DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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30.新しい姿

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ギチギチと締め上げているとルノさんにスポッと奪われてしまった。

「イジメは駄目だよシーナ、こんなに可愛いのに可哀想じゃないか」

助けられて嬉しそうにルノさんの手の上で跳ねている。

「可愛くないっ!!どうしてルノさんがそれを持っているんですか!!」

ルノさんの手の上に乗っかっている物、それはレイニート様に渡したはずの俺の人形だ。
特に何の効果もなかったから渡したのになんで喋ってんだよ!!しかも……しかも……こっ恥ずかしい!!

「レイニート様がくれたんだ。シーナが神に連れて行かれた時、この子がずっと俺を抑えてくれてたから」

レイニート様が抑えてくれていたと思ってレイニート様凄いと見直していたのに違ったのか。しかしレイニート様に渡した時も喋りも動きもしなかったのに……。

「シーナがドラゴンステーキを幸せそうに食べていたからこの子も食べるかと思ったけど……食事はしないみたいだな」

所詮人形ですからね。

『ルノさんの気持ちだけでお腹いっぱい、満たされます!!』

ルノさんの手から人形を奪い取ると収納鞄に収納した。永遠に肥やしとして生きていろ。

勝手に奪って怒られるかと思ったけどルノさんの態度は変わらない。

「可愛がってあげてくれ」

自分の人形を可愛がる趣味は無いので受け流したけど……ルノさんは可愛がってくれていたわけではないんだな。

十分堪能したドラゴンステーキを収納袋へしまい、コンロや食器を布巾で拭いて片付けた。

「お腹も膨れたし、もう寝ますか?」

「そうだね。今日はいっぱい叫んで疲れただろう?ゆっくり休もう」

テントを取り出して組み立てる。
お手製にしたおかげで寝心地は上がったし、隠密効果もついてテントの中にいると魔物から気付かれないので見張りも必要なく、ゆっくり休める様になった。

「1番の目的は達成できたから……次は……」

「1度詰所に戻りませんか?隊長や皆にもドラゴンステーキ食べてもらいたい……あ!!でも狩ったのはルノさんだから、ルノさんが駄目って言うなら、いいんですけど」

1番の理由はベッドが恋しい、だけど。

ーーーーーー

それから数日かけて全ての魔物をルノさんが瞬殺してイージーモードで詰所に戻り、懐かしの我が家よと詰所の入り口を潜った俺達を待っていたのは……。

「あ?もう帰って来たのかよ。早過ぎだろ……もっとゆっくりしてくりゃいいものを……」

という隊長の歓迎ムード皆無の言葉とどこかよそよそしい隊員達の態度と……家財道具が全て無くなったルノさんの部屋だった。

俺達の居場所が……無くなっていた。

からっぽの部屋を見て愕然とする俺に困った様に隊長は頭を掻きながら俺の肩を叩いた。

「あのな「どういう事ですか!?ルノさんは除隊扱いにはならないって言ってたじゃないですか!!」

「待て、待てっ!!説明するから泣くな!!」

ここは俺の居場所で皆も俺を受け入れてくれているんだと思ってた。皆大好きな家族だと思ってたのに……。

「神様の家まで押し掛けて俺を引き止めてくれたのにいきなり追い出すとか酷い!!邪魔なら邪魔だってはっきり言ってくれたら良かったんだ!!皆がドラゴン肉を食べる姿を想像して楽しみにしながら帰ってきたのに……」

隊長の胸を何度も叩くけど俺の手が痛いだけで隊長には何も伝わらないだろう。

「落ち着きたまえ。君はもう少し自分がどれだけ危険な存在か認識した方が良い」

後ろから脇の下に手を入れられて、体を持ち上げられた。

「レイニート様?」

「ルノルトスも、二人で旅をして多少の絆でも繋げてくるかと思ったが何も成長はして来なかった様だな」

レイニート様は俺の剣を抜いてルノさんに突き付けていた。

「シーナ君、君は言っても聞かないだろうから、君達が居ない間に勝手に事を進めさせて貰っていた。君の家を用意していたんだ……まさかこんなに早く帰ってくるとは思わなかったからまだ準備段階だがな」

