DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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45.混沌

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姫歌が惑星を模った鍵の杖を構える。
Universe key(宇宙の鍵)とその杖に名前をつけたようだ。

【宇宙の鍵よ、我の望みし場所にいる者たちを守れ!Holy wall!】

そう唱えると、屋上にいる部隊と機器を取り囲むように、透明の壁が出現する。
それは透明で、少し黄色い色がついており、特定の入り口以外からの入退出を許さない。
眼で見てわかる範囲を目印にすれば安全であり、情報収集も容易にできそうだ。
それを見た野崎が不思議そうにその壁を手の甲でコンコンとノックする。
変身していれば魔力がそこにあり、どの程度の強度があるのか把握できる。

「なんて強度…、桜川さんって聖歌だけなのでしょう?どうしてここまで…」
「私の祖母が、もともとここの学園の先生なんです。基礎的な戦術や知識は子どもの頃に一通り教わりました。そのせいかもしれません」
「だとしてもこれは…、Aクラスの人間でもここまでの強度の壁作り出せるなんてごくわずかだわ。才能があるってことね、頼もしいわ」
「お役に立ててよかった。あっ…反対側のほうの部隊にも同じものを作ってきます」

そういうと姫歌は反対側の棟へ向かって飛び立つ。
山田へ事情を説明し、同じ呪文を唱えると壁を作り上げる。
その壁を見ると山田にも野崎と同様の質問され、姫歌は同じように返した。
姫歌は自分の能力についてどれだけの物なのかを把握していない。
それが他人にとって凄いものだったとしても、今までそれを比較する対象がいなかったのだ。
野崎達がいるほうの棟へ姫歌が戻り、情報技術部隊と一緒に状況を把握する。
たくさんのカニの群れ、それを駆除していく先生達。
その横から襲う洪水のような水、そして徹が獣人とやりあっているのが見えた。

——————————————————

「くっそ、キリがない」

倒しても倒しても次々に沸いてくるカニの群れに、嫌気のさした声。
学園直属の専属騎士ですら、弱音を吐く。
そのはずだ、図体がでかいだけでなく、そこそこのパワーを持つ攻撃を何回もかわし、受け流していくうちに体力は消耗する。
それと共に降り注いでくるのは、大量の水。
濡れれば濡れる度、体温も下がり動きは鈍くなる。
ハアハアと息を切らしながら戦う先生達。
それとは裏腹に、敵の体力は有り余っており、その光景をあざ笑うように繰り出される攻撃。

「カニだけでもなんとかしないと!増殖元はどこだ!」

そんなものを探している余裕はない。
四方八方どこからやってくるかわからないカニの足と、水瓶女の水。
唯一徹がタイマンで獅子の獣人とやりあってくれているだけでも、まだ状況の打破はできそうではある。
このまま戦闘が長引けば、確実に学園側が不利だ。

「あーあ、ただ単にお水流すのにも飽きてきちゃった…。あなたたち全然手ごたえないんだもの。そろそろ苦しみあがく声でも聞きたいわ。うふふ…」

と、水瓶女がそう言いながら少し上空へ距離をとった。

【降り注ぎなさい アシッドレイン!】

その言葉はまさしく酸性雨だった。
しかもその酸性雨は地球に降り注ぐ生易しいものではない。

「ぐあぁぁっ!」

戦っている専属騎士に酸性雨が当たる。
当たった場所から溶けていく服と皮膚。
火傷のようになっていく身体に激痛が走る。
それでも水瓶女からの攻撃をカニを使いながら避け、自前の技と武器を振りかざし、数を減らそうと必死になる先生達。
ここで諦めるわけにはいかない。
守らなくてはならない生徒が、町が、学園があるのだから。

耳を澄ませ 目を開け
大事な人を 守るために

いつも通りの日常
自分を囲む たくさんの声
時々君と 喧嘩したり
時々君と 冗談を言う

そんな日常を脅かす 存在がいるから
私は戦う 君との大切な時間を 過ごしたいから

耳を澄ませ 目を開け
大事な人を 守るために
声よ届け 心の奥まで
君と私の 明日のために

そして聞こえてきたのは、生徒たちの歌声。
屋上から先生達を応援するように響き渡る歌声は、先生たちの傷を癒し、奮起させ、ステータスを上げた。

「そうそう…これこれ。ここで終わるわけにはいかねぇのよ!」
「生徒達の前で…かっこ悪いところなんて見せられないわ」
「模範を見せないで、誰が見せるってんだ!」

【空気を裂け!疾風鳥!】
【砕け散れ!爆裂苦無!】
【瞬き厳禁!裂空光斬!】

次々に繰り出される大技により、カニの数が減っていく。
それを見た水瓶女は悔しそうにまた酸性雨を降り注がせようと構えた。
それを見た山田が屋上から水瓶女に向かって矢を放つ。
楓真よりも威力はないが、正確な位置に放った矢は、水瓶女の頭めがけて飛んでいく。
水瓶女が攻撃する直前、その矢に直感で気付き、避けたが頬をかすめた。
そして切れた頬から垂れる血にを確認すると、水瓶女は激怒。

「私の…大事な顔に…よくも…よくもおおおぉぉっ!」

——————————————————

一発一発の攻撃が重い。
殴り合って攻撃を真正面から受けていたら、腕や足が何本あってもたらないだろう。
獣人とやりあっていた徹はどのくらい打撃をうけただろうか。
学園Sクラスに所属していて、その中でも随一の素早さを誇る徹ですら、重い攻撃とかろうじてこちらが早いという相手に苦戦していた。
名をレオと呼ぶライオンの姿をした彼は、徹との戦闘を楽しんでいるようだ。

「お前…俺相手にまだ本気を出してないな…?面白い…、その本気を見せてもらうまで俺は攻撃するのみだ!」

幾度となく繰り返される拳、脚、体当たり。

「ぐっ…」

徹は近接戦闘向きではない。
でも今自分以外にこの獣人相手に張り合える人物がいるとも思えない。
何度も何度も繰り返される攻撃を、致命傷にならないようにかわす。
素早く移動し相手の背後を取り、蹴りを入れたり、中距離から攻撃をしたりもした。
しかし、それがレオに効いた様子もなく、かわしてはちまちまと攻撃を繰り返す。
時々足を掴まれて吹っ飛ばされるも、持ち前の素早さでなんとか体制を立て直す。
だがそれもずっと続けられるわけではない。
自分の体力がどこまで持つかなんて、続けているうちにわかる。

『まいったなぁ…、俺この手の相手…苦手なんだけどな…』

徹の身体は繰り返される攻撃により痣だらけになっていた。

——————————————————

時は少し遡る。
校内放送でアリーナへと非難するように言われた空は、その放送に従い移動していた。
移動する最中、頭の中を駆け巡るのは、戦いに赴くだろう姫歌と徹の事。
自分は変身ができない、だから仕方ない。
そう言い聞かせながらアリーナへと入った。
でも中に避難してからも空は席へ着くことはなかった。
トイレに行きたいと先生に許可をもらい、トイレへと入る。

『二人が戦ってるのに…私には何もできないの…?それにもし…徹先輩に何かあったら…』

今の自分にできる事はないかもしれない。
でも何もせず避難先でじっとしているなんて耐えられなかった。
応援くらいならできるかもしれない、そう思った。
1階のトイレには、少し高いが窓があった。
空は決心すると、近くにあった流し台によじ登り、窓へと手をかける。
鍵と窓をあけると、そこから外へと飛び出した。
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