DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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85.変化

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告白をしたその日から、メイド業を終えた後の静羽の家にある変化が起こった。
白羽が自分の部屋で過ごす事を辞め、静羽の家で過ごすようになったのだ。
仕事が終わりかけの静羽に声をかけたのは白羽のほうで、寝るまで一緒にいてもいいかと言われた時は静羽も驚いていた。
白羽なりのアピールなのだろうか…、触れなくても時間を共に過ごす事はできる。
実際に気持ちを言われた訳ではないけれど、あの場所に名前を書いた愛鍵をかけ、迎えに行くからと言ったという事は、好きだと遠回しに言っているという事になる。
おそらく今後正式に付き合うようになるのなら、一緒にいることは日常化していくのだろうが、まだ慣れないせいか、自分の家に白羽がいてゆっくりくつろいでいる状態が新鮮である。
白羽が家にいる時間が増え、流石にリンも何か進展があったのかと察し、寝室のベッドで寝ている事が多い。
もちろん、何か質問があったりするときちんと答えてくれたりはするが、基本的に2人の邪魔にならないように配慮してくれているようだ。

そして遺跡でも1人、また1人と目覚めていく。
平蔵の次に目覚めた小雪は歌唱力を担当していた。
静羽はもともと歌唱力は高いほうなので、あとは精神的な安定が続けば数値もよくなっていくだろうとの事だった。
どちらかと言うと白羽が問題で、人間に対しての不信感が強い事や、呪いも含めて邪魔しているらしい。
少し時間はかかるだろうが、小雪が継続的に見てくれる事になった。
小雪の次に起きたのがあやめで、彼女は素早さを見てくれる。
攻撃を避ける練習、そしてそれが持続するための体力作り、周りにあるものを活用した身の隠し方。
相手を見ながら予想し攻撃をかわしたりする洞察力、周りの空気の変化に気が付き、敵や攻撃を察知する能力。
それを教えてくれるのだが、でもこれはもともとリヒトから教わったのだと語ってくれた。
修行しているうちに静羽もその頃の記憶を思い出し、戦いに身体が慣れていく。
めまぐるしく過ぎる毎日の中、修行も半ばに差し掛かったくらいに静羽の姿にも変化があった。

「あれ…背中に翼が…」

修行を積み、ステータスの上昇があったことで、それが変身後の姿にも影響したようだ。

学園内でも少しずつだが変化が訪れていた。
静羽がまだ入学した当時は、白羽の彼女がミルカであるという事は誰もが知る事実…、というよりはミルカがそうなるように自分の立場を広め、他者が白羽へと近づかないように仕向けていた。
近づけばその後、何かしらの不可解な出来事が起き、嫌がらせをはじめ、その学園にいられなくなるようなことが起こり去っていく。
だが、それが静羽の時は白羽自身が傍に居続けていることと、あからさまに今までの人と対応が違う事を周りも見て気付き始めたのだ。
それに、嫌がらせをされても、試験の改ざんや寮の火事があっても、問題を乗り越えそれに屈することなく頑張る姿。
白羽だけでなく他のSクラスのメンバーや、周りが支えようとしている事。
それはきっと、まだ静羽を知らなかっただけ。
学園のために戦ってくれた事や、実際にあの場に居合わせた人からは賞賛の声が上がっていた。
今までは髪を上げ、地味になるようにメガネをわざわざかけていたのだが、それも辞めることにしたらしい。
白羽曰く、そのスタイルは逆に目につきやすいのでは…とのことだった。
さらさらの髪をおろし、眼鏡も外すと今度は男子の目に留まりやすい。
『あんな子学園にいたっけ?』
と噂が広まった。
すべての男子にささるわけではないが、清楚好きな人なら、すれ違う時に目で追ってしまうくらいではある。
そうなると必然的に起こることがある。

「なぁなぁ、あの子彼氏とかいんのかな?」
「あー…最近噂の子?」
「聞くところによると、結構戦闘も強いらしいって聞いた、衣装も可愛くてアングルによっては…」
「白羽先輩じゃないの?」
「え?だってミルカ先輩がいるじゃん…」
「俺その子よりも空ちゃんのほうが好みだがー?」

とある男子グループの会話。
結局話をしているだけでは結論は出ず、直接確かめてみようということになった。
授業が終わり放課後の学園。
静羽が空や亮と一緒に部室へ行く途中、3人は男子グループに声をかけられる。

「あ、あの!」

振り向いた先には4人組の男子グループがいた。
ちょっと話がしたいと言われ、静羽と空が屋上へ呼び出され仕方なく同行する。
それを見ていた亮が、2人と別れ部室へ走って行った。
放課後の屋上にもちらほら人がいる。
その人達に聞こえないような距離をとりながら、2人は男子グループと対面した。

―――――――――

「先輩!!大変です!空さんと静羽さんが、男子グループに屋上つれてかれました!」

部室のドアを開けるなり、大きな声で報告する亮。
白羽と徹はすぐに亮に場所を確認すると、屋上へ向かった。

―――――――――

「実は前から気になってて!よかったら友達からでもいいので、付き合ってください!」
「俺も!!前から空ちゃんの事好きです!付き合ってくれませんか!」

2人同時に告白され、困惑する。

「せっかくのお気持ちは嬉しいんですが…私彼氏がいるので…」

と空は即答で断った。
空のほうを好きだと言った男子生徒は申し訳なさそうに下がり、後ろで待っていた2人のところに戻っていく。
そして、その二人にポンポンと肩を叩かれていた。

「その…私、好きな人がいて…」
「でも…、付き合ってないですよね?もし付き合ってみてダメならそれでいいんです!」
「そういう問題じゃなくて…付き合う気持ちはないです」
「空ちゃんのほうは彼氏いるから仕方ないけど、いいじゃん減るもんでもないし」
「コイツ絶対楽しませてくれるって!」

最後に外野から口を挟まれた。
こういう時、静羽はなるべく相手を傷つけないように断ろうとする。
が、少ししつこい。

「ちょっと、静羽断ってるし困ってるじゃん!」
「静羽って誰?」

そうだ、いつもいるメンバーは名前を変えた事を知っていても、学園にいる人は姫歌という名前のままなのだ。
どう言ったらいいのか困っていると…

「俺があげた名前だ」

と聞きなれた声。
亮から話を聞いた白羽と徹が屋上にきていたのだった。

「なっ…白羽先輩!?どうしてここに…」
「そんな事はどうでもいい。さっき静羽が断ったのが聞こえなかったのか…」
「いや…えっと」
「これ以上、無駄な時間を割かせるな。失せろ」

鬼のように睨みつける白羽には何も言い返せず、その場から立ち去っていく男子グループ。
徹も空の事を気にしているようで、何もされなかったか?と心配していた。
はぁ…とため息をつく白羽。

「ありがとう…きてくれて」
「いや、亮が知らせてくれたから来れた。あいつにも感謝しないと。…大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫。ちゃんと…自分から断る言葉言えたから、それは私としても進歩かな」
「そうか…頑張ったな」

実は静羽は中学の頃も、今のような髪のスタイルでいた事があり、その時も同じような経験があった。
その時は断る言葉を言う事ができず、タイミングを見計らって逃げる事しかできなかった。
そしてその事が何度も起きるのを防ぐために地味な眼鏡をかけ始めたのだ。
今は昔と違う。
自分で言えるようになって、それに傍に守ってくれる人がいる。

『顔を上げて前に進もう、周りにいてくれる人に感謝しながら、自分のやれることをやろう』

そう心で言いながら静羽達は屋上を後にした。
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