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41.旅行計画
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姫歌の質問に朋羽の顔が真剣になった。
「姫歌ちゃんと出会って帰ってきた後、だから11歳の時だね」
「…何があったのか…、よかったら教えてください」
その言葉に朋羽は申し訳なさそうに俯く。
「ごめんね…、俺もよく知らないんだ。病院で検査しても何も悪いところがない。ただ、ドイツに戻ってきた時にそれを発症したのは確定してる」
「ドイツに…いた頃に…」
「…」
隣にいる白羽はいつもの事のようにため息をつく。
話せなくなってもう7年が経った。
自分が知っている限りのことをどうやったら人に伝えられるだろう、そう思って努力しようと試みたこともあった。
でも白羽にまとわりついているソレは、状況の説明を許してくれようとはしない。
いろいろな資料を読んでも、詳しいことがわかるわけではない。
ただ、一つわかったのは呪いの類であるということ。
そして現時点で解除方法はわからないと言うことだった。
「姫歌ちゃんにもいろいろ迷惑かけるね」
「いえ!とんでもないです!こうやって迎えていただけて、私にはかけがえのない場所ですから」
朋羽と姫歌が話しているのを聞いている白羽が、ふと玄関の方に移動し、窓から外を見た。
そこには連絡したグループの皆が、門を通って入ってきている。
見る限り誰も欠けてはいないようだ。
「来たぞ」
2人にそう告げると、姫歌が玄関へ移動しドアを開ける。
いらっしゃいと言いながら皆を迎え入れた。
「お邪魔します!」
「いらっしゃい、徹くんも楓真くんも楓ちゃんも久しぶりだね。おや、今回はまた随分と人数が増えたね?」
その兄の言葉に、徹や楓真、楓が返すと、続けて空達がはじめましてと言いながら挨拶した。
簡単な自己紹介も終わり、広いリビングも皆が座り賑わっている。
朴木が人数分のカップと飲み物をワゴンに入れて持ってきてくれた。
「さて、皆集まったところで質問だ。せっかくの休みだし、何かやりたいと思っているんだが、候補はあるか?」
白羽が皆にそう尋ねると、前回集まった時と同じような回答が帰ってくる。
ただ前回楓真と楓はいなかったので、2人の意見を出してもらう事にした。
「そうだなぁ、私は皆と行けるところであれば、どこでもいいのだけれど、強いて言うなら、避暑地が良いかな」
「私も皆に合わせる」
前回と同じ意見と合わせて白羽がまとめようとする。
候補としては
・キャンプ
・水族館
・避暑地
・テーマパーク
・ロボット展
・秋葉原
・温泉
という事になる。
もちろんこの全てを満たす夢のような場所がある訳ではない。
なのでこの中から2つくじ引きで選ぶ事にした。
じゃんけんをする。
3回あいこを繰り返し、グーとパーで決着がつく。
勝者は楓真と空だった。
それぞれ小箱から紙を選び取り出す。
「避暑地」
「キャンプ」
選ばれた候補を楓真と空が読み上げる。
そしてそれぞれがそのイメージに合った場所の候補をあげていった。
重井沢(かさいさわ)
古くから避暑地として人気の観光スポットである。
そこにいた大多数が避暑地のイメージとしてそこを上げたため、重井沢に行くことはほぼ決まった。
その話を聞いていた朋羽が近くにいい場所があると紹介してくれる。
重井沢がある中野と隣にある軍那の間には臼川峠という有名な坂がある。
その近くにバーベキューと宿泊できるコテージがあるというのだ。
しかもその隣には温泉施設があるという。
候補の中に温泉という選択肢もあったことから、夏休みはそこへ行って皆で観光することになった。
「ちょっと忘れ物しちゃった、自分の家にいってくるね」
と…、姫歌そう言い席を外して外へ出た。
別に忘れ物があったわけではない。
外の空気が吸いたかったのだ。
軍那は姫歌が産まれ育った場所…。
白羽と初めて出会った場所でもある。
ただ姫歌にとってその場所は、とても重く、嫌な思い出が渦巻く土地なのだ。
皆の雰囲気を壊したくない、少し気分を入れ替えよう、そう思って自分の家で一度気持ちをリセットしようと考えた。
「ふぅ…」
家に入って深呼吸をした。
少し呼吸を整えると、ピコンとスマホの音が鳴る。
確認すると白羽からメッセージだった。
