DIVA LORE-伝承の歌姫-

Corvus corax

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22.真相

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「見えた…」

楓真が精神統一状態から戻ってくる。
ふう…とため息をついてから立ち上がると、少しよろけた。
白羽がよろけた楓真を受け止める。

「あぁ…すまない」
「いや、精神統一した後は疲れるんだろ、前もあったからな」
「見たくないものを見るとどうもね…。まだまだ私も修行が足らないな…」

体制を立て直すとまたすこしふらつきながらも姫歌の方へ足を進める。
少し顔色はよくないが、楓真が説明してくれた。

「大丈夫、とりあえず私が読み取った過去では、桜川さんの答案用紙のデータ書き換えがここで行われたのは事実。だから、あなたが不合格になるのはおかしい。ただ、もしかしたらもう一度試験を受けることになるかもしれないかな」
「あ…あぁ…、よかった。ありがとうございます…。ごめんなさい…そんなに顔色悪くされると思っていなくて…」
「いや、これはあなたが悪いんじゃない。さっきいた池沼という先生が悪い」

楓真の姿が元に戻る。
池沼が出て行ってから5分くらい経過しただろうか。
一向に帰ってくる気配がない。

「音声データ複製し終わったよ。カードに保存しといたから、あとでこれで問いただせば答案用紙の件は大丈夫だと思う」
「ありがとうございます」
「それにしても先生戻ってこないね」
「逃げたか…」

それから10分経過したが戻ってくる様子はない。
待っていても仕方ないので職員室へ。
中へ入ると池沼の姿はなかった。
鈴木先生によれば、急用ができたとかで帰ったとのことだった。
試験の調査について鈴木先生に話があると説明し、会議室に来てもらったあと、保存した音声を聞いてもらう。
断片的な音声だが、それを聞いた鈴木先生も顔をしかめた。
能力を使って集めた音声データに嘘偽りはない。

「さすが…Sクラスの二人が集めた情報だな。わかった、試験の事については先生方と会議したうえ、今後の方針を決めよう」
「はい、ありがとうございます」
「あと桜川、部屋に侵入されて被害をうけたとも聞いているが、それは本当か?」
「はい…いろいろめちゃくちゃで…、服も破けたまま治せないものもあったりしました。捨てずにとってありますが…。鍵も寮母さんにお願いして、新しいものに変えてもらっています」
「そうか…女子寮のほうは男性は基本的に入れないからな…。もし調査をするとなったら寮母さんとも話し合いをしないといけないな」

少しずつだが事件の真相が暴かれていく。
嫌なことはあったけれど、助けてくれる人に恵まれたことに姫歌は感謝した。
そしてその日の調査は一度それで終了になり、寮に戻る。
寮の入り口に行くと、心配した空が入口で姫歌の帰りを待っていてくれた。

「姫歌~~、悩んでたなら私にも話してよおぉ…!」

どうやら徹に何か調査しているという事を聞いたらしい。

「ごめんね…。私空に…もし何かあったらって…、私に関わった事で、空も悲しい思い…させたくなくて」
「姫歌!私姫歌の親友だよ!そんなの、一緒に乗り越えなくちゃ私親友って言い張れない!大丈夫、本当の友達はそんなことでくじけたりしない!だからもう一人で悩まないで。ね?」
「空…、ありがとう…」

手を握って励ましてくれる空に、ありがとう以外に何を言ったらいいのだろう。
自分も親友だと思っているのなら、ちゃんと相談しなくては…。
自分から心を開いて変わらなければ。
そう思う姫歌に空が続ける。

「1番最初に相談するのは白羽先輩でもいい、でも、私だって姫歌に頼って欲しいの。私が出来ることは少ないかもしれないけど、もし姫歌が私のこと親友だと思ってくれてるなら…」

親友だと思っている。
だからこそ親友に迷惑をかけたくない。
でも相談しない事が親友として失礼にあたるのなら…。

「友達いなかったから、付き合い方がよくわからないの…、何がよくて何が悪いのか。どこまで頼っていいのか…、どこまで話したら迷惑にならないんだろうって…」
「そんなの、私だってわかんない。でもだからって何もしないのは何の解決にもならない。もし姫歌がこれから変わりたいと思うのなら、くだらないこと、悩み事、嬉しかった事たくさん話して、どう思ってるのか教えてほしい」
「……空…。うん…わかった」

全部一気にやることはできないかもしれない。
なんでも一人でやろうと思ってきたことを、他人に頼るという考えを持つ事自体に練習が必要だ。
でも親友と言ってくれる大切な友にちゃんと伝えよう。
そう思って自分の部屋に戻った。

次の日、空が心配して自分の部屋まで迎えにきてくれた。
一緒に登校する二人に、学園内の視線は冷たい。

“Bクラスに上がるための試験に落ちた”
“実力ないのにバカじゃないの”

亮と同様、空もBクラス進級試験には合格している。
本来なら合格している姫歌が、噂のせいでほかの生徒の話題の的になっていることに空はムカついていた。

『何があったかも知らないくせに…』

白羽と一緒にいることが目撃されるようになってから、学園内の空気は姫歌にとって過ごしにくいものになってしまった。
それ自体悪い事ではないのに、嫉妬や憶測、勘違いにより学園内を駆け巡る噂は悪い意味で仕事をしている。

「姫歌、気にするなって言っても無理かもしれないけど、姫歌は一人じゃないからね」
「うん、大丈夫。ありがとう」

今の学園内の悪い空気を換えるには、進級して上に立つしかない。
もしかしたらそれでも心無い人間はよく思わないかもしれない。
それでも立ち止まったら終わりだ。
つらくても、悪くても、前に進むしかない。

一通り授業を終え、放課後また白羽・楓真、今日は空も一緒に真相解明しようと創作部に集まっていた。
徹は部長なので、とりあえず部室で部員たちと一緒にいてくれるらしい。
亮は少し遠くで見守っている。
寮にあった切り刻まれた服の残骸を姫歌は少し持ってきていて、それを白羽達に見せる。
そういえばミルカの姿がここのところ見えないが、何かあったのだろうかと姫歌は疑問に思った。

「白羽くん、ミルカ先輩は…?」
「あいつ今実家帰ってる。1週間くらいしたら戻るらしいけど」
「そうなんだ…」

いるかいないかで言ったら、いないほうがありがたい。
そう思い、その侵入事件の時に気づいたことを話している時だった。

「大変大変!寮のほうで煙上がってる!!」

部員の一人がすごい勢いで部室へ駈け込んで来た。
その言葉を聞いて、また嫌な感じがした…。
そのいやな感じは現実のものになる…。

『どう…して…』

火が上がって消火活動をされていたのは、紛れもない姫歌の部屋だった。
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