DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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78.リン

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あれから2日、体調も回復したところで2人とも普段通りの生活に戻った。
白羽がつけてくれた新しい名前。
それを白羽や美津子や朴木が呼んでくれるたびに嬉しくてたまらない。
いつも接している仲間達にも、名前を変えようと思うということを伝えると、快く受け入れてくれ、新しい名前を呼んでくれるようだ。
相変わらず白羽は他の女性の名前は呼べないのだが、『静羽』という名前は呼べるらしい。

「でもなんでその名前だけ呼べるようになったんだ?」

徹が単刀直入に聞いてくると、楓真がある仮説をたてた。

「おそらく、白羽に何か仕掛けた時点でのものが効力を発揮しているのだと思う。世の中に名前が変わる人間なんてそうはいないから、そんな事の想定までしていなかったのだろうね」
「なるほど、それなら納得がいくな…。そいうえばミルカはこの事知ってるのか?」
「いや、話していないし、話す必要性を感じない。知れるのは時間の問題かも知れないが、俺の口から話すことは何もない」

しかし、もしミルカの耳にこのことが入ったとしたら、何か動く可能性もある。
そのことは頭に置いておかなくてはならない。
そして話題は遺跡の事へ。

「そういえば話が変わるけど、楓真の先祖…冬月さんの言ってたネズミって…」
「一度外にみんな出たから、これから近づかないし、入れない人だね…」
「まぁ…今詮索しなくても答えは出るだろう…」
「あの…みんなに提案なんだけど…」

その言葉に皆が静羽に視線を送る。
少なくともここにいるメンバーはネズミではない。
これから学園祭が終わるまでは忙しいため、二人は朴木と美津子にお願いして少し当番を軽くしてもらっている。
それに、白羽の呪いもできるだけ早く解きたい。

「学園祭までいろいろ忙しいとは思うけど、よかったらみんなでまたあの遺跡に行けないかな?」
「そうだな、どうせ家にきて皆でダンスや歌の練習もしたりするんだ。休日なら午前と午後に分けて練習と修練に割り振れる」
「なら俺と亮はまだ変身できないから、その修行とやらの見学と、遺跡の調査をさせてもらおうと思う」
「いいですね!僕もお手伝いさせてください!」

意見は一致した。
平日は一緒に行動するのは難しいが、休日ならできそうだ。
そして日が変わり休日になると、午前中は歌やダンスのトレーニングを行い、白羽の家で朴木と美津子が作ってくれたランチを食べた後、午後から場所を遺跡に移動し修練することになった。
ナイトメアとルミナスはそれぞれ違う部屋で練習し、ある程度形になったら一度お互いに見せ合うらしい。
それまでは練習しないと間違えたりアクシデントもあったりするので、白羽曰く見られるのはもう少し後がいいようだ。
まぁそれはおそらく静羽も同じなのだが…。

遺跡につくと快く冬月が出迎えてくれた。
この間倒れた白羽の体調も心配してくれていたようだ。
そして取り乱していて話せなかった静羽と改めて対面すると、冬月は胸に手を当てて敬意を表した。

「今は覚えておらぬやも知れませぬ、それでも我は覚えております…。あの時共に戦いあなたは命を落とされた。しかし時を超え、生まれ変わった姿でまたこうお会いできた事、とても嬉しく思いまする。どうか記憶を取り戻されたら、もう一度じっくりお話をさせていただきたく」
「冬月さん…。ありがとうございます。記憶が戻ったら必ず…」
「きっとあなたには辛いことも思い出さねばならぬでしょう。しかし、それを乗り越えた先には力の使い方、知識、そして願った呪いの解放ができると信じ、諦めずに挑戦なされてください」

2人はお互いに握手を交わし、その後冬月に入り口で待っている者がいると言われ足を運ぶ。
グループが中に入ろうとすると、入り口の向こうから何かの物体が浮遊してこちらに突っ込んできた。

