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6章 変な石とその後の話

第235話 初対面では結構怖い

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 領主の館の執務室で前任の領主が残して行った仕事を片付ける。
 冒険者ギルドの方は何だかんだ最低限回っているようなので放置。
 最低限の書類整理は終わったので、後は領民の要望書を読み込み、公益性のある物に予算人員を回す。
 今回は現在進行系の疫病対策に回っている教会宛に追加で予算を回す、余計な口出しは要らない。領地運営のコツは知識も無い部分に口を挟むことではなく、出来る者に予算を回して良きに図らえと言うだけだ。
 まともに使われるかはまた別問題なので、色々確認と微調整は必要だが、ソレは別の話。
 もっとも、この屋敷の人材に現状ロクなの居ない問題が有るので、最低限のお使いしか出来ないのが問題なのだが。
 其れ以前に今は疫病の真っ最中なので、治療に従事している各所に補助金を出す程度しか出来ないのだが。
 ソレに引き継ぎ予定な次期領主様の目星は付いていて、しかも早い内に来る様なので、自分の子飼いの部下を作って根回しと教育育成しておこうにも時間が足り無いので、色々諦めて引き継ぎ準備と覚悟だけして置く。
 次期領主様がマトモで優しい人で有りますように。
 後はそんな事を祈るだけだ。
 上司であるダモクレスの目が確かな事を祈ろう。

 そんなこんなで、次期領主様の1団が到着した。
 使用人達がドタバタと走り回って居る、本当に三日天下だった。
「好きな方法でどうぞ」
 そう言って両膝をついて目を閉じた。
 貴族相手に士官する時の儀式なのだが、一般的に騎士なら剣の腹で肩を斬れない様に叩くのだが。文官の類では手で肩を軽く叩くが。酷いのだと最初に上下関係を分からせると言う名目で暴力を振るう者は意外と多い。
 交互に2回叩くと言うのが最低限のルールなので、以外と往復ビンタが多いと聞いたことを思い出す。
 そんな怖い想像をしつつ、その儀式を待った。
 カチャリ
 音が響いた、剣か、ちょっと怖いけど、まあ大丈夫。
 思わずビクリとしつつ、目をギュッと瞑る。
「コレでは無いな?」
 そう呟くのが聞こえた。
(え? ソレはどう言う意味で?)
 ふわりと、抱き締められた。
(え?)
 ぽんぽん
 ゆっくり優しく背中を叩かれた。
「コレで良いかな?」
 するりと手が離れた。
 何故かオレンジの良い香りがした。
 .
 思わずポカンと目を開けた。
 周囲の面々の顔には、これだからこの人は、と言う様な何とも言えない生暖かい目が浮かんでいた。ちょっと羨ましそうな顔だったり。何故か得意気な表情が浮かんでいたりした。
 そして、いきなり抱擁してくれた本人には、少し照れくさそうな笑顔が浮かんでいた。
「はい、ありがとうございます」
 思わずぴょこんと立ち上がり、改めてカーテシーで自己紹介をしつつ挨拶した。

「早速たらしましたよこの人は」
 黒髪の美人が苦笑を浮かべる。
「あれだけ怖がってたらしょうがないじゃないですか」
 金髪の少女が口を尖らせる。
「凄いでしょ?」
 アカデ先輩が何故か得意気に笑みを浮かべていた。
「羨ましいです、後で私も」
 メイド服の少女が羨望を込めて。
 口々にそんな事を言っているが、不思議と攻撃性と言うか、トゲは無い。
「他意はないぞ?」
 当人は今更照れたのか、はにかむように顔を赤くして苦笑を浮かべる、言い訳っぽい口振りだが、先程まで独特の緊張感に張り詰めていた空気が霧散していた。

 何はともあれ、こうして私は新しい領主、和尚さんに仕える事となった。
 思ったより優しそうな人で良かったと思う、そしてその後、想像の斜め上を行く要注意面白人物で、ダモクレスの采配に感謝する事に成るのは、すぐ後の話だった。
 
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