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彼の言葉が、彼の微笑みが
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箒で街から三十分ほど飛んで、東の森に着く。こっちでも雨が降っていたのか、木や草に少し濡れている。賑やかな街とは違い、森は静かだった。
「私達以外には、誰もいないのかな?」
三十組、六十人くらいは、Bグループで同じ内容の実習だったんだけど、パッと見た感じ誰も居ない。
「今日の実習は終わった順に帰れるから、すぐ終わらせて帰っちゃったんじゃないかな。植物、近くにあるのはみんな取っちゃっただろうから、探すのは大変かもね」
「ごめんね。私がもっと早く空を飛べたなら、色々変わっていたんだろうけど」
雨宿りしなくてよかったり、子供に合わなかったり。……足引っ張らないようにしたいって思ってたのにな。
落ち込む私の心をハイメくんが照らしてくれる。
「良いんだよ、楽しかったから。それに、この実習って早ければ半日で終わるのを今日中に終わらせれば良いんだから、ゆっくりやろう」
彼の言葉が、彼の微笑みが、全部が嬉しい。
「うん」
優しいハイメくんの言葉に頷き、早速植物探しを始めたものの。
「全然見つからないね。それに、なんか森が荒らされてない?」
森の中を歩いて居ると、木の枝が沢山折られていたり、目当ての植物が密集して生えていたのか一帯の土が掘り起こされていたり、踏まないでしょって場所の花が踏まれていた。
「うん、荒らされている。誰かが実習の邪魔をして他人の評価を下げる為に、やったんだと思う。枝が折られていたり、花が踏まれているのはイライラしていたのかな」
それは、学校で注意されている事だ。採取する時は、その場所の生態系を壊さないように、必要な量しか取らないように言われている。それに、無意味に森を傷つけるなんて。
「写真撮っておこう。先生に報告した方が良いと思う」
ハイメくんがスマホを取り出し、証拠として写真を取る。
「これ、もっと奥に行かなきゃダメかな?」
ここら辺には、目的の植物が無さそうだから別の場所を探すしかないかも。森の奥に行くなら、その分時間が掛かるし、雨のせいで地面が少しぬかるんでいるから歩きづらそう。
「結構荒らされているし、ここら辺で探すのは難しいかもね。奥、行こうか」
東の森で採取する植物『絡み草』は一つの根から二つの茎が生え、絡み合っている植物だ。
絡み草を切ったり、絞ったりすると出る液は粘度が高く、魔法薬の材料としてよく使われる。茎が固いし、切るのにはコツがいるため、採取する時は切らずに引き抜くのが良いとされる。
「やった、取れた」
森を荒らした人たちも森の奥までは来なかったのか、目当ての物を無事見つけて、採取する事が出来た。先生から貰った採取セットに入っていた刃物は引っかけ用だな、意地悪だ。
「思ったより奥まで来ちゃったね。帰れるかな」
「えっ、怖いこと言わないで」
「ごめんね、大丈夫だよ。一本道だったから」
採取した絡み草をビニールに入れてカバンに仕舞い、森を抜ける為にハイメくんに付いて歩く。
ハイメくんは、途中に有った小さな泉で立ち止まった。不思議そうに辺りを見回している。
「どうしたの?」
「道って、あっちに有ったよね」
ハイメくんが指を差す方を見る。私達は、泉を超えて反対側に有った小道を歩いてきたはずなのに、そこには道がない。
「あれ、なんで?」
「真っ直ぐ歩いてきたから、迷うって事は無いと思うんだけど」
「採取した場所から、帰る方向を間違っちゃったのかな?」
「いや、来た時に向きは確認していたし、さっき通ったのは確かにこの泉だったんだけど」
ハイメくんは難しい顔をしながら、一応、泉の反対の来たと思われる場所に向かう。だけど、やっぱりそこには道が無い。
実は真っ直ぐ進んでなかったのかと思って他の方向を見ても、泉を挟んで反対側に有る絡み草を採りに行った道しかない。
これは、どういうことなんだろう?
二人で道を探していると、草が生い茂ってる方から、がさっと音がした。
「ひゃ!」
なに、風の音じゃないよね。動物? 魔獣?
