DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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82.伸びしろ

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学園生活の合間を見て遺跡に通う。
戦闘の部屋でそれぞれが自分の戦闘力を測り、数値で表示されたものを基に自分の足りない要素の練習に入る。
向き不向きという言葉はあれど、何もしないよりは努力したほうが改善されることが多い。
実はやってみたら案外できたという事もあるのだ。
苦手意識というものを克服するには、自分の体に覚えさせ何度も挑戦してみるしかない。
そのうちに学習して自然にできるようになるかもしれないし、ダメでも無駄になるという事はないのだ。
努力したその事こそが、その人の経験値になっていくのだから。

戦闘の数値は主に戦闘力、魔力、精神力、素早さ、判断力、把握力、歌唱力の7つの項目に分けて表示される。
0~100の中で表示され、希望すればそれに合わせてプログラムを組んでくれる。
以下ステータス。

【静羽】
戦闘力:62
魔力:68
精神力:48
素早さ:70
判断力:65
把握力:72
歌唱力:81

【白羽】
戦闘力:74
魔力:76
精神力:78
素早さ:70
判断力:79
把握力:80
歌唱力:52

このような形で表示される。
静羽の場合は圧倒的に精神力を鍛えなくてはならず、白羽は歌うことが苦手のためそこを改善したいところだ。
戦闘力やほかの項目にしても、伸びしろがある。

「まだこの程度なんだな」

と言えど、並大抵の努力ではここまで来ることはできない。
そしてここで満足するわけでもない。
ここに通う人なら皆、自分のステータスを上げるために努力するだろう。
戦闘の部屋ではそのステータスに応じて、出てくる魔物の強さ、配置、距離や時間なども精密に計算され実行される。
今あるステータスよりも少し負荷を増やして体を合わせていく。
歌の場合は、テンポの速い曲や、息継ぎ、音程の難しい曲などに合わせて歌う。
そしてそれを組み合わせていずれはグループでも腕試しができるようになるシステムのようだ。
静羽の周りにいる仲間とAクラス、Sクラスの人が通う中、一人見かけなくなった人物がいた。
ミルカだ。
白羽によるとまた用事があって実家に帰っているらしい。
時期が重なったこともあり、疑いの目が仲間以外からも向けられていた。
もしDIVA教幹部が遺跡に入り込む事ができたのが冬月のいうネズミで、それがミルカならいなくなるのも納得がいく。
それでもただ実家に帰っただけなのではと言う意見もあった。
何はともあれ通うメンバーが増えたことで、休憩室もなにかと人がいることも多くなり、用意されていた休憩室だけでは足らないとリンに要望を出すと、奥の水晶や冬月と協力して入り口付近に休憩所を増やしてくれた。
通い始めて3日が経った頃、いつものメンバーで部活後遺跡に立ち寄ると、見慣れない男性が冬月と一緒に話しているのが見えた。

「おぉ、まいられたか」

その男性は坊主頭で、服も住職が来ている服そのもの。
そして首と手には数珠があり錫杖を持っていて、ひげを生やしたキリッとした顔立ちのおじ様だった。
静羽達の前に近寄ってくると、その男性は自己紹介を始めた。

