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だからといって、負けるつもりはない
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魔法対決の日がやってきた。
私は、対決の舞台となる校庭の端に作られたテントの控え室で、最後の確認をする。
戦うイメージトレーニングもバッチリ、対決に使う箒の試し乗りも大丈夫。
ちょっと気になるのは、練習用じゃない本格ローブだけ。本格ローブは、足首まで有る丈の長いローブだから動きづらい。その分、魔法による攻撃を防ぐ力が強いんだけどね。
「グリー!」
足を動かしてローブの丈を確認していると、控え室にドロシーが飛び込んできた。
「どうしたの、ドロシー? そんなに慌てて」
私の前に立ったドロシーは深呼吸をするけど、それでも慌てているのか早口で、その表情には困惑を隠しきれていなかった。
「私も今聞いたのだけど、今日の対戦相手が、ダヴィットから代わってハイメになったって」
「え、ハイメくん!?」
なんで!? 本当になんでハイメくんが!?
私の事、そんなに怒っているの? すごく、嫌いになったの?
全然連絡取ってないから、どうして彼が対戦相手に名乗りを上げのかが分からない。
「分からないわ。急すぎるって抗議したのだけれど、そっちも代わったからって言い返されちゃって」
ドロシーも分からないみたいだし、急なことに申し訳なさそうだ。
「グリー、出なくても良いわ。ダヴィットじゃないから、勝者の願いとしてアイツのパートナーになるって事は出来なくなったんだから」
私のことを心配して、戦いを辞退する提案してくる。
「いや、私、出るよ。なんでハイメくんになったのかは分かわないけど、ダヴィットの代理って事でしょ。頑張るよ」
攻撃魔法で一年生の中で最後まで残ったんだからハイメくんは多分ダヴィットより強いし、今も彼のことを嫌いにはなってないけど、負けるつもりも、手を抜くつもりも無い。
ベラさんの為にも、他寮の人と踊りたい人の為にも、自分の為にも戦うって決めたんだから。
改めて、気合いを入れよう。よし!
そんな私を見て、ドロシーが申し訳無さそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、グリー」
「なんでドロシーが謝るの?」
身長が低くたってその頼もしさからそんなことを感じさせないのに、今はドロシーがとても小さく見えた。
いつもより小さな声で彼女は話す。
「私、あの寮の人は嫌いだけど、ハイメはグリーを変えるくらい大事な人なのでしょ」
赤いまつ毛に縁取られた青い瞳は、まっすぐ私を見つめているのに儚かった。
「変えたって……」
そんな事無いと思うけど、確かに実践魔法頑張ろうとか、見た目に気を使おうとか思ったけど。
あれ、これって結構変えられているのかな?
私が首を捻っていると、ドロシーはぽつりぽつりと話した。
「前、ダイナに喧嘩を売られた時。グリー、いつもは私の後ろに隠れているのに、あの時はハイメと仲良くしたいって前に出てきた。ハイメが前に出る勇気をくれたんだしょ」
ああ、その時のことか。言いたいことは分かったけど、ドロシーの言っている事はちょっと違う。
「確かにハイメくんの事だったからかも知れないけど、私、ドロシーに憧れてたんだよ。いつも私の前に立ってくれて、格好良かったから私も立とうって思えたんだよ」
ドロシーの両手を握る。
「いつもありがとう、ドロシー。私がこうして頑張れるのもドロシーをずっと見てきたからなの。今日は私に戦わせて」
ドロシーは、泣くのを我慢するように顔を歪める。
「……あの時ね、本当はちょっと寂しかったの。グリー、私が居なくても大丈夫なんだって」
「そんな事無い。ドロシーが側に居てくれるから立ち向かえたんだよ。今だってそう、ドロシーがそばにいるから怖くない」
ドロシーが抱きついてきたので、私も腕を回す。
「私の大事な友達。私は、あなたが傷つくのが一番イヤ。だから、頑張って負けないで」
「もちろん、勝つよ」
対決の時間が来て、校庭に移動する。
いつもはあまり風が吹かない土地なのに、今日は風が吹いていて嫌な感じ。
これ、大丈夫かな。
「昼晴寮、ドロシー・シュトラウス代理、グラディス・ジェリネク」
立会人に名前を呼ばれて、校庭の中心に向かって歩く。
校庭の周囲には、見物人として学年も寮も問わず多くの人が集まっていて騒がしい。こんないっぱいの人に見られて戦うなんて……緊張から目を逸らす様に私が来たのとは反対方向を見た。
私が校庭の中心近くに立ったことで、彼の名前が呼ばれる。
「朝雷寮、ダヴィット・キーリング代理、ハイメ・トルワグ」
ハイメくんがゆっくりと歩いてくる。狼耳はピンと立っていて、本格ローブが彼のに凛々しい雰囲気に似合っている。
金色の目が私を見ていて、逸らしたら負けだと思って目を合わせると彼は少し困った様に笑った。
なんで、そんな風に笑うんだ? ハイメくんの真意がしりたい。
でも、久しぶり顔見れたのは嬉しかった。
そう思っちゃったことで、自分の気持ちを再確認する。だからといって負けるつもりは無いけどね。
「立会人はこの私、昼晴寮次期寮長、アイシャ・オースターと」
「朝雷寮次期寮長、ノア・マイルズが行う。それでは二人とも、準備を」
三メートルくらい離れた状態で向かい合いながら、箒にまたがる。
「スコーパエ・ボリターレ」
私達が浮いたのを見て、立会人の先輩達は頷き、二人で一つの大きな杖を持つ。
「この杖が音を鳴らした時、開始とする。いいな、いざ尋常に!」
先輩の言葉の最後に、先輩達が二度杖を地面に突くと地面は水面のように波打ち、鐘の音が高らかに鳴った。
私は、対決の舞台となる校庭の端に作られたテントの控え室で、最後の確認をする。
戦うイメージトレーニングもバッチリ、対決に使う箒の試し乗りも大丈夫。
ちょっと気になるのは、練習用じゃない本格ローブだけ。本格ローブは、足首まで有る丈の長いローブだから動きづらい。その分、魔法による攻撃を防ぐ力が強いんだけどね。
「グリー!」
足を動かしてローブの丈を確認していると、控え室にドロシーが飛び込んできた。
「どうしたの、ドロシー? そんなに慌てて」
私の前に立ったドロシーは深呼吸をするけど、それでも慌てているのか早口で、その表情には困惑を隠しきれていなかった。
「私も今聞いたのだけど、今日の対戦相手が、ダヴィットから代わってハイメになったって」
「え、ハイメくん!?」
なんで!? 本当になんでハイメくんが!?
