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81.記憶
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とても切ない夢を見た。
それは夢というより夢を介して記憶を見たというほうが正しいのだろう。
白い鴉だった時に、大切だった人。
命を助けてくれた人に恩返しがしたいと、そばに居続けて結局何もできずに終わってしまったこと。
でもその想いは時を超えて、今…生まれ変わった姿で隣にいる。
『生まれ変わる前の事を、静羽は覚えているのだろうか』
特に覚えていなかったとしても、前世は前世、今は今。
隣にいて支えたいという気持ちに変わりはない。
「ん…」
白羽が体を起こすと、まだ少し重苦しい感じがした。
「よかった、少しは休めた?」
隣で見守ってくれていた楓真が声をかけた。
どうやら休憩室まで運んでくれていたようだ。
「いつもすまない」
「いいよ、気にしないで」
見ると、近くのベットで静羽がすやすやと寝ている。
もしかしたら同じように何か意味のある夢を見ているのかもしれないと白羽は思った。
「君たちの過去には驚かされっぱなしだよ。これでもまだ一部分しか見ていないのだから」
「俺はそんなでもない…、むしろ静羽のほうが…たくさん辛い思いをして、乗り越えてきたんだ」
「思い出した?前世の事」
「あぁ…夢で、頭の中を整理していた」
前世で願ったことが叶ったという点においては、転生できてよかったのだと思う。
まだ太鼓判というわけではない。
それでも過去の事を知れたことで、今後冬月達のことや自分たちの修行など、挑んでいこうという気持ちはできた。
「お疲れ様でーす」
そういいながら亮と貴紀、愛莉が入ってきた。
「お疲れ様、何か収穫はあった?」
「いろいろ知れたっすよ、白羽先輩がもとは白い鴉だったってこともね」
「記録があるのか…」
「映像記録として残ってるものはほとんどなかったっす。少なくとも今回調べた中では。白い鴉だったっていうのも、物語としてデータが入っていたのを読んだ形っすね」
「なるほど…、俺の前世まで記録があるのは驚きだ」
300年前の事も調べ、7人の名前や派遣された地域、そして討伐した数や戦い方などもデータとして残っていたのだという。
残念ながら今回は呪いの解除方法までは見つけられなかったらしい。
「ふ~…いい汗かいた…」
今度は徹がそう言いながら入ってきた。
「お疲れ、どうだった?」
「ん~、そうだな…。説明するとしたら、自分の弱点、視点、把握能力を高めるためにはもってこいの場所だと思う」
「ほう…」
「まぁ、今回はとりあえずテスト的な感じで最初は戦うんだけど、そこから機会がデータ収集して自分に足らないものの分析をし、可視化してくれる。今度はそのデータに沿って、自分のやりたいものから強化していく感じだな」
「なるほど…それなら俺も今度覗いてみようかな」
「休憩中のところ申し訳ないが、失礼するぞ」
自分が立っている近くの壁をコンコンと叩きながら入ってきたのは冬月だった。
「少し皆に言っておかねばならぬことがある」
冬月は必要な説明を始めた。
この遺跡はリヒト含め他の星の人間が移住してきた時に、不時着した宇宙船からの設備を移設して作られている。
そして300年前自分たちが関わった封印装置が作られた場所もここで、冬月以外のメンバーはまだ目覚めていないのだ。
今後ここにいる人が修行を続けていくうちに目覚めていくと予想されており、冬月を含め必要な知識や戦闘を教えてくれるとのことだった。
今ここにいるメンバーだけでなく、Aクラス以上であれば、強化のために遺跡に来て装置を使ってもよいとの事。
このことは休日あけてすぐ、学園関係者に通達されるだろう。
「ん……」
冬月の説明が終わったくらいに静羽が起きる。
「あれ…寝てたの…、ごめんなさい」
「身体のほうは大丈夫か?」
「うん、ありがとう。身体は大丈夫、寝てる間にいろいろ思い出したよ、全部ではないけど断片的に…」
「これからここで修行してるうちにまた思い出せるさ」
「そうだね」
とりあえず今日はこのくらいにして、一度状況を整理するために帰宅することになった。
その際リンも一緒に同行し家に連れて帰ると、一応朴木や美津子に説明をし一緒に暮らすことになったと告げる。
美津子はペットのような感覚になったらしく、抱っこしたりなでなでしたりしていた。
リンが静羽の家で寝る場所くらいは作ろうと提案すると…
「姫様の布団の上でもいいのですよ?」
と返してきたのだが、寝ているときの自分の事など信用できるはずもなく、蹴っ飛ばしたり落としたりしてしまうかもしれないと思い、近くにあった出窓にリンが乗れるくらいのかごと、ふかふかのクッションを用意した。
リンはその上に行くと、自分の寝やすいように短いヒレでクッションを移動し落ち着いた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
そういえば、リンはいつからあの遺跡にいるのだろう?
