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3章 活躍する坊主

第82話 武器屋 折り返そう

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 周囲に固まっていた群が九字切り結界に弾かれた。
 結界を回り込もうとした一団に飛んできた戦斧が突き刺さった。
 突き刺さった戦斧は慣性に従い、勢いそのままに群れを盛大に薙ぎ倒し、戦場に突き刺さって止まる。
「だから変なフラグ立てないで下さいって毎回言ってるじゃないですか。もう前線は目いっぱい後退してます、一人で頑張ってもあんまり効果無いんです、さっさと後ろに下がりますよ。」
 場の状況には似つかわしくない、軽く嗜める様な灯の声が響いた、散歩するような気安さで戦斧を持ち上げ、周囲に叩きつける。
「勝手に居なくなられても困ります。」
 エリスも一緒に来たようだ、少し怒りで膨れている気配がする、何故か大太刀を構えている。
「危ないから逃げてろって言っただろう?此方は大丈夫だから。」
「今となっては、守られっぱなしって訳でもないので、素直に頼ってください。」
「その状態で言っても説得力無いです、」
 軽口を叩きながら、二人が獲物を構え直す、俺の両脇を守る、何時もの定位置だ。
「灯、エリス、ありがとう。」
「何です?改まって?」
「そういうのは私たちのセリフですから。」
「って、また変なフラグ立てないでください!」
「大丈夫、今なら鬱フラグブレイカーついてるから。もう大丈夫。」
 言葉一つ一つを丁寧に窘めてくれる灯の声が頼もしい。この状態なら変なフラグはへし折るものだ。
 二人が改めて群れに飛び込んだ。

「だから何て大太刀・・・」
 思わず呟いて目を覚ました。夢落ちは禁止だと漫画の神様に怒られそうだ。
「どんな寝言ですか・・・」
 灯が呆れ顔で俺の顔を覗き込んでいた。エリスも同じように覗き込んでいる。
「・・・変な夢見ただけ、喋ると変なフラグ立つから止めとく。」
「見た時点でフラグ成立してません?」
 灯がジト目で見て来る、又死亡フラグかとエリスが腕にしがみ付いて来る。
「何だか夢の中で敵に囲まれてたら、灯とエリスが武器構えて突撃して救助に来た。」
「現状、和尚さんが囲まれた程度で苦労する状況が無さそうですね・・・」
「正直何が如何なってあの状況になるのか分からん。」
「出来るなら救助にも行きますけど。」
 エリスは救助に来るのもやぶかさでは無いらしい。
「で、灯が前回の戦斧、エリスが何故か大太刀構えてた。」
「現状多分持ち上がりませんけど・・・・、大太刀何てそもそも持ってないじゃないですか・・・」
「武器屋に注文しても大太刀は扱いにくいから別の持たせるが・・・」
「其処ですか・・・」
 灯がジト目で突っ込みを入れて来る。
「何を注文するんです?」
「出来上がりをお楽しみに・・・」
 どうせだから注文してしまおう。


「出来てますか?」
 馴染みの武器屋である。
「おう、ちゃんと研ぎ上がってるぜ。」
 武器屋の親父がニヤリと笑みを浮かべて槍を手に取った。
 受け取って出来上がりを確認する、良い出来だ。
「代金は前払いだったからな、どうせだから武器注文してかないか?良いもの作るぜ?」
 ふむ、試しに言うだけ言ってみるか。
「折り返し鍛錬って知ってます?」
 親父作の剣と槍は持って居るが、見た所、ちゃんとした鍛造だが少し甘い。
「折り返し?」
 分からないようなのでまずは日本刀の折り返しから説明して見よう。
「こう、鉄を鍛造して薄くするんですけど、こう折り返すんです。」
 紙を一枚手に取って折り返して行く。
「固めの鉄を伸ばして折り返して、最後の芯に軟鉄を入れて改めて伸ばすんです。切っ先は堅い鉄、中心の芯は柔らかい鉄にする事で衝撃を吸収させて長持ちさせる訳です。」
 折り返した紙の芯に枝を挟んで見せる。
「えらい面倒な作り方だな。」
 武器屋の親父が苦笑いしながら説明を聞いて居る。
「最低でも2回以上折り返してください。」
 実は折り返し鍛錬は回数を何度も重ねてもそれほど強度を稼げなかったりもする。3回目以降はほぼ誤差だ。
「言うほど折り返さないんだな?」
 親父が苦笑する。延々と折り返すイメージだったかもしれない。
「2x2の4層積層で十分です。中心の軟鉄を入れて5層あれば問題無いです。」
「他には何か面白い技術有るか?」
「刀身の刃の部分を焼き入れ、峰の部分に泥を塗ることで焼きが入らないようにするって言うネタも有りますが。」
 日本刀は背の部分と腹の部分に泥を塗って焼き入れの温度差、膨張率と収縮率で反りを作るのだ。
「ふむ、で、どうゆう武器を作るんだ?」
「こう、片刃の武器です、長巻って言うんですが。刀身1m無い位で、柄も1mかもう少し長く、バランスが取れる感じに・・」
 紙を開いて絵を描く、刀身は反りの有る日本刀と言うよりは大太刀に近い。特徴としては柄の部分が刀身と同じかそれ以上の長さが有る、戦国時代に活躍し過ぎて徳川の世に規制された武器だ。
「ふむ、一月だな、金貨10枚で良いか?」
「はい、それじゃあお願いします。」
 ギルド証から金貨を取り出して前払いで全額払う。
 最近の深紅の翼で稼いだ金額はかなりの物なので今更節約が意味を成さない、むしろ義父上からは死蔵されると市場が死ぬから良いから使えと釘を刺されている、財布の紐を握っているエリスも好きに使ってくださいと言われているので特に問題は無い。
「毎度。腕が鳴るぜ、楽しみにしてな。」
 武器屋の親父がガハハと笑っていた。

 後日
 異様に刀身が分厚い物体が出来上がっていた。
 重さが10キロ近くある、重心バランスは悪くないので振り回す分には悪くないが、多分振れるのは現状俺だけと言う落ちだ、この武器屋は重量武器が大好きだと言う事を忘れていた。
 当然だが、エリスは持ち上げられたが振り回すことは出来なかった。

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