ハイメくんに触れた

上本 琥珀

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言葉ではそういうけど

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 寮のロビーまで降りて一度ドレスと髪を整え、深呼吸してから玄関の大きなドアを開ける。
 眩しい太陽の光の下にハイメくんがいた。
 ピシッとした仕立ての良さそうな黒いタキシードに、おでこを出した状態でセットされた髪。いつもと雰囲気は違くてドキドキしちゃうけど、とても似合っていてかっこいい。
 見惚れてしまうのを抑えて、ハイメくんに声をかける。
「ごめんなさい。待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫。ドレス、似合っているね。良かった」
「ハイメくんが選んでくれたんでしょう。本当にありがとう」
「どういたしまして」
 ふわりと笑うハイメくんは、格好も相まって王子様みたいだった。
「ふわふわの髪も可愛いね」
 可愛いって自然に言われて、ドキッとする。
「髪の毛、本当は普段からこんな感じなんだ。いつもは広がらないように結んでいるけど。ハイメくんもタキシード凄く似合ってる。王子様みたいで、格好いい」
「王子様だなんて、照れるな」
 あ、好きだ。
 恥ずかしそうに笑うその姿を見て、キュンときた。
 今までだって、もちろん好きだったけど、私ハイメくんの顔も好きなんだな。
「グラのリボン、俺に変えさせて。良いかな?」
「もちろん」
 リボンが巻かれた腕を差し出すと、ハイメくんは、ジャケットの裏に収めていた、杖を振った。
「ユーマイカラー」
 リボンは髪に結ぶことが多いけど、いつでも見られるようにと手首に結んでいた白いリボンが、ハイメくんの瞳のようなとても綺麗な金色になった。
「綺麗な色……」
「グラにもお願いして良い?」
「うん」
 ドレスだと杖をしまう場所が無くて持ってこれなかったので、代わりに魔法を安定させる力を持ったマニキュアを人差し指に塗って来ていた。
「ユーマイカラー」
 ハイメくんの蝶ネクタイに人差し指を向け、想像しながら呪文を唱える。ハイメくんの蝶ネクタイの色が変わった。
「紫色か」
 蝶ネクタイを見て、ハイメくんが呟く。
「イヤだった?」
「いや、灰色か茶色になると思って」
 ユーマイカラーでは、自分の髪や目の色に変える人が多い。ハイメくんも、私のリボンを彼の目と同じ金色に変えたし、そうすると思ったみたい。
「悩んだけど、私のドレスと同じ色。この色、ハイメくんには、よく似合うと思ったから」
 ハイメくんは、瞬きをした後、目をそらし口を手で隠す。顔が少し赤い気がする。
「あー、恥ずかしいな」
 なんで恥ずかしいの? よく分からない。
 きょとんとしていると、照れながら教えてくれる。
「だって、俺に似合う色をグラのドレスの色として選んでいるんだよ」
 確かに言われてみれば、恥ずかしいのかな?
 いまいちピンと来ないけど、照れてるハイメくんは何だか可愛いい。
 彼は、一度ぎゅっと目を瞑ると、輝く金色の目でまっすぐ私を見た。
「それじゃあ、二人だけのパーティーに行こうか」
 エスコートする様に手を差し出す。
 私はドキドキしながら、その手にそっと手を重ねた。
「パーティーって、どこ行くの」
「空だよ。箒もある」
 ハイメくんが繋がっていない右手の親指で指した先には、寮の壁に立てかけるように一つ箒が置いてあった。いつもの練習用じゃ無くて、綺麗な本格飛行用箒だ。
「え、本当に空行くの?」
 私、ドレスなんだけど。タイツ履いているから、箒に乗れないことは無いけど……
「うん。グラは、俺の後ろに乗ってね」
「後ろ!?」
 二人乗りって事!?
「ドレスで、またがせるわけにはいかないじゃん」
 ハイメくんは私の手を離すと箒を掴み、またがった。
「いや、そうだけど。えーっと、じゃあ、失礼します」
 ちょっと恥ずかしいけど、ハイメくんと二人だけのパーティーをしたいから、頷いた。
 箒にまたがったハイメくんの後ろに横座りする。
「危ないから捕まっててね」
「うん」
 バランスを見ながら、ハイメくんのお腹に腕を回す。やっぱり、良い匂いするな。
 こうするのは二回目。だけど、好きって自覚してるから前よりずっとドキドキしている。
「スコーパエ・ボリターレ」
 ハイメくんが呪文を唱えると、箒は空に浮いた。二人乗りでも、安定させたままゆっくりと空を飛んでいく。
「良いのかな。パーティー言っちゃダメだって言われているのに、こんなことして」
「良いんだよ。ホリデーパーティーに出るなとは言われたけど、寮で待機していろとは言われてないんだから」
 ハイメくんが飛んで行くのは、補習で飛んだコースだった。
 今日は雲一つ無い快晴で、だからこそどこまでも綺麗な景色が見渡せる。
「懐かしいね」
「そうだね、ここで初めて話したもんね。思い出の地だ」
 あの試験の日から二ヶ月も経っていない。それなのに、ハイメくんと出会って私は色々変わった。大切な思い出をいくつも得て、大事な気持ちも生まれた。
「ねえ、ハイメくん、聞きたいことがあるの」
 私はずっと気になっていた事があった。ここで聞くのがちょうど良いかも。
「なに、どうしたの?」
「初めて会った時、私の事をドジって言ったけど、どんな気持ちだったの?」
「え、ドジだなって」
 何を当然のことを? と不思議そうにする。
「そうだけど……」
 ドジだって言われた時の、あの愛おしいって目を忘れられない。どうして、そんな目をしたんだろう。
「えーっと、そうだな、確かなんか可愛いなって」
「ドジなのに?」
「そう言われると不思議だけど、なんか可愛く思えたんだよ。一生懸命だけど、ドジなのが」
「変なの」
 言葉ではそう言うけど、凄く嬉しくて、さっきまでより強く抱きついてしまう。顔が見られなくて良かった。
「日差し、強くなってきたね、グラ大丈夫?」
「ちょっと、暑いかも」
 日差しより、ハイメくんの言葉での気がするけど。
「じゃあ、日陰で休憩しよっか」
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