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105.元母
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『身体が重い…頭がくらくらする…』
どこかよくわからない空間の中で、静羽は自分の身体が浮き漂っているような感覚になっていた。
実際に目をうっすらと開いてみても、周りの事が一切認識できない。
周りの景色がぐにゃぐにゃになって、見ていると目が回ってもっと体調が悪くなりそうだ。
その感覚になってどのくらいの時間がたったのだろう。
しかしその感覚が終わる気配は感じられない。
「はぁ…はぁ…うぅ…」
インフルエンザで熱を出している時のだるさに近い。
息をして寝ているのがやっとで、だるくて唸ってしまうほどのものだ。
「つらそうね」
誰かに声をかけられ、朦朧とした意識の中で静羽は目を開こうと努力する。
しかしその動作ですら今の静羽にはつらいもので、耐えているしかできない。
「今は話すことができなそうだから、またあなたが回復してからにするわ」
その声を聞いてからまたどのくらいの時間が経っただろう。
気が付けば少しだけ身体のだるさも取れ、周りの景色も少しずつ見えるようになってきた。
目を開けると白い部屋にクッションやソファ、ミニテーブルが置かれているのが認識できる。
「ここ…は…」
明らかに知らない部屋だ。
自分の部屋でも、病院の室内でもない。
「目が覚めた?といっても、まだ寝てるのだけど」
「どういう…こと?」
ゆっくり話すから聞きなさいと言われ、隣に座っている白い髪の女性の話を聞く。
ここは意識空間であり、実際に存在する場所ではないという。
見えているものは白い髪の女性が普段過ごしているところで、これが欲しいと思えば出てくるらしい。
しかも静羽の意識の中である事を教えてもらった事で、目の前にいる女性の名前も想像できた。
「私はヒメカ、ヒメカ・ナトゥール、あなたの元母」
やはりそうだった。
がそうだったとしても意識空間の中であり、する事と言えば話をする事くらいしかできない。
とはいえ、いざ本人を前にすると何を話したらいいのだろう。
「これから私は…どうなるの?」
静羽がそう尋ねると、ヒメカは心配はいらないと返す。
今は眠っていたものが目覚め、お互いの意識を共有し合えるようになっただけだと。
普段は感覚や身体その物を乗っ取たりすることはなく、また夢の中で必要な情報だけを共有してもらいたいようだ。
静羽の私生活を邪魔するつもりもないらしく、勝手に覗く事もしないと言っている。
ただやはり、ヒメカの身体の中を蝕んでいるものが漏れ出している事、それが魔物という存在になって現れてしまっているのは事実のようで、どうにもできないと言っていた。
なぜ静羽の身体を使って中で眠っているのかについても問うと、親族だからと答えている。
自分の子どもであったという事は、少なくとも知らない誰かに入るよりも簡単で、意識も馴染みやすいのだと言う。
完全に乗っ取ると言う方法は前回失敗しリヒト自身も死んでしまったため、今回は共存するという方法でやってみようとしているらしい。
自分が赤ん坊で意識のない時に、勝手に決めて中に入られていることに対して静羽は少し不満だったが、今は少し様子を見ようという事にした。
それに出ていけと言ったところで行く当てもないだろうし、またこれ以上世界が変わってしまう事も望まない。
しかし疑問が残る。
「どうして…私に姫歌と名付けるように、母に言ったの?」
もともとは乗っ取るつもりだったのだと言うヒメカ。
ただ一緒にいる時間が多くなっていくにつれて、静羽が経験している事や背負っている物が大きすぎたため、共存の道を選ぶ事ができるならばそうしたいと思うようになったのだ。
一緒にいる事ができるようになるなら、上手く力を合わせて魔物とも戦えるかもしれない。
確定ではないが可能性があるのなら挑戦する意味はある。
そう話しているうちに、静羽はまた意識が遠のくのを感じた。
「ん…私…まだ…寝るみたい…」
「いいじゃない、特に死ぬ事もないし。あなた身体に変なもの取り込んだから拒絶反応が出てるのよ」
「ね…むい…」
「今は…静羽って名前だったわね。おやすみ…静羽」
今の母ではないとはいえ、なんとなくおやすみと言ってもらえた事に満足しながら眠りにつく。
またそれからどのくらい経ったかは分からないが、静羽が次に目を覚ました時も同じ部屋とヒメカが視界に入った。
でも変わったのは意識がはっきりしていることと、頭のクラクラする感じやだるさはほとんどない事だった。
「うん…スッキリしてるかも」
「そう、ならあなたの身体も徐々に眠りから覚めるかもしれないわね。今のうちに聞いておきたいことはある?」
今後ヒメカに会うとしても夢の中であり、毎回会えるとも限らない。
