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36.憶測
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「あれ、今日桜川さんおやすみなの?」
研究所の一件があった次の日、放課後の部室で徹が亮と空が話しているところにやってきた。
「うん、Limeしてるんだけど反応がなくて。もしかしてまだ起きてないのかな…」
「だとしたら心配ですね」
「そうか…。まぁ白羽も休みで一緒にいるだろうし大丈夫だと思うけど」
徹が白羽に確認をすると、やはり起きていないと返事が返ってきた。
もしこれ以上起きないようであれば、病院へ連れて行って栄養を取れる状態にしないといけない。
とりあえず白羽が検知できる限りでは、体調に不調があることはないらしいが、目を覚まさない姫歌を白羽一家も心配しているようだ。
「え~~~、なんで白羽くんも桜川さんもおやすみなわけ~~!」
突然部室をうるさくする聞き覚えのある声。
ミルカがやってくると空気が変わる。
そう言いながら、部長である徹のところに近寄ってくる。
「ねね、私ドイツから帰ってきたばっかりだからよく知らないんだけど、白羽くんの家に桜川さんが同居するようになったって本当?」
声は明るく、はきはきとして、笑顔でそう尋ねるミルカ。
すっとぼけたような表情が、余計に腹の中が黒いことを露呈させるようで、徹の顔色が濁る。
「事実だ。桜川は身寄りがない、だから白羽の家が面倒みてる」
「ふーん、なーんで白羽くんはそんなに桜川さんのこと気にするのかなぁ」
「白羽がどうはともかくとして、一般家庭じゃできることじゃない。白羽の家だからこそできるんだろ」
「んー、まぁそうかぁ。白羽くんの家お金持ちだもんねー」
「で?いつも通り白羽を探すのはわかるとして、桜川さんになんか用だったの?」
「ふっふ~、さすが徹くん。察しがいいねぇ~。実はねー、桜川さんと仲良くなれるかな~って思って、お土産買ってきたんだぁ。だから渡したかったの~」
「へぇ、残念ながら出直すしかないな」
「そーみたいねー。またくるわー。じゃね~」
そう言いながらミルカは颯爽と部室を出て行った。
徹がその後大きなため息をつく。
「なんかあのミルカさんって人くると、空気が違いますよね」
亮が苦笑いしながらそう言った。
「俺もだけど、あいつが好きなやつはあんまりいないと思う…。部員のみんなもいい顔しないし」
「白羽先輩しか見えてないっていうか…、ほかの人なんてどうでもいいって思ってそう」
「それはあるな。俺だって白羽の友達だから一目置かれてる感あるし。あぁそうだ…二人に少し話したいことがある。ちょっと来て」
徹に促され部室から出ると、人通りのあまりない階層の休憩所へと移動した。
傍らにある自販機で徹が2人に飲み物を奢り手渡すと、近くにあったソファに腰掛ける。
「話たいことって何ですか?」
「うん、さっきのミルカの話なんだけど、二人は白羽が女性に触れられないってことは知ってるよね?」
「えぇ、ミルカさんは触れるのに、ほかの女性には触れられないんですよね?」
「おかしな話…。姫歌から聞いた話だと、白羽先輩のお祖母さんが言うには昔姫歌と出会った頃は何もなくて、ドイツに帰ってから何かあったらしいっていうのは聞いた」
「白羽に直接聞いたことがあるんだ、どうしてそうなってるのか、何があったのかと」
「先輩はなんて?」
「答えられないみたい。唇を噛みしめてこらえてるっていうか、話したくても話せない状態だと俺はその時思った。一言すまないとだけ言うんだよ」
「どうしてその状態になったのか話せない事情でもあるのかな…」
「白羽が故意に話さないのか、あるいは…話したくても声を出すことすら許されないか」
「え…、それってどういう…」
「古い魔法だよ。魔法にもいろいろあってその中の一つに呪いが存在する。今の世界に魔物が進出してくる前から、呪いっていうものは存在していて、本を見てもいいことは書かれていない。」
「あ、僕読んだことあります。人を呪うもの、災害を起こそうとするもの、いろいろあって、力を持つ人がちゃんとした手段を使うと発動すると」
「そう。もしその呪いとやらが白羽自身に発動しているのであれば、話せないっていう事にも納得がいく」
「なるほどです」
「もしかして、その起因は…」
「ミルカ・シュバルツかも」
聞き覚えのある爽やかな声。
声のあるほうを見るとそこに立っていたのは楓真だった。
「やぁ楓真、珍しいねこの時間に部活行ってないなんて」
「先生から呼び出しされてね、さっきまで職員室まで行っていたところだよ。さて、そこの二人は話すのは初めまして…かな?徹や白羽から話はきいているよ。私はSクラス第4位、榊原楓真。よろしく」
「こんにちは、よろしくお願いします」
楓真の挨拶に空と亮の2人が挨拶を返した。
黒く髪の長いポニーテール。
男性とはいえ、美しい姿に2人は見とれている。
