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69.呪いの薬
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軍那の山奥に佇む薄暗い教会。
いつ誰がこの場所に建てたかわからない教会は廃屋同然になっており、割れた窓ガラスや苔むした壁、崩れ落ちた屋根がマニアにはたまらない建物だ。
だがそこに廃墟マニア達が訪れる事はない。
普段は立ち入り禁止区域になっているからだ。
地上にある建物の裏手には、地下に続く入口がある。
その地下にDIVA教の施設はあった。
崩れていた教会とはうらはらに、中には設備が整い、綺麗に掃除され、生活するのに申し分ない広さの部屋も備えられていた。
ラウンジには長いソファやテーブルがあり、小さな噴水が癒し空間を演出している。
そんなソファに座りイライラしている人物がいた。
「くっ…早くあいつ殺したい」
「そんなにイライラしてると美容に悪いわよ」
黒い修道服、フードの飾り…。
姫歌達を襲ったグループに間違いなかった。
「はーあ…あなたの命令じゃなかったらとっくに殺してますよ…」
そう言いながら1人、その声の主がフードを取る。
フードから出てきたのは、ディアムボブでピンクアッシュ髪のオッドアイの女子、ミルカだった。
「あの子は殺そうと思っても死なないわ…、実際あなただって一回殺そうとして失敗したでしょう?」
「もう少し早くその情報が欲しかったですね、教祖マリア」
「ふふ、世の中全ては思い通りにいかないものよ、ヴォルスト」
ミルカはここではヴォルストという名前で呼ばれている。
ドイツ語で七つの大罪、色欲を現す言葉である。
「それにしてもいいんですか、娘を捨ててから一度も会ってないのでしょう?」
「娘?あら、そんなものいたかしら」
「ふふ…悪い人ですね…」
「ヴォルストに言われたくないわぁ…。愛してるとは言え、あんなにがんじがらめにしたら生活しにくいわよ~」
「私は満足してますよ?私が呪ったおかげで彼は女性には触れられない。こんな素晴らしい事ないじゃないですか」
「何が凄かったって、あなたがまだそう言った知識が無い頃にその呪いをかけてることよねぇ」
「あの頃は半信半疑でしたけどね。女として大事なものを失っても賭ける価値はありましたから」
――――――
ミルカが呪ったのは紛れもない白羽だ。
白羽が日本での滞在を終えドイツに帰ってきた後、金持ちが集うパーティで出会ったのが白羽だった。
ミルカは有名な資産家の1人娘で、大切に育てられた。
それは周りがやりすぎじゃないのか?と思うくらいに。
娘のわがままを何でも許し、娘が一番素晴らしいと言いながら育てた。
そしてそれに周りも賛同し、賞賛してくれた。
だから白羽と出会った時に、白羽も当然のように自分を褒めてくれるものだと思っていた。
しかし白羽から発せられたのは、自分よりも可愛い子がいて君はタイプじゃない、という言葉。
初めての屈辱だった。
その屈辱を味わってからというもの、白羽を振り向かせるためにミルカは様々な努力をした。
いろいろな服を着て、アレンジをして、香水をつけて…。
そんなことをやっていれば、毎日白羽の事を考える事になり、考えているうちにどんどん沼にはまっていく。
白羽を振り向かせたいと願ったミルカのほうが、白羽に溺れていたのだ。
そんなある日、白羽の誕生日パーティがあるというので招かれ行ってみると、そこには同じ年代くらいの女の子も招待されており、その女の子が白羽にプレゼントを渡しながら抱きついていたのを見て憤慨。
その子が白羽の言う可愛くてタイプの女の子なのだと勘違いした。
そして、どうにかして自分だけのものとしようと計画を実行する。
実はミルカは事前にとある薬を作り入手していた。
その頃ミルカは親に連れられて行った教会で、1人の神父と出会い仲良くなる。
会う度に相談し、白羽を自分の物にしたいと言っていた。
そこで神父はミルカにとある提案を持ちかける。
「君の覚悟があるのなら、対価と引き換えにその好きな子に呪いをかける薬を作ろう」
そんな事をしても大丈夫なのかと、最初はミルカも悩んだりしたのだが、白羽を誰にも渡したくないと言う気持ちは強く、他に手段もわからなかったため、その神父の提案を受け入れた。
学校が終わってから、教会へ向かう。
こっそり裏庭から教会に入り指定された場所へ向かうと、複数人の神父がそこでは待ち構えており、地下に続く道へ案内され、ミルカは恐る恐るついて行った。
中の少し大きめのホールに着くと、中央に人が1人寝れるスペースが用意されている。
そこでミルカに説明がなされた。
「ミルカちゃん、これからお薬を作るのに必要な物があるんだ。それを採取するために協力して欲しい」
