ハイメくんに触れた

上本 琥珀

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手を伸ばすと

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 戦いが始まると、ハイメくんはさっそく魔方陣の紙を放り投げ、
「サモン・サンダーワーグ」
 呪文を唱えて地面に二匹の雷狼を召喚した。
 二匹の雷狼は今にも私に飛びかかりそうな体制で、私を見上げる。
 普段はちっちゃくて可愛いって思ってたけど、構えられると怖いな。
「コンテーラム・トニトゥルーム」
 ハイメくんは続けて呪文を唱えて、早速攻撃を仕掛けてくる。
ーードカン!
 大きな音を立て、雷が落ちた。
 ひゃっ、怖!
 威嚇であって、当てる気は無かったのか遠くに落ちたから避ける必要無かったけど、怖いものは怖い。
 私がびびっている間に、ハイメくんが距離を詰めてきた。
「降参する気は無いの?」
 対戦相手だっていうのに、ハイメくんは心配そうだった。その目にちょっと申し訳なくなる、でもやるって決めたんだ。
「ないよ」
 私は実践魔法は下手だから、今回勝つために策を練ってきた。その作戦で一番大事なのはスピード。
 高さ制限が十メートルって有る以上、ハイメくんに高くを飛ばれすぎたら困る。
 箒を操り、ハイメくんより高くに上がりながら彼に近づき、呪文を唱える。
「メタモルフォセス・キャット!」
 変身魔法を使って猫になったら、自分が乗っていた箒を蹴飛ばし、迷わずハイメくんの箒に飛び乗る。
 今回は、降参するか、戦闘不能にするか、地面に足がついたら負け。
 そこから私が思いついたのは、ハイメくんの箒の操作権を奪って、ハイメくんを地面に下ろすことだ。近すぎたら、魔法を使いにくいのもいい。
 いつもと違って風が強いのは心配だけど、これくらいしか方法は代つかなかったし、これをやるしかない。
「グラ!?」
 ハイメくんを飛び越える時、ぎょっとしている顔がよく見えた。無事飛び越えられたら、彼の後ろで人間に戻る。箒を握り呪文を唱えた。
「スコーパエ・ボリターレ」
 箒が落ちたことで私の考えに気がついたのか、ハイメくんも呪文を唱えた。
「スコーパエ・ボリターレ」
 奇襲によって一度は高度を下げたものの、ハイメくんの方が魔法の力が強くて、操作権を奪い取れない。
「まじか」
 困った顔をしているけど、これ以上は下げられそうにない。ならしょうが無い次の手だ。
「ごめんね、ハイメくん「ラーマ」」
 魔法の刃で箒を切り落とす。地面が先輩の魔法で柔らかくなっているから怪我する可能性がないと聞いて、こうしてみようと思いついた。
「スコーパエ・ボリターレ」
 箒が離れた瞬間、私は呪文を唱えて、自分の高度を保つ。
 ハイメくんは、またもガクンと高度を下げるが、なんとか地面に落ちないまでに止った。
 これでもダメか。
 私の出来ることは殆どやった。後は半分になった箒で、どっちの方が長く飛んでいられるかだ。
 私は箒の後ろ側で穂があるから、箒というイメージがちゃんと出来ているから飛べると思うけど、不味いのは、ハイメくんが箒以外でも飛んだことがあった場合。この場合は、元々箒術が苦手な私が不利になる。だから、最後の攻撃をしなきゃ。
「ヴィエメンス・ヴェントス」
 私が呪文を唱える前にハイメくんが呪文を唱え、強い風が吹く。
 箒を握ってなんとか耐えるけど、やっぱりこの半分箒ヤバい! ダメだ!
 ハイメくんより長く飛んでいられる気がしないので、地面に落とした最初の箒を使おう。
 こうなることも想定して、この魔法も練習していたんだ。
「スペルナーテ」
 よし! 地面に落ちていた箒がぷかぷかと浮いて、こちらにやってくる。
 だけど、それを邪魔するように風が吹く。ハイメくんじゃなくて、自然の。
 うー、後もうちょっとなのに! 自然まで邪魔をしないで!
 箒に手を伸ばしている時、今までとは違う方向から今日一番強い風が吹いた。
 あ、ヤバい!
 丈の長い本格ローブが風で持っていかれてバランスを崩し、半分と短い箒から落ちてしまう。
 どうしようも無いのに思わず上に手を伸ばすと、その手をハイメくんが掴んだ。
「馬鹿!」
 彼は私を抱き寄せると、その勢いのまま落ちていく。
 気がつくと、二人とも地面の上だった。
 立会人である二人は、困ったように話していた。
「この場合、どうなるのだ?」
「先に地面に体の一部が着いたのがハイメだから、ハイメの負けだね」
「そうか。なら、勝者、昼晴寮、ドロシー・シュトラウス代理、グラディス・ジェリネク!」
 校庭の観客全体に聞こえるように、立会人の先輩が宣言し、杖を掲げた。
 うそ、勝てちゃった。
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