生い茂っている草からはがさがさと音が鳴り続ける。
静かな森にその音は大きく響き、怖くてハイメくんに近寄ると、彼は音のした茂みから庇うように前に立った。
「大丈夫だと思うけど、一応後ろにいてね」
「うん」
二人で見ていると、がさがさと音を鳴らしながら、葉っぱをかき分けて出てきたのは、迷いウサギだった。
「なんだ、迷いウサギじゃん。お前のせいだったのか」
ハイメくんは、ホッとしたような声。私も彼の後ろでため息をつく。
迷いウサギは頭から二本の触角が伸びているウサギで、その触角から幻影の魔法を使い、人を惑わせて迷子にする事がある。
茂みの中から出てきたウサギも、迷いウサギの特徴である二本の触角を持っている。よく見ると、足を怪我している様だった。
「その子、怪我を負ってるみたい」
「うん、迷いウサギが幻影を見せるのは、攻撃されたらだ。俺たちは何もしてないから、この子は怪我をしてそのパニックで幻影を見せているのかな。手当して落ち着かせたら、幻影を解くだろうし元の道が分かる様になると思う」
「じゃあ、手当しよっか」
歩き回るのは痛いのか、大人しくしている迷いウサギに近づいて、手当をしようとしゃがんで手を伸ばした時、がさりと音がした。
先ほど迷いウサギが出てきた茂みから、二本の触覚の付いたウサギの顔が覗いている。
「もう一匹居たんだ」
二匹目の迷いウサギは茂みから勢いよく飛び出すと、そのまま私に噛みつこうと襲ってきた。
「わっ!」
「下がって!」
驚いてしりもちついてしまった私の前にハイメくんが立ち、杖を構える。
「ファルガーラーマ!」
迷いウサギの前の地面、迷いウサギに当たらない様に雷の魔法が飛ぶ。すごい、速いのに正確だ。
迷いウサギは、魔法を打たれた所よりは近づいてこないが、威嚇している。私は立ち上がり、ハイメくんの隣に立った。
「ハイメくん。あの子も怪我してるよ」
「うん。あっちの方が酷い怪我だね。しかも、錯乱しているのかな、襲ってくるなんて」
仲間なのか一匹目の迷いウサギがぴょこぴょこと二匹目の迷いウサギに近づき、その影に隠れた。
「自分の友達が襲われるって思ったのかな?」
「どうしたら、怪我させるつもりはない、手当をしたいって分かってくれるんだろう」
相談している最中、二匹目の迷いウサギが大きく頭を振る。すると、杖を持った人のような影が現れ、何かを叫ぶと魔法が飛んできた。
「えっ!」
驚いて固まってしまった私を、飛んできた魔法から避けるようにハイメくんが肩を抱いて、優しく声をかけた。
「大丈夫。あれは幻影だよ、実態はない。だけど、あれは……」
ハイメくんが難しい顔をしている。
「迷いウサギは、想像をして幻影を見せる事は無いはずなんだけど」
「もしかしてあの子、人に襲われたの?」
嫌な予想だった。迷いウサギを傷つける人が居るなんて。しかも、今日森に入ったのは、殆どが私達と同じ学校の人だろう。
「その可能性が高いね」
「そんな」
嫌な事実に私はショックを受けるけど、ハイメくんはこんな時も冷静だった。
「グラ、迷いウサギの牙は鋭く、噛まれたら強い幻影に惑わされるんだ。人間も、その魔法も幻影だから、ウサギにだけ気を付ければいいよ。俺は、どうすれば良いか考える」
「私達以外には、誰もいないのかな?」
三十組、六十人くらいは、Bグループで同じ内容の実習だったんだけど、パッと見た感じ誰も居ない。
「今日の実習は終わった順に帰れるから、すぐ終わらせて帰っちゃったんじゃないかな。植物、近くにあるのはみんな取っちゃっただろうから、探すのは大変かもね」
「ごめんね。私がもっと早く空を飛べたなら、色々変わっていたんだろうけど」
雨宿りしなくてよかったり、子供に合わなかったり。……足引っ張らないようにしたいって思ってたのにな。
落ち込む私の心をハイメくんが照らしてくれる。
「良いんだよ、楽しかったから。それに、この実習って早ければ半日で終わるのを今日中に終わらせれば良いんだから、ゆっくりやろう」
彼の言葉が、彼の微笑みが、全部が嬉しい。
「うん」
優しいハイメくんの言葉に頷き、早速植物探しを始めたものの。
「全然見つからないね。それに、なんか森が荒らされてない?」
森の中を歩いて居ると、木の枝が沢山折られていたり、目当ての植物が密集して生えていたのか一帯の土が掘り起こされていたり、踏まないでしょって場所の花が踏まれていた。
「うん、荒らされている。誰かが実習の邪魔をして他人の評価を下げる為に、やったんだと思う。枝が折られていたり、花が踏まれているのはイライラしていたのかな」
それは、学校で注意されている事だ。採取する時は、その場所の生態系を壊さないように、必要な量しか取らないように言われている。それに、無意味に森を傷つけるなんて。
「写真撮っておこう。先生に報告した方が良いと思う」
ハイメくんがスマホを取り出し、証拠として写真を取る。
「これ、もっと奥に行かなきゃダメかな?」
ここら辺には、目的の植物が無さそうだから別の場所を探すしかないかも。森の奥に行くなら、その分時間が掛かるし、雨のせいで地面が少しぬかるんでいるから歩きづらそう。
「結構荒らされているし、ここら辺で探すのは難しいかもね。奥、行こうか」
東の森で採取する植物『絡み草』は一つの根から二つの茎が生え、絡み合っている植物だ。
絡み草を切ったり、絞ったりすると出る液は粘度が高く、魔法薬の材料としてよく使われる。茎が固いし、切るのにはコツがいるため、採取する時は切らずに引き抜くのが良いとされる。
「やった、取れた」
森を荒らした人たちも森の奥までは来なかったのか、目当ての物を無事見つけて、採取する事が出来た。先生から貰った採取セットに入っていた刃物は引っかけ用だな、意地悪だ。
「思ったより奥まで来ちゃったね。帰れるかな」
「えっ、怖いこと言わないで」
「ごめんね、大丈夫だよ。一本道だったから」
採取した絡み草をビニールに入れてカバンに仕舞い、森を抜ける為にハイメくんに付いて歩く。
ハイメくんは、途中に有った小さな泉で立ち止まった。不思議そうに辺りを見回している。
「どうしたの?」
「道って、あっちに有ったよね」
ハイメくんが指を差す方を見る。私達は、泉を超えて反対側に有った小道を歩いてきたはずなのに、そこには道がない。
「あれ、なんで?」
「真っ直ぐ歩いてきたから、迷うって事は無いと思うんだけど」
「採取した場所から、帰る方向を間違っちゃったのかな?」
「いや、来た時に向きは確認していたし、さっき通ったのは確かにこの泉だったんだけど」
ハイメくんは難しい顔をしながら、一応、泉の反対の来たと思われる場所に向かう。だけど、やっぱりそこには道が無い。
実は真っ直ぐ進んでなかったのかと思って他の方向を見ても、泉を挟んで反対側に有る絡み草を採りに行った道しかない。
これは、どういうことなんだろう?
