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37.危惧
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「どういう事ですか?」
白羽に呪いがあることが分かったあと、姫歌が危ないと言う楓真に皆の視線が集まる。
「見ててわかるかもしれないけれど、ミルカさんは白羽への執着が人間離れしている程強い。学校でのほとんどを彼女は白羽と一緒にいるための時間にしているし、白羽が自分の視界にいないと探し回る有様だ」
「そもそも先にこの学園に入学してきたのは白羽1人で、その後をミルカが追ってきた形だ。で、学園に入学するやいなや、私が彼女だと学園中で言いふらしてる」
その行動には、空も亮も思い当たる節があった。
部活に入部してすぐ、私が彼女だからと言いに来たことがあったからだ。
だが、それがどう姫歌の危惧に繋がるのか。
「あれだけ白羽の彼女は自分だと周りに言いふらす、解らせているってことは、忠告はしたから近づくな、そう言っているのと同じ事」
「それを理解していても尚、白羽の近くに居続けたのなら、ミルカなら何をしでかすかわからない」
「普通の人間であれば、執着心や嫉妬があったとしても、人としてやってはいけない事の区別は着くし、危害を加えようとは思わないはずなんだ。ただ、その区別を付けられないのが彼女だ」
「今まで白羽に近づいて仲良くなろうとした女子が何人もいた事があるんだけど、全員、学園を去っていってる。それがミルカ本人が学園を去る直接の理由になる物は知らない。だけど、いなくなっている事は事実なんだ」
徹と楓真の話を聞く度に、ミルカという人間が恐ろしくなっていく。
単純に好きという感情だけで済ませることの出来ない行動の数々。
白羽に近づいた人間が、学園から追い出される事が事実なら、姫歌もまた同じように攻撃されるかもしれない。
いや、もうむしろその攻撃は起きているのかもしれなかった。
「ましてや、今は桜川さんなんて今までの女子と違って、白羽本人が気にかけてるから、ミルカさんのお腹の中で、はらわた煮えくり返ってるかもしれないね」
「今回起きたテストの改ざんの件や、寮の火災の件はミルカ本人が直接ではなくとも、取り巻きを使って間接的にって可能性はある。ただこれも証拠がない」
「今防ぐべきは、これ以上桜川さんに被害が及ばないよう、私達がなるべく一緒にいて、サポートしてあげること」
「そうか…。だから白羽はあえて自分の所に桜川さんを住まわせた可能性があるのか」
徹の言葉に首を傾げる空と亮。
「自分のそばに居れば、守ってあげられる回数が増える。それだけじゃない、ミルカは絶対に白羽の家には近づかない」
「どういう事?」
「白羽のお祖母さん、全部とはならなくてもその人の過去や感情を見ることができるんだ。近づかないって事は、見られたくない過去があると言う事だ」
「なるほど……ますます怪しい」
謎に包まれた事を白羽は話す事は出来ないが、それでも出来ることはやろうとしているのが今回の話でわかった。
「そう言えばさっき、ミルカ先輩……姫歌にお土産があるって探してた…」
「そんなことが?」
「あぁ、昨日の研究所の一件でまだ桜川さん寝てるらしくて、白羽も桜川さんも休みだったから出直してくるみたいだったけどな」
「なるほど、そのお土産……何かあると思っていた方が良さそうだね」
「渡させないようにするのは難しいだろうなぁー…」
「それなら姫歌にお土産の事を注意してって、あらかじめ言っておくのはどうかな」
今はそれしか方法がない。
相手のお土産の中身もわからないし、本当に危ないかもわからない。
今までの話の流れから、ミルカが危険人物だと言うことはわかったのだから、用心するに越したことはない。
「あ、白羽から連絡。桜川さん起きたって」
「本当!?よかった」
とりあえずは意識が戻ったことで栄養も口にできるだろう。
ひとまずその場にいた4人はホッとしたようだ。
——————————————————
頭がぼーっとする。
かすかに目をあけるそこに、見た事のある壁。
まだ朦朧とする意識で、ゆっくりと目を開け、あたりを確かめようと姫歌は首を横に動かした。
綺麗な白い髪、日の光に反射して少し眩しい、今では少し近くなった、姫歌にとって愛しい人の微笑む顔がそこにはあった。
「おはよう、よく眠れた?」
『あぁ…、前もこんなことがあった…。その時と同じ…優しい顔…』
微笑む白羽に何か言葉を返したいが、うまく声が出なかった。
軽くケホケホと咳をすると、白羽が横にあった水を手渡してくれる。
ぬるくも冷たくもない、丁度いい適温の水が姫歌の喉を潤した。
「ありがとう。私どのくらい眠ってたの?」
「丁度1日経つか経たないか」
