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第59話 止め確認

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 もう歩けるだろうと降ろされてからコンクリートの床面に落ちていた愛刀を回収する、泥と血糊にまみれて何とも言えない状態だった、帰ったら真水で洗って研ぎ直して油を引かないといけないなと、思わず遠い目をする。
 一先ず刀身の泥をハンカチで拭って、次の獲物が居ない事を確認して鞘に納める。
 ダゴンは何時の間にか倒れ伏して動かなく成って居た。
 動かないなら死んで居るのだろうと言う事で、戦闘前にダゴンが居たであろう場所に目を向けた。

 瓦礫の山の様にしか見えない祭壇の様な物があった、人や半魚人の死体が折り重なって居る、どういった理屈の生贄なのか判らないので、思わず困惑する。
 流れる血液に今流れ続けて居る様な真新しい物は無かった、全て赤黒く変色して固まって居る、
 祭壇の奥の壁には、血液なのかペンキなのか、赤黒い塗料で魔法陣らしき物がでかでかと描かれて居た。
 いあいあくとるふふたぐん!
 何か聞こえた。残党が居たのか、まだ生きて居るのが居たのか。
 その声に反応したのか、壁に有った魔法陣が光ると、冗談の様に壁から触手が生えた。
 触手は何とも言えないまだら模様の保護色をしていて、表面には吸盤の様な物も見える、そしてその触手は音も無く迷いも無く、真っ直ぐこちらに伸びて来た。
(え? 近い?)
 思った以上の速度で近付いてくる。
 すぱん
 そんな音が聞こえてきそうな程あっさりとその触手は切り飛ばされた、葛様が何時の間にか小狐丸を抜刀していた。
 根本の方は斬られた事に驚いたのか、一瞬で魔法陣の向こうに引っ込んだ。
 そして、切り飛ばされた触手はというと、結局コチラに飛んで来た、殺気も何も無いものだから回避は遅れ、結局斬られた後でも元気に動く腕位の太さの有る触手に襲われた。
 死にかけだが妙に力強いソレに絡み着かれ、表面の粘液でねとねとにされた所で斬り放された事を思い出したのか力尽きたらしく、解放された。
「何と言うか、薄い本が厚くなるな?」
 葛様が何とも薄笑いも含めた何とも言えない表情で言う、そんな事を言いながらパシャパシャとスマホを操作していた。
 自分自身の状態を確認する、ヌタウナギじみたネトネトの粘液にまみれて、吸盤付きの触手に絡み着かれたおかげで全身に吸盤の跡、服も着崩れて乱暴された後のような事に成って居た。
(エロ同人みたいに!)
 不意にクラスメイト2人組の謎台詞が思い浮かぶ、成程、こういう時に言うのかと、変な納得をしたが、何故か楽しそうにスマホでパシャパシャしている葛様を恨みがましいジト目で見ることしか出来なかった。

 撮影するのも気が済んだのか、さてと、と言う感じに空気が変わる。
「もうこやつに斬れる手札は無いとは思うが・・・・」
 そう言って葛様が何の気無しに鞘に収まった小狐丸を片手にダゴンの死体に近づく。
「止めは刺さんとな?」
 ギン!
 硬質な音が響く。
 ダゴンの首と胴が断ち切られて居た。
 子狐丸をピッと振って血糊を飛ばして納刀する、一切ぎこちなさを感じない洗練された動きだった。
 遠目にも切断面に乱れは無く、鱗や骨まで奇麗に切断されて居た。
 こっちは内側の斬れる目を見つけなければ斬れなかったと言うのに、斬れる目も何もない所を易々と斬る辺り、やはりまだまだ追いつけそうにない。
 まだ生きて居たのか、少しの間口がパクパクと動くと、動かなくなった。
「残心と止めはよく気を付ける様に教えられておるはずなのだがな?」
 強めの圧を感じる、思わず居住まいを正して平べったくなろうとした所で。
「場所が悪いから頭は下げんで良い、頭の片隅にでも入れて置け」
 確かに、其れ所で無くて気にする余裕が無かったが、足元には何とも言えない湿った泥が埋め尽くして居た。
「・・・・・・と言うか、お主等酷い汚れじゃな?」
 先程の粘液やら何やらも相まって、揃って酷い汚れ方をしている。
「しゃあない、燃やすか」
 ため息交じりの葛様の手には、何かの符が握られて居た。
 右手に符を掲げて、左手で指刀を切って空中に何かの陣を作る。
「火傷はせんから騒ぐなよ?」
 そう一言断ると、符を足元に投げつけた。
 地面に符が張り付いた瞬間、符が燃え上がる。
 次の瞬間には周囲一帯、人も床面も何もかもが一瞬で燃え上がり、直ぐに燃え尽きた。
 残った空気は先程迄の淀んだ下水のような淀んだ物では無く、外の神社の様な澄んだ物に成って居た。


 追伸
 管狐で出来る事、姿を消した状態での偵察、人に憑りついての読心や行動の制御、ある程度の攻撃、管狐個々の自我は独立して居るので自動運転は可能で、制御の負荷は其れほどでもないが、管狐が送って来る情報の処理や、細かい制御をする場合はやはり負担が大きいので、管を使いながらの戦闘力はやっぱり低め。
 情報処理能力自体は高いので、基本事務方や輸送などの援護担当。

 葛様は来歴から炎と金属属性が強め、対して水とは相性が悪いので、今回の様に浄化の様な精密作業では炎を操る方が楽。
 因みにこの技、浄炎と呼ばれる物、物を燃やさずに悪いモノの概念だけ燃やすと言う訳のわからない精密技巧。
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