DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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47.ピリー

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入学式の日、代表挨拶としてリハーサルをしに体育館へ行った帰り、空とぶつかったのが徹の恋の始まりだった。
一目惚れだった。
可愛いと、一目見た時から心が揺さぶられた。
平常を装って話しかけ部活に誘って、本当に来てくれた時はとても嬉しかった。
その後の商店街への買い物に、白羽が誘った時は2つ返事で、肉屋のおばちゃんにからかわれた時も、照れくさくもあり実は嬉しかった。
学園以外に何度か会う回数を重ねて、会う度に知らない空を知っていくのがたまらなくて。
姫歌が始めて変身して戦った日、空が姫歌を心配してそばにいた後、門限を超えないように抱っこして送って行った時は夢を見ているようだった。
とても近い空との距離に、そのまま持ち帰りたい気持ちもあった。
先輩という言葉は付いていたけど、初めて名前を呼んでくれたその日は、1人になってからガッツポーズしていた。
今までファンになってくれた女の子達から、幾度となくアピールされたり、プレゼントを貰ったり、告白された事はあったけれど、空ほど心を揺さぶられた女の子は他にいなかった。
自分の事を心配してくれて、涙を流してくれたのは…
空が初めてだった。
今日徹は決心する。
戦いが終わったら、空にきちんと気持ちを伝える事を。
ちゃんと帰ると約束した、その言葉に嘘はつかない。
その決心を胸に、徹は改めてレオと対峙する。

「ほお…、さっきまでと目付きが違うじゃねぇか…なんか食ってきたのか?」
「あぁ…、大事なもん貰ってきたんでね、悪いが本気で行かせてもらう」
「おもしれぇ…、俺に勝つ気でいるその心、すぐへし折ってやる!」

——————————————————

「そろそろカニさん出すの辞めてもらってもいいですか?」

イチョウの木の太い枝の上、その小さなカニは姫歌のその言葉にびっくりしたように振り向く。
それもそのはずだ、自分が見つけられるとは思っていなかったのだから。
魔力を読み取るには相当な技術がいると、そのカニも知っていたのだろう。
だから見つからないように、魔力の強いイチョウの木を選んだのに、そんな事を言いたそうに見える。
だが、そのカニは何かを話す様子はない。
恐らくカニを量産している反動で言葉を失っているのだろう。
姫歌を見つめるそのカニの大きさは、少し大きめのサワガニと同じくらいのサイズ。
話し合いで解決できるなら、そんな事を考えるのは、姫歌のお人好しが過ぎるところだろう。
敵側は容赦などない。
姫歌がカニを捕まえようと、手を伸ばした時だった。
気付いた時には、カニのハサミが巨大化し自分の首元に伸びている。

「……えっ」

ハサミは躊躇なく閉じる。
姫歌の首をもぎ取るように。
カニの目にはハッキリと、胴体と頭が別れた事が確認出来た……はずだった。
満足気に勝ち誇ったような目をしたそのカニは、瞬時に上から振り下ろされた鍵により潰れる。

「残念です、せっかく話し合おうと思ったのに」

もぎ取ったと思った姫歌の首は、予め用意してあった分身だった。
祖母から敵と対峙する時は、出来るだけ分身を作るように言われていた事が功を奏した。
そしてそのカニは一言も話すことはなく、そのまま息絶える。
本体が消えたのならばもう、これ以上校庭にカニが増えることはないだろう。

「先生たちに伝えにいかなくちゃ」

姫歌はイチョウの木を後にした。

——————————————————

「ちょこまかとおおぉ!!」

顔に傷をつけられた水瓶女、もといアクエリアスは怒りに満ちていた。
何度も飛んでくる水の雨。
それをいとも簡単に避ける山田。
しかしそれでもそのまま避け続けていたら、体力を消耗するだけだ。
避けながらも何度か矢を放つ。
しかしそれは山田が避けるのと同じように、相手も避けていく。
屋上では分が悪い、身を隠しながら戦った方が優位になるかもしれない。
そう思った山田は屋上から飛び降り、地上へと戦場を移すことにした。

——————————————————

変身呪文を唱えた空が白い霧に包まれ、その後姿を現す。
チアガールの衣装とセーラー服を合わせたような衣装に身を包み、手には星と羽で飾られた拡声器を持ち、空の周りには座れるふわふわと浮かんだ椅子と、画面モニターとキーボードが空中に映し出されていた。

「ピリー!初出動!!よろしくおねがいしますっ」

その声の主は、電球のようなボディとその下に差し込みプラグが付いたマスコット。
声にびっくりした空がふわふわと浮かぶピリーを見上げた。
不思議そうな顔をしながら、しっぽと思われるコード部分を引っ張る。

「キャー!空さまくすぐったいですよぅ!」
「あ…あなたはなに…?」
「わたくしピリーと申します!空さまの情報収集、解析等のサポートさせていただきます!」

そういうとピリーは自分の居場所、空の周りに展開されているキーボードの横にあったコンセントにしっぽを突っ込み光った。

「接続完了!さぁさぁ空さまもこの椅子に座って!」

空も言われるがまま、ふわふわと浮いた椅子に腰かけた。
落ちないように透明のシートベルトが装着され、そのまま空とピリーは上空へと浮上する。
学園を上から見下ろすのは初めてだったが、おかげで学園内の状況がよくわかった。

「上空より学園内に範囲を絞り、現在の状況を確認します!」

ピリーの色が赤色に変わる。
少し時間をかけるにつれて色が緑そして青へと変化していった。

「完了!エリア別に危険なところを表示します!青が安全エリア、赤に行くほど危険です!」
「確認する」

モニターを確認する。
アリーナエリアは青色。
屋上エリアは緑色、一部黄色。
校庭エリア黄色。
校舎エリア黄色、一部オレンジ色。

「オレンジ…」
「大分消耗していらっしゃる方がいるようですね…」
「徹…先輩…」

空の胸がぎゅっと苦しくなる。
変身はした、こうやって今上空にいる。
あとはどうにかして徹の役に立ちたい。

「私…どうしたらいいんだろう。徹先輩の為に何かしたい…でも、何をしたらいいかわからなくて…」
「空さま、簡単です。歌えばいいんですよ!」
「えっ…歌?だって私聖歌育成じゃないし…、そんなに歌もうまくないし…」
「違いますよ空さま、マイストーンが1番反応するのは想いの強さです。空さまが伝えたい気持ち、届けたい想い、それに反応し変換出来るのがこのマイストーンなのです」
「私に…出来る…こと」
「そうです、今そら様が口に出した人物こそ、今1番想いを届けたい人なのではないですか?」

そうだ…今の自分がすぐ出来ること。
もし自分の歌で、徹の力になれるなら。
1度深呼吸して空は気持ちを整える。

『大丈夫、私の素直な気持ち…届けるよ…あなたに』
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