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サカラナキ細工の隙間飴

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物音で夜中に目が覚めた。
寝転がったまま壁掛け時計を見ると時計は丑満時を指している。
せっかく目覚めたのだし、深夜の散歩にでも行こうかとも思ったが確か今夜の予報ではメリエイの殻が降るといっていた。
気にせず歩くのも出来なくはないが、いかんせん足元が暗い時間帯、隙間飴が沸かないとも限らない、もし産まれたてのサカラナキなんかを踏もうものなら事だ。
流石に私も飴細工収容所で細工を施そうという気にはなれない、あんなとこへ行ったら何をされるかわかったものじゃない。
運悪くサラダに入っていた一欠片を舐めたせいで、額から蛞蝓のようなツノを生やされて収容所から帰ってきたものもいたそうだ。とてもそんな目には会いたくない。
仕方がないので、二度寝をすることにした。
目を閉じ、時計のかっち、かっち、という音を聞きながら、意識を奥に溶かしてゆく。
ちょうど意識が微睡み、いよいよ眠りに落ちようか、という時、私は重大なことに気がついた。
「あ、車に殻除けを載せるのを忘れていた。」
そう思った時には眠気は元の通り、すっかり去ってしまった。
仕方ない、殻除けを置きに行こう。
殻の小傷より明日の車だ、どうせ5分ほどで終わるだろう。
そう思うと私は、玄関にあった殻除けをとり、様子を伺うように戸を開けた。
不用意に開けてサカラナキなんかの細工飴とかが飛んできたらまずいからだ。
暗くて見えないが外からはザロザロと音がする。
やはりしっかりとメリエイの殻が降っているのだろう。
その証拠に、目の前の玄関先のコンクリートがテラテラと光っている。
大降りなのか、やけに濡れている。
まだ降って間もないのか、サカラナキもいないようだ。
殻除けを置くなら今のうちだろう。
善は急げだ、そう思い外へと一歩を踏み出す。

ーーーーーーぐにゅっーーーーーーーー

何かを踏んだ。
下を見た私は、すべてを悟った。
サカラナキが一匹もいなかった理由も、殻が降って間もないというのにやけに濡れていた足元の床も。
床が光っていた原因は、今、私が踏んだものだ。
これは融けた飴細工だ。
周到にも、床に張り付いて、私をまち伏せしていたのだ。
サカラナキが一匹もいなかったのは、この流れる飴細工に、サカラナキが一匹残らず合流したからであろう。
薄れゆく意識の中、私が最後に聞いたのは、駆けつけた収容所のサイレンと、ギィ、ギィ、という新しい私の鳴き声であった。




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