「うん、分かった。何をしたらいい?」
「まずは唾液をこの瓶に入れてくれるかい?」
神父はミルカに小瓶を渡し、その中に唾液を入れさせた。
それからミルカは大事なものを失う事となる。
呪いを完成させる為に体液を採取する必要があり、本人の承諾があったとはいえ、恥ずかしいことをさせたのだ。
神父達は次々に不敵な笑みを浮かべその時間を楽しんだ。
以降、ミルカは定期的にドイツに帰り薬を作り続けている。
それを白羽に飲ませ、効力を弱めないために。
――――――
「彼も気の毒ねぇ。定期的にそんなものを飲まされてるなんて思ってもいないのでしょうね」
「バレたらプロじゃありませんよ。薬しかり、今まで消してきた人間しかりです」
「恐ろしい子だこと」
「白羽くんが諦めてくれるまで、私の身体で事足りるなら、いくらだって作りますよ」
愛と言うにはねじ曲がった、一般人には考えつかない行為。
そして今、横で生活するようになった姫歌がミルカには殺したいほど邪魔なのだ。
だが、教祖マリア曰く姫歌は殺しても死ぬ事がない。
今は様子を見ているしか出来ないミルカにとっては悩みの種だった。
「それで、あなたのいう救世主の復活とやらはいつ実現するんです?」
「そうねぇ、あの子が白すぎるのが問題だから、黒くしてあげないといけないのよぉ…」
んー…とマリアは考える素振りを見せた。
「まぁ、焦っても仕方ないわ。この間ガイツ達も会いに行って遊んでくれたようだし、そろそろあの子が呼ばれるのも近い。きっかけもすぐそこまで来ているはずよ、待ちましょう」
――――――
「白羽、楓真!大変だ…地下から遺跡が出た」
「遺跡?」
その報告は突然だった。
徹曰く、マイストーンの原石を掘っている地下の空間に、神殿の入口が現れたとの事だった。
「入口だけなのか?」
「あぁ、入口があった周りの岩が硬すぎて、遺跡の全部は掘り起こせないらしい」
「調査は?」
「詳しい事はまだみたいだけど、入口から前に進めないって聞いた」
「前に進めないとは?」
「透明な壁があるらしくて、考古学者や調査団が通ろうとしても通れず、ハンマーや攻撃を加えても傷1つつかないそうだ」
白羽も楓真もそれを聞いて考えた。
通れないのはその壁のせいであるのは確かだが、もしかしたら通れる人間とそうでない人間がいるのではないかと。
「今度Sクラスの10人で、来週その遺跡を見に行く予定らしい。学園長命令で」
「ほぉ…」
「それは楽しみだ」
自分達が通れるという確証はないが、遺跡を見たいという好奇心はあった。
3人はそれを楽しみにするのだった。
いつ誰がこの場所に建てたかわからない教会は廃屋同然になっており、割れた窓ガラスや苔むした壁、崩れ落ちた屋根がマニアにはたまらない建物だ。
だがそこに廃墟マニア達が訪れる事はない。
普段は立ち入り禁止区域になっているからだ。
地上にある建物の裏手には、地下に続く入口がある。
その地下にDIVA教の施設はあった。
崩れていた教会とはうらはらに、中には設備が整い、綺麗に掃除され、生活するのに申し分ない広さの部屋も備えられていた。
ラウンジには長いソファやテーブルがあり、小さな噴水が癒し空間を演出している。
そんなソファに座りイライラしている人物がいた。
「くっ…早くあいつ殺したい」
「そんなにイライラしてると美容に悪いわよ」
黒い修道服、フードの飾り…。
姫歌達を襲ったグループに間違いなかった。
「はーあ…あなたの命令じゃなかったらとっくに殺してますよ…」
そう言いながら1人、その声の主がフードを取る。
フードから出てきたのは、ディアムボブでピンクアッシュ髪のオッドアイの女子、ミルカだった。
「あの子は殺そうと思っても死なないわ…、実際あなただって一回殺そうとして失敗したでしょう?」
「もう少し早くその情報が欲しかったですね、教祖マリア」
「ふふ、世の中全ては思い通りにいかないものよ、ヴォルスト」
ミルカはここではヴォルストという名前で呼ばれている。
ドイツ語で七つの大罪、色欲を現す言葉である。
「それにしてもいいんですか、娘を捨ててから一度も会ってないのでしょう?」
「娘?あら、そんなものいたかしら」
「ふふ…悪い人ですね…」
「ヴォルストに言われたくないわぁ…。愛してるとは言え、あんなにがんじがらめにしたら生活しにくいわよ~」
「私は満足してますよ?私が呪ったおかげで彼は女性には触れられない。こんな素晴らしい事ないじゃないですか」
「何が凄かったって、あなたがまだそう言った知識が無い頃にその呪いをかけてることよねぇ」
「あの頃は半信半疑でしたけどね。女として大事なものを失っても賭ける価値はありましたから」
――――――
ミルカが呪ったのは紛れもない白羽だ。
白羽が日本での滞在を終えドイツに帰ってきた後、金持ちが集うパーティで出会ったのが白羽だった。