「初めてお目にかかる、拙者、名を伊東平蔵と申すもの。今しがた目覚めたところで、おぬし等の話を冬月から聞いておったところだ。よろしく頼む」

平蔵が挨拶すると、仲間たちもそれぞれよろしくと返した。
やはり冬月と同じく静羽と会えた事が嬉しいようで、胸を手に置き深々とお辞儀をしている。
静羽も映像を見てからそんな人達がいた、という事は認識しているのだが、一人一人と何があったのかという事までは思い出せていないと話すと、修行しているうちに思い出すだろうと言っていた。
そして平蔵が目覚めたことで、精神の間と平蔵自身から修行を受けられるようになったようだ。
静羽が是非にとお願いすると、何をするかを考えたいので状況を説明して欲しいと言われ、今まであった事で覚えていることを伝えた。
しかしそれを話しているうちに時間がきてしまい、その日は修行をすることはできなかった。
そのかわり、次の日にメニューを考えてくれるとの事だったので楽しみにすることにした。
そしてその日、もう一つ嬉しい事があった。
貴紀が遺跡の中で呪いに関する記述を見つけたらしく、これから解き方を調べてくれるようだ。
日常で起こるような呪いの類とは違い、白羽の呪いは特殊で順番がありそうだとのこと。
必要な工程を行わなければそれが解けることはない。
それを導き出すまでに少し時間を要するようだ。

家に帰るのに、薄暗くなってきた道を二人で歩く。
触れる事はできないので少し狭い道になると、静羽が白羽の後ろについていく形になる。
その状態になると白羽は歩幅が大きいため少し離されてしまう状態になるのだが、そのまま歩いていくことはなく、ある程度歩いたところで、自分から静羽が離れてしまわないように気付いたり、足音が遠くなると少し歩くのを遅くしてくれている。
そんな優しい背中を見ながら、静羽は自分の気持ちをいつ伝えようかと悩んでいた。
もちろん、リンに促され学園祭前には告白しようと決意したものの、タイミングがつかめない。
改まって呼び出すのもなんかおかしいような気もするし、手紙という事も考えた。
何で伝えるのが一番いいのだろうと考えて、自分が今まで怖がっていた事も考えると、このままではいけないという気持ちもある。
だとしたら、きちんと言葉で、声に出して伝えたかった。
とは言え、今はリンが一緒にいる。
もし告白するのなら、できるならリンがいない時のほうがいい。

『だって…聞かれたらはずかしい…』

それに答えがどうなるにしろ、茶化されたり告白の後すぐに誰かに話せる雰囲気じゃなかった時も困る。
ふと、白羽の足が止まった。
それに合わせて静羽も顔をあげて白羽を見る。

「どうした?」
「…え?」
「なんかすごい難しい顔してた」
「そ…そうだった?」
「悩み事?」
「へっ?!…あ、…うん…ちょっと」
「俺には、話せない事?」

その質問…、すごく困る。
まさかあなたに告白するのにどうしていいかわからないです!とか言うわけにもいかない。

「た…大した事じゃないんだ、いろいろ…これから先の事…」
「まぁ…、細かく悩む事もそれなりにあるか…。困ったらいつでも話聞くから」
「うん、ありがとう」

そう言いながらまた歩き出す。
家までの距離が妙に遠く感じた。
もうすぐ家が見えてくるだろう距離で、白羽がまた立ち止まる。

「あぁ…、そうだ。よかったら今度の休日、一緒にどこか出かけないか?」
「えっ!?」

そう言いながらくるっと後ろを振り向く白羽をびっくりして見上げた。

「ずっと修行して気が張り詰めたままになってしまうのもよくないし、気分転換に」
「あ…えっと、どこに?あと…朴木さんやおばあちゃんは?」
「俺はあまり人が多いところには行けないしな…広い公園とかなら…。そうだ、海の近くに大きな船が停泊してる公園があるから、そこはどうだろう。あと朴木とばあちゃんがついてくるとしても、送迎してもらう他は別行動にしようと思っていて、基本的に2人で考えていたが…。他に誰か誘うか?」
「ううん…白羽くんがいいなら…2人がいい」
「よし、なら決まりだな。帰ったらばあちゃん達に話してみるよ」

『デ…デート?これは…デートって言っていいの?!わ…わわ…でも…もしかしたら…その時になら…』

きっと白羽が悩んでいる静羽を見て、思いつきで言ってくれたのだと思う。
でも静羽にとてもとてもいいチャンスが訪れた。
それならその機を逃したくない。

『頑張れ私!』

自分にそう言い聞かせながら、静羽はデートを楽しみに過ごした。
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