DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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58.楓真の気持ち

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身体がぽかぽかになっている姫歌達も、のどが渇いたようで休憩室の前にある飲み物コーナーでそれぞれの飲み物を購入している。
空が休憩室の中に白羽達がいることに気付き近寄っていくと、見慣れない女性が二人、徹達と話している。

「お、あがってきた」
「うん、みんなで飲み物も買った。そこにいらっしゃる二人はお知り合い?」
「あぁ、会うの初めてか。クリームイエローの髪が錦織ひなたさん、オーキッドの髪が古河美月さん。学園の2位と3位」

徹の言葉に続くように2人が挨拶し、後から遅れてやってきた姫歌達も挨拶した。
白羽達と同じことを説明し、明日の夕ご飯が一緒になる事を把握した後、それぞれはコテージに帰っていく。
寝るまでの間は自由時間になるのだが…。
大体の場合男子達はゲームの話で盛り上がる事が多い。
そんなに話していて飽きないのかと思うくらいに、攻略方法や立ち回り、アイテムのありかやステータス等を共有する。
まだ足を踏み入れた事のない亮が、面白いよと言われて説明ややり方を覚えるのもこの夜だった。
一方の女子達はというと…

「結局あの後どうなったの?」

前回の学園での戦闘の時に、空が変身していた事を知っていた姫歌が尋ねた。

「えっ…?!どうなったって…」
「あんまり話聞いてないです!教えてください!」
「せ…正式に彼女になってほしいって言われて…」
「おおぉー!!」
「付き合う事に…なりました!」

その場にいた4人から拍手が送られた。
キスしたのかと聞かれて、恥ずかしがりながら空はコクっと頷く。
キャーといいながら盛り上がる女子達…。
その後姫歌や愛莉にも今はどうなのかという確認が入るが、特に恋に関しての進展がある訳ではなく、そのまま共に過ごす時間があるくらいだった。
そして姫歌と空は知らない楓の事へ…

「楓って楓真さんのことってどう思ってるの?」
「どうって…隣にいるのが普通…みたいな」
「え、じゃあもし恋人できそうになってたらどうするんですか?」
「今までも何回かそういう事あったけど…楓真全部断ってる…」
「理由は…?」
「なんで…なんだろう…」

『そこは聞いてないの!?』

楓真に聞いた事がある。
どうして付き合わないの?と。
それに対して楓真は…

『付き合いたいと思ってないのに、付き合っても相手に失礼だからね』

そう言っていた。
それはそうだ、告白されたから付き合うよりは、自分が好きだから付き合うというほうが、気持ち的には嬉しい。
もちろん友達になってそれから付き合うとか、相手知るために一緒に過ごすのを増やしたりして、仲良くなる事も出来るだろう。
その気持ちもないのに付き合うのは、相手をステータスと思っているか、自分が他人よりパートナーがいる事で優越感に浸りたいか、興味本位なのか…。
何にせよそんな気持ちで付き合って、相手は嬉しいかもしれないが、自分を含めて本当の意味での恋愛の楽しさは味わえないだろう。
逆に楓真は楓の事をどう思っているのだろう。
なかなか出会う機会も少ないので聞けるかどうかはわからないが、もし出会ったとしたら聞いてみたいと思う姫歌。
その後、ノアにちょっと大人な話を聞いたり、恋のアドバイス的な事を聞いたところで眠気もでてきたため、部屋を分かれて就寝する。
旅の疲れからか、ベッドに入るなりみんなもすぐに寝つけたようだ。

鳥のさえずり、優しく差し込む朝日が姫歌に当たった。
うーんと言いながらもすぐ起きられるわけではなく、そこから10分ほどベッドで過ごす。
時計を確認すると5時半、いつも起きるような時間だ。
朝ごはんはどうするのだろう、そう思いながらドアを開け2階から下に行くと、すでにヴァーグナー夫妻と朴木がキッチン付近で何か作っていた。

「姫歌様おはようございます、お早いですね?」
「おはようございます。何か手伝える事ありますか?私も一応メイドですので」
「ふふ、ありがとね。でも見ての通りキッチンも小さいから外で散歩してくるといいんじゃない?景色見てくるのもいいし、少し身体動かしたほうがスッキリするよ」
「そうですか…、わかりました。ちょっと辺りをお散歩してきます」