「じゃあ…魔物の事や地球外の事、今後すべき事を話せる範囲で話してほしい」
それならと、ヒメカは音楽や歌の事を語り出した。
昔と今と変わらず音楽や歌には力があると話す。
それは自分が音楽や歌の神だからではなく、この世界が想像された時からそうと決まっているのだと。
その力を広め、うまく使う事を教えるようにするのがヒメカの役割だったらしい。
他の神達と一緒に銀河を治めていたが、この世界に存在する闇がゲティエンという星を含め、銀河を飲み込んでいった。
「その…闇って何なの?」
「この地球ではブラックホールと呼ばれている物よ。アレはこの世界が創られた時は存在していなかったはずなの」
ヒメカは続ける。
時代が流れ、人の邪な感情や行動がアレを生み出し、一つの場所に集められたことで力を持つようになった事。
ゲティエンで確認されていた時は〔ニヒツ〕と呼ばれていたらしい。
それを誰が集めて一つにしたのかはわからないが、ニヒツが生まれた事によって世界の崩壊が始まるようになってしまったと。
近付けば全ての物が無になり、存在していたものは存在しなくなる。
ニヒツの範囲は見えないところから始まるため、本体が近づいてきてからではもう遅いのだ。
やっとのことで逃げ出したヒメカと民達も、ニヒツの影響により旅をして地球に着くころには身体が保てなくなるほど衰弱していき、助けた3分の1にまで人口が減っていたのだという。
そして見つけた地球にたどりついて新しい生活を始められたのはごく一部。
身体が朽ちてしまう前に、なんとか意識を一つにまとめ作ったのが遺跡にあるあの水晶という事になる。
しかもそれを作ったのはリヒトだった。
静羽にはその時の記憶がなかったが、今こうやって話をしているうちに自分の奥底に眠っていた記憶が蘇っていた。
だからあの水晶は姫様と呼んでいたのだろう。
「やっぱり全部は思い出せないけど…要所くらいは思い出せた…」
「そう、ちゃんと少しずつだけど力も戻ってきているみたいね」
「うん…。他にこれからどうしたらいい?魔物やあのDIVA教の人達に立ち向かうには?」
その質問をした直後、自分の身体に異変が起こっている事に気付く。
「あれ…!?身体が…透けてる」
「現実に起きる時が近いのね…。また会えるからその時に詳しい事は話すとして…。魔物に今以上に効果的なのは、共鳴石を探し出す事。この地球のどこかにあるはずだから」
「共鳴石?どんな形?どんな色?」
「分からない…でも…その石は…歌や音楽に…はん…の…」
ヒメカとの会話を最後まで聞く時間はなく、静羽の意識はそこからなくなった。
どこかよくわからない空間の中で、静羽は自分の身体が浮き漂っているような感覚になっていた。
実際に目をうっすらと開いてみても、周りの事が一切認識できない。
周りの景色がぐにゃぐにゃになって、見ていると目が回ってもっと体調が悪くなりそうだ。
その感覚になってどのくらいの時間がたったのだろう。
しかしその感覚が終わる気配は感じられない。
「はぁ…はぁ…うぅ…」
インフルエンザで熱を出している時のだるさに近い。
息をして寝ているのがやっとで、だるくて唸ってしまうほどのものだ。
「つらそうね」
誰かに声をかけられ、朦朧とした意識の中で静羽は目を開こうと努力する。
しかしその動作ですら今の静羽にはつらいもので、耐えているしかできない。
「今は話すことができなそうだから、またあなたが回復してからにするわ」
その声を聞いてからまたどのくらいの時間が経っただろう。
気が付けば少しだけ身体のだるさも取れ、周りの景色も少しずつ見えるようになってきた。
目を開けると白い部屋にクッションやソファ、ミニテーブルが置かれているのが認識できる。
「ここ…は…」
明らかに知らない部屋だ。
自分の部屋でも、病院の室内でもない。
「目が覚めた?といっても、まだ寝てるのだけど」
「どういう…こと?」
ゆっくり話すから聞きなさいと言われ、隣に座っている白い髪の女性の話を聞く。
ここは意識空間であり、実際に存在する場所ではないという。
見えているものは白い髪の女性が普段過ごしているところで、これが欲しいと思えば出てくるらしい。
しかも静羽の意識の中である事を教えてもらった事で、目の前にいる女性の名前も想像できた。
「私はヒメカ、ヒメカ・ナトゥール、あなたの元母」
やはりそうだった。
がそうだったとしても意識空間の中であり、する事と言えば話をする事くらいしかできない。
とはいえ、いざ本人を前にすると何を話したらいいのだろう。
「これから私は…どうなるの?」
静羽がそう尋ねると、ヒメカは心配はいらないと返す。
今は眠っていたものが目覚め、お互いの意識を共有し合えるようになっただけだと。
普段は感覚や身体その物を乗っ取たりすることはなく、また夢の中で必要な情報だけを共有してもらいたいようだ。
静羽の私生活を邪魔するつもりもないらしく、勝手に覗く事もしないと言っている。
