DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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106.目覚め

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すっ…と目が開く。
特に苦しいところも、痛いところもなさそうだが、長く寝ていたせいか身体は重い。
静羽が目を開けた時に見えたのは病院の天井、そして明かりがともっていない部屋だった。
カーテンの隙間からうっすらと月明りが見える、という事は夜なのだろう。
そして、明かりがついていないのは消灯時間を過ぎていて朝になる前までの時間。

『私…どのくらい寝ていたんだろう』

静羽はそう考えながら身体を起こそうとするが、うまく起き上がれない。
ナースコールの紐を探そうと少し身体をひねった。

「ん…あれ…」

暗くてよく見えない。
困ったなと思いつつも、夜中なのならば特に急ぐ必要もないかもしれないと、そのまま仰向けに過ごす。
その時…
――サー…――
と静かにドアが開く音がした。
誰かが部屋の中に戻ってきたようだ。
同じ部屋の患者という可能性もあるが、行く先がどこになるかをもう一度目を閉じて予測した。
足音は静羽の近くへと近づき、どうやら椅子に座ったような音がする。

『誰…だろう…』

目を開けて確認すると、漏れた月明かりに照らされた人影がカーテンに映っている。
その影は間違いなく見覚えがあった。

「し…らは…く…」

久しぶりに開いた口から出たのは、からからのか細い微かな声。 
それでもその声量は静かな病室にいる人を呼ぶには十分だった。
勢いよくシャーッと開くカーテン。
驚いた顔の白羽が目覚めたばかりの静羽を見ていた。

「静羽…!起きたのか…痛いところはないか?今すぐ看護師呼ぶからな…」

声を出して返答は出来ないが、頷く事はできた。
枕元から落ちてしまっていたナースコールを拾い、白羽がボタンを押す。
直ぐに看護師が反応し、どうされましたか?とされた質問に目覚めたことを伝えると、直ぐに行きますと返答があった。

『よかった…ちゃんと元気になってて…』

あの儀式の後の記憶はない。
白羽の最後の姿は、苦しみを伴い叫んでいた事もあって、仕方なかったとはいえ心配だったのだ。
今自分の隣にいて、普通に話して動いている、それだけで静羽にとっては嬉しかった。
連絡してから程なくして、看護師が部屋に駆けつける。
部屋の電気を付けて静羽の顔色を確認したり、血圧を測ったり、酸素濃度を計測したりしている。

「おそらく水を飲んだりして、少し体調も回復しないとスムーズには話せないと思います。今はまだ少し血圧も低めなので、今日はゆっくり朝まで過ごしてもらって、朝になったら先生に診てもらいましょう。休憩室とかにも飲料水置いてありますから、使ってくださいね。もしまた過ごしているうちに気分がすぐれなくなってきたら連絡してくださいね」

一通りできる事を終えた看護師が部屋から出て行った。
直ぐに動く事は出来なさそうだが、体調に関しては今特に問題はなさそうだ。
白羽が持ってきてくれた水をコップからストローで口に入れ、ゆっくりと喉の奥へと流し込む。
それも沢山飲むための太いストローではなく、赤ちゃんが使うような細くて量が少ない物で。
ずっと寝ていた事もあり、その量ですら最初はその水を飲み込む事を身体が忘れているような感じを覚えた。
だが、それでも身体がその動作を思い出してしまえば、自然と喉を通っていく。

「…ん…んんっ…」

ちょっと咳払いをしてみる静羽。
声が出る事を確認すると、今度は発声練習のように、あ…あ…と声を出す。
せっかく起きたのなら自分の言葉で白羽と話したい、そう思ったのだ。
その様子を見ながら、白羽も隣で待ってくれている。

「うん…ゆっくりなら、話せそうかな…」
「無理はしなくていいからな…?でもよかった声が出せて。きっといろいろ聞きたい事があると思うだろうから、ある程度は予測して俺が答える。それ以外で聞きたい事があったら言って」