クラウディアにそう言われ、姫歌は一人であたりを歩く。
山という事もあって、気持ちいい気温と景色に気持ちが和やかになった。
お散歩コースというものがあり、池が近くにあって歩けるようになっているらしい。
少しならと…その道を進んだ。
すると途中にあったベンチに誰かが座っている。

「あれ、姫歌さんじゃない、おはよう」
「榊原先輩…」
「楓真でいいよ、そのほうが友達っぽいでしょ?」
「じゃあ楓真さんで…」
「ここ結構気持ちいい場所だなって思って少し景色眺めてたんだ、隣どうぞ」
「お邪魔します。そうですね、いい場所です」

ごめんね白羽じゃなくてなんて冗談を言われたが、白羽が朝弱いことは楓真も姫歌も知っている。
いつもは楓真もこの時間に起き、いつも弓の稽古をしているらしい。
2人で話すのは初めてじゃないだろうか。
前に学園でテストの事で調べてもらった時も、隣には白羽がいた。
あれから事件の進展があったわけではないが、あの時に楓真がいてくれたからこそ真相を知れたし、とても感謝している。

「楓真さん、前…テストの時、お手伝いしてくださってありがとうございました。ずっとお礼が言いたくて」
「ふふ、いいのに。私は白羽のあんなに必死な顔が見れて満足してるし」
「必死…?」
「姫歌さんの事なんとかしてあげたいけど、自分には限界があるっていうのがわかって、それで私に頼んできたからね」
「…」
「普段他人に興味が全然ない態度取ってるのに、姫歌さんは白羽にとって特別なんだなって、すごく伝わった。ちょっと嬉しくてね」

なんだか照れくさい。
自分のために白羽がそんなに必死になってくれていたなんて…。
いつもはクールで、本当に友達以外の人に興味を示す事が少なく、どうでもいい人にたいしては言葉も厳しい白羽が気にかけてくれている。

「今はまだ、白羽も何もできないかもしれないし、口にする事はないと思う。でも…姫歌さんも白羽が好きだったら、そのまま待っててあげて」
「はうっ!?」

姫歌の顔が真っ赤だ。
もちろん言われなくてもそうするつもりだった。
白羽が好きで、大好きで…。
言葉で言い表せないくらい、ずっと心の支えにしてきた。
恥ずかしがる姫歌を見て、楓真が笑っている。
と…我に返って思い出す。

「楓真さん…私も聞きたい事が…」
「何?」
「楓の事…どう…思ってますか?」

ちょっときょとんとした顔をしてから、楓真が遠くを見た。

「単刀直入だなぁ…。きっとあれでしょ?昨日の夜に女子トークでそういう話になったんだよね?」
「さすがですね」
「たぶん楓も言ってたと思うけど、隣にいるのが普通な、家族みたいな感じかな」
「本当にそれだけ…なんですか?」
「…そう…だね。一つ確かな事は、姫歌さんが白羽の事を特別だって思っているように、私も楓の事は大切だよ」
「楓真さん…」
「私がつけてるこの髪飾りの意味は…きっと姫歌さんが、白羽にもらったリボンを髪につけている理由と一緒だから…。私はこれがないと、矢が射れない」
「それは…気持ち的な意味で?」
「ん~、そうなるのかな。でも精神的に落ち着くっていうのはあるかな。私が大会で調子が出ない時に、おまもりとして楓がつけてくれたものだからね」
「そんなエピソードがあったんですね、ちょっと聞けて嬉しいです」
「楓には内緒にしといてね」
「じゃあ他の方からの告白を断ったのも…?」
「そこも話されたのか…。さすが女子…、まぁ…そういうことで」

楓真からはっきり気持ちが聞きたいと思っていたが、こんなにあっさりと話してくれるとは思っていなかった。
それでもここで楓真に会ったことと、楓真が楓の事を大切に思っていたことを聴けて、姫歌にとっても素敵な朝になった。
そして二人でいい時間になったということもあり、コテージへ向かう。
楓真に本当に内緒にしておいてよ?と念を押されながら。
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