過去を見たとは言え、前世の自分が接していた記憶がない。
「ねぇリン、リンはいつからあの遺跡にいるの?」
「姫様が生贄として命を落とした後からです。ヒメカは私をあの遺跡の案内役兼見張り役としてあの場所に置きました。データを管理する者としては水晶型AIがいますが、動き回ることはできませんから」
「でも私…300年前にあなたに会った記憶がない…まだ、思い出せてないのかな…」
「おそらくそうだと思いますよ。焦らなくてもいいです、必要な時に思い出せますから」
「あと…ヒメカのことは呼び捨てなのは…どうして?私の事は姫様と言うのに」
「してきた事が事ですから…。自分の子供を生贄にするなど…あってはならないと思います。自分の力に固執せず、姫様に継承させる方法もあったはず。それなのにヒメカはそれをしなかった…。私にとってはいい存在だと思っておりません。たとえ、私を生み出したのが彼女であったとしても、だからと言って全てに同意することはできません」
「そっか…」
「でも今日の一番の収穫は、白羽様の過去を思い出した事じゃないですか?よかったですね」
「あ…う…やっぱり…、リンも今の私が白羽くんが好きだって…わかる…?」
「むしろわからない人いないと思いますが…?お気持ち伝えられてないのですか?」
「しっ…してないよ‼」
「伝えられたらよろしいのに」
顔を赤くしながら俯く静羽。
いつか伝えたいという気持ちがあっても、具体的にいつという事は決めていなかった。
『伝えて…いいのかな…私の気持ち…』
ずっとずっと大事にしてきたリボンを触りながら、いつ伝えようかを考えてみる。
もし伝えるなら、呪いが解けてからのほうがいいのだろうか?
それとも学園祭の時?
伝えたらいいのになんて言われたら、普段生活していて一緒にいる時ももっと意識してうまく話せなくなってしまいそうだ。
それに自信もない…。
気にかけてくれているのは家族だから…?
それとも前世でリヒトの時の私を好きだったから?
ずっと小学校も中学校もなんとなく自信がなくてすみっこにいて、おとなしいからなのかいじめられて。
親にだって褒められた事はなくて…。
ベッドに横たわりながらうずくまってまた考える。
『こんな…私でも、受け入れて…もらえるかな…』
家族としてではなく恋人として…。
高望みすぎるんじゃないだろうか…家族として一緒にいられるだけでも幸せなのに…。
そんな時、空の言葉が頭をよぎった。
「何もしないまま諦めるなんてダメだよ」
その言葉に背中を押されるように静羽は決意する…。
『学園祭の前に…気持ち伝えよう』
それは夢というより夢を介して記憶を見たというほうが正しいのだろう。
白い鴉だった時に、大切だった人。
命を助けてくれた人に恩返しがしたいと、そばに居続けて結局何もできずに終わってしまったこと。
でもその想いは時を超えて、今…生まれ変わった姿で隣にいる。
『生まれ変わる前の事を、静羽は覚えているのだろうか』
特に覚えていなかったとしても、前世は前世、今は今。
隣にいて支えたいという気持ちに変わりはない。
「ん…」
白羽が体を起こすと、まだ少し重苦しい感じがした。
「よかった、少しは休めた?」
隣で見守ってくれていた楓真が声をかけた。
どうやら休憩室まで運んでくれていたようだ。
「いつもすまない」
「いいよ、気にしないで」
見ると、近くのベットで静羽がすやすやと寝ている。
もしかしたら同じように何か意味のある夢を見ているのかもしれないと白羽は思った。
「君たちの過去には驚かされっぱなしだよ。これでもまだ一部分しか見ていないのだから」
「俺はそんなでもない…、むしろ静羽のほうが…たくさん辛い思いをして、乗り越えてきたんだ」
「思い出した?前世の事」
「あぁ…夢で、頭の中を整理していた」
前世で願ったことが叶ったという点においては、転生できてよかったのだと思う。
まだ太鼓判というわけではない。
それでも過去の事を知れたことで、今後冬月達のことや自分たちの修行など、挑んでいこうという気持ちはできた。
「お疲れ様でーす」
そういいながら亮と貴紀、愛莉が入ってきた。
「お疲れ様、何か収穫はあった?」
「いろいろ知れたっすよ、白羽先輩がもとは白い鴉だったってこともね」
「記録があるのか…」
「映像記録として残ってるものはほとんどなかったっす。少なくとも今回調べた中では。白い鴉だったっていうのも、物語としてデータが入っていたのを読んだ形っすね」
「なるほど…、俺の前世まで記録があるのは驚きだ」
300年前の事も調べ、7人の名前や派遣された地域、そして討伐した数や戦い方などもデータとして残っていたのだという。
残念ながら今回は呪いの解除方法までは見つけられなかったらしい。
「ふ~…いい汗かいた…」
今度は徹がそう言いながら入ってきた。
「お疲れ、どうだった?」
「ん~、そうだな…。説明するとしたら、自分の弱点、視点、把握能力を高めるためにはもってこいの場所だと思う」
「ほう…」
