DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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100.白羽の幸せのために

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観客席側から中に声は届かなくとも、フィールド内の声は聞こえていた。
ミルカが何を話し、何を静羽に伝えたのか…その言葉は狂っていた。

「ちょっと…死ぬまでって…」
「こんなの前代未聞だ…」
「え、なにこれ…?撮影してるとかやらせじゃないの?」

観客席もざわついている。
原因の特定を急ぐためにSクラスのメンバーも召集され、状況を説明、すぐに設備の点検を行う事になった。

「どちらかが死ぬまで…外に出られない」
「そうよ。それにね、少し時間差だけどそろそろ観客も外に出られなくなるはず。これは私とあんたのどちらかが勝つところを見届けてもらうため」
「どうして観客まで巻き込むんですか!」
「だって…証人が必要じゃない。誰が白羽くんの彼女かをはっきりさせるべきでしょ?」
「あなたはどこまで…。いえ…今更もう何を言っても遅いかもしれません…。それなら、観客席にいる人に被害を与えないと保証してください」
「まぁ…それはどうかな~?だって誰が死のうと私には関係ないし?」
「わかりました…あなたにその気がないというのなら、私が皆を守ります。きっと、私だけじゃない…Sクラスのあなた以外の皆は、力を合わせて会場の人達を守ろうとしてくれるはず…」

【宇宙の鍵よ、この会場にいるミルカ以外を守れ!Holy wall!】

観客席に攻撃が届かないよう、静羽がバリアを張り直した。

「私は一人じゃない…、今ここで一人になったあなたに、私は負けない!」
「そうやって…一人でイキってんじゃないわよ!!この泥棒がーー!!」

また始まる武器がぶつかり合う音。
時間がない、早急にフィールドに突破する方法がなければ、どちらかが死ぬ。
静羽とミルカの戦闘を横目に、白羽は中に入る方法を皆で探していた。
九条菫が機器をつないで中のシステムを確認している。

「どうして中に入れない?」
「おそらく地下にあったあの壁の原理を利用してるのかもしれない…。もしそうなら少し厄介だ…」

地下の遺跡が見つかった時、1度だけミルカはその場所に入っていた。
あの一回だけでバリアを作り出せる程、ミルカは有能でなかった気がするが、あの後やってきたDIVA教と繋がっているのであれば、協力者によって作り出すのも可能かもしれない。

「いや…違うな…。システム内に多少の書き換えは発見した。ただ…実行する位置が違う」
「何が違うんだ?」
「この建物もアリーナと同じく、災害時や何かあった時は先生達や戦闘員が柱に入って魔力を使い、中にいる人を守るのは変わらないんだが、ここだ…本来だったら4本あるうちの1本に、違うプログラムが組まれている…現在位置がここ、そして本来あるべき4本の柱から外れて、実行されてる柱は…体育用具倉庫??」

ただ場所が分かったところで、先程のミルカの発言通りならば、この会場にいる人は外に出られない。

「私が行くわよ」
「その声…清忠か?」
「よかった、通信は出来るみたいね。ちょっと用事してたらそっちに行くの遅くなっちゃってね、私中に入れてないのよ」
「助かる、こちらもこちら側からサポートや情報の共有はしよう。通話は繋ぎっぱなしにするから、何か気付いたら報告して欲しい。それと清忠、1人か?」
「いいえー、かわい子ちゃんが2人一緒よ」
「ひなたと美月か!なら丁度いい、3人で指定場所に向かってほしい」
「わかったわ」
「ひなたも美月と一緒に聞いてる、大丈夫」

清忠、ひなた、美月は、菫に指定された体育用具倉庫へ向かった。

――――――

地面から高くジャンプし、会場にある壁や柱を使いながら攻撃を避け、杖を高跳び棒のように使ったりしながら、相手の攻撃に対処していく。

「ちょこまかと…。いいわ、その動き止めてあげる…」

【私の魅力に酔いしれるといいわ…、デビルミスト!】

ミルカが自身から霧を放ち、空間が霧に包まれていく。
咄嗟に静羽はこれを吸ってはいけないと感知し、一時上空の壁に身体をくっつけて吸わないように対処した。
しかし、どんどん広がる霧が空間全体を飲み込むのも時間の問題だろう。

