DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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46. 欲しいもの

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校庭の四方八方からカニが湧き出す。
それはまるで本体が自分の居場所を悟られないようにしている行動に見えた。
カニ達が全部本物で巨大化するとしても、それを生み出している本体はもっと魔力が強いはずだ。
生き物であればすべてにおいて、魔力は存在する。
それを開花できるかどうかは個々の能力と、きっかけ、個人差がある。
例えばそれが植物であったとしても、長年生きているのであれば力を持ち、周りの植物たちに影響を与えたり、1年中花が咲き誇ることもあるのだ。
そんな大きな魔力を持った植物存在が近くにいれば、自分の魔力の存在も隠すことができる。
姫歌はきっと本体がそうなのだろうと考え、学園内にいるだろう存在を探していた。
個々の魔力を読みとることは、誰にでもできることではない。
訓練しても習得は相当な時間を要する。
Sクラスで戦闘慣れをしている徹ですら、ある程度しかわからない。
それだけ読み取ることは難しく、繊細で、素質と技術が必要なのだ。
姫歌がそれができるのは、山奥で師匠だった祖母に戦いも読み取りも訓練されたからだ。
祖母も読み取りができたため、姫歌はそれを受け継いだ形になる。

『本体…どこだろう…』

学園内、しかも校庭が見える範囲に集中し本体を探す姫歌。
桜の木、梅の木、楠木…。
学園の歴史も長く、その敷地内にある木々たちもさそこそこな魔力を秘めている。
と、校庭の隅に1本だけ柵に囲われて大事にされているイチョウの木をみつける。
樹齢はとても古く、500年は経過しているようだ。
魔物が現れるずっと前から、このイチョウの木は見守ってくれている。
魔力も大きい。
ふと、イチョウの木の魔力に重なるように、流れの違う魔力を感じた。
太い枝の上から、校庭を見下ろすように居座っているのは、まさしくカニの形をしている。

「いた…あそこだ…」

——————————————————

「……ぐうっ!」

重い拳、下がらないスピード、失われていく自分の体力。
はぁはぁと息を切らしながら、苦しそうにする徹にレオが笑う。

「たいしたことねぇなぁ、この学園も。俺たちに対抗しようと思ってココがあんだろ?それなのに強いのはお前だけか?」

わかって言っている。
徹以外に自分の相手ができる人間がいないのだと…。

「まぁ…今は…いないだろうが…、俺だって簡単にお前にやられるつもりはねーよ」

ふっ…と笑いながら返す徹に、また容赦なく繰り出される攻撃。
それでも頑張ってついていく徹と、目を光らせながら打撃攻撃を繰り出すレオ。
ぶつかり合う2人が、小休止で距離を取る。

「お前…名前は何という」
「んなもん聞いてどうするんだよ…」

息の荒い徹にレオが問う。

「お前はもうすぐ消えるのだから、せめて俺の頭で覚えてやろうと思ったのさ」
「はぁ?」
「何…そろそろお疲れの頃合だよなぁ?俺なりに早く終わらせてやろうって優しさよ。くぅー!俺って良い奴ー!」

そう言うとレオが力を入れ、内側から魔力を解放する。
身体は膨らみ、目は赤く光り、毛は逆立つ。
一回り大きくなったレオは、フウゥーと息を吐きながら徹を睨みつけた。
と、次の瞬間……

「ぐあっ…!」

一瞬だった、自分の前にレオが移動した事すら分からなかった。
懐に入られレオからの強烈な打撃をくらい、徹が吹っ飛ばされ、校舎に激突した。
勢いよく叩きつけられた身体で、校舎の壁がひび割れる。
その衝撃で徹は肩と頭を負傷した。
もし変身していなければ即死していただろう。

「徹先輩!」

アリーナを抜け出して物陰から様子を伺っていた空が、吹っ飛ばされた徹を見て叫ぶ。
心配でいてもたってもいられず、徹のそばに駆け寄る空。
変身していて軽減されているとは言え、その衝撃はかなりのものだったらしく、徹は頭から出血していた。

「…空…どうして…ここに…」
「ごめんなさい…でも、じっとしていられなくて…」
「ここは…危ない。早く避難しないと…」

そう話しているうちに徹が危険を察知し、素早くテレポートする。
そのテレポートの直後、繰り出されたレオからのパンチは、勢いよく壁にぶつかり、更に校舎のひび割れを広げた。

「ちっ…逃げやがって」

レオが悔しそうに唾を地面に吐き捨てている。
徹がテレポートした先は屋上だった。
姫歌が屋上のメンバーを守るために張ったバリア、その中へ空を避難させようと考えたのだ。
ゴホゴホと咳き込んだ徹がその場に現れるとすぐ、救護班が徹に回復魔法をかけるが、まだ未熟な故回復は遅く、回復量もそこまで多くないようだ。
今にも泣き出しそうな顔で、空が徹を見ている。
目の前で好きな人が血を流し戦っている現状を見るのは空にとっては初めてで、何も出来ないでそこにいる自分が悔しくて仕方ない。

「ここに居れば大丈夫、ここから動かないで」

そう徹が空に告げる。

「まだ…戦うの?そんな状態…なのに…」

本当なら行かないでと言いたい。
もう苦しそうに血を流している徹を見たくなかった。
空は涙を流しながら徹の手を握りしめて伝えた。
でも心の中では空も、きっと今戦えるのは徹にしか出来ないのだろうと分かっている。

「他にSクラスの奴いないしね、俺がやるしかない。先生も皆も戦ってる。戦えない人達を守るのが俺の仕事だ。それに…」

徹が空を見つめて微笑みながら言う。

「最近守りたい人が増えた」

それは他の誰でもない、徹から空に向けての言葉だった。
目を見開いて驚いたような表情をする空。

「徹…せん…ぱ…」
「大丈夫、簡単にやられたりしないし、ちゃんと帰ってくる。応援、してくれる?」
「うん…」
「じゃ…応援ついでに、1つほしいものがあるんだけど」
「…何?」

直後、自分の身に起きた事を空は直ぐに理解する事ができなかった。
視界に入りきらない程近い、目の前にある徹の顔。
自分の唇に伝わる徹の柔らかな唇の感触と体温。
一瞬の事だった。
徹が離れて少年のように、にひっと笑いながら屋上から飛び降り去っていく。
その頃に、空はようやく理解する。

「うそ…、キス……」

顔を真っ赤にしながら、自分の顔を手で覆い隠し固まる。

『…こんな…時に、……ばか』

タイミングが些かびっくりしたものの、徹が欲しいと願ったものが自分であったことに、嬉しさと恥ずかしさが込み上げた。
そして固まっていたのは空だけでなく、回りにいた学生達も同じだった。
きっと学園で噂になるのだろう、姫歌と同じように。
でも今はそれを心配している場合ではない。
徹はまた戦うために飛び降りて行った。
空は顔に当てていた手を開き、真剣な顔をして立ち上がる。

『徹先輩はみんなの為に頑張ろうとしてくれてる。それなら私も…自分に出来ることがしたい。サポートしたい…、応援の声を…届けたい!!』

空の気持ちに反応して、身につけていたマイストーンが光る。

「この感覚は…」

内側から力が溢れてくる、頭が冴え渡り、自分の身体が覚醒しようとしているのがわかった。

【地球を守護せし宝珠よ、我と共に轟け、Loudspeaker!】

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