「今度行くことになった場所、桜川の故郷近いはずだが、大丈夫か?」
現段階で、姫歌がどこの出身で、どういう環境で育っているのか詳しくわかってくれているのは白羽だけだ。
皆の空気を読みながらも、雰囲気を壊さないように心配してくれている。
「ありがとう。あの時は一人だったけど、今度行くときは一人じゃないから、大丈夫だと思う」
「何かあったらすぐ相談してほしい。一人で抱え込むなよ」
「うん…もしね、嫌な気持ちになったとしても、私は逃げちゃいけないと思うの」
「苦しくならないか?」
「苦しくないって言ったら嘘になると思う。でも、嫌な思い出…書き換えたい。上書き保存したいんだ、皆との楽しい思い出に。だから…手伝って…くれる?」
「あぁ、もちろん」
その言葉を見て姫歌はとても嬉しく、スマホをぎゅっと胸に押し付けた。
『大丈夫…一人じゃない、白羽くんも、みんなもいてくれる』
自分の頬を両手で叩き、よし、と気合を入れ直す。
そして、皆のいる本館へと戻った。
「あっ!姫歌おかえり!今ね、宿泊予定のところのコテージ見せてもらってるの!」
本館へ戻ると、空が帰ってきた姫歌に手招きしている。
近寄ると、朋羽がタブレットで皆に施設の案内を見せているところだった。
保護者も当然必要になるので、もちろん兄と美津子、朴木も同伴する。
そうなると泊まるのは男性と女性がそれぞれ分かれて泊まれる大きさのコテージだ。
6人用のコテージをそれぞれ二つ借りることになった。
夏休みの旅行概要はこうだ。
場所:重井沢周辺
日時:8月20日~22日
集合:白銀家
集合時間:朝8時
移動方法:バス
朋羽がバスを用意してくれるらしい。
しかも普段学校で用意してくれる一般的なバスではないのだとか。
皆がその言葉を聞いてワクワクしているようだ。
5月に行われた林間学校では、姫歌も亮も愛莉も楽しむことはできなかった。
でも今回の旅行は、親しい仲間と一緒に行けるのだ。
これが楽しくないわけがない。
来月の旅行を楽しみにしながら、皆で何をしよう、どこへ行こうと語っているだけでその空間に入れることすら楽しい。
姫歌にとっては親しい友達がこんなにできることすら初めてなのだ。
初めての仲間との思い出作りに、心躍らせる。
大体の行く場所とスケジュールを決めると、昼食を皆で食べ、その日は解散になった。
「姫歌ちゃんと出会って帰ってきた後、だから11歳の時だね」
「…何があったのか…、よかったら教えてください」
その言葉に朋羽は申し訳なさそうに俯く。
「ごめんね…、俺もよく知らないんだ。病院で検査しても何も悪いところがない。ただ、ドイツに戻ってきた時にそれを発症したのは確定してる」
「ドイツに…いた頃に…」
「…」
隣にいる白羽はいつもの事のようにため息をつく。
話せなくなってもう7年が経った。
自分が知っている限りのことをどうやったら人に伝えられるだろう、そう思って努力しようと試みたこともあった。
でも白羽にまとわりついているソレは、状況の説明を許してくれようとはしない。
いろいろな資料を読んでも、詳しいことがわかるわけではない。
ただ、一つわかったのは呪いの類であるということ。
そして現時点で解除方法はわからないと言うことだった。
「姫歌ちゃんにもいろいろ迷惑かけるね」
「いえ!とんでもないです!こうやって迎えていただけて、私にはかけがえのない場所ですから」
朋羽と姫歌が話しているのを聞いている白羽が、ふと玄関の方に移動し、窓から外を見た。
そこには連絡したグループの皆が、門を通って入ってきている。
見る限り誰も欠けてはいないようだ。
「来たぞ」
2人にそう告げると、姫歌が玄関へ移動しドアを開ける。
いらっしゃいと言いながら皆を迎え入れた。
「お邪魔します!」
「いらっしゃい、徹くんも楓真くんも楓ちゃんも久しぶりだね。おや、今回はまた随分と人数が増えたね?」
その兄の言葉に、徹や楓真、楓が返すと、続けて空達がはじめましてと言いながら挨拶した。
簡単な自己紹介も終わり、広いリビングも皆が座り賑わっている。
朴木が人数分のカップと飲み物をワゴンに入れて持ってきてくれた。
「さて、皆集まったところで質問だ。せっかくの休みだし、何かやりたいと思っているんだが、候補はあるか?」
白羽が皆にそう尋ねると、前回集まった時と同じような回答が帰ってくる。