【扉よ、霧を吸え!Unlock the gate!!】

静羽が召喚した扉により、霧がどんどん中に吸い込まれていくと、消滅した。

『う…、霧はこれで対処したけど…さっき避ける時にかすって少し吸ったかも…』

かすっただけでそれを吸ったと認識できるほどの霧。
まともに吸っていたら動けなくなっていたかもしれない。

「ふーん…、霧を対処されちゃうかぁ…」

不服そうにミルカが顔を暗くしなら、それでもあきらめることはなく静羽に突っ込んでいく。
何度か攻撃を繰り出した後、また逃げようとする静羽の対応をミルカは見逃さなかった。

【逃がさない…、蔓よ巻き付いて捕えなさい!ローズウィップ!!】

ミルカの持っていた槍から蔓が伸び、捕えようと静羽へ向かって行く。
それに反応した静羽も、炎技を出しながら燃やしつつ後退して避けた。
攻撃を繰り出す回数が増えるにつれて、静羽の避ける回数も増えていく。
ミルカはその場所から動かなくても繰り出せることが多いが、それを避けるために大きく動くのは静羽のほうだ。
はぁはぁと聞こえる息遣いで、体力が消耗しているのがわかる…ように振舞った。

『はぁ…、身体を動かすことに関しては…おばあちゃんの厳しい訓練の基礎と、遺跡での訓練が活かされてる』

疲れていそうと思わせるのも一つの戦略である。

「もう肩で息してるの?案外大したことないのね」
「いえ、まだ全然いけますよ。そう言えば、あなたが私を殺したがっているのは、白羽くんとの幸せのためと言いましたね」
「えぇそうよ、白羽くんは私といたほうが幸せだからね」
「本気でそう思ってるんですか?白羽くんがそう言ったんですか?」
「何それ…、まるで私と白羽くんの仲を疑ってるみたいじゃない…」
「えぇ…、その通りです。疑うではなく…もう確信に近い。あなたが逆らえないようにそうさせている…。白羽くんの気持ちなんて無視して…」
「は?なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないわけ?」
「事実だからです。あなたはルールを破った。つまりそれは、あなたの口から真実を語る気がないという事…。それなら、私から集めた情報と事実を私の口から語るまで」
「あんたがそれを言ったところで皆信じるかしら…?だって白羽くんの彼女は私だって皆知ってるのに。嘘を言ってるのはあなたの方だってわかるわよ?」
「今この段階でどちらを信じるかなんて、そんなのどうでもいいです。私は私に起こったありのままを話すだけ」
「………る…い…。うるさい…うるさいうるさい!!あんたのその口…黙らせてやる!!」

怒りの感情に身を任せたミルカが、今まで速度をあげながら技を繰り出し突っ込んでくる。
静羽もそれに合わせ受けながら避け、自身も技を繰り出しミルカを攻撃した。

「白羽くんに呪いをかけたのはあなただ!もうこれ以上、白羽くんを苦しめないで!」
「うるさいのよ!私が呪いをかけたって証拠もないくせに、デタラメ言わないで!」

戦闘しながらも怒鳴り合う二人。
ぶつかりあう武器の音は増え、お互いの技の威力も感情により出力が上がっている。

「証拠ならありますよ…地下の遺跡に…!それに…私の存在が気に食わなかったから…、私の試験を改ざんを依頼し、寮の部屋に火をつけるよう指示したのもあなたです…!」
「はは…はははっ!!だったら何!?あんた最初から白羽くんの目に留まって気に食わなかったのよ!」
「それはそうですよ!!だって私の方が白羽くんに出会ったのは先なんですからっ!!」
「そぉ…そうなんだ~、へ~…」

ミルカはその時点で白羽が幼い頃に語っていた、会いたい人がいて、将来日本に戻るという言葉を思い出していた。
その相手が今静羽だったという事を知る。
それはより一層ミルカの感情に拍車をかけ、心の闇を解放しようとしていた。
そして次の言葉で、ミルカはもう完全に理性を失う。

「私と白羽くんはこの間約束したんです…!白羽くんは…必ず…私を迎えにくると…、そして私もそれを待つと…!白羽くんの感情を無視して、自分の理想を押し付けるあなたが大嫌いです!!私は、白羽くんの幸せのために…絶対に負けません!」
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