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4章 助けた少女とその後

第178話 番外 アカデの回想 4 規格外の人

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 無事帰還した和尚さん達は流石に力尽きたらしく、門番役に一言帰還報告をしてそのまま家に帰ったらしい、確かにアレだけの大立ち回りをして直ぐに動ける方が可笑しい、報告は後回しだろう。

 報告が来る迄大分時間がかかり、その前に届いた他の冒険者達からの報告で、恐らくガンダーラのメンバーが魔の森で大立ち回りをした所、ゴブリンの死体の山の場所で、明らかに生息域がズレたような大物が居るらしいと言う報告が上がった。
 報告者が、暗くて見えなかったが、明らかにアレはヤバいと、必死に息を殺して気配を殺して、命からがら逃げて来たと言うような不明瞭な報告だが、とても気に成る、魔の森で活動できる冒険者は基本的に経験豊富な中級から上級だ、其れなりの実力が無ければそんな場所には行かない、その経験と照らし合わせて、気配と直感だけでも不味いと思ったのだから、本当に不味いのだろう。
 私はそう言った経験から出る結論は信頼する事にしているし、領主のギル様も元上級冒険者なだけ有って、そう言った直感を馬鹿にすることは無いので、本当によく回っている。

 その報告から遅れて、和尚さん達が報告に来た、報告内容としては、意外と危な気無く生き残った様だが、私の渡した小瓶が原因で死にかけていた、灯さんから少し強く恨みがましい視線が此方に向けられるが、和尚さんは特に気にした様子も無く、エリスさんも特には文句は無い様だ、内心平謝りだが、私が平べったくなっても話は進まなそうなので、深く頭を下げて其れで続ける。
 それにしても、この人たち以外では先ず生き残って居なかったと言うのは良く分かる。
 ギル様からもそのツッコミは飛んでいった、何と言うか、死にかけたと言うのに、この人たちは対応が軽い、自信が有るのだろうけど、私達とは少し感覚がズレ気味だ。
 比喩抜きで際限無く襲い掛かるゴブリンを倒し切り一晩明かし、無理矢理走って帰って来たと・・・
 あの時の風向きと、群れが方向を考えた事を考えると、ほぼあの群を全てこの3人で引き受けた事に成る。
 平たく言っても無理矢理だ。

 報告を聞いた私達が頭を抱えるのも当然の流だが、今回は続きも有る、その強さを見込んで護衛をしてほしいのだ。
 期せず、労せずに、死体の処理をする余裕が無かった関係上、魔の森の比較的浅い位置に餌場が出来て、奥地に居る筈の魔物や獣が出て来て居るのだと思われるが、恐らくこの人達なら予想外の大物が居ても生き残れるだろうと言う、妙に楽観的な信頼が有る、そして、この期を逃しては恐らく自分の目で見る事が出来ない、死体を観察検分する事と、実際に動いて居る物を見る事では圧倒的に情報量が違うのだ、怖がりの自分が、人類の生存域外で、自分の命を預けても良いと思える相手は、恐らくこの人達ぐらいだろう。

 そして後日、快く護衛を受けてくれたガンダーラのメンバーによって、思った以上に危なげ無く、安全に? 問題の大規模襲撃の跡地に到着した。
 大分速足で移動して来たが、荷物を全て預けられたのでそれほど疲れなかった。
 其れなりに鍛えて居た分も有るが、収納魔法と言う物は便利だ・・・
 風に乗って生き物が腐る独特の匂いを感じる、正直あまり嗅ぎたく無い匂いだが、この匂いが有るからこそ奥地の生物が寄って来たのだろうと思う、ハンカチで口の部分を縛って申し訳程度の対策をと思った所で。
 和尚さんが小さく何かの呪文を唱えて周囲の匂いを一掃する、消臭魔法? そんな魔法有った? 浄化の奇跡の応用?
「便利ですねえ・・・・」
 思わず呆気に取られて呟く。この人の能力は御仏の加護と言って居るが、矢鱈と引き出しが多い。
「こっちは神様多いですから」
 いや、そういう物なのだろうか?
 まさかそれ専門の神様とか居るのだろうか?