「姫さまぁあぁぁ!!」
「わぁっ!?」

咄嗟に静羽は杖でガードしてしまった。
するとその生き物は杖にぐえっと言いながらぶつかる。
そしてその衝撃で地面にコロコロと転がった。
驚きでつぶった目をあけると、そこにはぬいぐるみのような、そして外見はフタバスズキリュウに似ている生き物が転がっている。
色は空色で背中らしきところにはかわいい羽根があり、額には宝石のような角があった。

「わ…わ…ごめんなさい」
「いえいえ…私がもし敵だったらということも考えると、ガードは正しい判断かと…」

そういいながら起き上がり、またその生物は浮遊する。

「はじめまして皆さま、私はこの遺跡の案内役、リンと申します。これからこの遺跡や使い方についての説明を行います。何かご要望、ご質問ありましたら私までご相談ください。そして姫様が記憶を取り戻すまで、今日から姫様の近くで過ごそうと思いますので、よろしくお願いいたします」
「えっと、私と一緒に暮らすってこと…?」
「そうです、あれ…ダメでした?」
「なんというか…いきなりでびっくりしただけ…」
「私生活をお邪魔するつもりはありません。私が近くにいれば、ふと疑問に思った事をこの場所に来なくてもある程度は答えられます」
「そっか…そういう事なら、よろしく」
「はい!」

挨拶を終えるとリンは遺跡の中に入るように促す。
前回来た時とは違い、廊下を進むと扉が増えていることに皆が気づいた。
それを見渡せるようになってすぐ、リンが部屋の扉の説明に入る。
色分けされている部屋は6つあり、修練として使うための部屋(戦闘、精神、知識)、調べものをする資料室と休憩室、そして最後に開かずの扉。
リンによるとその開かずの扉は、修練が終わり力をつけた者だけが入ることを許されているようだ。

「9人だとすると3×3くらいで別れてやってみるか?」
「そうだね、一番最初だし中の様子もわからないからね」
「俺は変身できないから、できれば亮と愛莉さんと資料室に行きたい」
「わかった、じゃあ後は残ったメンバーで班分けしよう」

残ったメンバーで話していると、リンが横からある事を白羽に伝える。

「白羽様、あなたも忘れている過去があるはずなのです。私の口から言う事はできませんが、それも含めて姫様と精神の部屋へ行ってください」
「俺…が?」

静羽なら相当な過去があったようなので言われればわかるのだが、今まで水晶や冬月が話した昔話の中に白羽が出てきた様子はない。
それでも忘れている過去があるというのは一体どういう事なのだろうか。

「精神の部屋は過去を見てそれを知り、受け入れたくない過去の壁を乗り越えなくてはなりません。あの部屋に行くのなら、心の準備はしておいてください」
「ふむ…、でもそれを言うからには、あの部屋へ行き乗り越えた後自分にとってプラスになると考えていいんだな?」
「もちろんです。人間は見て見ぬふりをし、問題を自分から遠ざける癖があります。それは自己防衛が働いており、生活に支障をきたさないためでもありますが、遠ざけてきた問題と向き合い、思い出し、心を強くすることで己を鍛え、心だけでなく魔力においても確実な成果を得られるでしょう」
「部屋に入った人全員が修練対象になるのか?」
「いえ、一人待機する人を決めます。待機している人に情報の共有はされますが、身体に影響はないはずです」
「逆に修練してる人には影響があるというような言い方だな」
「中に入った後精神の部屋では戦闘をすることはありません。過去の記録、思い出を見るだけなので。しかしそれでもそこは精神の部屋…、見たくない物を見た時、身体に不調が生じないと私は言い切れませんので」

その話を聞いてから改めて、白羽が静羽に部屋に入る意思を確かめる。
静羽は迷う事はなかった。

「自分でやるって、決めたから。弱いまま、乗り越えないでいる私のまま、前に進みたくない。それに、白羽くんの呪い…解くっていう目標もあるから」
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