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53.眠たい姫歌
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「学園は今休園中。校舎が派手に壊れてるところもあるし、ガラスも結構割れまくって危ないから、一部の生徒を除いて自宅待機」
「そっか、だから連絡してすぐにこっちに来られたんだね」
「そういうこと」
「じゃあ姫歌は…、みんなは?」
「アリーナに避難してた人は全員無事。ただ、戦闘してた人には俺も含めて負傷者が出たし、入院してる人もいる。桜川さんは一時期行方不明になってた」
「え!?あ…でも一時期ってことは、見つかったんだね」
徹の説明は続く。
山田という名の生徒が一緒に戦っていたのを最後に、姫歌の行方が分からなくなっていたらしい。
手分けして探すも有力な情報がないまま夜になり、その日は一度捜索を諦めたのだという。
そこへ駆けつけたのが予定より早く帰ってきた白羽で、自分の時計に仕込んであったツールを使って姫歌の居場所を発見。
雪のピアスの効果だった。
学園内の倉庫の中でぐったりと意識がないままの姫歌を発見し、病院へ運んだそうだが、魔力の消耗が激しく今も病室で寝ているそうだ。
「姫歌…大丈夫かな…」
「まぁ…俺だって結構しんどかったから…、桜川さんにだって結構な負担だったんだろうな」
「後で様子見に行ってもいいかな…」
「いいんじゃね?特に制限はされてないはずだし、たぶん白羽がずっと横にいるだろうから、部屋ノックしたら開けてくれるだろ」
「さすがといいますか…なんといいますか…」
「まぁ…ミルカの事はさておき、白羽もわかりやすいからな…」
「白羽先輩…、呪いがなかったらきっと今頃は…」
周りは白羽と姫歌の気持ちについて気付いている。
でもその気持ちを呪いが邪魔していて、白羽からは何も出来ないのだ。
その呪いがなかったら2人はとっくに付き合っていたのではないか…。
そう考えたところで何もできるわけではなく、気持ちを伝える事も、本人たちがやらなくてはならない事だ。
姫歌も姫歌で自分に自信がなく、自分の気持ちに気付いていても、勇気を出して告白するまでにはなっいない。
それが周りにとってはもどかしい。
「いつかちゃんと呪いが解けたらいいな…姫歌にも、白羽先輩にも…笑顔になってほしい」
「そうだな…」
——————————————————
「……か…姫歌」
誰かが呼ぶ声がする。
聞いた事のない、自分よりも小さい子の声だ。
「……姫歌、気を付けて」
目が開けられない。
意識がハッキリしていないからなのか、耳を済ませてようやく聞こえるくらいの声。
「……だ……れ」
「……私はあなたのもう1人のあなた…。姫歌、気を付けて……修道服の人達…みんな危ない、言うこと聞いたらダメ」
「しゅ…う…どう…ふく」
「……気を付けて」
わけが分からないまま意識が遠のく。
そしてその声は聞こえなくなった。
「……ぅ」
次に気付いた時、姫歌はベッドの上だった。
視界にあるのは、自分に繋がりポタポタと落ちている点滴。
気を失ってからどのくらい経ったのだろう。
それがどうでも良くなるくらい身体が石のように重かった。
「…気がついた?気分は?話せそうか?」
知っている声、大好きな人の声だ。
いつも自分に話しかけてくれる時は、とても優しい、安心する白羽の声だった。
目があまり開かないし、話すどころかまだ起きられそうにない。
少しだけ眼球を動かす。
いつもの白羽の姿があった。
無事に帰ってきてくれて嬉しいはずなのに、瞼が重い。
「……」
「……まだ無理そうか。大丈夫、隣にいるから、ゆっくり休めばいい」
その言葉を聞いた瞬間、また姫歌は眠りにつく。
相当身体に負荷がかかったのだろう、初めて変身した時よりも回復速度は遅く、反応も悪い。
時間経過で良くなると分かってはいても、姫歌が回復するまで白羽も離れるつもりはなかった。
部屋にあるソファで仮眠をとる時も、朴木が来てくれ、交代で姫歌を見ていた。
姫歌には身寄りがいない。
だからその事で寂しい思いをさせたくなかったのだ。
「白羽坊っちゃま、少しお休みに…」
心配した朴木が部屋を訪れた。
「ありがとう朴木…」
「姫歌様…今回は大分消耗されているようですね」
「あぁ…さっき1度目を開けたんだけど…、まだ無理だったらしい。声をかけてこっちは見たから、わかってはいたんだと思う…。休めって言ったらすぐ寝たよ」
「敵も学園に人がいない時を狙ってきたと聞きました…、頑張って戦ったのでしょう。早く回復されるといいですね」
「…あぁ」
そう朴木と白羽が話をしてから、実際に姫歌の意識が戻ったのは更に2日後の朝だった。
「……眠い…」
