ハイメくんに触れた

上本 琥珀

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スマホ越しでも

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 今日は、魔法大会の日。
 他寮に対抗意識が有るのは毎年の事らしいけど、ベラさんたちの件が有って今年は一段と酷いと先輩が言っていた。
 みんなピリピリしているから、できる限り他の人と目を合わせないようにしながら会場に向う。同寮の一年生で受ける子はいたけど、別のタイミングで挑戦するみたいだから、一人行動だ。
 魔法大会は、一つの種目を二回受ける必要があって、午前でランクを付けて、午後に順位を付ける。
 種目を何個でも挑戦できるように、午前は一つの種目が何回もやっている。
 私は一種目しか受けないし、午後と時間を空けておきたかったので、一番早くの時間に治療魔法の競技に挑戦することにした。
 治療魔法の会場は、普段は教室として使われている場所。教室に着くと、ハイメくんからスマホに連絡が来た。
『頑張れ』
 教室の中を見てみると、端っこにある見学者ブースにハイメくんがいた。
 私と目が合うと、にっこりと笑ってくれる。
 ハイメくん、三つも受けるから忙しいだろけど本当に見に来てくれた。嬉しいけど、緊張しちゃうな。
『ありがとう。頑張る』
 教室には、机が一つずつ離して置いてある。場所は決まっていないみたいなので、端っこの方に席についた。
 私は、緊張しているけどみんなはどんな感じなんだろう。
 教室内を見回す。
 全学年で同じ内容の競技に挑戦するから、先輩達も居て思ったより緊張している人は少ない。
 もう、二年、三年とやっている先輩達は慣れた様子で、周りの人と話している。
 中には他寮の人と話す人もいて、羨ましい。
 もしも、一年生がこんなにギスギスしてなかったら、私もハイメくんと直接話せたかもしれない。そう思うと、寂しいような悔しいような。
『緊張してる?』
 スマホが音を鳴らした。
 またハイメくんからだった。スマホの通知を切りながら、返事をする。
『うん』
『大丈夫だよ。グラが治療魔法得意なの俺、知ってるもん』
『逆にプレッシャーだ』
『ごめんね』
『大丈夫。話してたら、緊張ほぐれてきた』
『ほんと? よかった』
 他愛もない会話だけど、にやけてしまいそうになる。やっぱり、スマホ越しでも話せるだけで嬉しいかも。
 ハイメくんとスマホで話していると、そのうち先生が来たので、スマホをしまう。
 みんなが席についたところで、先生が説明を始めた。
「治療魔法の競技内容は、モルペットの治療だ。体にいくつか傷が有るモルペットの痛みを和らげながら、傷を塞ぐ。それまでにかかった時間と、正確さでランクをつける。午後、ランクごとに競技を受けて細かい順位はつけられる」
 先生は、生徒達の机のところに行き、競技者を確認しながら一人ずつモルペットを配る。
 モルペットってのは、魔法によって作られた動物型人形だ。
 治療魔法の練習用に開発されており、傷をつけると血のようなものを流し、傷つけることで骨折した状態にすることが出来る。魔法を使って設定すれば、痛みを感じているような行動だって取る。
 鼓動の様なものが有ったり、さわり心地も中々に動物だが、その姿はちょっと大きい丸パンの様な形で、顔はない。
 配られたモルペットには、大きかったり小さかったり、いくつか傷が有った。骨折もしているだろうから、それにも気を付けなきゃ。
 一年生から六年生、全員同じ内容で競技を受けるけど、今回の回の一年生で一番ランクにならたら良いな。
「制限時間は、十五分。準備は良いな」
 先生の声に、みんな杖を構える。
「用意、始め」
 その瞬間、教室の中にいくつもの呪文が響く。
 私も落ち着いて、よし。
「スイレパラーレサニターテム」
 まずは、自己治癒を高める魔法を傷が塞がって行くのを想像しながら、モルペットの全体にかける。
 時間がかかる魔法なので、まずこれが一番最初だ。
 次は、と思ったところで、モルペットがもぞもぞ動き始めた。落ち着かないのかな?
「クオレカルマ」
 心を落ち着かせる魔法を使うけど、効きが悪いのかまだ動く。効果を変えてみた方がいいのかな。
「ドロルアウファー」
 痛みを奪う魔法を使うと、モルペットは落ち着いてきた。
 よし、じゃあ次は怪我の治療を一つずつしよう。
 まず一番大きな傷に向かって、傷が塞ぐ魔法を唱える、
「クローデヴォルノス」
 ゆっくりとだが、モルペットの傷が塞がれている。
 よし、この調子。
 モルペットの傷一つずつに、丁寧に魔法をかけて行く。
「クローデヴァルノス」
 傷が無くなったのを確認して、次は骨折の確認と、その治療だ。
 骨折は、スキャンして骨折を確認できる魔法を使えるならそれが一番良いんだけど、私はまだできないので直接触って確認する。
 そのためにも、もう一度、痛みを奪う魔法をかける。
「ドロルアウファー」
 これで、大丈夫かな?
 ゆっくりと、モルペットに触る。
 モルペットにも骨のようなものがあって、肋骨のような感じで存在する。
 柔らかい肉体に指を強めに入れて、骨を一つずつ触る。
 あった、ここと、ここ。
 一瞬で骨をくっつけちゃえればいいんだけどか、そんな魔法はまだ使えないので、自己治癒を高める魔法を場所を細かく狙い撃ちして使う。
「スイレパラーレサニターテム」
 なんども、
「スイレパラーレサニターテム」
 なんども。
 骨がくっつくのを想像しながら、魔法を使った。
「終了だ。魔法を使う手を止めなさい」
 先生の声が響いた。気づくと、終了の時間が来ていた。
 残念、時間いっぱいまで使っちゃったけど、終わらなかった。
 教室内を見渡すと、とっくに終わっているのか、五、六年生なんかは教室から居なくなっていた。
 先生が、一人ずつランクを伝えて行く。
 すごいドキドキする。私、何ランクなんだろう。
 何にもできなかったってことはないけど、治療終わらなかった。
「夜雲寮、グラディス・ジェリネク」
 先生が、私の前に立ちモルペットを確認する。
「はい」
「Cランク。早くないし、使う魔法も少ながったが、治療はほぼ完了している。後、一分あったら完了していただろう、そしたらBランクだった。これからも精進していくように」
「はい」
 Cランクか。うーん微妙、悪くはないけどもっと上手くやりたかった。
 この回の一年生の中では一番になれたら良いって思っていたけど、私より上手くて、Bランクとっている人がいたし。
 悔しいな、練習していたけど全然だった。
 もっと、いろんな魔法を覚えて、今使える魔法のスピードや効果を高めなきゃ駄目だったな。
 午後はもっと集中して、いい結果出したい。
 全員のランクづけが終わり、解散となる。別の競技に挑戦する子は、早足で出て行った。
 私は時間が有るのでスマホを見ると、ハイメくんから連絡が来ていた。
『お疲れ様。見てたよ。ごめんね、結果聞くまではいれなかった』
『大丈夫だよ、見に来てくれてありがとう。結果は、Cランクだった。もっと、頑張らなきゃだね』
『俺からすれば、十分凄いよ』
『ありがとう。ハイメくん、次有るよね。頑張って』
『うん』
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