DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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31.Aries

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「何だい?」
「どうしたー?」
「敵だ、殲滅手伝ってくれ。数がやたら多いんだ…。場所は聖歌研究所、先に戦闘開始するから後から合流頼む」
「了解」
「ほいほーい」

白羽の合流の声に二人とも快く応じた。
さすがはSクラスの仲間である。
手短に済ませた通話を切ると、白羽と姫歌は地上に降り立ち殲滅を開始した。
まずは研究所の入口付近の敵を少なくする。
警備員達が食い止めてくれていたが、疲弊しているようだ。
近くにいた敵を剣で切って倒す。
研究所の設備を守る為にも、これ以上壊すような技は使えない。
白羽は普段使うウルフバート以外にもう一本腰にさしている刀を使うことにした。
【三日月宗近】
天下五剣のひとつで、最も美しいと言われている。
もちろん、魔力での強化は施されており、名刀のため、魔力が続かなければ、刀の切れ味、耐久性も落ちる事から、白羽しか扱えないようになっている。

【桜花一閃…舞え、千本桜!】

白羽の言葉と共にどこからともなく桜の花びらが舞い、黒い魔物に落ちていく。
白羽が刀を鞘に納めると同時に花びらが光り、くっついた魔物を切り裂いた。
研究所の入り口周辺はこれで少しは大丈夫だろう。
しかしまた押し寄せてくる黒い魔物を止めるには、あのミサイルへとたどり着かねばならない。

【開け、宇宙への扉!Unlocking gate of the universe!】

姫歌が惑星を模った宝石の付いた鍵の杖を振りかざしそう唱えた。
すると姫歌の前に門が現れ、敵を吸い込んでいく。
敵はどこだかわからない遠い宇宙へと投げ出されていった。
辺りの魔物の数は減った。
2人はミサイルへと走り出す。
切り込みながら、そして杖で殴りながら。
ミサイルへと一番近いだろう通路を曲がると、より一層魔物の数が増えた。
まるで近づくなと言っているかのように。
さっきと同じ技を二人とも繰り出すのだが、後から後からあふれて減る気配がない。

「数が減らない…面倒くさい…」

白羽があまりの多さに愚痴っている。
もうミサイルがあるのは目と鼻の先なのだ。
どうにかして道を作らなくてはならい。
しかし白羽が以前使っていた【灰化壁】は前方のみ有効で、後ろの攻撃はがら空きになるため、この数を抑えるのは、姫歌だけでは難しいだろう。

「せめてもう少し数が減らせれば…」

そう白羽が呟いた時だった。

【数多の矢よ雨の如く降り注げ!閃光降雨!】

その言葉と共に無数の矢が、辺りの魔物に線のように光って降り注ぎ、跡形もなく消し去っていく。
近くの倉庫の屋根から現れたのは楓真だった。

「凄い数の敵だね。小さくて数が多いのは白羽はあまり好きじゃないタイプだ」
「悪いな楓真、もう家に帰ってただろう」
「いや大丈夫だよ、白羽に頼まれる事なら尚更ね。それに徹もそろそろ付く頃だと思うし、この数は複数で相手しないと私ですら面倒くさいよ」
「あぁ…。とりあえず、バリアを強行突破したっていうミサイルの所まで行きたい。あの場所から敵が湧き出て止まらないのには、原因があるはずだ」
「わかった。あぁ…こんな時に何だけど、桜川さんマイストーンおめでとう」
「あっ、ありがとうございます。少しでもみんなの力になれるように頑張ります!」

うんうんと、楓真が笑顔で頷いてくれた。
変身した姫歌も、自分の身体に馴染んできたようで、もしかしたらDiva angelで居る時よりもこっちの方が自分に合っているのではとすら思った。

姫歌がDiva angelに変身しないのには訳がある。
祖母との約束なのだ。
自分の正体を知られないようにと、祖母から事ある事に言われ育った。
入学式の時には、自分で緊急事態だと判断したため空に見せてしまったが、富山城の時は幽体離脱状態で変身しており、亮には知られていない。
白羽にすら話していないのだ。
それがどんな意味があって人に言ってはいけないのかを姫歌は詳しくは知らない。
ただ祖母は、自分の命を守るためだと言っていた。
きっと祖母には何か考えがあったのだろうと姫歌は今でも約束を守っている。

