ハイメくんに触れた

上本 琥珀

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明日が楽しみ

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「じゃあ、これ説明した通りにお願いね」
「はい」
 説明し終わった先生は部屋を出ようとして振り返り、改めて言った。
「くれぐれも魔法は使わないで」
「わかりました」
 先生が出ていったので受け取った紙を見ながら、作業を始める。
 いくつか有った補習も終わり、休日に暇ができた私がバイトに選んだのは、先生の実験準備室のお片付けだった。
 単発で、お給料は良くないわりに労働時間は長いけど、魔法を求められないし力仕事ではないので、これを選んだ。
 メモに書かれた通りに運んで片付けて、汚れていたら綺麗にする簡単な仕事。
 給料は良くなくても、これ一回やればちょっとしたプレゼントくらいは買える。
 問題なのは、何を渡そうか決めきれていないことくらい。
 ハンカチみたいな手元に残る物じゃなくて、消耗品が良いんだろうなって思いつつ、何かを残したいって思っちゃう。
 どうしよう。
 手元に残る物で使いそうなのは、ノートとか、ペン? でも、いつも使う物って決まっているよね。
 ……何が喜ぶかなんて分からないし、やっぱり食堂のチケットにしようかな。貰っても困らない物だし。
 でも、どうやって渡そう。連絡先を知らないから電子のチケットを渡せないし、カードのチケットを買って、そのまま渡す? こういう時って、ラッピングする物なのかな? 
 考えながら作業をしていると、あっという間にお片付けが終わる。特に困ることも無かった。
「お疲れ様」
 先生もちょうど帰ってきて、確認が終わると、スマホのアプリにバイト代が送金された。
 やったー、お金だ。
「ありがとう、助かったよ。また、困った時はよろしくね」
「はい。ありがとうございました」
 あ、そうえば。
 準備室から立ち去ろうとして、聞いてみたいことを思い出す。
「先生、あの聞きたいことがあるんですけど……」

 最近、SNSで流行っている恋のおまじないが有る。
 赤蚕の糸と白蚕の糸を一晩、月の光を浴びた魔蜜りんごの蜜に浸す。一晩浸した糸を魔力を込めながらハートの模様に編み、最後にハートのチャームを付ける。完成したら、ベッドのフレームに誰にもバレずに三日間結ぶ。
 これを成功させたら、好きな人とお近づきになれるらしい。
 流行っているからか、うちの学校でもやっている人がいるのか、どれも学校の購買に材料が置いてあった。
 おまじないの中には危ない物も多いので、安易に手を出すと先生に怒られる可能性も有る。でも、友達の友達とか、別クラスの人とか、噂だけどやっている人が居ると聞いたし、バイトの後先生に聞いたら、危険性はないと聞いたのでやることにした。
 材料は、一気に買うのが恥ずかしいから何回かに分けて買って、糸を蜜に一晩漬けたり、魔力を込めながら編むのは、同室のアンジュ達にバレないようないようにやるのが難しいけど、頑張った。
 糸を浸けるのは、みんなが寝た後置いて、みんなが起きる前に回収した。ハートに編むのは、ベッド周りのカーテンを閉めて、一応布団を被って、スマホで動画を見ながら編んだ。
 一番効果を求めるには、好きな人に渡すことらしいけど、そんな事出来たら作る必要ないよ。
 ぎゅっと握って、願った。
 どうか、効果が有りますように。

 編み紐を作って三日、早速、おまじないの効果が出た。
 明日行われる実習授業は、毎年一年生が学年終わりにやっているもので、先輩曰く、先生が決めた別の寮の生徒とペアを組んでやるらしい。
 知り合いが良いけど、他寮の知り合い少ないんだよね。
 今日、最後の授業。明日の説明が行われるので、指定された教室に行き、渡された番号の席に座る。
 隣の席の人がペアになるみたい。
 学年の人数的に、ハイメくんとペアになれるのは、144分の1。確率にして、0.69%。ガチャのSSRより低い確率けど、ハイメくんが良いな。
 ポッケに入れていた、おまじないの時に作った編み紐を握る。
 ハイメくん来ますように!
 そう願って待っていても、授業直前になっても、誰も来ない。
 え、私、ペア居ないの? 教室を見回すと、殆どの席が埋まっている。あれ、私が間違ってるの? 
 メモを確認するけど、やっぱりこの番号。
 ペアの人、今日学校休んでいるとか? それとも、授業をサボるヤンキーとか?
 名門校と呼ばれているこの学校にも少ないけど、そう言った人は居る。
 ヤンキーだったらイヤだな。
 ドキドキしながら待つが、先生が入ってきても、私の隣の人は来ない。
 え、これ、先生に聞いた方が良いのかな。
 きょろきょろしていると、教室のドアが開く。
「すみません。教室間違えてました」
 ハイメくんだ!
 え、隣の人居ないの私だけだよね。て、ことは、私のペア、ハイメくん!?
 やった。
 ハイメくんは先生に小言を言われながら、私の隣に座る。
「最近、よく会うね」
 嬉しい。早速おまじないの効果があったみたい。
 ハイメくんのこと好きだって認めてから会うのは今日が初めて。
 なんか、いつもよりドキドキする。私、変じゃないかな。
「うん。知らない人だったらどうしようって思ってたの。ハイメくんで良かった」
「俺もグラで良かった」
 その一言が、笑っていてくれることが嬉しい。
 良かった。私と一緒で嫌と思われてない。
「行く教室間違えちゃって、遅れちゃった」
「びっくりした。一人でやることになるのかなって」
「ごめんね」
 ハイメくんに謝られたら、全部許せちゃう。これが、惚れた弱みってやつなのかな。
 ハイメくんとこそこそ話していると、先生がプリントを配り説明を始めた。
 一学年は、何個かのグループに分かれて別の実習を行い、私達、Bグループは、ペアごとに町で必要な材料の買い物と、東の森で植物採取、材料と植物を使っての製薬を明日の一日で行う。
 お題の製薬は、プリントに詳しいやり方は書いてないけど、授業でやった事あるやつだから難しく無いって分かってるし、東の森に危険な魔獣は居ない。これなら、苦労しなそうだ。
 先生は説明を終わらせると、ペアごとに明日の打ち合わせをするよう言って、教室を出た。
「製薬の仕方も採取方法も、製薬と植物の教科書に載ってたよね。持ってる?」
「両方、持ってるよ」
 寮で自習に使おうとしたのが薬に立った。カバンから取り出し、机に広げる。
「偉いね。俺、置き勉してる」
「実践苦手だから、その分座学をどうにかしようとしているだけだよ」
 教科書を見ながら採取方法を調べて、製薬の手順の確認をする。
 二人で一つの教科書を見ているからいつもより顔が近づいて、凄くドキドキした。
「やっぱり、難しくなさそうだね。危険も無さそうだし」
「多分だけど、別の寮の生徒と協力するための授業なんじゃないかな」
 それは、有りえそう。
 先生としては、生徒達があまりにも仲悪いのも困るもんね。仲良くしなくても良いから、協力して欲しいって思ってるのかな。
 まあ、そのおかげで、ハイメくんとペア組めるから良かった。
「明日、頑張ろうね」
「うん」
 実習の授業としてだけど、一日ハイメくんと居られるなんて、明日が楽しみ。
 ハイメくんに良いとこ見せられるほどの実力は無いけど、せめて足をひっぱらない様にしたいな。
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