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52.好きだ
しおりを挟む「僕に似た君の兄さん、イサリくんと鏡の悪魔はどうやって知り合ったのかな」
ナイトがどうしてこの兄弟の前に姿を現したのか、早く知りたかった。
「僕も詳しいことは聞いていないんです。亡くなるずいぶん前に出会っていたようですが。最初、兄さんから悪魔と会っているって聞いた時は心配しました。その時の僕には悪魔って神様と対立している邪悪な印象しかなくて」
「対立? たまにするけど今のところ九対一で悪魔の方が正しいよ」
「僕も兄さんから悪魔が優しいなんて話を聞いて、兄さんがだまされいるんだと思いました」
なんだか悪魔が気の毒になってきた。名前が悪いのか。それとも完璧なものほど不完全が大多数を占める人間の中では排除の対象になるのか。
「僕は兄さんが殺されたんだと思っています」
「え?」
僕は足を止めた。
「どういうこと。その悪魔に殺されたとでも?」
ナイトがそんなことをするわけがない。
「いいえ、何か別のものにです。兄さんは幽霊に狙われてるって言ってました。悪魔は幽霊から兄さんを守っていたのだと思います」
ナイトがこの子のお兄さんを守るか……人間の世界に干渉するのは神様の仕事で、普通なら悪魔は関心すら持たない。マツリくんが続ける。
「最初に会った時、前も言いましたが、兄さんが死んだ日です。悪魔は僕を優しい目で見ました。兄さんは『悪魔』とだけ言ってその見た目のことはあまり話してなかったんで、ちょっと恐ろしいものを想像していたんですが、でも何ですかね、僕がまず思ったのは、悪魔がこんなにきれいじゃ駄目だろうってことでした。あれじゃあ簡単に惑わされます」
「惑わされてもいいんだよ、悪魔には」
僕は真面目に言ったのにマツリくんが笑う。
「今はシロキさんを信じます。その悪魔は目と同じ優しい口調で僕に言いました。『お前、兄さんの魂を守れるか?』って。魂を守るって、どう言う意味だったんでしょうか」
僕は少し胸騒ぎがした。幽霊の正体も、ナイトのやろうとしたことにも心当たりがある。
「それで……その時、悪魔は君に何かした?」
「それが覚えてないんです。記憶がなくて。動揺してたのかな。でも気がついたら、僕は死んだ兄さんに覆いかぶさっていて、悪魔が『お前は良く守ったよ』と慰めてくれたことは覚えています。肩に置かれた温かい大きな手はしっかり記憶にある」
「そう……ありがとう、話してくれて。きっと悪魔の言った通りだね。君は良くお兄さんを守ったよ。君のことは僕が守るよ。悪魔が君の兄さんを守りたかったように僕もそうしたいんだ」
マツリくんは何かを確かめるように自分の胸に手を当てて僕を見た。
「シロキさんが僕を、ですか。どうしよう、嬉しい。でも何でそこまで。悪魔だってどうして兄さんを守りたかったんでしょうか」
「会ったら直接聞くさ」
そう言って僕は氷像の参道を抜け、鏡の短冊が並ぶ拝殿前に出た。
ナイトがどうしてこの兄弟の前に姿を現したのか、早く知りたかった。
「僕も詳しいことは聞いていないんです。亡くなるずいぶん前に出会っていたようですが。最初、兄さんから悪魔と会っているって聞いた時は心配しました。その時の僕には悪魔って神様と対立している邪悪な印象しかなくて」
「対立? たまにするけど今のところ九対一で悪魔の方が正しいよ」
「僕も兄さんから悪魔が優しいなんて話を聞いて、兄さんがだまされいるんだと思いました」
なんだか悪魔が気の毒になってきた。名前が悪いのか。それとも完璧なものほど不完全が大多数を占める人間の中では排除の対象になるのか。
「僕は兄さんが殺されたんだと思っています」
「え?」
僕は足を止めた。
「どういうこと。その悪魔に殺されたとでも?」
ナイトがそんなことをするわけがない。
「いいえ、何か別のものにです。兄さんは幽霊に狙われてるって言ってました。悪魔は幽霊から兄さんを守っていたのだと思います」
ナイトがこの子のお兄さんを守るか……人間の世界に干渉するのは神様の仕事で、普通なら悪魔は関心すら持たない。マツリくんが続ける。
「最初に会った時、前も言いましたが、兄さんが死んだ日です。悪魔は僕を優しい目で見ました。兄さんは『悪魔』とだけ言ってその見た目のことはあまり話してなかったんで、ちょっと恐ろしいものを想像していたんですが、でも何ですかね、僕がまず思ったのは、悪魔がこんなにきれいじゃ駄目だろうってことでした。あれじゃあ簡単に惑わされます」
「惑わされてもいいんだよ、悪魔には」
僕は真面目に言ったのにマツリくんが笑う。
「今はシロキさんを信じます。その悪魔は目と同じ優しい口調で僕に言いました。『お前、兄さんの魂を守れるか?』って。魂を守るって、どう言う意味だったんでしょうか」
僕は少し胸騒ぎがした。幽霊の正体も、ナイトのやろうとしたことにも心当たりがある。
「それで……その時、悪魔は君に何かした?」
「それが覚えてないんです。記憶がなくて。動揺してたのかな。でも気がついたら、僕は死んだ兄さんに覆いかぶさっていて、悪魔が『お前は良く守ったよ』と慰めてくれたことは覚えています。肩に置かれた温かい大きな手はしっかり記憶にある」
「そう……ありがとう、話してくれて。きっと悪魔の言った通りだね。君は良くお兄さんを守ったよ。君のことは僕が守るよ。悪魔が君の兄さんを守りたかったように僕もそうしたいんだ」
マツリくんは何かを確かめるように自分の胸に手を当てて僕を見た。
「シロキさんが僕を、ですか。どうしよう、嬉しい。でも何でそこまで。悪魔だってどうして兄さんを守りたかったんでしょうか」
「会ったら直接聞くさ」
そう言って僕は氷像の参道を抜け、鏡の短冊が並ぶ拝殿前に出た。
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