ただやはり、ヒメカの身体の中を蝕んでいるものが漏れ出している事、それが魔物という存在になって現れてしまっているのは事実のようで、どうにもできないと言っていた。
なぜ静羽の身体を使って中で眠っているのかについても問うと、親族だからと答えている。
自分の子どもであったという事は、少なくとも知らない誰かに入るよりも簡単で、意識も馴染みやすいのだと言う。
完全に乗っ取ると言う方法は前回失敗しリヒト自身も死んでしまったため、今回は共存するという方法でやってみようとしているらしい。
自分が赤ん坊で意識のない時に、勝手に決めて中に入られていることに対して静羽は少し不満だったが、今は少し様子を見ようという事にした。
それに出ていけと言ったところで行く当てもないだろうし、またこれ以上世界が変わってしまう事も望まない。
しかし疑問が残る。
「どうして…私に姫歌と名付けるように、母に言ったの?」
もともとは乗っ取るつもりだったのだと言うヒメカ。
ただ一緒にいる時間が多くなっていくにつれて、静羽が経験している事や背負っている物が大きすぎたため、共存の道を選ぶ事ができるならばそうしたいと思うようになったのだ。
一緒にいる事ができるようになるなら、上手く力を合わせて魔物とも戦えるかもしれない。
確定ではないが可能性があるのなら挑戦する意味はある。
そう話しているうちに、静羽はまた意識が遠のくのを感じた。
「ん…私…まだ…寝るみたい…」
「いいじゃない、特に死ぬ事もないし。あなた身体に変なもの取り込んだから拒絶反応が出てるのよ」
「ね…むい…」
「今は…静羽って名前だったわね。おやすみ…静羽」
今の母ではないとはいえ、なんとなくおやすみと言ってもらえた事に満足しながら眠りにつく。
またそれからどのくらい経ったかは分からないが、静羽が次に目を覚ました時も同じ部屋とヒメカが視界に入った。
でも変わったのは意識がはっきりしていることと、頭のクラクラする感じやだるさはほとんどない事だった。
「うん…スッキリしてるかも」
「そう、ならあなたの身体も徐々に眠りから覚めるかもしれないわね。今のうちに聞いておきたいことはある?」
今後ヒメカに会うとしても夢の中であり、毎回会えるとも限らない。
「じゃあ…魔物の事や地球外の事、今後すべき事を話せる範囲で話してほしい」
それならと、ヒメカは音楽や歌の事を語り出した。
昔と今と変わらず音楽や歌には力があると話す。
それは自分が音楽や歌の神だからではなく、この世界が想像された時からそうと決まっているのだと。
その力を広め、うまく使う事を教えるようにするのがヒメカの役割だったらしい。
他の神達と一緒に銀河を治めていたが、この世界に存在する闇がゲティエンという星を含め、銀河を飲み込んでいった。
「その…闇って何なの?」
「この地球ではブラックホールと呼ばれている物よ。アレはこの世界が創られた時は存在していなかったはずなの」
ヒメカは続ける。
時代が流れ、人の邪な感情や行動がアレを生み出し、一つの場所に集められたことで力を持つようになった事。
ゲティエンで確認されていた時は〔ニヒツ〕と呼ばれていたらしい。
それを誰が集めて一つにしたのかはわからないが、ニヒツが生まれた事によって世界の崩壊が始まるようになってしまったと。
近付けば全ての物が無になり、存在していたものは存在しなくなる。
ニヒツの範囲は見えないところから始まるため、本体が近づいてきてからではもう遅いのだ。
やっとのことで逃げ出したヒメカと民達も、ニヒツの影響により旅をして地球に着くころには身体が保てなくなるほど衰弱していき、助けた3分の1にまで人口が減っていたのだという。
そして見つけた地球にたどりついて新しい生活を始められたのはごく一部。
身体が朽ちてしまう前に、なんとか意識を一つにまとめ作ったのが遺跡にあるあの水晶という事になる。
しかもそれを作ったのはリヒトだった。
静羽にはその時の記憶がなかったが、今こうやって話をしているうちに自分の奥底に眠っていた記憶が蘇っていた。
だからあの水晶は姫様と呼んでいたのだろう。
「やっぱり全部は思い出せないけど…要所くらいは思い出せた…」
「そう、ちゃんと少しずつだけど力も戻ってきているみたいね」
「うん…。他にこれからどうしたらいい?魔物やあのDIVA教の人達に立ち向かうには?」
その質問をした直後、自分の身体に異変が起こっている事に気付く。
「あれ…!?身体が…透けてる」
「現実に起きる時が近いのね…。また会えるからその時に詳しい事は話すとして…。魔物に今以上に効果的なのは、共鳴石を探し出す事。この地球のどこかにあるはずだから」
「共鳴石?どんな形?どんな色?」
「分からない…でも…その石は…歌や音楽に…はん…の…」
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