それが姫歌がまた起きてからの第一声だった。
沢山寝たはずなのに、それでもまだ眠かった。
でも身体の重さは大分軽減されている。
状態を起こして座れるようにはなった。
「おはよう…今回は消耗が激しかったから、そのせいだな」
「……あ…白羽くんだ…、おかえりー…」
どっちがおかえりなのだろうか。
白羽からしたら姫歌の方がおかえりなのだが。
まだ少し寝ぼけているような…うっとりしているような…ふわふわしている姫歌。
放っておいたらまた寝ていそうだ。
「話せるようにはなったな」
「うんー…、でもまだふわふわするー。眠いような感じ…」
「徹とか鴨跖草さんとか、みんな心配して様子見に来てたぞ」
「あー…、ごめんなさい」
「謝ってもどうにもならんだろう…」
「そーだけどー…」
「連絡しとくか?」
「んー…ちょっと…、まだ…頭がー…働かないー…。もう少し…待って」
「ん…」
受け答え方も何となくしまらない。
気分的には小さな眠い子どもと話しているようだった。
ふわっとしてるのはいつものことだが、さらにふわふわしている。
いつもの姫歌ではないのがまた、白羽にとっても可愛くて和む。
座ったまま、コクコクと眠そうな姫歌。
その状態がお昼になっても抜けなかった。
「お腹空いたぁー…、でも眠い…」
「何かちゃんとしたもの食べた方がいい。久しぶりの食事なら胃に優しい物がいいとは思うが…、お粥とか…」
「……お粥やだー…嫌いー…」
「ふむ…ならうどんとかだな」
「おうどん…おきりこみ…食べたいなぁ…」
おきりこみ、軍那の郷土料理の1つだ。
類似するものとしてほうとうがあげられる。
根菜類やネギと一緒にうどんを煮込み食べるのだが、身体も暖まりとても美味しい。
「作ってあげられたらいいんだがな…」
「作れるのー?」
「家に帰れば…」
流石に病院の食堂にある厨房を借りる訳にもいかない。
退院したら作ってもらう約束をして、とりあえずお昼は病院で出される食事を食べた。
「ご馳走様でした」
ご飯を食べた事で少し身体に活力が戻ってきたらしい姫歌。
顔色も少し明るくなったように見える。
それを見計らって、白羽が質問をしてきた。
「学園が襲われた時のこと、教えてもらえるか?」
「えと…どこから話したらいい?」
「徹や先生がわかる範囲の事は教えてくれた。でも、どうして桜川があの場所にいたのか、その後現れた巨大なベヒーモスや、それを倒したって言われてるDiva angelを見たりとかしてないか?」
知っている、それどころかベヒーモスを倒れたのを目の前で見ていた。
「そっか、だから連絡してすぐにこっちに来られたんだね」
「そういうこと」
「じゃあ姫歌は…、みんなは?」
「アリーナに避難してた人は全員無事。ただ、戦闘してた人には俺も含めて負傷者が出たし、入院してる人もいる。桜川さんは一時期行方不明になってた」
「え!?あ…でも一時期ってことは、見つかったんだね」
徹の説明は続く。
山田という名の生徒が一緒に戦っていたのを最後に、姫歌の行方が分からなくなっていたらしい。
手分けして探すも有力な情報がないまま夜になり、その日は一度捜索を諦めたのだという。
そこへ駆けつけたのが予定より早く帰ってきた白羽で、自分の時計に仕込んであったツールを使って姫歌の居場所を発見。
雪のピアスの効果だった。
学園内の倉庫の中でぐったりと意識がないままの姫歌を発見し、病院へ運んだそうだが、魔力の消耗が激しく今も病室で寝ているそうだ。
「姫歌…大丈夫かな…」
「まぁ…俺だって結構しんどかったから…、桜川さんにだって結構な負担だったんだろうな」
「後で様子見に行ってもいいかな…」
「いいんじゃね?特に制限はされてないはずだし、たぶん白羽がずっと横にいるだろうから、部屋ノックしたら開けてくれるだろ」
「さすがといいますか…なんといいますか…」
「まぁ…ミルカの事はさておき、白羽もわかりやすいからな…」
「白羽先輩…、呪いがなかったらきっと今頃は…」
周りは白羽と姫歌の気持ちについて気付いている。
でもその気持ちを呪いが邪魔していて、白羽からは何も出来ないのだ。
その呪いがなかったら2人はとっくに付き合っていたのではないか…。
そう考えたところで何もできるわけではなく、気持ちを伝える事も、本人たちがやらなくてはならない事だ。
姫歌も姫歌で自分に自信がなく、自分の気持ちに気付いていても、勇気を出して告白するまでにはなっいない。
それが周りにとってはもどかしい。
「いつかちゃんと呪いが解けたらいいな…姫歌にも、白羽先輩にも…笑顔になってほしい」
「そうだな…」
——————————————————
「……か…姫歌」
誰かが呼ぶ声がする。
聞いた事のない、自分よりも小さい子の声だ。
「……姫歌、気を付けて」