「まぁ、今回はとりあえずテスト的な感じで最初は戦うんだけど、そこから機会がデータ収集して自分に足らないものの分析をし、可視化してくれる。今度はそのデータに沿って、自分のやりたいものから強化していく感じだな」
「なるほど…それなら俺も今度覗いてみようかな」
「休憩中のところ申し訳ないが、失礼するぞ」
自分が立っている近くの壁をコンコンと叩きながら入ってきたのは冬月だった。
「少し皆に言っておかねばならぬことがある」
冬月は必要な説明を始めた。
この遺跡はリヒト含め他の星の人間が移住してきた時に、不時着した宇宙船からの設備を移設して作られている。
そして300年前自分たちが関わった封印装置が作られた場所もここで、冬月以外のメンバーはまだ目覚めていないのだ。
今後ここにいる人が修行を続けていくうちに目覚めていくと予想されており、冬月を含め必要な知識や戦闘を教えてくれるとのことだった。
今ここにいるメンバーだけでなく、Aクラス以上であれば、強化のために遺跡に来て装置を使ってもよいとの事。
このことは休日あけてすぐ、学園関係者に通達されるだろう。
「ん……」
冬月の説明が終わったくらいに静羽が起きる。
「あれ…寝てたの…、ごめんなさい」
「身体のほうは大丈夫か?」
「うん、ありがとう。身体は大丈夫、寝てる間にいろいろ思い出したよ、全部ではないけど断片的に…」
「これからここで修行してるうちにまた思い出せるさ」
「そうだね」
とりあえず今日はこのくらいにして、一度状況を整理するために帰宅することになった。
その際リンも一緒に同行し家に連れて帰ると、一応朴木や美津子に説明をし一緒に暮らすことになったと告げる。
美津子はペットのような感覚になったらしく、抱っこしたりなでなでしたりしていた。
リンが静羽の家で寝る場所くらいは作ろうと提案すると…
「姫様の布団の上でもいいのですよ?」
と返してきたのだが、寝ているときの自分の事など信用できるはずもなく、蹴っ飛ばしたり落としたりしてしまうかもしれないと思い、近くにあった出窓にリンが乗れるくらいのかごと、ふかふかのクッションを用意した。
リンはその上に行くと、自分の寝やすいように短いヒレでクッションを移動し落ち着いた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
そういえば、リンはいつからあの遺跡にいるのだろう?
過去を見たとは言え、前世の自分が接していた記憶がない。
「ねぇリン、リンはいつからあの遺跡にいるの?」
「姫様が生贄として命を落とした後からです。ヒメカは私をあの遺跡の案内役兼見張り役としてあの場所に置きました。データを管理する者としては水晶型AIがいますが、動き回ることはできませんから」
「でも私…300年前にあなたに会った記憶がない…まだ、思い出せてないのかな…」
「おそらくそうだと思いますよ。焦らなくてもいいです、必要な時に思い出せますから」
「あと…ヒメカのことは呼び捨てなのは…どうして?私の事は姫様と言うのに」
「してきた事が事ですから…。自分の子供を生贄にするなど…あってはならないと思います。自分の力に固執せず、姫様に継承させる方法もあったはず。それなのにヒメカはそれをしなかった…。私にとってはいい存在だと思っておりません。たとえ、私を生み出したのが彼女であったとしても、だからと言って全てに同意することはできません」
「そっか…」
「でも今日の一番の収穫は、白羽様の過去を思い出した事じゃないですか?よかったですね」
「あ…う…やっぱり…、リンも今の私が白羽くんが好きだって…わかる…?」
「むしろわからない人いないと思いますが…?お気持ち伝えられてないのですか?」
「しっ…してないよ‼」
「伝えられたらよろしいのに」
顔を赤くしながら俯く静羽。
いつか伝えたいという気持ちがあっても、具体的にいつという事は決めていなかった。
『伝えて…いいのかな…私の気持ち…』
ずっとずっと大事にしてきたリボンを触りながら、いつ伝えようかを考えてみる。
もし伝えるなら、呪いが解けてからのほうがいいのだろうか?
それとも学園祭の時?
伝えたらいいのになんて言われたら、普段生活していて一緒にいる時ももっと意識してうまく話せなくなってしまいそうだ。
それに自信もない…。
気にかけてくれているのは家族だから…?
それとも前世でリヒトの時の私を好きだったから?
ずっと小学校も中学校もなんとなく自信がなくてすみっこにいて、おとなしいからなのかいじめられて。
親にだって褒められた事はなくて…。
ベッドに横たわりながらうずくまってまた考える。
『こんな…私でも、受け入れて…もらえるかな…』
家族としてではなく恋人として…。
高望みすぎるんじゃないだろうか…家族として一緒にいられるだけでも幸せなのに…。
そんな時、空の言葉が頭をよぎった。
「何もしないまま諦めるなんてダメだよ」
その言葉に背中を押されるように静羽は決意する…。
『学園祭の前に…気持ち伝えよう』
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