DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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39.呪い

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楓真は見せられた欠片を手に取り手をかざして調べた。
しばらく無言のまま、一つの欠片だけでなく他の欠片も調べている。
そしてその欠片を楓真が思いつく順番で並べていった。
それがペンダントの正しい順番だとわかっているように。
楓真が並べ終えたそれは鎖がちぎれているとは言えペンダントの原型になる。
その状態になってからもう一度楓真が手をかざす。

「うん、やっぱりだ」
「何かわかったの?」
「ミルカが何をしようとしていたかまではわかららない。でも術が発動するように仕組まれた形跡はある」

楓真によれば、ペンダントを正しい順番で構築されている時のみ発動する呪いのようだ。
現在は割れて粉々になって塵になって消えてしまった、アイアンクロスにあった宝石が、一番強い魔力を秘めていたらしい。
それもただ単なる呪いではなく、手の込んだ、一人でできるような物ではないという。
そのペンダントを見ながら、楓真がはっとした。

「どうしたの?楓真」

隣にいた楓が聞いても、すぐに返答しない楓真。
するとおもむろにベンチに腰かけている白羽の方へ近づき、右手に触れ指輪を確かめ始めた。

「…楓真…?」
「…一緒だ…。同じものを感じる」

目を見開いて少し驚いている白羽。

「もちろん白羽が話せないのは知ってる。ただ痕跡が今回のと…似ているんだ…。白羽のは作られたのも、発動もしてからも、もう随分経過してる。全部同じではないけどやっぱりこれも一人でできるような物じゃない。今回の物と白羽の物、同じ人物が関係している可能性がありそうだね」
「ミルカさん何者なんですか…」

隣で聞いていた愛莉が率直な質問をぶつけた。
ただ白羽はそれに答えることはできない。

「もともと白羽の幼馴染だって自分で言ってきた気がするな。今はもう彼女だって言い張ってけど」
「そうだね。私も出会った時にはもう白羽にくっついてばかりだったし、もう二人とも指輪してたよね」

白羽といる時間の長い徹と楓真が答える。
それ以上の事は知らなかった。
じーっと自分の右手を眺める白羽。
何か言いたいのだろうが、そのまま手を下した。

「とにかく、今回桜川さんは何も発動することなく事なきを得たからよかった」
「そうだな、でもなんで発動しなかったんだ?」
「そうですね、なんでなんでしょう?」
「桜川さん心当たりはある?」

そういってみんなから見られる姫歌。
心あたりはある。
自分が祖母からもらったペンダントだ。

「あ…えっと…。なんで…かな…」

姫歌はそこでペンダントの事を話すのをためらった。
見せるだけならできたかもしれない。
でもそこからいろいろ調べられたら…。
でも、ここまで一緒にいてくれて、自分の仲間だと言ってくれる人達を目の前にしているのだったら、信じてもいいのではないだろうか。
心の中で葛藤する姫歌。

「君たちは本当に似てるね」

心の葛藤を読まれたかのように楓真が口を開く。

「白羽も桜川さんも必死に何かを心の中にしまい込んでる。たぶん僕らに迷惑をかけたくないとか、過去のいろいろがあっての事なんだと思うんだけどね」
「まぁ白羽は物理的に話せないことが多いんだけどな」
「それでも覚えていてほしい。一人じゃない、少なくともここにいる人はみんな、白羽や桜川さんの味方だってことを」

それを聞いて姫歌は思い出す。
【Ich stehe immer zu deiner Seite】
【俺はいつでも桜川の味方だから】
そう言ってくれた白羽の言葉を。
『あぁそうか…白羽くんもこうやって仲間に助けてもらったんだ…』
楓真の言葉に空や亮がそうだよと言ってくれる。
徹や愛莉も頷いてくれた。

「私は今日出会ったばかりだから、よくわからないけど…。でも、楓真があなたを信じてる。楓真の見る目は確かだから、私も信じる。あと何より、一人で悩んだらダメ」
「早川先輩…」

不器用ながらもそう言ってくれた楓。
それを言ってくれたみんなに心を温めながら、姫歌は決心した。

「ここにいるみんなにだけ…見せるね」

そう言って、姫歌は首にかけてあったペンダントを取り出す。
ハート形で宝石が埋め込まれたコンパクトのように開くそれを。

「祖母の形見なの…。もしかしたらこれが守ってくれたんじゃないかって思ってる」

周りにいたみんながまじまじとそれを見つめた。

「なるほど、見た感じ魔力を感じるからそれは一理あるかもしれない」
「でも呪いを打ち消すほどすごいものなのか?」
「ん-、でもほかに今思い当たるものがないのなら、それが一番有力じゃない?」
「それもそうか」

徹と楓真のやりとりでとりあえず一件落着ということになった。
今後またミルカから何もないとは言えないが、極力誰かと一緒に行動することを心掛けることで対策をしようという事になった。
その後その日は解散になり、砕け散ったネックレスは楓真が神社ということもあって引き取ってくれた。
姫歌が白羽と一緒に帰る帰り道、ふと、楓真が言った言葉を思い出す。
【君たちは本当に似てるね】
『そう…かな…』
白羽は話せないとはいえ、過去にいろいろあったことは明確で、今もそれに縛り付けられ苦しんでいる。
もしそれが自分の身に起きていたらと考えると、白羽と同じで人を遠ざける行動をとっていたのではないだろうか。
人を信じることもたやすいことではない。
そう考えたら自分も一人でなんとかしようとしていることが多いなと思った。
『一人でなんとかしようとしてため込んでしまうのは、似ているかもしれない…』
と、姫歌は今まで余裕がなかった自分が、支えてもらってばかりな事に気づく。

「ねぇ…白羽くん…」
「ん…?」
「私…白羽くんにもみんなにも、助けてもらってばっかりだ…」

少し時間をおいて白羽が返す。

「少なくとも今は…いいんじゃないか?ずっと…このままってわけじゃないんだろ?」
「うん…、いつかちゃんとみんなに恩返しする」
「今はできることをやればいい」
「うん…。だから一番最初に白羽くんに言いたいの」
「…?」
「ありがとう、私の味方でいてくれて。白羽くんがいてくれるから、私頑張れる」

そういうと白羽が照れくさそうに顔を指でポリポリとかいた。
白羽自身も何かお礼が欲しいとか、感謝されたいからしているわけではないのだが、面と向かってそう言われると心がくすぐたかった。

「まぁ…俺にできることなら…」

二人で少し照れながら、自分たちの家へ帰っていった。

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