目が開けられない。
意識がハッキリしていないからなのか、耳を済ませてようやく聞こえるくらいの声。
「……だ……れ」
「……私はあなたのもう1人のあなた…。姫歌、気を付けて……修道服の人達…みんな危ない、言うこと聞いたらダメ」
「しゅ…う…どう…ふく」
「……気を付けて」
わけが分からないまま意識が遠のく。
そしてその声は聞こえなくなった。
「……ぅ」
次に気付いた時、姫歌はベッドの上だった。
視界にあるのは、自分に繋がりポタポタと落ちている点滴。
気を失ってからどのくらい経ったのだろう。
それがどうでも良くなるくらい身体が石のように重かった。
「…気がついた?気分は?話せそうか?」
知っている声、大好きな人の声だ。
いつも自分に話しかけてくれる時は、とても優しい、安心する白羽の声だった。
目があまり開かないし、話すどころかまだ起きられそうにない。
少しだけ眼球を動かす。
いつもの白羽の姿があった。
無事に帰ってきてくれて嬉しいはずなのに、瞼が重い。
「……」
「……まだ無理そうか。大丈夫、隣にいるから、ゆっくり休めばいい」
その言葉を聞いた瞬間、また姫歌は眠りにつく。
相当身体に負荷がかかったのだろう、初めて変身した時よりも回復速度は遅く、反応も悪い。
時間経過で良くなると分かってはいても、姫歌が回復するまで白羽も離れるつもりはなかった。
部屋にあるソファで仮眠をとる時も、朴木が来てくれ、交代で姫歌を見ていた。
姫歌には身寄りがいない。
だからその事で寂しい思いをさせたくなかったのだ。
「白羽坊っちゃま、少しお休みに…」
心配した朴木が部屋を訪れた。
「ありがとう朴木…」
「姫歌様…今回は大分消耗されているようですね」
「あぁ…さっき1度目を開けたんだけど…、まだ無理だったらしい。声をかけてこっちは見たから、わかってはいたんだと思う…。休めって言ったらすぐ寝たよ」
「敵も学園に人がいない時を狙ってきたと聞きました…、頑張って戦ったのでしょう。早く回復されるといいですね」
「…あぁ」
そう朴木と白羽が話をしてから、実際に姫歌の意識が戻ったのは更に2日後の朝だった。
「……眠い…」
それが姫歌がまた起きてからの第一声だった。
沢山寝たはずなのに、それでもまだ眠かった。
でも身体の重さは大分軽減されている。
状態を起こして座れるようにはなった。
「おはよう…今回は消耗が激しかったから、そのせいだな」
「……あ…白羽くんだ…、おかえりー…」
どっちがおかえりなのだろうか。
白羽からしたら姫歌の方がおかえりなのだが。
まだ少し寝ぼけているような…うっとりしているような…ふわふわしている姫歌。
放っておいたらまた寝ていそうだ。
「話せるようにはなったな」
「うんー…、でもまだふわふわするー。眠いような感じ…」
「徹とか鴨跖草さんとか、みんな心配して様子見に来てたぞ」
「あー…、ごめんなさい」
「謝ってもどうにもならんだろう…」
「そーだけどー…」
「連絡しとくか?」
「んー…ちょっと…、まだ…頭がー…働かないー…。もう少し…待って」
「ん…」
受け答え方も何となくしまらない。
気分的には小さな眠い子どもと話しているようだった。
ふわっとしてるのはいつものことだが、さらにふわふわしている。
いつもの姫歌ではないのがまた、白羽にとっても可愛くて和む。
座ったまま、コクコクと眠そうな姫歌。
その状態がお昼になっても抜けなかった。
「お腹空いたぁー…、でも眠い…」
「何かちゃんとしたもの食べた方がいい。久しぶりの食事なら胃に優しい物がいいとは思うが…、お粥とか…」
「……お粥やだー…嫌いー…」
「ふむ…ならうどんとかだな」
「おうどん…おきりこみ…食べたいなぁ…」
おきりこみ、軍那の郷土料理の1つだ。
類似するものとしてほうとうがあげられる。
根菜類やネギと一緒にうどんを煮込み食べるのだが、身体も暖まりとても美味しい。
「作ってあげられたらいいんだがな…」
「作れるのー?」
「家に帰れば…」
流石に病院の食堂にある厨房を借りる訳にもいかない。
退院したら作ってもらう約束をして、とりあえずお昼は病院で出される食事を食べた。
「ご馳走様でした」
ご飯を食べた事で少し身体に活力が戻ってきたらしい姫歌。
顔色も少し明るくなったように見える。
それを見計らって、白羽が質問をしてきた。
「学園が襲われた時のこと、教えてもらえるか?」
「えと…どこから話したらいい?」
「徹や先生がわかる範囲の事は教えてくれた。でも、どうして桜川があの場所にいたのか、その後現れた巨大なベヒーモスや、それを倒したって言われてるDiva angelを見たりとかしてないか?」
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