私の事、そんなに怒っているの? すごく、嫌いになったの?
全然連絡取ってないから、どうして彼が対戦相手に名乗りを上げのかが分からない。
「分からないわ。急すぎるって抗議したのだけれど、そっちも代わったからって言い返されちゃって」
ドロシーも分からないみたいだし、急なことに申し訳なさそうだ。
「グリー、出なくても良いわ。ダヴィットじゃないから、勝者の願いとしてアイツのパートナーになるって事は出来なくなったんだから」
私のことを心配して、戦いを辞退する提案してくる。
「いや、私、出るよ。なんでハイメくんになったのかは分かわないけど、ダヴィットの代理って事でしょ。頑張るよ」
攻撃魔法で一年生の中で最後まで残ったんだからハイメくんは多分ダヴィットより強いし、今も彼のことを嫌いにはなってないけど、負けるつもりも、手を抜くつもりも無い。
ベラさんの為にも、他寮の人と踊りたい人の為にも、自分の為にも戦うって決めたんだから。
改めて、気合いを入れよう。よし!
そんな私を見て、ドロシーが申し訳無さそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、グリー」
「なんでドロシーが謝るの?」
身長が低くたってその頼もしさからそんなことを感じさせないのに、今はドロシーがとても小さく見えた。
いつもより小さな声で彼女は話す。
「私、あの寮の人は嫌いだけど、ハイメはグリーを変えるくらい大事な人なのでしょ」
赤いまつ毛に縁取られた青い瞳は、まっすぐ私を見つめているのに儚かった。
「変えたって……」
そんな事無いと思うけど、確かに実践魔法頑張ろうとか、見た目に気を使おうとか思ったけど。
あれ、これって結構変えられているのかな?
私が首を捻っていると、ドロシーはぽつりぽつりと話した。
「前、ダイナに喧嘩を売られた時。グリー、いつもは私の後ろに隠れているのに、あの時はハイメと仲良くしたいって前に出てきた。ハイメが前に出る勇気をくれたんだしょ」
ああ、その時のことか。言いたいことは分かったけど、ドロシーの言っている事はちょっと違う。
「確かにハイメくんの事だったからかも知れないけど、私、ドロシーに憧れてたんだよ。いつも私の前に立ってくれて、格好良かったから私も立とうって思えたんだよ」
ドロシーの両手を握る。
「いつもありがとう、ドロシー。私がこうして頑張れるのもドロシーをずっと見てきたからなの。今日は私に戦わせて」
ドロシーは、泣くのを我慢するように顔を歪める。
「……あの時ね、本当はちょっと寂しかったの。グリー、私が居なくても大丈夫なんだって」
「そんな事無い。ドロシーが側に居てくれるから立ち向かえたんだよ。今だってそう、ドロシーがそばにいるから怖くない」
ドロシーが抱きついてきたので、私も腕を回す。
「私の大事な友達。私は、あなたが傷つくのが一番イヤ。だから、頑張って負けないで」
「もちろん、勝つよ」
対決の時間が来て、校庭に移動する。
いつもはあまり風が吹かない土地なのに、今日は風が吹いていて嫌な感じ。
これ、大丈夫かな。
「昼晴寮、ドロシー・シュトラウス代理、グラディス・ジェリネク」
立会人に名前を呼ばれて、校庭の中心に向かって歩く。
校庭の周囲には、見物人として学年も寮も問わず多くの人が集まっていて騒がしい。こんないっぱいの人に見られて戦うなんて……緊張から目を逸らす様に私が来たのとは反対方向を見た。
私が校庭の中心近くに立ったことで、彼の名前が呼ばれる。
「朝雷寮、ダヴィット・キーリング代理、ハイメ・トルワグ」
ハイメくんがゆっくりと歩いてくる。狼耳はピンと立っていて、本格ローブが彼のに凛々しい雰囲気に似合っている。
金色の目が私を見ていて、逸らしたら負けだと思って目を合わせると彼は少し困った様に笑った。
なんで、そんな風に笑うんだ? ハイメくんの真意がしりたい。
でも、久しぶり顔見れたのは嬉しかった。
そう思っちゃったことで、自分の気持ちを再確認する。だからといって負けるつもりは無いけどね。
「立会人はこの私、昼晴寮次期寮長、アイシャ・オースターと」
「朝雷寮次期寮長、ノア・マイルズが行う。それでは二人とも、準備を」
三メートルくらい離れた状態で向かい合いながら、箒にまたがる。
「スコーパエ・ボリターレ」
私達が浮いたのを見て、立会人の先輩達は頷き、二人で一つの大きな杖を持つ。
「この杖が音を鳴らした時、開始とする。いいな、いざ尋常に!」
先輩の言葉の最後に、先輩達が二度杖を地面に突くと地面は水面のように波打ち、鐘の音が高らかに鳴った。
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