「家なんて……俺の家はここだし、俺の為にルノさんまで……」

「そう言うと思ったから勝手に進めた。ルノルトスもついてきたまえ、君達の家に案内しよう」

そう言うと、反論は許さないという表情のまま、俺を小脇に抱えてレイニート様は詰所を後にした。

俺のせいでルノさんが……そこを自覚した行動をするか、ルノさんの心に余裕が持てる関係を築け等、チクチクと説教を受けながら北区を抜け……中央区を抜けて、西区へ入る。

「シーナ君……神のお告げにより隊員達は自分の道を歩き出そうとしている。警備隊を除隊する者……新たに派遣されてくる者……君にとって居心地の良かっただろう詰所がこの先も続くかは分からない……君の為にも皆の為にも、いつでも歩き出せる新たな道を用意しておくべきだとは思わないか」

畑の中にポツンと建った一軒家。
この街のどの建物とも違う、だけど俺にはどこか懐かしい感じのする雰囲気の木造建築。

「レイニート様……この家は……」

「どんな家にするか考えていた時、神託が下った……全く、石なら魔法で一瞬だったのに、神に愛されている者は厄介だ」

引き戸を開けたレイニート様に連れられて中に入る。
田舎の……随分古風な家だが日本家屋はやはり馴染みやすい。

「キッチンの設備辺りが神託で告げられた物の再現が難しくて上手くいってないんだが、もう住むには問題無い」

靴のまま上がろうとしたレイニート様を慌てて止めた。

「靴を脱ぐのか。やはりこの家はシーナ君の為だけに神が告げてきたものなんだな」

レイニート様に床の上に降ろされ、玄関で靴を脱いで室内に上がるとレイニート様とルノさんも同じ様に靴を脱いだ。

側にあった障子を開けると畳っぽい床の部屋だ。
微妙に畳とは違うけど、ここまで再現してくれたんだ。

「レイニート様、ありがとうございます」

「お礼を言うなら皆にもな。皆で知恵を出し合って作ったんだ……ルノルトス、お前もだ。皆お前の事も思い計画したんだ」

レイニート様の言葉にルノさんは深く頭を下げた。

「俺……勝手に追い出されたと思って隊長責めた……」
「あれぐらいで怒る人ではないよ。隊長にとっては子どもにぐずられたぐらいにしか思ってないだろう」

俺が気にしないように気遣ってくれているんだろうけど、相変わらず一言余計だ。
ルノさんにあの人形を渡した事は俺の胸の中にしまって置く事にした。

「今頃まだ、誰が詰所の留守番をするか揉めている頃だろう。騒がしくなる前に家の中を二人で見ておくが良い」

俺とルノさんを残してレイニート様は家を出て行った。

残された俺とルノさん。
何も喋らないルノさんを見上げた。

「なんかいろいろ話が急に進んじゃってて……ルノさんは良かったんですか?」

「俺はシーナと一緒にいられるなら、どこでだって……いや……シーナとこの場所で新しい生活を初められるなんて幸せだよ。ここは俺にとって大切な場所だから……」

本当に嬉しそうな、少し潤んだ瞳のルノさんに俺も笑顔を返した。

ルノさんにとって大切な場所、それは……。

「シーナと出会えた大切な場所だ」

そう……俺が熊に齧られた場所ですね。
俺にとっては呪いの地だけど……こんな笑顔を向けられたら笑うしかないよね。

ここからまた、俺の新たな生活が始まる。

宝物の様に抱き締められ、近付いた頬にそっと唇で触れた。

よろしくお願いしますと、ありったけの想いを込めて……。
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