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第66話 VSくとるー 前哨戦

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 気力を振り絞って無理矢理起き上がり、周囲を見渡す、陸地に草や木の様な植物の影は無い、岩磯が水上に上がった様な岩場だけ、結構広いのか、遠くに神殿か何かの様な、柱の様な物も見えた。
 水面に上がった影響で生き物が陸上で乾燥しながら腐ったのか、何とも言えない匂いもしてくる。
 ぐらんぐらんと揺れる頭を押さえつけ、手をにぎにぎとして血行の回復を促す。
「ほれ、持てるか?」
「大丈夫です」
 何時の間にか預けていた鳴狐を突き出されたので、反射的に答えつつ掴んで受け取り、腰のベルトに刺して固定する。刃物を持つと緊張感で気持ちが切り替わるので、視界がまっすぐに成る、やっとしゃんと立てた。
「音は聞こえるか?」
「聞こえてます」
「今儂らが話して居るのじゃない、余計な雑音の方じゃ」
 言われて耳を澄ませると、囁くように波の音に交じって反響した歌声が響いて来た。
 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん……
「……なんか唱えてますか?」
 怪しい呪文的な物が聞こえて来た。
「深き者共(ディープス)がクトルー召喚の儀式をしておるのじゃろう、一緒に聞こえて来るそれ以外の音が件のクトルーが出す発狂音波と言う奴じゃ」
「ノイズ見たいな変な違和感を感じるやつですか?」
 ラジオのノイズの様な物と言うか、視界やら聞こえる音に何か違和感がある、文章が可笑しいかと思われるかもしれないが、蜂蜜酒での開眼状態に成ってから、音から何から余計な物が見えるし聞こえるのだ、見鬼の視界とはこう言う物なのだろうか?
「其れじゃな、気が付かないと深層心理に刷り込まれて、精神の形が変質するから下手に一般人を近づかせることが出来ないわけじゃ」
「自分達が無事なのは……」
「基本的に儂の様な神霊なら自分の精神と魂の形を把握して固定できるから大して問題は無い、お主等の様な人間、退魔師やら何やらの類なら、精神修養してるから多少は防御できるし、お主の女装での双性の加護でその辺強化されとるから、今回は蜂蜜酒のおまけも有って、かなり余裕のある状態な訳じゃな?」
「成程……」
「静かなのは今の内じゃから聞きたい事が有ればなんか行ってみい?」
「所で、双性状態なのに凄い狙われるんですけど……」
「あいつ等霊体や現象じゃ無く、肉の目を持った生き物じゃからな、人間相手に双性の加護が効かんのと同じじゃぞ?」
「つまり、クトルー本体も?」
「受肉してる状態じゃから基本効かんぞ? 精神攻撃に対する耐性の強化には効果が有るが、其方には期待するな」
「はい、所で静かなのは今だけって……?」
 嫌な予感がする。
「この陸地、ルルイエの神殿はあ奴の領域じゃからな? 儂らが上陸した位は察知されて居るし……」
 葛様が言い終わる前に、何か異様な存在感が足元に現れた。
「こうして、こっちが探さんでも向こうから直ぐに出て来るからな?」
 唐突に足元から生えて来た触手を葛様が小狐丸で一刀の下に切り捨てつつ立ち位置を変える、同じ様にバックステップで触手を避けつつ、ある程度集まった所を鳴狐で触手を切り払った。流石に重文クラスの名刀、かなり良く斬れる。
「刺突系じゃと直ぐに再生するから斬撃メインで頑張れ」
 斬りはらわれた触手が周囲に散らばってのたうち回るが、特に気にすることは無く次から次と出現する触手を斬りはらう。
「暫くは囮じゃな? 儂は準備をするから、本体が焦れて出て来る迄頑張れ」
 葛様が無責任に指示を出しつつ、自分と立ち位置を入れ替える様にくるりと回ると、気配を消した。
 其れを合図にする様に、触手の攻撃が此方に集中した、こうなると返事をする余裕が無い。
 本気で囮を任されたらしい。

 蜂蜜酒で強化された視界で次に触手が出現する場所を先読み予測し、避けて、斬る。
 足を止めると次の触手が其処に生えて来るので、引き寄せて、避けて、斬る。
 伸びて来る触手を瞬間的にステップで避けて、他の触手と纏めて、斬る。
 地面と言うか砂から生えて来たり、岩の隙間から生えて来たり、水の中から生えて来たり、挙句の果てに魔法陣なのか次元の裂け目的に何もない空間から生えて来たりもするが、ギリギリ先読みが間に合い、全て避ける。
 このペースなら結構持つか?
 実戦の緊張感と高揚感で心臓をバクバクさせながら、次から次へと触手を斬り飛ばす。
 一瞬休憩するように足を止め、攻撃が集中した所で避けて、更に斬る。
 肩で息をしつつ、ギランと次の出現空間を睨み付けた。
 次は何処だ?!


 葛視点
 結構頑張っとるなあ?
 出現させる前準備として符と印で強化した九字切りの結界で出現予定地であるこの島全域を覆いつつ、陽希の働きを見る。
 常人なら初撃で巻き取られて詰むような触手の猛攻を陽希が避けて攻撃して行く、先に飲ませておいた蜂蜜酒のドーピング強化分と持たせた鳴狐の人外特攻分が有るとしても、中々立派な働きぶりだ。
 和菓子に使う楊枝で数十メートルあるダイオウイカの触手を必死に切り飛ばして居る様な状態だが、意外と拮抗している、まあ長持ちはしないだろうが、囮はあ奴の仕事として任せつつ、本体の位置を探る。
 神気と霊力を使ったソナーに、蜂蜜酒で使えるようになっているクトルー特攻の付いたハスターの狂風を乗せて探ると、未だ深い位置に居るのが『見えた』
 日蝕の本影で生贄の魔法陣が出来上がる迄時間を稼ぎたいのだろうが、その前に引っ張り出させてもらおう。
「とっとと起きろ、この引き籠りが!」
 ハスターの狂風で空間を捻じ曲げ、本体を引きずり出した。


追申
今更ですが、プロローグに0話の指切りシーンを追加しました、コレであのシーン唐突過ぎると言わせません。
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