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第5話 二人の出会い

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「あっちに逃げたぞ! 追え!」
 私は追いかけられていた、私は赤い目と若いのに白い髪と言う少し珍しい容姿で有る為、知らない人からは魔女扱いされるので余り外に出ないように言われていたのだが、医者である父と母が揃って体調を崩してしまったので私が珍しく買い出しに出て来たのだ、今は其の目立つ容姿を外套のフードを目深に被って隠して居る、何時もの薬剤や物資仕入れ元の店主は私の容姿も見慣れて居るので途中で変な者に引っかからなければ特に問題は無い、何時もの様に外壁の穴を抜け、人目に付かない路地裏を抜ければ問題無いハズだった・・・

 とある少年視点
「スられた・・・」
 兵士に成って一旗揚げようと村から都市部に出て来て早々、開かれている市に目を奪われ、人ごみに飲まれ、入団試験の時間は未だ先の明日だから先ずは露店で腹ごなしをしようと持ち金を確認しようとした所で、有り金が財布ごと無くなって居る事に気が付いた、アレが無くては今日の分の宿代も食事代も無い、兵士に成れば毎日三食食えるので入った後は問題無いのだが、其れまで食えないのは問題だ、延々と間違えて落としたかと足元を見ながら、警備の兵士や道行く人に財布を見なかったかと聞いて回ったが、当然と言うか見つからなかった。
 村長に一筆書いてもらっていた、この都市の兵士の知り合い宛の紹介状は別口で背嚢に入って居たので無事だった、一先ず財布の事は諦めて、入団試験の申し込みだけでもと兵士の本部に立ち寄り、紹介状を届ける、其れだけか? と、当然の様に賄賂を要求されたが、財布が無いのでそんな物は無いと言うと、露骨に不機嫌に成り、じゃあ明日の試験まで要は無い、とっとと帰れと追い出された。
 結果として、金も無ければ宿も無い、序に飯も無いと言う三重苦で、収穫を終えた良く晴れた秋の寒空の下、一晩外套に包まって路地裏に転がる羽目に成った。

 少女視点
 人混みを嫌い、表通りの食糧系露店から漂って来る色々な物が焼ける良い匂いに後ろ髪をひかれながら、路地裏を進もうとした所で、ガラの悪い兵士にぶつかった、顔を見られて魔女扱いされたら捕まって拷問されて命は無いと、両親から散々脅かされていた私は、思わず走って逃げ出し、足元に転がっていた妙に大きいボロ布に足を取られて転倒した。
 転倒した時に、外套のフードが脱げてしまった。
「魔女だ・・・・」
 直ぐ後ろを追いかけて来て居た兵士がそう呟く。
 しまった、見られた、逃げなくてはと咄嗟の三段論法で結論を出すが、起き上がろうとした所で、兵士に背中を踏み付けられた。
「あ・・・ぐ・・・・」
 重さに耐えきれず、べシャリと潰れる。同時に顔を石畳にぶつけた、痛いけど、それ所じゃない。
「丁度良い、一緒に来い、俺の手柄に成れ」
 髪を掴まれ、顔を上げさせられ、そんな事を言われた、そう言った兵士の目には、色々な打算と欲望が入り乱れていた。
「ん、んー!」
 思わず身を捩って逃げようとするが、其の手はビクともしない。
 でもこのまま連れて行かれたら・・・・
 怖い想像が駆け巡り、泣きそうになる。
「止めろ!」
 聞き覚えの無い声が響き渡る、兵士の男が横から突き飛ばされた。
「ほら、逃げるぞ!」
 声の主は、私の手を掴んで駆け出した。
 私には咄嗟に其れを掴み返して一緒に入る以外の選択肢は無かった。
 手を引かれて走りながら、もう片方の手で捲れてしまったフードを直しつつ、手を引く相手を観察する、見覚えの有るボロ布、先程足元で見た布だった、腰には剣を刺して居る、年の頃は同年代か気持ち上だろうか?


「・・・・此処迄来れば大丈夫か?」
 少年は暫く私の手を握ったまま路地裏をあっちこっちと走り抜け、追いかけて来る気配が無くなり、人目が無くなった所で足を止め、呼吸を整えた。私もこれ幸いと呼吸を整える。
「都市部は怖いな、ああ言うのが居るのか・・・・」
 少年がそう独り言ちる。少年にはアレが暴漢か何かに見えたらしい、見た目と結果的には似た様な物だが、公に暴力を振るう後ろ盾を持って居るこの町正規の兵士だ、先程の口振りを聞く限り田舎から出て来たのだろう。
「有り難うございます・・・」
 おっかなびっくり、少年に礼を言う、健康的に日焼けした活発そうな顔、散々走り回った分心拍数が上がって居て、何にドキドキして居るのか分からない。
 こうした時に感じた事は勘違いだから気を付けろと医者である父から散々言われて居るが、実際にこういう良く分からない状況に成ると、そんな予備知識が無ければコロッと騙されていたのだろう。
「どういたしまして・・・お互い注意しないとな、俺も昨日財布スられたんだ」
 少年は痛恨の表情を浮かべる。
「あの・・・」
 手は握られたままだ、少年は真っ直ぐ此方を見つめている。
「ごめん、ちょっと良いかな?」
 少年が何気無い様子で手を伸ばし、私のフードを外す。
 自然な動きだったので、止める間もなかった。
 余計な目が無いかと、反射的に回りを見回す、どうやら大丈夫、目の前のこの少年しか居ない。ほっとしてフードをかぶり直す。
「ごめん、そんなに嫌がると思わなかった」
「この髪と目は目立つから、隠してるの・・・・」
 下手に目立つと魔女扱いで拷問の後に火あぶりにされると散々脅されて居る。
「折角奇麗なのに勿体無い・・・」
「この世の中、奇麗でも目立つと命が無いの・・・・それと・・・」
 目線を下に向けて、小年に握られたままの手を案に示す。
 此方が手を開いて居るのに手を放してくれないので、何時まで経っても離れられない。
「そろそろ放してくれると嬉しいのですけど?」
「あ・・・ごめん・・・」
 やっと通じたらしい、今頃赤くなり、何故か名残惜しそうに手を放してくれた。
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