽くんも結構お知り合い多いんじゃないの?前回行った時もお肉屋さんのご夫妻に呼び止められてたし」
「知り合いというか…、一方的に知れ渡ってしまったが正しいと思うが…。学園1位に入ればそれだけで知名度や噂が良くも悪くも広まるからな」

前回まだ名前が姫歌で、白羽にも再会して間もない頃、商店街でコロッケをいただいたのが懐かしい。

「あのお肉屋さん、改めて行きたいな。今度は…」
「今度は…何だ?」

"ちゃんと白羽くんの彼女として"と言おうとして止まった。
そこを気にする必要はあるのだろうか。
迎えに行くと行ってくれたのを待っていて、正式に言われていないが、彼女だと名乗っていいのだろうか…。

「ううん、今度はちゃんとお店の中に入ってメニューとか見てみたいなって!」
「実はあそこの美味いコロッケは、とろりチーズコロッケだぞ」
「チーズ?美味しそう!食べたい!」

私は白羽くんの彼女?と今すぐ聞いてしまいたい気持ちをおさえて、静羽はメニューの話でごまかした。
結果的に美味しそうなチーズコロッケの情報を聞き出せたので、それはそれで良しとする。 
白羽のことだ、きっとクリスマスイヴのデートの時にきちんと何か言ってくれるのだろう。
そうであれば雰囲気を大事にしたい。
一生思い出に残るクリスマスイヴを期待して。
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