DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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67.あいつは誰だ

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睨みつける白羽に貴紀は少しムスッと表情を変えた。

「まっ、言いたくないならそれでもいいっすけど」

白羽があからさまに拒否した事で、場の空気がピリピリする。

「先に部室行ってる」

と言い、白羽はその場から不機嫌そうに立ち去って行った。
ただでさえ自分は姫歌に触れることすらできないのに、抱きついて親しげに話していた事や、姫歌を婚約者なんて宣言された事に苛立ちを隠せない。
もちろん姫歌は自分の何かと問われたら『家族』としか答えられない事が悔しかった。
あのまま2人きりにして置いてきてよかったのかと自分に問うが、あのままあそこにいたら恐らく殴りかかっていただろう。
姫歌も婚約者だと言ったことに対して同意はしていなかった事もあって、1度自分の気持ちを落ち着かせる時間が白羽には必要だった。

――ガラガラ!バタン!――

部室のドアが開く音が騒がしい。
入ってきて早々白羽は窓際の椅子に腰掛けて机に突っ伏した。

『おーう…、何かあったなありゃ…』

部活を見学に来ていた生徒に見向きもせず、副部長が机に突っ伏した様子を見て何かを悟った徹。
それとは裏腹に横にいるミルカは嬉しそうにニコニコしている。

「入学式、ミルカがニコニコ、白羽が机に突っ伏しててめちゃくちゃご機嫌斜め、姫歌ちゃん姿なし。ここから導き出される答えは?」

そう楓真にLimeで送り付ける。
するとすぐ答えが帰ってきた。

「白羽のライバル的存在が入学した、かな。しかもめちゃくちゃ機嫌が悪いのなら、姫歌さんと一緒にいる所を見てるのは確定だろうね」
「なるほど、そうだろうな」

と言ったところで今話しかけられるわけでもない。
きっと話しかけても、1人にしてくれ、話しかけるなと言われるだけだ。
とりあえず徹は様子を見つつ、部活の説明を続けた。

――――――

白羽が不機嫌そうに立ち去った後、仕方なく貴紀と話しながら職員室へ向かう。

「しかし広いなこの学園、何がどこにあるか覚えるまでに時間がかかりそうだ」
「うん、でも毎日来てたらそのうち慣れるよ」
「それで、俺寮に入るんだけど、姫歌も寮なんだろ?」
「あ…えっとね、実は今訳があって寮じゃないんだ」
「え?!そうなのか?でもどうやって生活してるんだ?」

とりあえず職員室へついたので、片付けが終わって部活に行くと先生に報告する。
その間貴紀は廊下で待っていた。

「寮の荷物確認するの終わったの?」
「いやー?学園の中で迷ったから、行先探しながら姫歌も探してた」
「じゃあ寮までの道案内するよ」

そう言いながらまた2人で歩き出す。

「で、さっきの答え教えて」
「あー…、今ねちょっととある人の邸宅に学園以外の時は住み込みでメイドとして働かせて貰ってて…、だから寮じゃないんだ」
「えっ、メイドって!?まさかメイド服着てたりするのか?!」
「うん、着てるけど…」
「見たい!」
「……え、ヤダ」
「なーんでだよ!」
「私は衣食住お世話になってる身だし、私が容易く招ける立場じゃないから」
「んー、まぁそう言われればそうか」

と貴紀には言ったが、空や他のメンバー達が来たいと言えば、素直に招く許可をもらったり、自分のいる部屋には招けるので、姫歌自身が招きたくないだけだった。

「でも許可貰えば行くとか、外に出たりはできるんだろ?」
「それはまぁ…できるけど」
「なら明日か明後日、買い物付き合ってくれ!」
「えぇ?!そんな急に…」
「なんか用事でも入ってたのか?」
「いや…ないけど…」
「じゃあ決まりな!いろいろあったから話もしたいんだ…」
「……聞いてみるから、大丈夫そうなら後で連絡する」
「オッケー」