「そんなに……」
「まぁ、マイストーンが身体に馴染むまでは、皆副作用で眠くなる。桜川なんか、貰ってすぐ変身して戦ったんだ、無理はない」
「アリエスさんとリリスさんはどうなったの?」
「大丈夫、所長がよくしてくれると約束してくれた。もちろん、魔物だから他の研究員やお偉いさんを説得するまでに時間はかかったけど、それでも持っていた短剣を預けて戦闘意思のないことを確認し、常にどこかへ行動するときは2人監視を付けることで納得した。あとは時間をかけて研究所の人と打ち解けていくしかない」
「そっか、それでも大きな一歩だと思う。もしこれから魔物と戦わなくちゃならないのなら、情報をもらえるかもしれないし、魔物だけどあの二人は人間みたいだよ」
「魔物にもいろいろいる。アリエスはまだ話ができるやつだったけど、今まで俺が戦ってきたやつはほとんど、話が通じないもしくはそもそも話せない、命令のまま動くようなやつらばっかりだった。だから今回、桜川がマイストーンをもらって、初めて変身した直後に戦った相手が、アリエスでよかったとすら思える」
「そう…だね。ちゃんと言葉が通じる人でよかった」
―きゅうるるるぅ~―
「はうっ?!」
自分の意思に反して姫歌のお腹が鳴った。
それもそうだ、1日何も食べていないのだから。
自分では制御出来ないその音に恥ずかしさが込み上げる。
「ふっ、ちょっとまってて、今何か持ってくるから」
白羽が少し笑った。
恥ずかしいとはいえ、声を出して笑ってくれた事が嬉しい。
客室を後にする白羽を見送ると、ふと近くにあったスマホを手にする。
空と亮から心配するLime。
心が暖かい。
ただ心配の後には引っかかっる文字。
「ミルカ先輩が姫歌を探していたよ。お土産を渡したいって言っていたけど、何かあるかもしれない、気をつけて」
お土産を渡す行為自体が危ないのだろうか。
お土産その物が危ないのだろうか。
そもそもミルカが危ないという事だろうか。
姫歌は事件の被害者だが、直接今までミルカが関わっていた事はないし、白羽と一緒にいてから何かをされたわけでもない。
それでも空や亮、先輩達もミルカに気をつけろと言ってきているということは、何か思うところがあるのだろう。
『白羽くんに、帰ってきたら聞いてみよう』
そう思っていると、白羽がお盆に乗せた食事を持ってきてくれる。
柔らかめの艶やかなご飯、おひたしと卯の花、卵焼きと味付け海苔。
起きたてには丁度いいチョイス。
「ありがとう、いただきます」
白羽に呪いがあることが分かったあと、姫歌が危ないと言う楓真に皆の視線が集まる。
「見ててわかるかもしれないけれど、ミルカさんは白羽への執着が人間離れしている程強い。学校でのほとんどを彼女は白羽と一緒にいるための時間にしているし、白羽が自分の視界にいないと探し回る有様だ」
「そもそも先にこの学園に入学してきたのは白羽1人で、その後をミルカが追ってきた形だ。で、学園に入学するやいなや、私が彼女だと学園中で言いふらしてる」
その行動には、空も亮も思い当たる節があった。
部活に入部してすぐ、私が彼女だからと言いに来たことがあったからだ。
だが、それがどう姫歌の危惧に繋がるのか。
「あれだけ白羽の彼女は自分だと周りに言いふらす、解らせているってことは、忠告はしたから近づくな、そう言っているのと同じ事」
「それを理解していても尚、白羽の近くに居続けたのなら、ミルカなら何をしでかすかわからない」
「普通の人間であれば、執着心や嫉妬があったとしても、人としてやってはいけない事の区別は着くし、危害を加えようとは思わないはずなんだ。ただ、その区別を付けられないのが彼女だ」
「今まで白羽に近づいて仲良くなろうとした女子が何人もいた事があるんだけど、全員、学園を去っていってる。それがミルカ本人が学園を去る直接の理由になる物は知らない。だけど、いなくなっている事は事実なんだ」
徹と楓真の話を聞く度に、ミルカという人間が恐ろしくなっていく。
単純に好きという感情だけで済ませることの出来ない行動の数々。
白羽に近づいた人間が、学園から追い出される事が事実なら、姫歌もまた同じように攻撃されるかもしれない。
いや、もうむしろその攻撃は起きているのかもしれなかった。
「ましてや、今は桜川さんなんて今までの女子と違って、白羽本人が気にかけてるから、ミルカさんのお腹の中で、はらわた煮えくり返ってるかもしれないね」
「今回起きたテストの改ざんの件や、寮の火災の件はミルカ本人が直接ではなくとも、取り巻きを使って間接的にって可能性はある。ただこれも証拠がない」
「今防ぐべきは、これ以上桜川さんに被害が及ばないよう、私達がなるべく一緒にいて、サポートしてあげること」
「そうか…。だから白羽はあえて自分の所に桜川さんを住まわせた可能性があるのか」