 不意に、視界の隅に黒い生き物が写った。
 和尚さんも其れを認識したのか、先程までと一瞬で纏う空気が変わり、小さく呟いて虚空から槍を取り出す。
 ここに来る道すがら、キングやらクィーンの死体と槍を回収して来たので、今更取り出す事には驚かない。
 次の瞬間、和尚さんは迷う事無く何かを唱えながら槍を投擲する、槍が燐光を放ちながら飛んで行く。この人が本気で戦うと色々光ると聞いて居たが、真坂本当に光るとは思わなかった。
 思わず呆気に取られて目を丸くする。
 投擲された槍は、狙い通りに黒い点に命中する、心無しかその黒い点は最初に見た時より大分近づいて来ていた、一瞬命中した衝撃でほんの少しだけ体勢を崩したが、意に介した様子も無く近づいて来る、一瞬その黒い物の上に血では無い赤い物が見えた気がした。
 ブラッディベア?!
 本来冒険者や正規軍何十人単位で相手をする獣だ。
 当然3人でどうにか成る物では無い、どうやって逃げれば?!
 と、一瞬パニックに成る、当然、自分が戦力として役に立つとは思って居ない、私が提げているショートソードは本気で飾りだ、何も持って居ないと護衛の冒険者の方々にも舐められたりするので、飾りでハッタリでも提げているだけだ。
 正直、ゴツメの包丁や鉈と変わらない。
 そんなネガティブな生存戦略が頭をグルグル駆け巡る。
 次の瞬間、再び小さく呟いた和尚さんの周囲には山の様に武器が現れ、其の手には又槍が握られていた、未だ投擲する時間とは有ると言う事か、直ぐにその手も取槍を投擲する、投擲された槍は狙いを過たずに獲物に突き刺さる、だが未だ止まらない、既に距離はもう目と鼻の先だ、獲物はブラッディベアで間違いは無い、既に目視で確認できる距離だ。
 和尚さんは次々に槍を投げる、次々と外れる事無く突き刺さる槍、燐光を纏って全身の筋肉を駆使する和尚さんは、とても奇麗で、格好良かった・・・
 いや、感心するところは其処じゃない、生きるか死ぬかだ、現実逃避してどうする。
 次々と突き刺さる槍に段々と速度が落ち、動かなく成った所で、慎重な様子で近づき、改めて止め刺しと、何か小さく呟きながら首の辺りの動脈を切りつけた。
 あの、その皮、まともに刃物が通らない筈なんですけど、何で普通に切りつけてるんです? しかもちゃんと的確な位置を・・・・
 どくどくと血が流れて行く、放血が終わり、動かなくなったのを確認して、私も改めて近づく、目測体長で5メーターを越える大型のブラッディベアだ、通常のダークベアが大きく育つと、鬣に赤い色が混ざるようになる、一般的に、上級冒険者であろうとソロで討伐する物では無い、其れをこの人は・・・
 ゴワゴワと針金のような感触の毛皮に触れる、硬い・・・・
「強さ的には?」
 灯さんが聞いて居る、見つけたら絶対に逃げろと言われる有名な獣だが、見た事無いと言うか、噂も聞いた事が無いのだろうか?
「見つけた時点で死を覚悟しろですよ」
 エリスさんが呆れ気味に説明する、正直、私も死を覚悟した・・・・
「貴方を連れて来てよかった・・・」
 思わず呆然と呟いた。
「仕留められてよかった、こんなもんと近接戦闘したくありません」
 投擲槍であろうと、あの位置から連続で投げて必中で仕留め切ると言う話は聞いた試しがない。
「刺さる時点で可笑しいです・・・・」
 力無くツッコミを入れた。
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