そう言いながら歩いていると、寮の入口にたどり着いた。

「私が案内出来るのはここまで。この先は寮関係者しか入れないから、男子は男子寮の方に行ってね」
「分かった、ありがとな!」
「うん、またね」

そう言って別れ、姫歌がその場から立ち去ろうと後ろを向いて歩き出した。
すると…

「姫歌ー!あの時のことまだ怒ってるかー?」

そう話しかけられ振り向く。

「怒ってはいないよ、またね」

そう姫歌は言い、部室へと向かって行った。

――――――

「集落で殺人?!」
「1人だけ生き残ってるって本当かよ…」
「どうせそいつが犯人だろ」

1度広がってしまった憶測を伴う噂話は収集が付きにくい。
ましてやメディアなどで取り上げられ、1人だけ生き残っているとしたら、矛先が少なからず向くのは仕方なかった。
いつも通りに行ってきます、お土産買ってくるからねと祖母の家を出たのに…。
修学旅行先で夜1泊する頃には祖母や集落の皆は殺されていたのだ。
当時祖母を師として一緒に修行していたのが貴紀なのだ。
しかし、祖母が集落の皆が殺害され、メディアが存在者がいると報道するようになってから、姫歌は無実でも、周りの皆はそう思ってくれなかった。
そんな時に貴紀は姫歌の傍から離れる事になる。
両親から会うなと言われたからだ。
貴紀は姫歌はそんなやつじゃないと言ったのだが、周りや家族は聞く耳を持たない。
誤解が解けるまでに時間を要し、姫歌にも精神的な負担がかかった。

「ごめん…もう会えない、連絡も取らない」

それが去年、貴紀が最後に姫歌に向けて送ったメッセージだった。
好きという感情はなかった。
ただそれでも厳しい訓練を共にし、戦った仲間として信用していたのに…。

『もう…誰のこと信じたらいいか…わかんない…』

「白羽くん…会いたい…」

疲弊してしばらく動けなくなり、精神的回復にも1年近くかかった。
怒ってはいない…、ただ…悲しかった。
自分から連絡は取らないと言ってきたのに…、なんでこの学園に来たのか…。
姫歌を追いかけてきたんだと…そう言っていた。
そんな想いをぶつけられても、姫歌の心には響かなかった。

――――――

『はぁ…白羽くん怒ってる感じだったな…。ちゃんと話しないと…』

ガラガラと部室の扉を開けた。
中には机に突っ伏した白羽しか見えない。
居たはずのミルカや徹はどこに行ったのだろうか…。

「おっ、姫歌ちゃんおかえり」

奥の倉庫から徹が顔を出した。
どうやら見学しにきた生徒に見せた作品をしまってたらしい。

「はい、えっと…たしかミルカ先輩一緒にいませんでした?」
「ん?あぁ、白羽が追い出した」
「あわ…そうだったんですね」
「姫歌ちゃん俺にも敬語使わなくていいよ、そろそろ慣れたでしょ?」
「え…あ、まぁ…そう言うなら…」

その会話のあとすぐ、姫歌は白羽に近寄る。

「白羽くん、終わったよ。帰ろ?」

姫歌に声を掛けられた白羽がゆっくりと身体を起こした。

「あいつ…誰」

身体を起こした状態で、姫歌の方を見ずに白羽が問う。
まだ不機嫌だった。

「強いて言うなら…相弟子かな。それ以上でもそれ以下でもない人」
「入学する事知らなかったのか」
「知らなかったよ。むしろ去年最後にあった連絡で、向こうから連絡取らないって言ってきたから、学園に来るなんて思ってなかった」
「でも婚約者って…」
「勝手に言ってるだけ。多分…ミルカ先輩と同じような感じ。私は…一度もそんなこと思ったことすらないよ。もちろんね、同じ師をもった仲間としての意識はあったの。でも…それも去年おばあちゃんが亡くなった時に、その仲間としての感情すら…無くしたから…」
「そう…か」

少し離れて聞いていた徹が気付く。

『あ…直ったな…。触れられない話せないが基本あるから仕方ないが、面倒臭いやつだな』

「部室閉めるぞー」

そう言って2人を外に出した。
徹は鍵を職員室へ返しに行き、姫歌と白羽は帰路についた。
帰り道、白羽に貴紀に言われたことを話す。

「明日か明後日買い物付き合えって言われたの…。許可とってみるとは言ったんだけど…正直あんまり気乗りしなくて…」
「俺も行く…」
「え…いいの?」

あんな事を言うやつと2人きりになんてもうしない、白羽はそう思っていた。

「一応…俺だって家族だし…主人ではなくとも、関係者ではあって…」
「その日だけでも…主人に、なってくれてもいいんだよ…?」
「なっ…」
「だって…その方が…、何かあってもご主人様のご命令ならって…言い訳が出来るし…」
「……ばぁちゃんに…聞いてからだ…」

お互いに何となく照れる。
ご主人様とは呼んだり呼ばれた事はない。
もしそうなったら…なんだか恥ずかしいが、嬉しさもあった。
とりあえず帰ってから、美津子へ相談することにした。
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