ただ前回楓真と楓はいなかったので、2人の意見を出してもらう事にした。
「そうだなぁ、私は皆と行けるところであれば、どこでもいいのだけれど、強いて言うなら、避暑地が良いかな」
「私も皆に合わせる」
前回と同じ意見と合わせて白羽がまとめようとする。
候補としては
・キャンプ
・水族館
・避暑地
・テーマパーク
・ロボット展
・秋葉原
・温泉
という事になる。
もちろんこの全てを満たす夢のような場所がある訳ではない。
なのでこの中から2つくじ引きで選ぶ事にした。
じゃんけんをする。
3回あいこを繰り返し、グーとパーで決着がつく。
勝者は楓真と空だった。
それぞれ小箱から紙を選び取り出す。
「避暑地」
「キャンプ」
選ばれた候補を楓真と空が読み上げる。
そしてそれぞれがそのイメージに合った場所の候補をあげていった。
重井沢(かさいさわ)
古くから避暑地として人気の観光スポットである。
そこにいた大多数が避暑地のイメージとしてそこを上げたため、重井沢に行くことはほぼ決まった。
その話を聞いていた朋羽が近くにいい場所があると紹介してくれる。
重井沢がある中野と隣にある軍那の間には臼川峠という有名な坂がある。
その近くにバーベキューと宿泊できるコテージがあるというのだ。
しかもその隣には温泉施設があるという。
候補の中に温泉という選択肢もあったことから、夏休みはそこへ行って皆で観光することになった。
「ちょっと忘れ物しちゃった、自分の家にいってくるね」
と…、姫歌そう言い席を外して外へ出た。
別に忘れ物があったわけではない。
外の空気が吸いたかったのだ。
軍那は姫歌が産まれ育った場所…。
白羽と初めて出会った場所でもある。
ただ姫歌にとってその場所は、とても重く、嫌な思い出が渦巻く土地なのだ。
皆の雰囲気を壊したくない、少し気分を入れ替えよう、そう思って自分の家で一度気持ちをリセットしようと考えた。
「ふぅ…」
家に入って深呼吸をした。
少し呼吸を整えると、ピコンとスマホの音が鳴る。
確認すると白羽からメッセージだった。
「今度行くことになった場所、桜川の故郷近いはずだが、大丈夫か?」
現段階で、姫歌がどこの出身で、どういう環境で育っているのか詳しくわかってくれているのは白羽だけだ。
皆の空気を読みながらも、雰囲気を壊さないように心配してくれている。
「ありがとう。あの時は一人だったけど、今度行くときは一人じゃないから、大丈夫だと思う」
「何かあったらすぐ相談してほしい。一人で抱え込むなよ」
「うん…もしね、嫌な気持ちになったとしても、私は逃げちゃいけないと思うの」
「苦しくならないか?」
「苦しくないって言ったら嘘になると思う。でも、嫌な思い出…書き換えたい。上書き保存したいんだ、皆との楽しい思い出に。だから…手伝って…くれる?」
「あぁ、もちろん」
その言葉を見て姫歌はとても嬉しく、スマホをぎゅっと胸に押し付けた。
『大丈夫…一人じゃない、白羽くんも、みんなもいてくれる』
自分の頬を両手で叩き、よし、と気合を入れ直す。
そして、皆のいる本館へと戻った。
「あっ!姫歌おかえり!今ね、宿泊予定のところのコテージ見せてもらってるの!」
本館へ戻ると、空が帰ってきた姫歌に手招きしている。
近寄ると、朋羽がタブレットで皆に施設の案内を見せているところだった。
保護者も当然必要になるので、もちろん兄と美津子、朴木も同伴する。
そうなると泊まるのは男性と女性がそれぞれ分かれて泊まれる大きさのコテージだ。
6人用のコテージをそれぞれ二つ借りることになった。
夏休みの旅行概要はこうだ。
場所:重井沢周辺
日時:8月20日~22日
集合:白銀家
集合時間:朝8時
移動方法:バス
朋羽がバスを用意してくれるらしい。
しかも普段学校で用意してくれる一般的なバスではないのだとか。
皆がその言葉を聞いてワクワクしているようだ。
5月に行われた林間学校では、姫歌も亮も愛莉も楽しむことはできなかった。
でも今回の旅行は、親しい仲間と一緒に行けるのだ。
これが楽しくないわけがない。
来月の旅行を楽しみにしながら、皆で何をしよう、どこへ行こうと語っているだけでその空間に入れることすら楽しい。
姫歌にとっては親しい友達がこんなにできることすら初めてなのだ。
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