姫歌達はまた戦闘態勢に入った。
ミサイルがある所まで、あと200メートルといったところだ。
楓真が弓で援護してくれ、白羽達は少しずつ前へと進んでいく。
合流してから2、300匹倒しただろうか。
白羽がこれなら何とかミサイルにたどり着けそうだと思った矢先だった。

「ふぁ~…、やだなぁ…僕眠いからそのまま何もせず寝ていたかったのに…。どうして君たちは僕の安眠の邪魔をするんだい?」

空から声がし見上げると、一般男性のサイズの雲に寝転び、羊の角を持った人型の男性の魔物が、上から覗いていた。

「誰だ…」
「僕はAries(アリエス)、第一部隊、12星座リーダーの一人だよ」
「へぇ…」
「ちょっとっちょっと、何その反応。僕魔物業界では結構人気のあるタイプなんだけどなぁ」
「知らん…」
「これだから人間は嫌いだ~!さっさと僕たちにこの星を明渡せばいいのに!」

アリエスを知らないことと、人間が嫌いな事に因果関係はないはずなのだが。
そう言いながらながらアリエスは、雲から飛び降り白羽に持っていた短剣で切りかかった。
カンッ・キンッと剣と剣がぶつかり合う音。
先ほどまで眠たそうにして、動きがゆっくりそうだった印象とは打って変わって、白羽よりもリーチの短い短剣を素早く動かすアリエス。
その素早さに白羽が少し戸惑っている。

「へぇ…僕の攻撃を防いじゃう人がいるなんて。でもね…防御してるだけじゃ何も変わらないよ!」

その状況を見ていた楓真が弓を射ろうと照準を合わせる。
攻撃しながらもアリエスは、楓真のその行動を逃さなかった。

「差しで勝負してるのに…邪魔しないでよね…」

【霧雲!】

アリエスの言葉と共に上空にいた雲が大きくなり、地上に降りてくると辺り一帯を霧で埋め尽くした。
白い霧の中にいるはずなのに、薄暗くなり、かろうじて白羽がアリエスの攻撃を目で追うことができる程度の視界だ。

「ひゃあぁっ!」

霧の中から姫歌の叫び声がする。
白羽や楓真はその場から他の仲間の状態は見ることはできない。
姫歌は周りにいた黒い魔物に近づかれ、飛び掛かられていた。

「わっ…やだっ!くっつかないで~!」

黒いねばねばした物体にくっつかれた姫歌は身動きがとりにくくなる。
このままでは、ほかの黒い物体が重なりあえば完璧にそこから動けなくなってしまうだろう。
『どうしよう、黒いねばねばが…重たくて、身体から離れてもらわないと!』

そう思い、身体のねばねばを取り払うための呪文を唱えようとした時、姫歌の視界がぐらっとゆがんだ。
『あれ…なんで…、意識が…遠く…。』

同じタイミングで白羽、そして楓真も意識を失いその場に倒れた。
霧雲による効果で、催眠状態に3人ともなってしまったのだ。

「ふふっ…仲良くおねんねしててね~」

霧が晴れたその場所には、黒い魔物にのしかかられたままの姫歌、白羽と楓真が意識を失い倒れている。
アリエスは口の中に入れていたビー玉くらいのサイズの小さな赤い球を取り出し、ポケットにしまった。
どうやらそれが霧雲の催眠にかからない方法だったらしい。

「ふぁ~、さてと~…研究所の中にお邪魔しにいかないと~」

そう言いながらアリエスが雲の上にまた寝転がり、移動し始める。

「君は優しいねぇ。寝かせたら動かなくなるし、研究所に行ってる間寝ててくれればいいって考えなんだろうけど、本当優しい」

近くのビルの上から、後から来た徹がアリエスを見下ろしながらそう話しかけた。

「…ちぇ…、まだ他にいたの…。オニーサンだぁれ…」
「俺ー?そこでおねんねしてる3人の仲間」
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