DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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38.未発動

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持ってきてもらったご飯をぺろりと完食する。
さっき気になったことを白羽に聞いてみることにした。

「あのね、さっき…空からLimeがあって…気になることを言ってたの」
「どんな?」
「今日ミルカ先輩が私の事をお土産を渡したくて探していたらしいんだけど、それを気を付けてって言ってて…」
「・・・・」
「気を付けてって…、どういう意味なんだろう…」
「俺は…あいつの事を…詳しく言えない…。うっ…話そうと…すると…今…みたいに…」
「白羽くん…!!いいよ…大丈夫…、大丈夫だから」
「すまない…」

『ミルカ先輩…、白羽くんが苦しむって…何か関係してるの?もしそうだとしたら、空達が気を付けてっていうのは…』

苦しそうに心臓を押さえる白羽。
実際に自分の前で苦しみだす姿を見るのは初めてだった。
これ以上苦しんでほしくない、そう思って姫歌が止める。
もし白羽の事にもミルカがかかわっているのであれば、空達の言う気を付けてに関しても納得がいく。
憶測でしかないが、火のない所に煙は立たない。
姫歌も今後の学園生活で用心することにした。

——————————————————

次の日、体調を整え普段通りに姫歌は学校へ向かう。
横には白羽、一緒の敷地に住むようになってからは、登下校もだいたい一緒にするようになった。
下駄箱近くへ行くと、門の前で空と亮が迎えてくれた。

「姫歌!おはよう、体調どう?」
「おはようございます」
「空、亮くんおはよう。たくさん寝れたから大丈夫。心配してくれてありがとう」

お礼をいいながら、白羽と空と別れそれぞれ教室へ向かった。

「昨日皆でいろいろ話してたこと、空さんから連絡きましたか?」
「うん、来たよ。もしかしたら今日、その事があるんじゃないかって朝から少し警戒気味」
「そうですよね。もし危ないと思ったら逃げてくださいね」
「うん、そうする」

その朝からの危険察知アンテナは、その日の午後に発動する。
午後の授業が始まる前にトイレに行こうと1人になった時だった。

「桜川さーん☆」

その声に肩を震わせる。
『きた…』
振り向くとそこにはニコニコと笑顔でこっちを見ているミルカ。
何も悟らせないよう、とりあえずそのまま普通に話す。

「こんにちは」
「よかった、体調よくなったのね。昨日お休みだったから心配したんだよ?白羽君と同じ敷地内で暮らし始めたってきいたし、いーなー羨ましい」
「すみません、なんか…ミルカ先輩に何も言わずにそうなってしまって…」
「ふふっ、私いなかったしどうにもならないでしょ。そう、それより渡したいものがあったの」

そういってミルカが後ろに隠していた紙袋を姫歌に見せる。

「じゃーん、ドイツのお土産~。どうぞっ」
「わぁ…ありがとうございます」
「うんうん、よかったらあけてみて!」

そう言われ中身を見て取り出す。
それは小さなアイアンクロスのペンダント。
クロスした真ん中には小さく宝石も埋め込まれているようだ。

「ペンダント?」
「そうよ~、ドイツらしいお土産ってなんだろうって悩んで、一生懸命選んだの」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「あ、ただ首回りちゃんと入るかな?結構小さめかもしれないんだけど、一回つけてもらってもいい?」
「なるほど…ちょっとつけてみますね」

言われた通り、姫歌はそのペンダントの留め具を外し、首に回す。
そして後ろでまた留め具を止めようとするがうまく止められずに悩んでいると。

「とめてあげるっ」

そう言ってミルカが姫歌の背後に回り、留め具を止めてくれた。
瞬間…

———パリンッ!————

クロスした部分にはめ込まれていた宝石が砕け散り、チェーンの部分が原型をとどめないくらいにはじけ飛んだ。

「…え?」
「…え??」

二人とも何が起きたのかわからなかった。
ただそこにはペンダントだったものの残骸が床に落ちていく。
『何…が起きたの…?』
その場に固まる二人。

「あの…ミルカ先輩…。」

姫歌がそうミルカに声をかけた途端、ミルカは一歩後ろへ下がる。
さっきまで普通だった顔は、みるみる曇っていき、何も言わずにその場からスタスタと去って行った。
『どういう…事だろう…』
姫歌は周りに誰もいないことを確認しながら胸元からとあるペンダントを取り出す。
それは祖母からもらった形見。
姫歌がDiva angelに変身するときのアイテムだった。
見ると少し淡く光っているように見えた。

「もしかして…これのおかげ…?守ってくれたの…?」

砕け散ってしまったとはいえ、貰い物なのでそのままそこに残骸を転がしておくわけにもいかず、散らばっている欠片をあつめて拾った。
『もしかしたらこの欠片で何かわかるかもしれないし、あとで見せて相談してみよう』
その残骸を拾い終えると同じくらいに午後の授業が始まるチャイムが鳴り響く。
少し慌てぎみに姫歌は教室へと帰っていった。

放課後、姫歌が部室にて事の経緯を集まったみんなに話す。
砕け散った欠片を見ながら、白羽が険しい顔をしている。

「姫歌、今身体に不調とか何かあるとかないんだよね?」
「うん、特に何もない」

空が心配してくれて何もないと返す姫歌だが、これがもし砕け散っていなかった場合どうなっていたのだろうか。
姫歌が魔力で手をかざして調べても特にこれといって何かがあるわけではなかった。
徹や白羽も手をかざして呪いの類がないか確認するのだが何もない。

「これは楓真の方がわかるんじゃないか?」
「可能性はあるな」

白羽と徹が楓真に連絡をとると、部活が終わってから残骸を見てくれることになった。
創作部にいたメンバー全員と愛莉が合流、弓道場の前で楓真が出てくるのを待つ。

「やぁ、お待たせ。おや…今日は皆お揃いなんだね。それなら丁度いい」

弓道場から楓真が出てきて待っていた皆に声をかける。

「ほら、挨拶して」

楓真の背後でよく見えなかったが、白い髪で青い目の女子が立っている。

「…別に…いいって言ったのに…」

口元でぼそっと何かをつぶやいたその女子は、しぶしぶ楓真の横から姿を現した。

「白羽や徹と…あー、宮永さん以外は始めましてじゃないかな」
「衣笠 楓(きぬがさ  かえで)。よろしく…」

声を小さめに話す彼女は一度挨拶した途端、顔を背けてしまった。

「前に愛莉先輩が言ってた衣笠先輩!初めまして!」
「そうです、すっごくフェンシングお上手なんですよ。何度も全国1位になってらっしゃるのです」
「すごい…!」

姫歌達が楓に近づいてそれぞれ名前と挨拶を交わす。
楓も頷いてよろしくと返してくれるが、口数は少ないようだ。

「ごめんね、楓は人見知りで、慣れないとあまり話さないと思うけど、仲良くしてやって」
「余分な事…言わなくていい…」

楓真が少し申し訳なさそうに初メンバーに言うと、楓がまたぼそっと呟いた。

「そういえば、楓真さんと楓さんって、もしかして同じ漢字使ってます?」
「あ、気づいた?そうなんだよ。小さいころ出会って、名前に同じ漢字を使ってるってところから仲良くなったんだ」
「幼馴染なんですね!」

漢字の事を話す空に楓の事を話す楓真はとても嬉しそうだが、その横で楓は恥ずかしそうにしている。
自己紹介もほどほどに本題に入る。
弓道場の近くにあったベンチで姫歌が砕け散ったペンダントの残骸を楓真に見せた。
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