Q:あれからどのくらい経ったか
A:俺が起きるまでも3日、その後3週間経ってる。だから今はもう11月後半になった。そして今の時刻は午前1時半くらいだ。

Q:その後のミルカについて
A:あの後すぐ病院に運ばれて手術を受けた。奇跡的に命に別状はないらしく、手術も成功してリハビリを受ける事になりそうだ。おそらく全快するまで半年くらいはかかるだろうって言われてる。まぁただ、命に別状はないのに酷い怪我にはなっているし、精神的にも大ダメージだろう。俺としては自業自得だがな…。

Q:学園内の様子について
A:試合が行われていた会場はそれなりに壊れてるから、復旧するまでは使用不可だ。それにあの会場と繋がっていた体育用具倉庫と地下室付近も今は近寄れない。清忠とひなた、美月が戦闘になった。DIVA教のメンバーの一人であると思われる男と出くわした後、地上でその体育用語倉庫を見張っていた男がメタルヒューマン化したんだ。DIVA教の人はその後立ち去り、メタルヒューマン化した人は残念ながら助からず清忠達によって処理された。それともう一つ、地下室には前に静羽がテスト受けた時に採点していた先生、池沼が殺された状態で装置に入れられていたらしい。その辺の事情は学園と研究所、警察も含めて連絡を取り合って解決していく予定だ。会場で戦っていた2人以外怪我した人もいない。静羽がバリアを張りながら戦ってくれたおかげだと思う。

Q:今後のミルカと静羽の処遇について
A:ミルカは知っての通りルールを最初に破った。なりふり構わない方法で静羽を殺そうとした事はあの場にいた全員が知っている。それに静羽だけでなく会場内にいた人だって危険に晒したんだ。Sランク6位の地位からは外され、退学処分にもなるだろうし、危険人物として警察も今後調べが入る。場合によっては逮捕もありえるが、怪我がひどいし精神的ダメージもあるせいで話す事はできないみたいだから、そうなったとしてももう少し先の話になるだろう。
静羽に関してはあの状況下で自分以外の人も守った事もあり、試合開始前に勝った時の条件はそのまま適応される。だから退院したら飛び級でSランク6位だ。おめでとう、俺と一緒だな。AランクSランクになるとやる事や役割が増える。その代わりに食堂やカフェ、Aランク以上じゃないと閲覧できない資料やデータもあるし、自分たち専用のパソコンとかも持てるようになるから、退院したら案内する。

「他に聞きたい事はあるか?」

Q:白羽くんのご両親は?
A:俺が目を覚ました翌日にはドイツに帰ったよ。仕事もあるしな。ただ、静羽が起きなかった事でとても心配していたから、後で連絡を入れようと思う。それに、目を覚まして落ち着いたら、必ずドイツに連れて来るように言われた。パスポート取らないとな。

Q:白羽くんは…体調大丈夫?
A:俺はもう特に何もない。ミルカが勝手に着けたんだろうお揃いの指輪も外せるようになったしな。ずっと取れなかったんだ。加えて、静羽が呪いを解いてくれたおかげで、久しぶりに…ばあちゃんとも母さんとも抱き合えた。改めてお礼が言いたい。静羽…ありがとう。

「そっか…よかった、ちゃんと解けてて。それに体調の方も問題なさそうで」
「あぁ…だから、あとは…」

そう言いながら白羽が静羽の方に手を伸ばす。
ゆっくりと…そして、静羽の手を包み込むように握った。
暖かい体温が手を伝う。

「ほら…大丈夫」

自分の手より一回り以上大きな手。
その手が今自分の手を握っていることに、静羽は心臓の鼓動が一気に早くなった。

「う…ん…」

微笑んだ白羽の顔が眩しい。
顔が真っ赤になる。
まともに見ていられずに静羽は視線を逸らした。

「静羽…?」
「はひっ?!」

『ダメ…今これ以上何かされたら…私…』
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