「すまない、盗み聞きするつもりはなかったのだけれど、徹の声が聞こえて、足を運んだら」
「お前耳いいからなー」
「ふふっ、だから好かれないんだけどね。で、さっきの話の続きなのだけれど」
「あぁ、白羽の事だ」
「私と徹が話すのはあくまでも憶測、でもそれは証拠がなくとも納得のいくもの」
空と亮がゴクッと唾を飲み込む。
そして徹が結論を述べた。
「白羽はミルカ・シュバルツに呪いをかけられている」
「いくつかそれに関わるものをあげるとするならば、白羽が右手についている指輪、絶対に外れない。他にも、呪いの効果があるとして気づいたのは、女性に触れられない、名前を呼べない、指輪に関わること一切を話せない、好きと言えない」
「もし今話した事をやろうとすると、吐血したり、心臓が苦しくなって倒れる」
徹と楓真の話を聞いて、空と亮は絶句した。
その話が本当であれば、白羽は普段から人を極力避けて生活しなくてはならない。
何より、助けたいと思っている人が目の前にいても、制限によって助けられない場合もあるのではないか。
そう考えると胸が締め付けられた。
「そんな……つらい生活を、白羽先輩は送ってたなんて……」
「知りませんでした」
空も亮も、そうらしいと姫歌から話は聞いていた。
ただそれが降り掛かっている白羽の生活を思い浮かべた事はなく、他人事として処理していた。
改めて考えると、もし自分がその立場になったのなら、なんと生活しにくいのだろう、そう思った。
「だから、白羽が桜川さんを気にかけてる時は驚いたよ。人を遠ざけて生活してる白羽が、積極的というか、白羽なりにどうにかしようとしてるから」
「そうなんですか?」
「うん、最初私や徹が出会った頃なんて大変だったんだよ?誰にでもガン飛ばして、偉そうで、俺に近づくなって雰囲気をそりゃもう撒き散らしてたからね」
「そうそう、俺あいつの最初に印象に残ってる言葉っていったら、《視界に入ってくるな無能》だもん」
徹と楓真が話している事が、空と亮には理解できなかった。
今接している白羽には、そんな近寄るなというような雰囲気はなく、何か助けになることはないかと逆に聞いてくれるような対応だからだ。
「信じられないです」
「まぁ、あいつ凄く丸くなったからな」
「桜川さんがきてから更に丸くなったね」
「ははっ、そうだな。それあいつに言ったら威嚇してきそうだけど」
今も少しトゲがない訳では無いが、空と亮が出会う前はそんなにトゲトゲしかった事を今日初めて知った。
姫歌がきてから更にまるくなったなんて事を伝えたら、姫歌は嬉しがったり驚くだろうか。
「ただね、今度は白羽だけじゃない、もしかしたら桜川さんも危ないかもしれない」
研究所の一件があった次の日、放課後の部室で徹が亮と空が話しているところにやってきた。
「うん、Limeしてるんだけど反応がなくて。もしかしてまだ起きてないのかな…」
「だとしたら心配ですね」
「そうか…。まぁ白羽も休みで一緒にいるだろうし大丈夫だと思うけど」
徹が白羽に確認をすると、やはり起きていないと返事が返ってきた。
もしこれ以上起きないようであれば、病院へ連れて行って栄養を取れる状態にしないといけない。
とりあえず白羽が検知できる限りでは、体調に不調があることはないらしいが、目を覚まさない姫歌を白羽一家も心配しているようだ。
「え~~~、なんで白羽くんも桜川さんもおやすみなわけ~~!」
突然部室をうるさくする聞き覚えのある声。
ミルカがやってくると空気が変わる。
そう言いながら、部長である徹のところに近寄ってくる。
「ねね、私ドイツから帰ってきたばっかりだからよく知らないんだけど、白羽くんの家に桜川さんが同居するようになったって本当?」
声は明るく、はきはきとして、笑顔でそう尋ねるミルカ。
すっとぼけたような表情が、余計に腹の中が黒いことを露呈させるようで、徹の顔色が濁る。
「事実だ。桜川は身寄りがない、だから白羽の家が面倒みてる」
「ふーん、なーんで白羽くんはそんなに桜川さんのこと気にするのかなぁ」
「白羽がどうはともかくとして、一般家庭じゃできることじゃない。白羽の家だからこそできるんだろ」
「んー、まぁそうかぁ。白羽くんの家お金持ちだもんねー」
「で?いつも通り白羽を探すのはわかるとして、桜川さんになんか用だったの?」
「ふっふ~、さすが徹くん。察しがいいねぇ~。実はねー、桜川さんと仲良くなれるかな~って思って、お土産買ってきたんだぁ。だから渡したかったの~」
「へぇ、残念ながら出直すしかないな」
「そーみたいねー。またくるわー。じゃね~」
そう言いながらミルカは颯爽と部室を出て行った。
徹がその後大きなため息をつく。
「なんかあのミルカさんって人くると、空気が違いますよね」
亮が苦笑いしながらそう言った。
「俺もだけど、あいつが好きなやつはあんまりいないと思う…。部員のみんなもいい顔しないし」
「白羽先輩しか見えてないっていうか…、ほかの人なんてどうでもいいって思ってそう」
「それはあるな。俺だって白羽の友達だから一目置かれてる感あるし。あぁそうだ…二人に少し話したいことがある。ちょっと来て」