ミルカは有名な資産家の1人娘で、大切に育てられた。
それは周りがやりすぎじゃないのか?と思うくらいに。
娘のわがままを何でも許し、娘が一番素晴らしいと言いながら育てた。
そしてそれに周りも賛同し、賞賛してくれた。
だから白羽と出会った時に、白羽も当然のように自分を褒めてくれるものだと思っていた。
しかし白羽から発せられたのは、自分よりも可愛い子がいて君はタイプじゃない、という言葉。
初めての屈辱だった。
その屈辱を味わってからというもの、白羽を振り向かせるためにミルカは様々な努力をした。
いろいろな服を着て、アレンジをして、香水をつけて…。
そんなことをやっていれば、毎日白羽の事を考える事になり、考えているうちにどんどん沼にはまっていく。
白羽を振り向かせたいと願ったミルカのほうが、白羽に溺れていたのだ。
そんなある日、白羽の誕生日パーティがあるというので招かれ行ってみると、そこには同じ年代くらいの女の子も招待されており、その女の子が白羽にプレゼントを渡しながら抱きついていたのを見て憤慨。
その子が白羽の言う可愛くてタイプの女の子なのだと勘違いした。
そして、どうにかして自分だけのものとしようと計画を実行する。
実はミルカは事前にとある薬を作り入手していた。
その頃ミルカは親に連れられて行った教会で、1人の神父と出会い仲良くなる。
会う度に相談し、白羽を自分の物にしたいと言っていた。
そこで神父はミルカにとある提案を持ちかける。
「君の覚悟があるのなら、対価と引き換えにその好きな子に呪いをかける薬を作ろう」
そんな事をしても大丈夫なのかと、最初はミルカも悩んだりしたのだが、白羽を誰にも渡したくないと言う気持ちは強く、他に手段もわからなかったため、その神父の提案を受け入れた。
学校が終わってから、教会へ向かう。
こっそり裏庭から教会に入り指定された場所へ向かうと、複数人の神父がそこでは待ち構えており、地下に続く道へ案内され、ミルカは恐る恐るついて行った。
中の少し大きめのホールに着くと、中央に人が1人寝れるスペースが用意されている。
そこでミルカに説明がなされた。
「ミルカちゃん、これからお薬を作るのに必要な物があるんだ。それを採取するために協力して欲しい」
「うん、分かった。何をしたらいい?」
「まずは唾液をこの瓶に入れてくれるかい?」
神父はミルカに小瓶を渡し、その中に唾液を入れさせた。
それからミルカは大事なものを失う事となる。
呪いを完成させる為に体液を採取する必要があり、本人の承諾があったとはいえ、恥ずかしいことをさせたのだ。
神父達は次々に不敵な笑みを浮かべその時間を楽しんだ。
以降、ミルカは定期的にドイツに帰り薬を作り続けている。
それを白羽に飲ませ、効力を弱めないために。
――――――
「彼も気の毒ねぇ。定期的にそんなものを飲まされてるなんて思ってもいないのでしょうね」
「バレたらプロじゃありませんよ。薬しかり、今まで消してきた人間しかりです」
「恐ろしい子だこと」
「白羽くんが諦めてくれるまで、私の身体で事足りるなら、いくらだって作りますよ」
愛と言うにはねじ曲がった、一般人には考えつかない行為。
そして今、横で生活するようになった姫歌がミルカには殺したいほど邪魔なのだ。
だが、教祖マリア曰く姫歌は殺しても死ぬ事がない。
今は様子を見ているしか出来ないミルカにとっては悩みの種だった。
「それで、あなたのいう救世主の復活とやらはいつ実現するんです?」
「そうねぇ、あの子が白すぎるのが問題だから、黒くしてあげないといけないのよぉ…」
んー…とマリアは考える素振りを見せた。
「まぁ、焦っても仕方ないわ。この間ガイツ達も会いに行って遊んでくれたようだし、そろそろあの子が呼ばれるのも近い。きっかけもすぐそこまで来ているはずよ、待ちましょう」
――――――
「白羽、楓真!大変だ…地下から遺跡が出た」
「遺跡?」
その報告は突然だった。
徹曰く、マイストーンの原石を掘っている地下の空間に、神殿の入口が現れたとの事だった。
「入口だけなのか?」
「あぁ、入口があった周りの岩が硬すぎて、遺跡の全部は掘り起こせないらしい」
「調査は?」
「詳しい事はまだみたいだけど、入口から前に進めないって聞いた」
「前に進めないとは?」
「透明な壁があるらしくて、考古学者や調査団が通ろうとしても通れず、ハンマーや攻撃を加えても傷1つつかないそうだ」
白羽も楓真もそれを聞いて考えた。
通れないのはその壁のせいであるのは確かだが、もしかしたら通れる人間とそうでない人間がいるのではないかと。
「今度Sクラスの10人で、来週その遺跡を見に行く予定らしい。学園長命令で」
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