二人で道を探していると、草が生い茂ってる方から、がさっと音がした。
「ひゃ!」
なに、風の音じゃないよね。動物? 魔獣?
生い茂っている草からはがさがさと音が鳴り続ける。
静かな森にその音は大きく響き、怖くてハイメくんに近寄ると、彼は音のした茂みから庇うように前に立った。
「大丈夫だと思うけど、一応後ろにいてね」
「うん」
二人で見ていると、がさがさと音を鳴らしながら、葉っぱをかき分けて出てきたのは、迷いウサギだった。
「なんだ、迷いウサギじゃん。お前のせいだったのか」
ハイメくんは、ホッとしたような声。私も彼の後ろでため息をつく。
迷いウサギは頭から二本の触角が伸びているウサギで、その触角から幻影の魔法を使い、人を惑わせて迷子にする事がある。
茂みの中から出てきたウサギも、迷いウサギの特徴である二本の触角を持っている。よく見ると、足を怪我している様だった。
「その子、怪我を負ってるみたい」
「うん、迷いウサギが幻影を見せるのは、攻撃されたらだ。俺たちは何もしてないから、この子は怪我をしてそのパニックで幻影を見せているのかな。手当して落ち着かせたら、幻影を解くだろうし元の道が分かる様になると思う」
「じゃあ、手当しよっか」
歩き回るのは痛いのか、大人しくしている迷いウサギに近づいて、手当をしようとしゃがんで手を伸ばした時、がさりと音がした。
先ほど迷いウサギが出てきた茂みから、二本の触覚の付いたウサギの顔が覗いている。
「もう一匹居たんだ」
二匹目の迷いウサギは茂みから勢いよく飛び出すと、そのまま私に噛みつこうと襲ってきた。
「わっ!」
「下がって!」
驚いてしりもちついてしまった私の前にハイメくんが立ち、杖を構える。
「ファルガーラーマ!」
迷いウサギの前の地面、迷いウサギに当たらない様に雷の魔法が飛ぶ。すごい、速いのに正確だ。
迷いウサギは、魔法を打たれた所よりは近づいてこないが、威嚇している。私は立ち上がり、ハイメくんの隣に立った。
「ハイメくん。あの子も怪我してるよ」
「うん。あっちの方が酷い怪我だね。しかも、錯乱しているのかな、襲ってくるなんて」
仲間なのか一匹目の迷いウサギがぴょこぴょこと二匹目の迷いウサギに近づき、その影に隠れた。
「自分の友達が襲われるって思ったのかな?」
「どうしたら、怪我させるつもりはない、手当をしたいって分かってくれるんだろう」
相談している最中、二匹目の迷いウサギが大きく頭を振る。すると、杖を持った人のような影が現れ、何かを叫ぶと魔法が飛んできた。
「えっ!」
驚いて固まってしまった私を、飛んできた魔法から避けるようにハイメくんが肩を抱いて、優しく声をかけた。
「大丈夫。あれは幻影だよ、実態はない。だけど、あれは……」
ハイメくんが難しい顔をしている。
「迷いウサギは、想像をして幻影を見せる事は無いはずなんだけど」
「もしかしてあの子、人に襲われたの?」
嫌な予想だった。迷いウサギを傷つける人が居るなんて。しかも、今日森に入ったのは、殆どが私達と同じ学校の人だろう。
「その可能性が高いね」
「そんな」
嫌な事実に私はショックを受けるけど、ハイメくんはこんな時も冷静だった。
「グラ、迷いウサギの牙は鋭く、噛まれたら強い幻影に惑わされるんだ。人間も、その魔法も幻影だから、ウサギにだけ気を付ければいいよ。俺は、どうすれば良いか考える」
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