徹に促され部室から出ると、人通りのあまりない階層の休憩所へと移動した。
傍らにある自販機で徹が2人に飲み物を奢り手渡すと、近くにあったソファに腰掛ける。
「話たいことって何ですか?」
「うん、さっきのミルカの話なんだけど、二人は白羽が女性に触れられないってことは知ってるよね?」
「えぇ、ミルカさんは触れるのに、ほかの女性には触れられないんですよね?」
「おかしな話…。姫歌から聞いた話だと、白羽先輩のお祖母さんが言うには昔姫歌と出会った頃は何もなくて、ドイツに帰ってから何かあったらしいっていうのは聞いた」
「白羽に直接聞いたことがあるんだ、どうしてそうなってるのか、何があったのかと」
「先輩はなんて?」
「答えられないみたい。唇を噛みしめてこらえてるっていうか、話したくても話せない状態だと俺はその時思った。一言すまないとだけ言うんだよ」
「どうしてその状態になったのか話せない事情でもあるのかな…」
「白羽が故意に話さないのか、あるいは…話したくても声を出すことすら許されないか」
「え…、それってどういう…」
「古い魔法だよ。魔法にもいろいろあってその中の一つに呪いが存在する。今の世界に魔物が進出してくる前から、呪いっていうものは存在していて、本を見てもいいことは書かれていない。」
「あ、僕読んだことあります。人を呪うもの、災害を起こそうとするもの、いろいろあって、力を持つ人がちゃんとした手段を使うと発動すると」
「そう。もしその呪いとやらが白羽自身に発動しているのであれば、話せないっていう事にも納得がいく」
「なるほどです」
「もしかして、その起因は…」
「ミルカ・シュバルツかも」
聞き覚えのある爽やかな声。
声のあるほうを見るとそこに立っていたのは楓真だった。
「やぁ楓真、珍しいねこの時間に部活行ってないなんて」
「先生から呼び出しされてね、さっきまで職員室まで行っていたところだよ。さて、そこの二人は話すのは初めまして…かな?徹や白羽から話はきいているよ。私はSクラス第4位、榊原楓真。よろしく」
「こんにちは、よろしくお願いします」
楓真の挨拶に空と亮の2人が挨拶を返した。
黒く髪の長いポニーテール。
男性とはいえ、美しい姿に2人は見とれている。
「すまない、盗み聞きするつもりはなかったのだけれど、徹の声が聞こえて、足を運んだら」
「お前耳いいからなー」
「ふふっ、だから好かれないんだけどね。で、さっきの話の続きなのだけれど」
「あぁ、白羽の事だ」
「私と徹が話すのはあくまでも憶測、でもそれは証拠がなくとも納得のいくもの」
空と亮がゴクッと唾を飲み込む。
そして徹が結論を述べた。
「白羽はミルカ・シュバルツに呪いをかけられている」
「いくつかそれに関わるものをあげるとするならば、白羽が右手についている指輪、絶対に外れない。他にも、呪いの効果があるとして気づいたのは、女性に触れられない、名前を呼べない、指輪に関わること一切を話せない、好きと言えない」
「もし今話した事をやろうとすると、吐血したり、心臓が苦しくなって倒れる」
徹と楓真の話を聞いて、空と亮は絶句した。
その話が本当であれば、白羽は普段から人を極力避けて生活しなくてはならない。
何より、助けたいと思っている人が目の前にいても、制限によって助けられない場合もあるのではないか。
そう考えると胸が締め付けられた。
「そんな……つらい生活を、白羽先輩は送ってたなんて……」
「知りませんでした」
空も亮も、そうらしいと姫歌から話は聞いていた。
ただそれが降り掛かっている白羽の生活を思い浮かべた事はなく、他人事として処理していた。
改めて考えると、もし自分がその立場になったのなら、なんと生活しにくいのだろう、そう思った。
「だから、白羽が桜川さんを気にかけてる時は驚いたよ。人を遠ざけて生活してる白羽が、積極的というか、白羽なりにどうにかしようとしてるから」
「そうなんですか?」
「うん、最初私や徹が出会った頃なんて大変だったんだよ?誰にでもガン飛ばして、偉そうで、俺に近づくなって雰囲気をそりゃもう撒き散らしてたからね」
「そうそう、俺あいつの最初に印象に残ってる言葉っていったら、《視界に入ってくるな無能》だもん」
徹と楓真が話している事が、空と亮には理解できなかった。
今接している白羽には、そんな近寄るなというような雰囲気はなく、何か助けになることはないかと逆に聞いてくれるような対応だからだ。
「信じられないです」
「まぁ、あいつ凄く丸くなったからな」
「桜川さんがきてから更に丸くなったね」
「ははっ、そうだな。それあいつに言ったら威嚇してきそうだけど」
今も少しトゲがない訳では無いが、空と亮が出会う前はそんなにトゲトゲしかった事を今日初めて知った。
姫歌がきてから更にまるくなったなんて事を伝えたら、姫歌は嬉しがったり驚くだろうか。
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