徹の言葉に首を傾げる空と亮。
「自分のそばに居れば、守ってあげられる回数が増える。それだけじゃない、ミルカは絶対に白羽の家には近づかない」
「どういう事?」
「白羽のお祖母さん、全部とはならなくてもその人の過去や感情を見ることができるんだ。近づかないって事は、見られたくない過去があると言う事だ」
「なるほど……ますます怪しい」
謎に包まれた事を白羽は話す事は出来ないが、それでも出来ることはやろうとしているのが今回の話でわかった。
「そう言えばさっき、ミルカ先輩……姫歌にお土産があるって探してた…」
「そんなことが?」
「あぁ、昨日の研究所の一件でまだ桜川さん寝てるらしくて、白羽も桜川さんも休みだったから出直してくるみたいだったけどな」
「なるほど、そのお土産……何かあると思っていた方が良さそうだね」
「渡させないようにするのは難しいだろうなぁー…」
「それなら姫歌にお土産の事を注意してって、あらかじめ言っておくのはどうかな」
今はそれしか方法がない。
相手のお土産の中身もわからないし、本当に危ないかもわからない。
今までの話の流れから、ミルカが危険人物だと言うことはわかったのだから、用心するに越したことはない。
「あ、白羽から連絡。桜川さん起きたって」
「本当!?よかった」
とりあえずは意識が戻ったことで栄養も口にできるだろう。
ひとまずその場にいた4人はホッとしたようだ。
——————————————————
頭がぼーっとする。
かすかに目をあけるそこに、見た事のある壁。
まだ朦朧とする意識で、ゆっくりと目を開け、あたりを確かめようと姫歌は首を横に動かした。
綺麗な白い髪、日の光に反射して少し眩しい、今では少し近くなった、姫歌にとって愛しい人の微笑む顔がそこにはあった。
「おはよう、よく眠れた?」
『あぁ…、前もこんなことがあった…。その時と同じ…優しい顔…』
微笑む白羽に何か言葉を返したいが、うまく声が出なかった。
軽くケホケホと咳をすると、白羽が横にあった水を手渡してくれる。
ぬるくも冷たくもない、丁度いい適温の水が姫歌の喉を潤した。
「ありがとう。私どのくらい眠ってたの?」
「丁度1日経つか経たないか」
「そんなに……」
「まぁ、マイストーンが身体に馴染むまでは、皆副作用で眠くなる。桜川なんか、貰ってすぐ変身して戦ったんだ、無理はない」
「アリエスさんとリリスさんはどうなったの?」
「大丈夫、所長がよくしてくれると約束してくれた。もちろん、魔物だから他の研究員やお偉いさんを説得するまでに時間はかかったけど、それでも持っていた短剣を預けて戦闘意思のないことを確認し、常にどこかへ行動するときは2人監視を付けることで納得した。あとは時間をかけて研究所の人と打ち解けていくしかない」
「そっか、それでも大きな一歩だと思う。もしこれから魔物と戦わなくちゃならないのなら、情報をもらえるかもしれないし、魔物だけどあの二人は人間みたいだよ」
「魔物にもいろいろいる。アリエスはまだ話ができるやつだったけど、今まで俺が戦ってきたやつはほとんど、話が通じないもしくはそもそも話せない、命令のまま動くようなやつらばっかりだった。だから今回、桜川がマイストーンをもらって、初めて変身した直後に戦った相手が、アリエスでよかったとすら思える」
「そう…だね。ちゃんと言葉が通じる人でよかった」
―きゅうるるるぅ~―
「はうっ?!」
自分の意思に反して姫歌のお腹が鳴った。
それもそうだ、1日何も食べていないのだから。
自分では制御出来ないその音に恥ずかしさが込み上げる。
「ふっ、ちょっとまってて、今何か持ってくるから」
白羽が少し笑った。
恥ずかしいとはいえ、声を出して笑ってくれた事が嬉しい。
客室を後にする白羽を見送ると、ふと近くにあったスマホを手にする。
空と亮から心配するLime。
心が暖かい。
ただ心配の後には引っかかっる文字。
「ミルカ先輩が姫歌を探していたよ。お土産を渡したいって言っていたけど、何かあるかもしれない、気をつけて」
お土産を渡す行為自体が危ないのだろうか。
お土産その物が危ないのだろうか。
そもそもミルカが危ないという事だろうか。
姫歌は事件の被害者だが、直接今までミルカが関わっていた事はないし、白羽と一緒にいてから何かをされたわけでもない。
それでも空や亮、先輩達もミルカに気をつけろと言ってきているということは、何か思うところがあるのだろう。
『白羽くんに、帰ってきたら聞いてみよう』
そう思っていると、白羽がお盆に乗せた食事を持ってきてくれる。
柔らかめの艶やかなご飯、おひたしと卯の花、卵焼きと味付け海苔。
起きたてには丁度いいチョイス。
「ありがとう、いただきます」
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